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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

64㎠

作者: d.d

誰にも言えないうちに秘めたような、言ってしまえば人を失ってしまうような狂気、ましてや墓場まで持っていこうとすらしているその狂気、僕は右向け右で決して左に向いてしまうような人間ではない、しかし、右向け右で右を向くことに疑問を持ってしまうのだ。左を向く奴を野蛮でぶっ飛んでいると見下し笑いながら、右を向いていることに疑問を持ち、どこへ運んだらいいのかわからない自分という存在を手放すこともできず、苦しんでいる。


よく考えれば昔からそうであった。幼少期から中学に上がるまでで、僕はアリを潰した、カエルを投げつけた、バッタは投げると飛んでいく、カマキリも同じだ、トカゲや、カブトムシに餌を与えず、餓死させた。3年生の時にノートの端数センチを切り取り、悪口を書いて机に入れるという悪質なイタズラが蔓延していた。犯人が誰で、何人いるのかは知らなかったが、幸い、僕はそんなものを入れられなかったので、逸脱していない事に安心した。主に切れ端の攻撃対象になる人間は、何人かいた気がするが、決まってクラスに迷惑をかけて、煙たがられている奴だった。そして僕が次に取った行動は、ノートの端を切り取り、なんの恨みもない、特に好きでも嫌いでもない、そしてクラスに対してもなんの害もない気の弱そうな女子の机に「死ね」と書いて入れた。その切れ端はすぐに見つかり、教師に報告が入ったが、それでも悪質な流行りの一部としてものの数秒でざわつきは終わった。僕はこの小さくて弱そうな女の子に対して、下手をすれば一生心に残るような傷をつけてしまったと罪悪感持つことすらなく、そしてその子の机から切れ端が見つかり、先生に報告が入った時も、自分がバレてしまうのかとドキッとする感覚すら無く、本当に何も感じなかったのである。やがて僕は、変態のような人間になり、周りから笑われることで自分はここに居ていいんだと自覚し、安心した。

 笑われる事に味を占めた僕は、とにかく自分を幼稚に見せる事に夢中になった。少し大人な考えを持つ、クラスの中でもお兄ちゃん肌な男子をパパと呼んで甘えたり、力の強そうな男子には、おんぶをせがんだりした。

パパと呼ばれた男子は嫌がったが、おんぶをせがんだ男子は大概嫌そうではなかった。力が強いことを周りに見せつけれるからであろう。そして僕はその力の強い同級生におんぶをされる裏表の作ることのできないほどバカで幼稚な男子を演じた。僕は弱き物の陰口を言った、別に大して嫌いではなかったが、皆が言っていたからという理由で陰口を言った。滑舌が悪いだとか、勉強ができないだとか、そんなことばかりであった。当たり前のように誰かの陰口が蔓延するこの学校と言う極端に小さな宇宙の中で極端に陰口を言われるのを嫌った僕は、なるべく学校が終わった後、遊びに出かけた。僕のいる所では僕の陰口は言われないから、誘われていない、その場にいないという事をひたすらに恐れた。だから僕の入っていない遠出の遊ぶ約束であったり、僕の知らない所で行われた、プールや映画、どうぶつの森の通信の話までも耳にするのが不安で恐ろしかった。

 

 中学に上がっても変わらず僕の宇宙は64㎡であり、目先の自転車通学や、始まった英語の授業のようなもので無理やり成長を感じようとした。そんな頃、初めて彼女が出来た。僕はこの女子に惚れてこそいたが、誰にもこの気持ちを話したことはなかった。話せばやがて確実に拡散されていじりの格好の標的になってしまうのを知っていたのでずっと黙っていたのだが、驚く事に言い寄ってきたのは相手からであった。僕は嬉しくて毎日LINEを送り合ったが、学校では恥ずかしくて目なんか合わず、会話も全くしなかった。それでも彼女がいる状態というのは非常に心地の良いもので、毎日その人のことを考えては胸が高鳴り、周りの男子に対して、一歩リードして大人になっているような優越感、「今どんな感じなん?」なんて聞かれるのも悪い気はしない、その事でいじられるのも気分が良くて仕方がなかった。そして彼女はそんな僕より2段くらい上手であった。どうやら人と付き合う事は初めてでは無かった様で、そしてその相手は僕ととても親しい仲の子だったのでかなり嫉妬した。彼女もまた、寂しい人間であった、彼女は嫉妬をさせる事で僕から愛を感じようとしていた。素直に「嫉妬して欲しいから言ったんだよ」とすら言われた。そんなつまらない事で愛を感じようとしている彼女の心の痛みや、苦しみ等とは何一つとして向き合わなかった。向き合うことを知らずに恋人なんだから僕のものであるべき、ぼくを愛し続けるべきだと怒り狂った。そして僕も嫉妬されることの快感を覚えて、嫉妬される様な振る舞いを続けた。けれど違う、違うんだ、あの時、あの子に本当に必要だったのは、君が見つけて欲しかったのは、嫉妬で愛を感じようとする心の歪みの中に隠れてる寂しい君であり、僕のすべき事はそれを受け入れることだったんだ。きっとそれこそが愛であり、僕はそれを怠り、目先の嫉妬や好奇心に駆られ、向き合わなかった。だから3ヶ月もしないうちに失ってしまったのだ。

