表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

3.夜の学校へ

 午後の授業内容がなんら頭に入らないまま、放課後を迎えた。

『イーチ、ニー、イチッニ!』

『ソーレ!』

“カァン!”

部活動の活動音が聞こえる中、校舎を後にする亮太。

(結局、承諾しちまったが…)

秋絵の手伝いのことをずっと考えていた。

(やっぱり、もう一度断って…)

“ドンッ!”

「秋月!呼んでるんだから気づきなさいよ!」

不意に思いっきり背中を叩かれる亮太。

「痛てて…。考え事してたんだよ。」

「へぇ~、アンタも年中ボケてるわけじゃないんだ。」

失礼な。むしろ毎日考え込んでるわ。

「ところで、何の用だよ?」

「明日のこと話にきたのよ。さっそく手伝ってもらうわ。」

うっ…と背中に重石がのしかかったような感じ。

「いや、悪いけどその件は…」

「本番は明日の午前1時。とりあえず、スーパーの駐車場に集合でいいわ。」

「それだけどさ、やっぱり俺…」

「持ち物は、そうね…怖ければ懐中電灯でも持ってくるといいんじゃない?」

亮太のことなどお構いなしに喋り続ける秋絵。

「そうだ、お守りなんかははずしといてね。霊が怖がって逃げちゃうから。」

「ああ、そうしとくよ。」

なるほど、いいことを聞いた。お守りは必ず持っていくとしよう。

「ん?ちょっと待てよ?」

「何?今更やめるとかはナシだからね。」

「違うよ。明日の午前1時ってのは、“明日の夜の午前1時”だよな?」

「ええそうよ。明日の午前1時、今から約9時間後よ。」

「…うそ!?」

ちょっと待て、いくらなんでも急すぎないか!?

「霊に会える、タイミングってのがあるんだから。変えることなんてできないわ。」

「いやあのな、まだ心の準備が…」

「そんなの元々しないでしょ。もう諦めなさい。」

帰宅したら、お守りの捜索確定だな。

「ところで、一つ訊いていいかしら?」

「な、なんだよ…?」

何を訊かれるのかと、一瞬身構える亮太。

「アンタ、いつまで私と歩いてるの?」

「…はい?」

「私は家こっちだけど、アンタは家どこなのよ?」

家どこなのよって訊かれても、

「どこって…ここ真っ直ぐ行ったら…自宅なんだけど…」

と、答えるしかないのだが。

「はぁ!?アンタの家こっちなの!?」

ビックリした、というより怒ったような顔で亮太を睨みつける秋絵。

「信じられない!真っ直ぐ行ったどの辺よ!?」

「え、にっ二丁目辺り…」

「私と住んでる場所、一緒じゃない!」

驚いているのは亮太も同じだ。今まで登下校時に会ったことなんて、一度たりともなかったぞ!?

「いつ別れるのか考えていた私がバッカみたい!先行くから、ついて来ないでよねっ!」

と言い残し、走り去っていく秋絵。

「何で帰る方向が一緒じゃマズいんだよ…」

“ジー…”

不意に他の生徒からの視線を感じ、早足になる亮太。


 夜になった。田舎だから人通りなんてあるはずもなく、行く道の街灯が妙に明るかった。

「懐中電灯と…、お守りと…」

ブツブツと鞄の中身を思い出しつつ、夜道を一人学校へと向かっていく亮太。

“ザワザワザワ…”

“ビクッ!!”

道中の木のざわめきに怯える亮太。夜道がこんな怖いと思ったのは、生まれて初めてだ。

「ま、まあ今日霊が出るとは限らないしな。」

でももし出たら…?と自分で言っておいて逆に不安感が大きくなってしまった。

(午前0時55分…)

スーパーの前まで来て、秋絵の姿を探す。

(うっ!)

