占い好きの女の子に纏わる僕の葛藤
推理ってほどの推理でもないですが…
少しばかり確率の話をしよう。
何かが一回でも起こる確率を求めてみると、実は感覚で判断するよりも、本当はずっと高いのだという事がよくある。
例えば、確率10分の1のくじを五回引いて、一回でも当たる確率を求めてみよう。五回くじを引くとすると、計算式は、全事象(つまりは1)-くじが当たらない確率(この場合は、10分の9を五回かけた値)で、答えは約40%ほどとなる。
どうだろう? 10分の1って響きからすれば、随分と高い確率に思えないだろうか?
まぁ、これくらいだとどう感じるかは、個人の感性によるのかもしれないけど、これと同じ話を、もうちょっと規模の大きな話に適応させると、もっとよく分かる。
例えば、同じクラスに同じ誕生日の人がいる確率を、先の計算と同じ発想で求めてみると、仮に40人学級だとするのなら、なんと90%にもなってしまうのだ。つまり、同じクラスに同じ誕生日の人がいたとしたって、別に珍しくもないという事になる。
(因みに、だから、原発が大事故を起こす確率が、仮に2000年に一回だとしたって、数を造っていけば、その確率は跳ね上がってしまうのだ。日本で原子力事故が起こったのは、本当は不思議でも何でもないのかもしれない)
まぁ、この話を踏まえた上で、次の話を聞いて欲しい。
僕のクラスに占い好きの女の子がいる。で、少しばっかり皆で喋っている時に、その子と同じ誕生日の男生徒が、このクラスにいるという話題になった。同じ誕生日。そのフレーズにその子は多少は運命的なものを感じているようだった。流石、占い好き。
「誰だと思う?」
一人がそう言った。多少、悪戯っぽい口調で。それを聞くと、その子はニッコリと笑ってこう返す。
「ふふん、当ててみせようか?」
おっと、これは相手が誰か知っているのかな?
と、僕はそう思った。因みに、僕らはその相手を知っていたりするのだけど。ところが、次に彼女が上げたのは、全く見当外れな男生徒の名だったのだ。
「三杉くんでしょう?」
誰なのか知っている僕らは、それを聞いて少しコケル。
“見事に大間違い”
「どうして、そう思うの?」
女生徒の一人がそう尋ねた。その子は「ふふふ」と笑って、こう答えた。
「まぁ、聞きたまえ、ワトスゥンくん」
偽物っぽい英語発音で。それから、彼女はこう続ける。
「ほら、わたしってば、占いが好きでしょう? で、朝番組の占いコーナーを、毎日欠かさずに、チェックしているんだ」
その話は実は有名だった。この子はキャラが可愛いその番組の星占いが好きなのだとか。グッズまで持っていて、キーホルダーを鞄につけているから皆知っているのだ(これだと、占い好きとは、少し違う気もするけれど)。
「それでね。ある日に気付いちゃったんだ。三杉くんは毎日、わたしと同じ、その占い結果のラッキーカラーの何かを持って来ているのよ。これって、三杉くんもあの占いコーナーを見てて、自分のラッキーカラーを身に付けているって事でしょう?
つまり、三杉くんはわたしと同じ星座だって事になる。なら、誕生日も同じである確率が高い」
それを聞いて僕は、仮に同じ星座だったとしても、同じ誕生日だと確信できるほどには、高い確率と言えないのじゃ?
と、そう思った。まぁ、そもそも、三杉は彼女と同じ星座ですらないのだけど。
それから僕は少し考えた。
しかし、となると、どうして三杉は、彼女のラッキーカラーなんて身に付けているのだろう?
そこでふと、僕は三杉の方に顔を向けてみた。三杉はその時、明らかに彼女を見ていた。自分の名が出て来て、気になったのかもしれない。が、それだけとも思えなかった。そしてそこで僕は気付いたのだった。奴の、彼女を見る視線の意味に。同時に、奴が彼女のラッキーカラーを身に付けている事の意味にも。
ああ、なるほど、そういう事か…
彼女は言った。
「ああ、でも、どうしよう? 同じ誕生日だなんて、どう考えても偶然じゃないわよね?」
それを聞いて僕は悩んだ。
さて。
先の、同じクラスに同じ誕生日の人がいる確率の話を、この子に聞かせるべきかどうか。
大して低い確率じゃないと分かれば、興味はなくなるかもしれない。けど、このまま勘違いをして、三杉の本当の誕生日を知っても彼女の奴への興味はなくなるのだ。
彼女の気を惹く為に、大して信じてもいない占いを毎日チェックして、彼女のその日のラッキーカラーのアイテムを身に付けるまでしている奴の苦労を思うと、僕は悩まずにはいられなかった。