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7.なぜ寂しく感じるの?

「あの人と一緒にいたのは、向こうから誘われたからよ。しつこく誘ってきたから、行くだけ行ってきたわけ。」

「それじゃあ…告られたところでOKする意思なんかなかったってことか。」

「当たり前じゃない。アンタには言ったでしょ、私が転校生だから珍しいのと一人暮らしだから変なこと考えて寄ってるだけって。」

「波多野が?もう半年経つから珍しさは消えかかってる頃だし、他の連中みたいに盛ってるわけじゃないだろ。」

 波多野を擁護する亮太。あまりにもかわいそうになったからだった。

「…なんか、嫌なのよ。」

てっきり「アンタにはわからないわよ!」と叫び声が飛んでくると覚悟していた亮太。静かな、そして意外な返答だった。

「上手く言えないけど、私のことを理解してはくれないんじゃないかって思うのよ。」

「それは、案内人のことか?」

「それもあるし、家庭環境とか性格とか…。とにかく、私を受け入れてはもらえない気がしたの。」

ふーん…。秋絵の少し寂しそうな顔が見える。保健室で見たときの顔と同じだ。

「はぁ…こんなの、アンタに話しても無駄よね。」

「な、俺は愚痴を聞いただけかよ?」

「訊いてきたのはアンタじゃない。」

「う…」

錆びた鉄製の手すりに掴まり、階段を上り始める秋絵。

“カン、カン…カンッ”

「今日のことは喋らないでね。」

階段の途中で止まり、口止めをする秋絵。

「わかってるよ。俺にだってそれくらいの頭はあるさ。」

「…そうよね。」

再び階段を上り始めた秋絵。


“カチ…カチ…カチ…カチ…”

 時計の秒針が動く音だけが聞こえる。午前2時、窓から入ってくる月だけが唯一の光だ。

(…。)

秋絵の部屋。狭い部屋に敷いた布団の中で、秋絵は眠れずにいた。

(なんで…なんでなの?)

三国中学へ転校してきて半年、多くの生徒が男子・女子問わず自分に近づいてきた。が、誰とも一緒にいたいとは思わなかった。

(それなのに…)

亮太だけが違った。亮太と別れて10時間、もう後6時間もすれば学校で顔を合わせるハメになるのだ。

 にもかかわらず、傍にいないだけで寂しく感じる。

(私、何を期待してたのかな…。秋月は私が好きなわけじゃないのに…)

でも、なぜ後を追ってきたんだろうと気になった。

(りょーた…)

名前を呼んでみた。余計に寂しくなり、涙が出そうになる。

“バサバサッ”

頭から布団を被り、目を強く閉じた。追ってきた理由は考えないようにした。


“チュンチュン…”

朝、秋絵の部屋。

「うーん…」

ゴロンと横を向いた時、おいてある時計が目に入った。

「えと…7時…?」

違う!もう8時じゃない!

「やばいいい!着替え着替えっ!」

眠気が一気に吹っ飛び、遅刻という二文字が頭を埋め尽くす。

“バターン!”

ドアを蹴破るように飛び出し、階段を駆け下りた。時間の余裕はまったくない。

“タッタッタッタ…!”

「アイツのこと考えてたせいで…どうしてくれるのよっ!」

とりあえず亮太のせいにして学校へと走る。

 ようやく校門の前に辿りついた。息を荒げながら靴箱へと全力疾走する秋絵。

「ハッ…ハッ…ハッ…ハッ…」

誰もいない階段を二段飛ばしで駆け上がり、教室の後のドアを思いっきり開けた。

“バァーン!”

中にいた生徒がサッと振り向く。

“カァーッ”

途端に恥ずかしくなった。ゆっくりと教壇に立つ教師を見る。

「し、私用で遅れました…」

「…早く座りなさい。」

騒然となった教室内を、静かにあるく秋絵。

『…それで、今日の2時限目は国語になりました。以上です。』

『起ー立!』

朝のホームルームが終わり、立ち上がる生徒たち。

(あっ、部屋の鍵かけてない…!)

今から帰宅?できるわけがない。一気に不安感が増す秋絵。

「すっ、すいません!保健室行ってきますっ!」

言い訳を教師に告げると、教室から出て行こうとする秋絵。

「あっ…!?」

突然フラッときた。倒れそうになるのは堪えたが、めまいは引いてくれない。

『先生、柴原さんを保健室に連れて行ってもいいですか?』

『ああすまないな、頼むよ。』

右腕を回され、グッと身体が持ち上がった。

「ア、アンタね…」

「ったく、目の前で倒れこむかと思ったぞ。」

顔が見えなくてもわかる、亮太の声だ。

「一人で行けるわよ、保健室くらい…」

行きたいのは自分の家なんだから!うっ…

“フラフラ…”

「それ見ろ、今はおとなしくしてろって。」

今は黙って亮太に従うしかなかった。


“ただいま外回りに行っています”

「やーっぱりいないか。」

「もういいから。一人で何とかするわよ。」

何としてでも家へ帰りたい秋絵。

「フラフラなのに何とかできるわけないだろ。今日は一体どうしたんだよ?」

やけに一人になりたがる秋絵へと、さすがに不信感を抱いたらしい。

「い、家の鍵かけ忘れたから掛けに戻りたいのよ…」

秋月なら見逃してくれるかもしれない。一縷の望みを賭け、正直に告げた秋絵。

「そうなのか?いやだとしてもお前フラフラ…」

「もう治ったわよ!そういうことだから、先生には保健室にいるって伝えておいて!」

キッと向きを変え、靴箱に向かう秋絵。

“フラッ”

「やっぱりダメじゃねーか。心配だろうけど、おとなしくしてろよ。」

保健室に運ぼうと、亮太が秋絵に近づいた。

“グゥ~…”

小さな音と共に、秋絵の顔が真っ赤になる。

「…あーなるほどね。」

「わ、悪かったわね!」

恥ずかしくて顔を上げられない秋絵に、

“スッ”

「…?」

オレンジ色の箱を差し出す亮太。

「サッカー部のやつに頼まれたんだけどな。やっぱり要らないっていうからさ。」

いわゆる、“簡易栄養食品”だった。

「…ありがと。」

少し間を置いてから秋絵は受け取った。

「こっこれで助けられたとは思わないからんだからね!」

「いいから早く食って、家の鍵かけてこいよ。保健室で寝てますって言っといてやるからさ。」

何よ、ポケットに手を突っ込んでカッコつけちゃって。

 口をモグモグと動かしながら、秋絵は靴箱の方へと足を運んだ。

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