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First Contactシリーズ 感染症専門医神尾&外科医滝岡「感染症専門医神尾の事件簿」 ――indigenous flora――  作者: 御厨つかさ


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15/23

15 鷹城

「お久し振りです、如月さん。先日はお世話になりました」

美月が驚いて目を瞠りながら席につくのに、神尾が微笑んでくちにするのだが。

 ――綺麗―!目の保養っていうか、…。うん、保養。やっぱり雛人形の武者人形だ。

古風な感じのする神尾の面立ちは、やはり武士とか、そういう和服の似合いそうな姿にみえる。姿勢の良い座り姿が品のあるのもその連想に資しているのかもしれない。

 そういえば、滝岡先輩――じゃなくて、先生も姿勢が良かったなー。

思わずミーハーに思い返しながら、つい緊張して神尾の前に座る。

「今日は、お仕事中にお邪魔して申し訳ありません。」

「い、いえ、…それでその、今日はどうして?…すみません、その、」

思わずくちにした美月に、穏やかに神尾が微笑み返す。

 うわ、うわーっ、美人―っ!

思わずそんなことを思っている美月に構わず、というかおそらく気付いていないのだろうが。美月と神尾の間にある席には上司が座り、ここまで案内してくれた先輩が、狭い応接室の壁際に設置された古い書棚から、何かをごそごそと探している。

 その上司も先輩も目に入らず、神尾に視線が固定されてしまっている美月だが。

 その緊張に気付いているのかいないのか。

 マイペースで、神尾があっさりと云う言葉に。

「―――ええええっ、―――――?」

「美月くん!」

「どうしました?」

 思わず今度こそ、本気で叫んでしまった美月に、止める上司と先輩の声と。

 いや、その二人こそ、そう叫んでしまった美月に対して実に同情ある視線でみているのだが。それにも気付けないまま、固まって神尾を見返している美月に対して。

「つまり、先日こことの中継をさせて頂いた際に僕がいっていた解説は、殆どがウソなんです。」

「ウ、ウ、ウソって、…――どこからどこが?いえその、どの辺りが?」

ですか?となんとかつなげようとする美月の驚愕に構わず、神尾はあっさりと続けていた。

 実に無邪気にすらみえる、整った美形で綺麗な黒瞳が微笑んで。

 明るくすらみえる微笑みで。

「三人すべてが自殺だという点でしょうか?一番中心的なウソは」

「―――う、うそって、それがウソって、…―――ええええええ?」

 思わず、先程まで、でも殺人じゃなくてよかった、と亡くなられた方には悪いけど、とつい安心していた、その根拠は。

「あ、あの、…―――自殺じゃなかったって、――それって、それって、その?」

声がなんとか出ているのだが、質問がまともな言葉になっていない美月に、まったく気にしない風情で神尾が続ける。

 涼やかな微笑みで。

 ――こ、こんなときだけど、美人、――――…ええと、だから。

美月の矛盾というか混乱しきった内面には気付いていないのか構わないのか。

 実に涼やかに、感染症専門医神尾は。

「つまり、殺人だったということです。こちらの担当されている遺跡から出た御遺体ですが」

「―――殺人、だったなんて、―――」

 え?でもなんで、だったら、あんなウソを?

声にならずに、その疑問を思い浮かべた美月に、まるでそれを理解したかのように。

「あのときはウソをついて申し訳ありません。そろそろ遺跡の発掘計画を決める時期にきておられると聞いて、しばらく利用を止めてもらう為に、今日は事情を説明させて頂くためにきました」

「――事情、はい、説明してください、…」

思わず茫然といっている美月に、上司が袖を引くようにして止めようとする。

「――美月くん、それはちょっと、失礼だろう、…」

「いえ、すみません。こちらこそ。本来、関さんが説明にくる必要があるんですが、僕が代理で。内容的にお電話でという訳にもいかなかったものですから」

「いえいえ、その、…。美月くん」

「すみませんっ、―――。でも、その、どうして、その神尾先生が説明を?それであのときの説明が全部ウソだったっていうのは、―――。それにもちろん、遺跡が今後どうなるかとか、確かにこれから作る処だったので、―――。一体?」

困り切って見返す美月に、神尾が微笑む。

 ――人間離れしてるっ、…。

明るく黒瞳が綺麗に穏やかな微笑みを浮かべているのを見返すと。

 ――人外、…――え?

