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初恋

いつものようにミスタードーナツが閉店したあと、僕たちは深夜の空気の中でどうでもいい話をしていた。

話はどこまでも膨らみ、最高潮に達したとき、キノシタさんが不意にニコニコと笑いながら、「実はアケミさんがタイプなんだ」と白状した。

それを合図に、他の連中も堰を切ったように自分の好みの女性の名前を挙げ始めた。

「アキバは誰なんだよ」と、キノシタさんが僕に問いを投げかけてきた。

僕には、特別な誰かがいるわけではなかった。

でも、沈黙を守るには場の空気が少し熱を帯びすぎていた。

僕の頭にふと浮かんだのは、最近アルバイトの面接にやってきたヤスエさんの顔だった。

僕はとりあえず、記号を埋めるように彼女の名前を口にした。

それから数日後のことだ。

店に入り、厨房の前で偶然にヤスエさんとすれ違った。

彼女は僕の顔を見るなり、いたずらっぽくニコリと笑ってこう言った。

「アキバくん、今度一緒に東京ディズニーランドに行こうよ」

「エッ」と僕は声を漏らした。

驚きはしたが、同時に頭の中のすべての回路がつながった。

たぶんキノシタさんが、あの日の中身のない話を彼女に届けたのだ。

僕は断るべき特別な理由も見つけられなかったから、「うん、行こう」と二つ返事で答えた。

僕の最初の恋愛は、こんな風にして、僕の意志とは無関係に、静かに幕を開けた。


ヤスエさんは僕より四つ年上で、二十二歳だった。

埼玉県三郷市に住んでいて、偶然、僕と同じ金町駅を利用して通勤していた。

普段の彼女は地元のスイミングスクールで子供たちに水泳を教えていた。

ミスタードーナツの仕事は、その合間の時間を縫うようにして、短時間だけこなしていた。

翌週、僕たちは金町駅で待ち合わせ、電車を乗り継いで東京ディズニーランドへと向かった。

女の子とデートをするなんて、高校時代にクラスメイトと映画を観に行って以来のことだった。

いや、実質的には人生で一度目の、ほとんど未体験に近い出来事だと言ってよかった。

ディズニーランドの中に足を踏み入れると、僕たちはごく自然に手を繋いで歩いた。

僕は自分がかなり浮かれていることを自覚していた。

灰色で退屈なだけだと思っていた大学生活の影から抜け出し、何か新しい、色彩豊かな世界を見つけ出したような——そんな予感に僕は満たされていた。


ディズニーランドでのデートから数日が過ぎた頃、僕宛に一枚の手紙が届いた。

ヤスエさんからだった。

それは便箋一枚きりの、ごく短い手紙だった。

一緒にディズニーランドへ行けて楽しかったということ、そしてまたどこかへ遊びに行きたいということ。

ただそれだけのことが、簡潔な言葉で綴られていた。

驚くべきことに、僕はその手紙に恋をしてしまった。

ポストからそれを取り出すまで、僕の中にある彼女への感情は、決して特別な種類のものではなかったはずだ。

でも、そのインクの跡をなぞっているうちに、僕は自分でも制御できないほどの速度で、恋の深みへと滑り落ちていった。

僕は自分の部屋のベッドの上で、何度も、何度もその手紙を読み返した。

身体の奥から込み上げてくる名付けようのない嬉しさに、僕はただただ、のたうち回るしかなかった。

女の子から手紙をもらうなんて、それこそ小学生の時の年賀状以来のことだった。

僕にとって、それは世界がその姿を劇的に変えてしまうほどの、決定的な出来事だった。


僕たちが付き合い始めた頃、映画館では『スタンド・バイ・ミー』が上映されていた。

僕たちはミスタードーナツのシフトを終えた足で、そのまま錦糸町の映画館へと向かった。

僕が働いているミスタードーナツの店内には、いつもオールディーズの調べが絶え間なく流れていた。

主題歌である『スタンド・バイ・ミー』も、ドーナツの注文を聞いたり、空いたカップにコーヒーを注いだりする日常の背景として、もうすっかり耳に馴染んでいた。

だからだろうか、スクリーンの向こう側に広がる少年たちの光景が、今ここにある自分自身の姿と、不思議なほど親密に重なり合って見えた。

映画館の暗闇の中で、僕は隣の席に座っている彼女の存在を、その静かな呼吸を意識していた。

物語が終わりに近づくにつれ、僕は隣にいる彼女のことを、どうしようもないほど愛おしく恋しいと感じていた。

それは、まだ失ってもいないものを、あらかじめ懐かしむような、切実な痛みを伴った感情だった。


それから僕たちは、アルバイトの隙間を埋めるようにデートを重ねるようになった。

金町駅の改札前で待ち合わせ、地下鉄千代田線に揺られて渋谷へ向かうのが、僕たちの決まったコースだった。

東急ハンズやロフトに並ぶ、小さな可愛い雑貨たちを眺め、当時誰もが話題にしていたアンナミラーズに足を運んだ。

雑誌のページから抜け出してきたようなお洒落な店で、甘いスイーツを口に運ぶ。

そんな時間は、僕にとってひどく新鮮で、眩しいほどに輝いていた。

いつしか僕たちは、ごく自然に腕を組んで歩くようになっていた。

腕を通じて伝わってくる彼女の確かな体温や、ふとした拍子に肘に触れる胸の柔らかな感触。

その一つひとつに、僕の心は不規則なリズムで揺れ動き、激しくときめいた。

それはまるで、自分が自分ではない別の何かに作り変えられていくような、不思議な高揚感だった。

薄暗い大学の講義室で、机に突っ伏して泥のような眠りに沈んでいた頃の僕には、こんな風景は到底想像もできなかった。

僕は今、たしかにこの世界に存在している。

彼女の腕の温もりを皮膚に感じながら、僕はその実感を静かに噛みしめていた。

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