友人
ミスタードーナツのアルバイトは、まるで潮の満ち引きのように人の入れ替わりが激しかった。
誰かが新しい期待を抱いて入ってくると、それと入れ替わるように、別の誰かが静かに去っていく。
そんな絶え間ない循環の中で、ある日一人の新しい仲間が加わった。
タカオちゃんだ。
彼は僕より一つ年上で、キノシタさんと同じ年齢だった。
デザイン系の専門学校を卒業して一度は正社員として就職したものの、そこで彼を待ち受けていたのは、彼が思い描いていたものとは似ても似つかない現実だったらしい。
彼は会社を辞め、次の目的地を見つけるまでの束の間の場所として、この店を選んだのだ。
タカオちゃんは、驚くほど二枚目だった。
そして、誰もを無防備にさせるような爽やかな笑顔を持っていた。
彼はナイトシフトだけでなく日勤もこなしていたが、彼がカウンターに立つようになると、彼を目当てにやってくる女性客が目に見えて増えたほどだ。
当時の僕たちは、深夜の仕事終わりに短い言葉を交わす程度の、ごく薄い関係に過ぎなかった。
とりたてて仲が良いわけでも、共通の話題があるわけでもなかった。
けれど、人生というのは不思議なもので、彼とはその後、十五年以上にわたって、僕の数少ない友人として時を共有することになるのだから。
その年の夏、僕はミスタードーナツのアルバイトを辞めた。
それにはいくつかの理由があった。
一つめは、単純に夜勤という仕事から抜け出したかったこと。
二つ目はどうしても苦手というか嫌いなバイトの先輩がいたことだ。
彼は顔が特別にいい訳では無かったがファッションセンスが良く、冗談のセンスも悪くなかった。
話が上手でいつもみんなを盛り上げる存在だった。
だけど、とにかく女癖が悪かった。
ミスタードーナツに新しく入ってきた女の子を自分のものにする事をゲームのように楽しんでいた。
彼は新しいバイトの女の子をものにすると、自慢げに僕たちの前で「女なんてヤレれば誰でもいいんだよ」と豪語して大声で笑っていた。
当時の彼の彼女もミスタードーナツでアルバイトをしていたから僕も知っている人だった。
僕は何だか嫌だった。
そして三つめは、正社員のオオサワさんがバイクの事故で突然この世を去ったことだ。
僕自身は彼との面識はほとんどなく、訃報を聞いても驚きはしたが、悲しみが心に降りてくることはなかった。
けれど、ヤスエさんは違った。
彼女はその報せを聞くなり、場所も構わず涙をこぼした。
それほど親しかったわけでもないはずなのに、なぜだろうと、僕は泣きじゃくる彼女の横で戸惑っていた。
あとになって、彼女から本当のことを聞いた。
彼女はずっと前からお客さんという立場で彼の事を知っていた。
彼に会うために何度もお店を訪れていたそうだ。
そして、オオサワさんに片思いをしていた。
彼に近づきたいという一心で、彼女はこの店でアルバイトを始めたのだという。
結局、彼がすでに結婚していることを知ってその想いは諦めたのだそうだが、死という絶対的な沈黙を前にして、彼女の心の底に眠っていた感情が、激しい奔流となって溢れ出したようだった。