「その辺りの説明は、僕が致します。勿論、神尾先生に出て来てもらった事情についても。あ、はじめまして。僕、鷹城秀一と申します。先日お世話になった滝岡のにいさんと関の身内で、今回の大嘘を仕切らせてもらった者です。クレームはこちらに」

にこやかに美声の持ち主が突然現れて神尾の後ろに回って語っているのだが。

「…――現実?」

「み、美月くん?」

 思わずつぶやいてしまったくらいには、その。

 美形っていうか、神尾先生が美形だとしたら、―――。

 美貌、というのが無理なく本気で生きている人間に当てはまる言葉だと、これまで美月は考えたことがなかった。

 ――現実に、あるんだ、―――ええと、いるんだ、…――――。

 つまり、人外。

「えっと、その、…―――」

 神尾の穏やかな印象もある美形とはまた異なる、人外の美しさというか。

 ――ほんとに、人間―――?

思わず疑問に思うような。

 クールな印象の、神尾が和なら、こちらは洋風といえばいいのだろうか?

 人外の美貌、あるいは、本当に人形のように整った容姿で。

 綺麗に、これは美月にも凝っているとわかるベストにスーツ、綺麗に磨かれた靴といった装いの。

 完璧に整った美貌の鷹城秀一が、にこやかに神尾の後ろに立つのに。

 上司も先輩も、どこか茫然としてみているのは美月と同じなのだが、――。

 声もない美月達に対して、にこやかに。

「僕が、御説明いたします。と、いうわけで、無理をお願いしてすみません、神尾さん。にいさんが無理いってません?」

「滝岡さんが?いえ、今回は僕がこうして無理をいってこちらにこさせてもらっていますから」

「目的は何でしたっけ?あの遺跡での、未知の細菌の採取?」

「未知といいますか、実は興味深い細菌がいましたので、再度改めて採取をさせていただきたくて。それに、このお話は電話とかでは伝えられないので、誰か人がいく必要があるということでしたから」

「そうですか。それにしても、お手数をお掛けしました。最初の事件でも、横浜では僕の代わりに巻き込んでしまって。すみません」

「いえ、――それより、こちらの方々に説明をしなくてはいけないのでは?」

「あ、そうですね。――」

 鷹城が神尾との会話を切って、一同を見返すのだが。

 ――全然、会話が入ってこない、…―――。

 綺麗すぎるっていうか、こんな二人が実在するんだ?しかも、二人揃ってなんて、――。

 美月の唖然茫然は、ある意味、上司と先輩にも共有されているようで。

 そうだよね、こんな地方で、こんな美形っていうか、美貌の人達なんて、―――。

 人間離れした、というのが一番当てはまるような美貌と、美形の二人。

 目の保養にはなるんだけど、…。

「どうしました?とりあえず、事情を御説明したいと思うんですが」

 鷹城の問い掛けにも、いまひとつリアクションがとれずにいる自分達が極普通だと思わず考える。

 そして、ふと。

 いきなり立ち直って、美月は疑問を叫びかけて、半分声を殺してきいていた。

「じゃ、あの、…――自殺だってウソを神尾先生につかせたのは、…―――あなたなんですか?」

 美月の疑問に、鷹城がにっこり神々しい微笑みで返す。

 ま、眩しいかも、リアルに、…――。

 思わず、眩しい笑顔なんて実在したんだ、と驚愕しながら見返している美月に対して。

 実に神々しい笑顔で、鷹城が思いもかけないことをくちにしていた。

「いえ、違います。裏から手を回すのには僕も手を貸したんですが、―――。本当をいうと、黒幕というか、今回の大嘘を仕組んだのは、関なんです。全部、仕組んだのは関ですから、僕も、神尾さんも、全然悪くありません」

