08 スカラベと生産その1
ほのぼの回です
フリカッセは、「祭具生産室」というプレートがかけられた部屋の扉を開けて言った。
「ここです。入りましょう。」
そして、何やら水のようなものが入っている桶と、血のような赤い色をした液体の入っているコップを指して言った。
「このコップの液体を一滴桶に垂らして下さい。」
そのコップは運ぶことすらままならないほど恐ろしく重く感じられた。
「サンプルスフィアを使っていいか?」
「問題ありません。」
サンプルスフィアを使い、正確に赤い液体一滴を計り取り、桶の上でスキルを解除した。すると、赤、紫、白と桶の液体の色が周期的に変化を始めた。
「これは一体何の作業か?」
「属性をモノからモノに移す作業です。この世界における生産の基本の一つですね。初めてにしては上出来です。」
「手本を見せてくれ。」
「こうです。『ヌルヴォイド』。採取系のスキルを生産に扱うときには、いかにそのものを変容させないかが重要です。」
シャボン玉のようなものが別の桶の上とコップの上に現れた。シャボン玉がコップの液体に触れると、桶はきれいに赤一色になった。
「採取系のスキルはどんなものであれ、内部があるならば内部をつなげることができます。やってみてください。」
サンプルスフィアをふたつ、別の桶とコップの上に置いて、コップの上の方のそれを、赤い液体に触れさせ、一滴だけ取り込ませると共に、サンプルスフィア同士の内部をつなげるイメージをした。だが、なかなか移ってくれない。
「一方通行をイメージしてください。」
助言に従い桶の方へ一方通行をイメージすると、みごと桶が赤一色に染まったが、どうも紫っぽい。
「今の作業をより速く正確に行えば、変色は最小限になります。」
フリカッセは別の水のような液体が入った桶を持ってきて、周期的に変化を続けている桶が緑から白に変わるときに一滴移して上機嫌な声で言った。
「これを使えばあなたが液体をどう変化させたのかわかるかもしれません。」
そしてきれいな赤一色に染まった液体の入った桶を持ってきて言った。
「ちょっとこれに手を入れてみてください。」
左手を入れて上げてみると、左手に赤い紋章がついた。驚いて左手をブラブラさせると、とてもくすぐったく感じられた。
「これは、その、何だ?」
「職人が使う薬で、赤くなった部分の感覚を鋭くするものです。神殿ブランドの繊細な作業をサポートする人気商品ですよ。たまに職人でない方も買いに来られるのですが、何に使っているのでしょうかねぇ。飲んでも問題ありません、体が赤くなるだけです。依存性も耐性もつかないとっても安全な薬ですよ。湯水のように30年飲み続けた阿呆がいつの間にか種族が変わっていたという話を聞いたことがありますが、まあそれくらいです。」
「そう言われると逆に危険に聞こえるのはなぜだ?」
「誰もがそうおっしゃいます。」
一生全身感度3000倍になった人を出しただけで無害な薬です。