 やがて僕はいじめを受ける様になった、いじめの主犯格はフィリピンかどこかのハーフでガタイが良く、人望も厚い様なスポーツ万能な奴だったが、それよりも彼は僕の分析で言うところのとてつもなく頭がいい奴だ。勉強ができるとかそんな簡単な事ではない。誰を虐めれば自分の力を誇示できるかとか、何を言えばその相手が傷つくかとかをはっきりと理解している。僕は早熟なのもあり、とにかくニキビが多かった、そして僕がそれを気にしてる事をはっきり理解していた彼は僕をいじり倒してた。僕が朝、日直になり、前に出ようとすると、僕の名前を読んだ後に、「ちゃんと顔洗えよー!」とか、「朝顔洗ってないから汚いんでしょ?」とか、平気でそう言う事を言ってくる、クラスでは爆笑の渦が起こるが、僕はプライドと屈辱、無力さから何もする事が出来なかった。気にしてないふりをしておどけてにニヤニヤしてた。周りの人間は僕のおどけたニヤニヤは、相当なダメージを喰らいながらもなんとか保ってる苦しいニヤニヤだと気ずいてしまう事はなかったが、恐ろしい事に彼にははっきり効いている事がわかってたのである。僕の作り笑いや、そもそもみんなの輪の中になんとか調和してはみ出さない様に必死にしがみつこうとする僕にも気づいていたんだと思う。突然女子のいる前でズボンを下ろされたり、浣腸されたり、僕はその都度、いじめられてないですよとアピールする事で精一杯だった。みんなはそれをバラエティ番組でも見てるかの様に楽しんでいる様子だった。ある日、ついに限界が来た。右前にはまぁまぁ可愛い子がいる、その子の前ではっきりと、「顔汚い、風呂入れよ。移るから」等とはっきりと言われた。次の瞬間僕は、手が出ていた、顔を殴りつけて、攻撃した。あまり意識とは関係なく体が自然に動いていた、急にスローモーションになり、あれ、俺何してるんだろうってはっきり思った。次の瞬間、彼は待ってましたと言わんばかりに、僕をその3倍の力でボコボコにして見せた。すぐさま押し倒され、誰がどう見ても、無様な敗北劇だった。でもそんな痛みなんてどうでも良かった。クラス中の注目の的で、もちろん見ている中には、今は一方的な気持ちになった好きで仕方がない元カノを含めた女子達の目前ではっきりと僕は無様にいじめられていますと完全に認めざるを得ない事が屈辱的で、そして自動的に出てきた涙を見たその男は「負け犬、負け犬、やーいやーい」と歌い追い討ちをかけて、僕にはもう、この64㎡の宇宙のどこにも居場所が無かった。その後友達だと思ってた他クラスのやつからこんなラインが来た、「今日、泣いたんでしょ?」だとか、「あいつと喧嘩して負けたんでしょ?」だとか、その日を境に学校に行かなくなり、転校する事にしたのだが、引越しのその日に僕の持ってるゲームを欲しがっていた、小学校の頃、僕が陰口をよく話してた奴がいたのだが、その子に電話をかけて、「ゲームいるか?」と聞こうとする前に、彼から割って出た第一声の言葉は「今君の評価めちゃくちゃ低いですけど?」なんて言葉だった。そう、みんな弱っている僕の陰口やら何やらを踏み台に、その輪というものから必死に外れないように、学校という名のもっと言えば64㎡しかない小さな教室の中での生き残り方なのである。そして人は、立場の弱い人間を見た瞬間にこんなにも態度が変わるのかと思い傷ついた。小さい頃から2人でお祭りに行ったり、一緒に道草したり、ドラゴンボールのカードゲームの話で盛り上がったり、とにかく気が合い、ずっと一緒にいたので、最後に顔を見たかったなんて、淡い期待と思い付きで電話をかけた訳だが、とても後悔した。そしてその子はしっかりゲームだけもらっていき、一言二言嫌味を言われた後、帰って行き、それ以来一度も関わっていない。

僕は深く傷ついたが、今思えばこれは、僕が小学校の頃やってた行いの全てなのである。弱そうな女子の机に入れた死ねから始まり、周りの輪から外れないために実にたくさんの人間のアラを探しては陰口を叩いて見せた。それを踏み台にして、立場を誇示した小学校時代。ぼくに陰口を言われたくないみんなは僕の前で良い顔をしてた。でも色々言いたい事はあっただろうし、今でも僕のことを恨んでいるだろう。僕からゲームをもらった彼も同じく、僕にその時言いたい事は色々あったのだろう、そして立場が無くなった僕に僕にようやく言えて多少は気が晴れたのだろうか。

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