 きっぱり、笑顔で言い切る美貌の。

「ええと、あの、その、…―――関さん?」

 驚愕した美月が繰り返す。

「あの、刑事さんの?」

「はい、その関です。原因は全部」

「―――…え?えええええっ?!」

思わずくちをおさえて、でも叫んでしまいそうになる美月に。

 実に同情する視線を、先輩も上司も向けているのを。

 今度ははっきりと認識して、思わずも美月は思っていた。

 ――でも、あの?あの強面の刑事さん?…―――でも、え?ええっ?

 あの中継でも、金沢に来たときも、―――。

 長身痩せ形で強面で怖そうで、けれどそれ以外は特にというか。

「そ、そんなこと仕組まれる方にはっ、―――?え?」

「…そうそう、人は見かけによらないよね。僕の知ってる中では、関が一番根が暗くて―――」

「暗いですか?関さん」

「暗いでしょ。だって、こんな罠を仕掛けるんだよ?人間が暗くなくてどうするんですってば?関、大体発想が根が暗いしね」

鷹城が関について語り出すのに、神尾がくちを挟んで。

 それに、真面目に見返す鷹城に、神尾が素直にみあげているのが。

 ―――美形だなあ、…本当にこの二人、…って、そうじゃなくて!

「石川県警にも協力はお願いしてあるのですが、今回こちらの遺跡で死体が発見された件については、僕と」

鷹城が改めて一同を見回して、仕切り直すようにくちにして微笑む。

 何をくちにしているか、見ていると忘れてしまいそうな美貌の微笑みだが。

「神奈川県警――そして、警察庁にも協力を仰いでいます。申し遅れましたが、僕は」

 鷹城のくちにした言葉に現実味がなくて、思わず美月達が顔を見合わせる。

 それに、神尾が。

「それと、僕は今回、感染研としての立場から、同席させてもらっています。―――」

「…かんせん、けん?」

「国立感染症研究所、ですね。正式には。普段は、滝岡先生の病院に出向させていただいています。―――」

「かんせん、研、…感染症研究所?」

「はい、それと、僕は」

 二人の示す身分証が本物かどうかも判別しがたいくらいに非現実的な、―――。

 まるで、物語の中に迷い込んだみたい。

 大樹が好きなゲームとか?

と。思わず、思ってしまうほどには。

「現実、―――ですよね?まだ病院で夢をみてるわけじゃ?」

「美月くん、―――。…」

 上司が言葉に詰まって、先輩をみるのに。

「正直、私も自信がありませんよ、…―――」

 極普通にまっとうな公務員である上司、先輩、それに美月が。

 遺跡発掘という現代とは掛け離れた時代を想像するのがある意味仕事ではあるけれど。

 ――古代の人達の方が、何ていうか、もっと常識的な気がする、…―――。

 にこやかに微笑む美形が二人。

 常識離れをした美貌と美形の二人が、くちにするのは。

 極平凡な遺跡発掘を仕事とする現場で遭遇するとは思えない事件の裏側だった、――――。



 まっとうな遺跡発掘の仕事に戻りたい、…―――。

 二人の、主に鷹城からの説明を何とか美貌から意識を逸らして聞くことに成功した結果。

 美月がそう思っているのと同じ意見を、上司も先輩も思っていると確信できた。

 本当に、こんなに同じことを思ってるって確信できるなんて。

 埋蔵文化財センターって、元々良い職場だと思うけど。

 ある意味、これだけ意志が統一されるっていうか、共通の気持ちになってるのって、きっとはじめてかもしれない、――――。

 神尾と鷹城。

 人並み外れた美貌が二人並んでいる姿を前に。

 ええと、正確にいうと、神尾先生が座ってて、鷹城さんはそのソファの後ろに立ってるんだけど、――――。

 にっこりと姿勢を崩して、神尾が座るソファの背に両肘をおいて、にこやかに彼等を見返す鷹城の美貌が眩しくて。

 だから、つまり、―――――。


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