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First Contactシリーズ 感染症専門医神尾&外科医滝岡「感染症専門医神尾の事件簿」 ――indigenous flora――  作者: 御厨つかさ


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「勿論、不可能です」

あっさりとした神尾の答えに関が顔を顰める。

「まさか、その後の証明はこちらに任せるとかいうんじゃないだろうな?確かに、それは本来こっちの仕事だが」

「先輩、…」

関の言い様にあきれて山下が隣で呟く

 それに対して。

「いえ、勿論、証明はできています」

「できてるって、つまり?」

「はい、犯人は判明しています。教授の死後、ご遺体をあの遺跡に埋めたのは、―――。」

 仲間と、美月達が固唾をのむ。

「犀川の河川敷に死体を捨て、そして、横浜で遺体を三階席から落下させた、その人物です。同じ人物が遺体をそれぞれの状況に置く際に遺体に触れ、それが、同じ遺伝子情報を持つ微生物を三名のご遺体に付着させる原因となったのです。――――」

 あっさりという神尾の言葉に、美月達が。

「それで、―――じゃあ、死体をそんな風にしたのはどっち?」

金沢でそういっている声が届いたというように。

 神尾が、微笑んで答えていた。

「それで横浜に戻って確認しました。横浜音楽堂の控室にあった脅迫文とも思える文章を書いた紙、―――そこから採取した微物に、問題の遺伝子変異を持つのと同じ微生物が確認されました」

 神尾の言葉に、仲間が息を呑んで感心して。

 美月が、じゃああいつが犯人だったのね?と怒りをあらわに。

 そして、――――。


「じゃあ、もう一人は?どうして、わざわざ遺跡になんていたの?」

 しばしして、金沢で美月が疑問を思わずくちにする。



「勿論、逮捕された本人達からも、微生物の採取と培養はいま行っています。既にほぼこれまでの追跡微生物による結果と同じ結論が出るようですが。」

最後に確認するように神尾がいって、笑顔で締める。

 それに、関が頬杖をついて、行儀悪く目を眇める。

「つまりは、殺人犯はいなかった、というのが神尾先生の結論なんだな?」

「はい、その通りです、関さん」

「いいけどな、…―――。山下、これ課長にどう報告する。面倒だから、おまえしておけよ?」

「それってパワハラになりませんか?先輩が僕に面倒を押し付けるのは?」

「…どうしてパワハラになるんだよ、…。誰がどうみたって、いっつもおまえの方が立場強いだろうが」

真剣に驚愕してきく関に、しれっと山下が応える。

「それは、先輩の方が強面で、実年齢が上で立場的に僕の先輩という立場にあるからじゃないですか?」

「そんな形骸化した立場を持ち出して人をパワハラ加害者にするなよ」

心底寒いというように関が山下をみていうのに。

「そういう無実の被害者にされる可能性もあるということですね。怖い話です。では、僕たちはこれで」

「おい、勝手におれを巻き込むな」

「パワハラ加害者にされてもいいんですか?」

関が身震いして山下をみて席を立つ。

「じゃあな、滝岡」

「がんばれよ」

滝岡がおざなりに山下に連れられて去る関を見送って。



「えーと、終わり?」

「まあ、全部解決するとはいってなかったからなあ、…。どちらも捕まってるんだから、いいんじゃないか?」

「そうねえ、…―――」

 美月が考え込むようにしているのに、みさきが肩に手をおく。

「少なくともさ、誰も殺された訳じゃなかったんだから」

「家に来た奴はきもいけどね、…―――」

「でもつかまったろ?」

「うん。…それにしてもさ、」

促すみさきに、美月がしみじみとくちにする。

「三人それぞれ、理由はあったんだろうけど、―――。どうして、死んでしまったんだろうね。かなしい」

美月の言葉に、はっとしたようにみさきが見直して、泣きそうになっている美月の肩を抱く。

「…―――そうだね」

「本当にかなしいね、…」

こどものように繰り返す美月の言葉を、かみしめるように仲間達と埋蔵文化財センターの面々はきいていた。



「さて、後は犯人が、この場合は死体遺棄や損壊等になるのかしらね、――そうした行動をした犯人の意図ということになるのかしら?解明が必要としましたら」

橿原の言葉に、山下を巻いて戻ってきた関が、もう他に誰もいない院長室に向き直って応える。

「それは、確かに必要かもしれませんが、どこまで解明されますかね?犯人がどこまで論理的に思考して行ったかどうか、―――。」

「つまりは心神耗弱の可能性ですか?」

「独自の世界で理解できない方針で動いていたみたいですからね?当初、奴の行動他を洗いましたが、どうやら裁判にはならない可能性が高いのが確認出来ました。」

「流石に有能ですねえ、あなたは。…」

感心しているのかいまひとつ不明な橿原の言葉に関が眉をしかめる。

「それとね、一応いっておきますが、目撃証言が間違ってるという裏は取れました。もう、解剖結果でわかっておいででしょうがね」

「はい、――人間の記憶というのは、曖昧で怖いものですねえ。本来既に死亡していた方の御遺体を運んで座席に着かせ、それを犯人が落としたというのに、苦しみながら落ちたとかいう目撃証言が後から出てくるんですから」

「人間の心理は不思議なものです。落下した、誰かが落ちた、という話をきいたときに、では、苦しみながら落ちたに違いない、とかいうね、―――。証言をした人物達の座席を確認したんですが、全員、一人残らず、三階席から御遺体が落ちた際には目撃することができない位置に座席がありました。移動している途中だった人物のものも検証しています。」

「ごくろうさまです。勿論、遺体からは生活反応がありませんでしたからねえ、…。それでも、そうした矛盾した証言がある以上、調べない訳にはいきませんからね。大変なお仕事ですこと」

