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First Contactシリーズ 感染症専門医神尾&外科医滝岡「感染症専門医神尾の事件簿」 ――indigenous flora――  作者: 御厨つかさ


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18 料亭 関

「うまいじゃねーかよ」

白木のカウンタに座り、出された突き出しをひとくち箸で運んで。

 驚きとあきれと感心が微妙に入り混じった顔と声でいう吉岡に。

 隣に座る神尾がうれしそうにうなずく。

「関さんの料理はおいしいといったでしょう?」

「神尾先生、―――おれの、ですか?ほめてもらうのはうれしいですが、――」

「本当にあんた刑事か?ウソじゃないのか?」

本職としか思えない実に旨いイカと胡瓜の白和えに、吉岡が思わず箸を進めて疑問を顔に描く。

 それもそうとしかいいようがない。

 白木のカウンタの向こうに立つ関の姿は、何と日本料理の職人にしかみえない着物姿で。

「どこをどーみても、刑事になんかみえないんだが」

半分あきれながらいう吉岡が座るのは、つまり関家のカウンタ。滝岡に連れられて来て以来、すっかりこの環境に慣れている神尾が不思議そうに吉岡をみる。

「そうですか?でも、確かに僕も関さんが最初は何のお仕事をされているのかわかりませんでしたが。てっきり、本職の料理人の方かと」

「退職後は、こうして店を構えるのが目標ですからね。いまから腕を磨いてるんです」

和食料理店のカウンタとしかみえない調理設備も整った白木のカウンタの向こうでまな板に包丁を使いながらいう関に、吉岡が大きく眉を寄せて。

「―――感心する人生設計だが、…――。もう退職して店を構えた方が早くないか?」

疑問をくちにする吉岡に、関が真顔で返す。

「店を開くには、運転資金が必要ですからね」

「…――本気なんだな…」

「勿論です。どうぞ」

いいながら、関が出すのは。

「…うわ、――マジかこれ」

感動して吉岡が見ているのは、見事に艶のある白身魚の一切れが焼かれて酢生姜の淡い赤も美しく添えられた実に旨そうな一皿で。

「うまそうだな、―――…くっていいのか?」

「どうぞ。後、こちらの吸い物もありますよ」

「うわ、…アカモクの吸い物かよ、…―――旨そうだな、おれは何を話せばいいんだよ?」

神尾があきれたことに実際に金沢の警察官にパトカーを呼ばせて駅まで送らせて。こんなんでいいのか、と思っている内に北陸新幹線に乗り、いつのまにか新幹線を乗り換えて新横浜まで。

 そして、何故か気づいたら、横浜の警察に行くとばかり思っていたのが、どうみても和風の家に連れて来られて。

 扉を潜ると白木のカウンタに立つ人影が、関だと気づいて仰天していた吉岡なのだが。

 さらに仰天するのは。

 本当に神尾がいってた通り、日本料理人で、しかも味がとんでもなく旨いんだな、…―。

 そりゃ、こいつがいうことに関しては、特に料理の評価だったら、確実に正確だけどな、――と。

 こちらで、関さんがききたいことがあるそうです、と。

神尾にいわれてなお仰天した吉岡なのだが。

「確かに話していただきたいことが沢山ありますが、先にこちらをどうぞ。召し上がってから、話にしましょう」

「…無茶苦茶ありがたいが、―――プレッシャーだな、…」

呟いて箸を手に取り、実にふっくらと焼けてしっとりもしていそうな実に旨そうな白身魚を焼いた一切れを前に唸って。

「…――いただきます!」

吉岡が覚悟を決めて白身に箸をつけ。

 ひとくち、くちに運んで。

「――――…―――――うまいっ、…!」

感激に拳を握って、それから無言で食べ始める吉岡。

 その隣で、のんびりと神尾が湯飲みを手に、ほっこりと御茶を飲んでいる。




「あんた、本当っに根が暗いな、――――」

「でしょ?でしょ?ね、うん!」

「あんた、秀一くんだったか?突然現れて、あんたは一体何者なんだ?」

関家のカウンタから、食事を終えて移った和室。

 落ち着く檜造りの和室に旅館みたいだな、と思いながら座を移した吉岡が問い掛けるのは、何もいわずに座に現れた秀一に対してだ。

 にっこり、麗しい笑顔で秀一がうなずいて。

 実に麗しい笑顔の秀一を、うさんくさげに眉を寄せて見返す吉岡に。

「関の処の居候で、事件関係でいうと、今回僕の関係する部署を動かして、今回の事件でのアドレスや遣り取りを割り出したりさせて頂きました。本来の部署はちょっと違うんですが」