駐車場の片隅に人影を見つける。真っ暗で誰だかわからない。

「し、柴原だよな…?ちゃんと来たぞ…。」

恐怖で声が震える。

 と、人影はゆっくりと近づいてきた。

「柴原だよな?…柴原なら返事をしてくれよ!」

ま、まさか幽霊…?前回の記憶が背筋を凍らせ始める。

「う、ううっ…やめ…」

「はいはい、私ですよー。」

棒読みの秋絵の言葉が聞こえた瞬間、ヘナヘナと座り込んでしまった。

「お、脅かすなよ…。」

「声が小さくて何言ってんのか聞こえないのよ。夜だから大声出しても迷惑だし、わざわざ近づいてあげたのよ。」

校門前の電灯の前に立ち、ようやく頭一つぶん下に秋絵の姿を認めた。黒い上着に白いスカート、背中には細い筒?を背負っている。

「ほら、さっさと入りましょ。」

慣れた手つきで校門脇の壁をよじ登る秋絵。スカートを履いているとは思えない動きだ。

「ほら、アンタも早く来る。」

「お、おう…。」

亮太も壁をよじ登り、学校敷地内へと侵入した。

「歩きながら詳しい説明をするわ。よく聞いて。」

 校舎に入るため開けておいた女子トイレの窓へと早足で歩く二人。

「今日のターゲットは音楽室のピアノ奏者よ。」

「音楽室のピアノ奏者?」

「そっ。ここが病院だった頃、ピアノ奏者の女性が事故で運ばれてきたの。女性は手術を受け、命こそ取り留めたものの両腕を切断されてしまったのよ。」

 昔ここには陸軍病院があったが、終戦により閉鎖。その後に市経営の総合病院として再度機能していたのだが、施設移転により更地になってしまった。そこに立てられたのがこの市立三国中学校なのだ。

(これだけ激しい動きの土地で建っている学校だものな…。)

「ピアノ奏者の女性は絶望のあまり自殺。その霊が残ってるらしいのよ。」

女子トイレの窓から新校舎内へ。いったん二階に上がった後、接続通路を通って旧校舎一階の音楽室へと向かう。

「どんな霊なんだ?」

「…音楽室からピアノの演奏が聞こえるの。中を覗くと、」

真剣な目つきで亮太を見ながら言った。

「血濡れた両手首だけが鍵盤の上を動いているらしいわ。」

「マ、マジかよ…」

血濡れた両手首が動いている…、話を聞いているだけでもゾッとするというのに…。

「さて、ここから本番よ。気を抜かないでね。」

気なんて抜こうとも思わない。恐怖で心臓がドクドク脈打っているのが聞こえてくるんだ。

「はい。」

「はい?」

渡されたのは、一本の糸。裁縫なんかに使う糸だ。

「これでどうするんだ?」

「ここは旧校舎二階の東側よ。そこの階段を降りて、すぐにある音楽室の目の前を歩いてきて。」

「ひ、一人でか!?」

「当たり前でしょ。もし音楽室からピアノの演奏が聞こえたら、この糸を引っ張って知らせるの。聞こえなかったら帰ってきて。」

「ちょ、ちょっと待てよ…」

「何?何か問題でもあるの?」

俺の運命が今ここで切れそうな糸一本で決まるなんて怖すぎる。

「お前、たしかケータイ持ってたろ。これで連絡取るようにしようぜ。」

そう言って、ポケットからケータイを取り出した。

「あら、アンタもケータイなんて持ってたんだ。」

「半年前から持ってるよ。今、番号教えるから。」

「…ケータイの電源は、切っておいたほうが身のためよ?知らなくて済むから。」

秋絵の意味深げなことばに、手が止まる亮太。

「…どういうことだ。」

「ケータイ自身には、霊との関連性は何もないわ。ただし、」

「…ただし?」

「…霊が近くにいるとね、電波って入らないんだ。」

ウソだろ!?とケータイを開いて見た。

「うん…いるね、間違いないよ。」

“圏外”。ケータイの明るい画面には、そう表示されていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