「ありがとうございます、―――褒めてるんですよね、それ、一応?」

「さあどうでしょうかしら。後は問題になるのは、――」

「滝田教授のアカウントを乗っ取っていた人物に関しては、どうもそれで詐欺行為を複数働いていたようです。どうやら、教授の生前から行っていたようなので、罪状についてはどういうものになるのかについてはまだ未定ですがね。あちらの方で調べてる途中です。名刺なんかも作って、アカウント関係だけでなく詐欺を行っていたようですからね。接触した神尾先生は、案外本当に危なかったかもしれません。…―――ナイフもありましたしね。神尾先生への殺人未遂に関しては、企図した段階で終わっていそうなので、問えそうにはないんですが」

「こわいですねえ、…」

「確かに。それで、橿原さん。一つ頼みがあるんですがね?」

「あら、何かしら。終わってからお話がしたいという僕の依頼に応えてくださったのも、実はそちらが目的ですの?」

「勿論です。」

はっきり言い切る関に、何とも微妙な表情を橿原がする。




 美月は、仕事をしながら、ふと目まぐるしくて現実とは思われなかった、神尾先生と滝岡先輩――どうやら夫のみさきの仕事での先輩らしく、そういうくせが美月にも移った――と、刑事の関が来て、遺跡で死体が発見され、それが自殺で、という色々が解った数日のことが頭に浮かんで、つい手を止めてしまっていた。

「いけない、――――」

本当に現実とは思われない人形のような美形の神尾に、ハンサムな滝岡先輩に強面長身の刑事関。とてつもなく目立つ三人の事は、忘れようも無いのだが。

 ――仕事、仕事、と、…どうして、思い出したんだろう?

それは確かに、まだ日数も経っていない上に、職場で起きた事件でもあるのだから、思い出すのもある意味仕方ないのだが。

 昼休みとか、家に侵入者が来たときのこととか、もうね、うん。

話題に上るのも当たり前だが、さらに。

 御遺体が遺跡から発見されたんだから、当然仕事にも影響はあるものね。

遺跡はしばらくの間、警察が管理することになって、立ち入り禁止となっている。勿論、予算がまだ決まっていないいま、遺跡を発掘することはなく、いまの処それで支障はないのだが。

 ――でも、古木さんと一緒に遺跡を再検分しようっていう計画は流れたよね、―――。

遺跡の発掘、その後の保存をどうするのか。担当者としての思い入れを捨てて、一度、やはり現地を見直して考えを整理してみたかったんだな、と出来なくなって改めて思う。

 それにしても、遺跡に御遺体を隠すなんて。

何でそんなこと、と思うが。それに関しては、みさきのいっていた、隠すのに丁度いいかもね、という意見が尤もなのかも、と思う。

 ――遺体を隠すにも、穴を掘らなくても、もう私達が掘った後だし、…。

いけない、と思いながら、遺体の発見された遺跡についてとりとめもなく考えてしまって。それから、ふと。

 それにしても、どうしてなんで、うちの遺跡だったんだろう?まったく、―――。

地元の人達なら知っているけれども、近くで新聞報道もされた鎌倉自体の遺跡とは違って、こちらはそれほど派手に宣伝みたいな効果のある報道がされたことはない。

 ――何でだろ?

遺跡を、しかも、この遺跡を利用したのは。

 まあでも、とにかく、それはそれとして、お亡くなりになられた方には申し訳ないけど、これから、また遺跡の今後について思考を切り替えて別に考えないとっ。

新年度の準備をしながら、事務処理を終わらせる為に動かしている手が半分以上自動的に動いていて。やはり、考えてしまうのはあの事件のことなのだが。

 でも、とにかく、――殺人事件とかでなくて、よかった、―――っ。

殺されてあんな処、――と、担当者がいうのも何だけれど、――に埋められていたら、自分なら成仏できる自信がない。

 本当に、よりによって窯の中なんてさ。…いまは確かに使ってないけど、地獄の業火に焼かれるっていうか、…なんていうか。

そういえば、窯はあまり初期には性能が良くなかったらしく、煙がうまく上がるようにか、幾度かの改修がなされている。

 良く燃えて一瞬のうちに高温でとかならともかく、――それもいやだけど――燻されてうまく煙が上がらずに生殺しとか、…―――いやだっ。

「美月くん?」

「あ、すみません、何でしょうっ?」

後ろからいきなり、――に、思えるが、どうもその様子からすると、少し前から声を画けようとしていたらしい先輩に、思わず美月が飛び上がって応える。

「あ、いや、そんなにあわてないで。大変な事件があったばっかりなんだから、無理しちゃだめだよ?ほら、それでね、――思い出させるようで悪いんだけど、あの事件があった遺跡の件で、ちょっと人が来てるんで、仕事中に悪いけど、こっちきてもらっていいかな?」

遠慮がちに応接室――扉はいま閉じているが――を示していう先輩にあわててうなずく。

「だ、大丈夫ですっ!いま、いますぐ!いきましょう!」

「…そうあわてないで。…終了処理した?途中まで作ったの消えるとかなしいよ?」

「あ、はい!ありがとうございます!」

作成中の資料を一時保存して閉じると、席を立ち上がる。

 先輩に連れられて応接室を通った美月は、また思わず叫んでしまうところだった。

「――――ええっ、―――?」

 目の前の人物に口許に微笑んで人差し指を当てられて、思わず真っ赤になりながらくちを両手で覆う。

 そこに座っていたのは、先程までつい思い出していた遺跡に死体のあった事件に関して思い出していた一人。

 神尾が、にっこり微笑んで応接室向かいの席に座っていたのに、美月は思わず叫ぶのをこらえて驚いて目を瞠っていた。







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