8.会いたい…
昼休み、亮太は元気を取り戻した秋絵が他の女子と話しているのを見ながらポケーッとしていた。
…
『自分の都合を強制したのも反省する。…ただ、』
『…できれば、アンタでも来て欲しかったわ。』
…
この言葉がまだ気になっていた。むしろ以前よりも気になって仕方がない。
(来て欲しかったって、なんで俺なんだ?)
霊感とやらが強いから?それとも唯一案内人の姿を見られたから?
(しかし、アンタ“でも”という言い方が引っかかるな…)
その時見せた、悲しそうな顔の理由も気になっていた。
“キーンコーンカーンコーン…”
放課後になっても疑問は晴れなかった。
『じゃあね、気をつけてね。』
『大丈夫だよー、また明日ね!』
女子と別れを告げ、学校を後にする秋絵。
(アイツは、今日も案内人の仕事をするのか…。)
遠くから見れば華奢な身体だ。背も低いし足も細い…
(…?)
そういえば…なんで柴原のことが気になるんだ?
(だっ誰があんな女を好きになるもんか…!)
モヤモヤした気持ちを振り払うように、いつもと違う道をダッシュで帰った。
帰宅し、ドサッとベッドへ横になる。
「はぁ…はぁ…」
呼吸を整えつつも、秋絵のことが頭から離れない。
(今日も…誰かに告白されたりしたのかな。)
まさかな。アイツ、クラスの連中は嫌だって言ってたし。
でも他のクラスの男子だったら?はいって言うのかな?秋絵が他の男子と楽しそうにしている場面が思い浮かぶ。
(俺には関係ない…、俺には関係ない…)
なんだろう、こんな気持ちになったのは初めてだ。今すぐに柴原に会いたい。
(会って…話したい)
心臓がドクドクと脈を打っているのが感じ取れた。
(…。)
柴原の家はわかってる。すぐ後のアパートの二階、階段付近の部屋だ。
(何考えてんだ俺は…)
行ったところでどうやって話す?何を話すんだ?
(明日学校で…)
話せるのか?いつ、どのようにして?
自分の気持ちに、ほんの一瞬正直になっただけで、秋絵に会いたいという感情が抑えられなくなっていた。必死に秋絵と話せる手段を考える亮太。
(…。)
あった。一つだけ、柴原と話せる手段。
(でも…)
それも二人っきりで、誰にも邪魔されることなく、必ず。
…
『…できれば、アンタでも来て欲しかったわ。』
…
ずっと頭の中でリピートされてきた声。秋絵の悲しそうな声。
「行って…みるか…」
スッと立ち上がり、懐中電灯を探し始める亮太。
(柴原、俺でも来て欲しいんだよな…)
午後11時55分、学校前のスーパー駐車場。
「…。」
秋絵は一人ポツンと立っていた。
(何で…ここにいるのよ私…)
時間は無限にあるわけじゃない、早く校内に入って霊を探し始めないと。
でも、足が動かない。
(あ、秋月なんか来ないわよ!)
自分にそう言い聞かせる。それでも、足はおろか身体が動いてはくれない。
「あ、アイツなんか来なくたって…」
ふっと来た道を見る。亮太が来るんじゃないかと、まだ期待しているかのように…
「…!」
人影、ゆっくりと近づいてくる。
(違う…そんなわけない。)
心の中から湧き上がってくる期待感を必死に抑えこむ。ここにアイツは来ない、秋月は来ない、と。
人影はすぐそこまで来ていた。街灯の光が人影を照らし始める。
(違う…来るわけがないんだからっ)
ドキドキと胸から鼓動が聞こえる。思わず目を切り、人影に背を向けた。
(期待しちゃダメっ!秋月が…来るはずがないんだからっ!)
「し、柴原…だよな?」
聞き慣れた声、耳にした瞬間に目から涙が出てきた。
(来たんだ…会いたかったんだから…)
「柴原だよな?」
大丈夫か?と問いかける亮太に涙を拭い、
「も、もうちょっとで遅刻だったじゃない。時間ないんだから、とっとと入るわよ。」
背を向けたまま、校門を上り始める秋絵。
「おい、待てよ。…ったく、ギリギリ間に合っただろうが。」
呆れながら校門に手をかける亮太。
(ふぅ、会えてよかった…)
(そうよね、心配しなくても来てくれるじゃない。)
素直に感情を出せない二人。だが、初めて意思が噛み合った瞬間となった。
“タタタタッ…”
「ところで、今日はどんな霊がターゲットなんだ?」
「場所は図書室。少女の霊よ。」
前回と同じように、秋絵があらかじめ開けておいた女子トイレの窓から校内に侵入する二人。
「ここが病院だった頃、入院していた少女がいてね。あるとき、読んでいる途中だった本を誰かに隠されたの。」
「それで、その本を探しているのか?」
「そうよ。隠された本が見つからないまま、その少女は命を落としてしまったらしいわ。」
旧校舎四階にたどり着いた。図書室は目と鼻の先だ。
「…いるわよ。」
「えっ?」
亮太から見れば真っ暗な図書室がそこにあるだけであったが、
「感じるわ。霊がいる。」
ポケットをまさぐり、緑色の石を出す秋絵。
「そういえば、その緑色の石は何だ?」
「これ?案内人の三道具の一つよ。私は神霊石って呼んでるわ。」
「何か意味でもあるのか?」
「そうね…、わかりやすく言えば案内人の力を強化するってとこかしら。」
そう言って神霊石を左手に持ちかえると、
「私の左腕を掴んでて。」
「前みたいに?」
「そうすれば神霊石の力が、アンタを守ってくれるから。ヘマしても大丈夫よ。」
「何だよその、俺がヘマすること前提みたいな言い方は…」
「だって、アンタ案内人として半人前じゃない。」
「俺は案内人じゃないっつーの。」
「つべこべ言わない。ほら行くわよ。」
秋絵に引っ張られ、亮太は図書室内を覗いた。