選べ。道を開けるか、(社会的に)くたばるか
リュート達が小鬼の巣を殲滅してから、三日が経った。
「本当に、行ってしまうんですか」
「物資はたっぷり出しただろ?」
最後まで食い下がろうとする後藤を、リュートはすっぱりと斬り捨てる。
襲撃がちゃんとなくなるかどうか、三日様子を見た。
パンに水、膨大な矢に全員分の剣と鎧、ローブ。
その間にリュートの出せるだけの物資を全て召喚した。
このコミュニティの人数なら、少なくとも一年は食うに困らない筈だ。
「そうですね……ここまでしてもらって引き留めるのも申し訳ない」
後藤自身、今更リュートが気を変えるとも思ってなかったのだろう。
最後は思ったよりもあっさりと身を引いた。立場上のポーズもあったのかもしれない、とリュートは思う。
「それに、その方が良いかも知れませんね」
それを裏付ける様にぽつりと呟く後藤に、リュートは頷いた。
こんな世の中だ。無限に食料を出せる人間がいるとなれば、誰も自分からは動かなくなってしまう。事実、リュートが滞在している間にもそう言った声はいくつか噴出していた。
しかしそれは非常に危険な事だ。
リュート一人がいなくなれば、全てが破綻してしまうコミュニティなど、健全とはとても言えないだろう。
「じゃあな。またそのうち立ち寄るよ」
「ええ。その子の母親が見つかる事を祈ってますよ」
後藤と握手を交わしあい、リュートは彼に背を向ける。
そして真理と共に、かつての母校を後にしたのだった。
* * *
「ねえ、リュート」
小学校から離れて、数分後。
「本当に良かったの?」
マリーベルに変身した真理は、不安そうにそう尋ねた。
「何がだ?」
「学校にいた方がよかったんじゃないかと思って……」
「お前のママを探すなら、あちこちウロウロした方が良いだろ。もしそれらしいのが来たら引きとめておくよう、後藤のおっさんにも頼んだしさ」
「そう、だけど……」
納得のいかない様子で、マリーベルはリュートを見つめる。
「リュートの事を引き止める、綺麗な人もいたじゃない」
「ああ、あれは助かった。ありがとうな」
「それって、ヒニクって奴?」
「ちがう。マジな感謝だ」
学校に泊まっている間、何度かリュートは女性に襲撃を受けた。
それを撃退してくれたのは真理だ。
流石に、泣き喚く子供の横で男を襲おうという気概のある女はいなかった。
「子供の時はわからなかったけど、私、邪魔しちゃったんじゃ……」
「いいか、一つ教えてやる」
なおも言い募ろうとするマリーベルに、リュートは人差し指を突き付ける。
「十七なんてまだまだ十分ガキだよ」
「そりゃ、百歳のお爺ちゃんから見ればそうかもしれませんけど」
ぷくりと頬を膨らませる仕草が子供っぽいことに、マリーベルは気付かない。
「俺のことを好きでも何でもない女から言い寄られたって迷惑なだけなんだよ」
「ふうん……」
釈然としない表情で、マリーベルは頷く。
しかし不意に、何かを思いついたようにその表情が明るくなった。
「ねえ、やっぱりリュートってロリコンじゃないの? だから……」
「違う」
断固として、リュートは否定する。
「でも、子供の頃の私になでられて喜んでたじゃない」
「待て。それは大きな誤解だ」
どこまでも続く森の道を行きながら、言い争う二人の声は30分ほど続いた。