「ややこしいが、つまり、あいつの、…――滝田の居場所とかを探すのに手を貸してくれたってことか?」

「そうなりますね。実働部隊は別にいるんですが」

「それはすまなかった、――この場合、ありがとう、か?」

「いいえ、それは公僕としての僕の仕事の一部ですからね、――御礼をいわれることではありません」

「そっか?―――で、この関って刑事さんの知り合いなのか」

「正確にいうと、関家と滝岡家は隣同士で近所付き合いも昔からの関係なので、幼馴染というか、」

「不正確な説明をするな。要は、おまえはおれと滝岡達の弟分として昔から面倒をかけてきたのが正確な説明だろ」

秀一の説明に途中で割って入った関に、吉岡が眉を寄せる。

「弟分なのはわかるが、面倒は本当にこっちがかけてたのか?」

「その疑問は何でだ」

「吉岡さん!わかってる!」

秀一を指さしていう吉岡の疑問に、関が反発して、ほぼ同時に秀一が同意する。

 そのようすを、のんびりと眺めていた神尾だが。

「あ、病院から連絡入りましたので、失礼しますね」

あっさりといって席を立ち、残してきた混乱に構わずに滝岡総合病院に向かう神尾に。

 残された方も構わずに、喧々轟々、面倒を掛けたのはどちらだの、根が暗いのはどちらだのという話に吉岡まで巻き込まれて、どこか楽し気に争論しているのを。



「そんなわけで、論争をしているのを置いてきたんですけど」

「放置しておけ。いつものことだ。――吉岡さんという人が、秀一の味方をしたなら、それは随分と長引くだろうな」

少しばかり楽し気に滝岡がいって。

 病院に呼び出されて処置が終わり、いま休憩にのんびりと神尾は滝岡に、先日来の事件に関して説明をしていた処なのだが。

「そのようでした。大変、なんでしょうか?」

「いや、放置していい。それにしても、やはり、あいつの根が暗い策略で事件は解決したんだな」

納得している滝岡に神尾が訊ねる。

「暗いですか?根が?」

「―――…暗くないか?」

神尾の不思議そうな顔を凝っと滝岡が見つめ返す。

 手にしたコーヒーのマグを握り直して。

「暗いぞ?あいつは。料理とか、別に普段の発想はそんなことはないんだが、―――。職業病だろうな、あれも。事件絡みになると、人間を信頼するとか、そういう発想が抜け落ちるからな、―――…犯人も被害者も、関係者全員を信用せずに事件を解明するからな、あいつは」

「…それって、当然じゃありません?」

しみじみと滝岡が神尾を見る。

「まあ、な」

「―――そうじゃないんですか?」

 不思議そうな神尾を、どう計ったものかと滝岡が沈黙して考える。



「あんたは、本当に根が暗い。おれが人間信じすぎるんじゃないかと思うくらいだ」

「そうですか?」

「そうだって!根が暗い!」

「おまえほどじゃない!」

「えーっ、絶対に関の方が根が暗いって!にいさんも同意してた!」

「滝岡がいうことが信用できるか!あいつは、――」

「滝岡って、滝岡先生のことかい?神尾が世話になってる」

「その神尾先生が世話になっている、というか、滝岡が世話になってるんですけどね。ともあれ、その滝岡です」

「―――その滝岡先生が何だって?」

「こいつに関しては、滝岡はまったく、全然、公平性なんてものからは遠くはるかになるってことです」

きっぱり言い切る関にたじろぎながら吉岡がうなずく。

「そ、そうか」

「その通りです。あいつは、――滝岡はこいつが随分と人生の優先順位の上ですからね。勿論、患者さんとその治療に関しては一番ですが。それ以外なら、こいつが滝岡の人生では優先順位1位ですから」

「それは違うって。優先順位1位は光くんでしょ?」

「光に関しては、患者さんたちを治療するのと同じことだろう。要は、医療を良くする為にっていうのが、共通事項だ」

「まあ、そうだけど、――て、こんな内部事情に吉岡さん巻き込んでも」

ふと吉岡をみていう秀一に。

「いや、もう随分と詳しくなるくらい巻き込まれてるけどな?――あの滝岡先生でも、つまり、――お身内には甘いってことか?」

眉を寄せる吉岡に秀一がうなずく。

「うん!それはその通り!にいさんが僕に甘くないことは絶対にないから!」

腕組みをして言い切る秀一をあきれた顔で関が見返る。

「おまえな?そこは言い切る処か、――確かに事実だが。ま、でも、あいつの場合は、その上に患者さんがくるけどな」

「そりゃ、にいさんの行動原理の一番は患者さんの為だからね。当然でしょ」

「まあなー、あれはあきれるというか、ある意味な。―――徹底してるからな、あきれるくらい」

「関が根が暗いのと一緒だって。職業病だよね」

「――まあ、お医者さんが患者さん第一な職業病なのは、ある意味ありがたい話なんだが」

くちを挟む吉岡に、振り向いて秀一が頷く。

「まあ、確かにその通りです。つまりは、その職業病の根の暗さが、関にも発揮されてるってわけです」

「そこに着地するか?おまえ」

「他にどうするの。これ以上横道にそれてても」

「それてる自覚はあったんだな、…秀一くん」

「勿論です。ですのでね、説明に入れば、―――」

吉岡の問い掛けに秀一がうなずく。

「要は、あなたの、いえ、あなたがご友人だと理解されていた容疑者の滝田氏は、―――」

さらり、と冷淡なくらいに。

「今回の事件の容疑者である滝田は、あなたには悪いが、―――三件の殺人事件の被疑者として、身柄を検察に移送される。その後の判断は検察が行うが」

「いや、…悪くはないさ、関さん」

「吉岡さん、―――かれがすべての犯行を主導した疑いは強いでしょう。その証拠も、あがっています」

「―――わるかないんだ、…すまん。さて、おれはもう北海道に帰っていいのか?」

「山下が迎えに来てますので、ご案内します。今夜はまだ、こちらにとどまっていただけますか?宿泊施設をご紹介しますので」

「…――ああ、なんだか厳重だな。ま、すまん。つまり、まだ聞きたいことがあるってことか?」

「二,三あるかもしれないので、――はっきりといえなくて申し訳ないんですが、最初の殺人事件はこの横浜で起こりましたから、―――ご協力いただけるとたすかります」

頭を下げる関に苦笑して。

「まあいいさ、――旨いめしも食わせてもらったしな。実際、いまこのまま戻ってもあんまり仕事になる気がしないからな、――」

頭を掻き交ぜて、何処か疲れたように吉岡が立ち上がり。

 その吉岡を送って玄関へといく。

玄関では関の同僚である山下が待っていて頭をさげて。

「ご案内します」

「頼みます、―――」

 山下に連れられて吉岡が宿へと車に乗るのを見送って。

 秀一が、振り向いて関に頷く。

 関も、無言で頷き返して踵を返す。






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