【99】カイロスと異能力
アイマスクと能力の関係がイミフなんだけど?
目隠ししなきゃ外にも出れない異能力って?
「視力とかは普通にあるんだよね? 別に見えないってわけじゃなく。なんでわざわざアイマスクなんか……」
「視力など普通にあるそうです。ごくごくプライベートな場所ではアイマスクはせずにお過ごしだとか」
「ふ~ん、そうなんだ。突発性自己……え~っとなんたらかんたら転移って異能力を使う条件に絡んでくる感じなのかな? にしても転移って何、転移って。なんかそれすごそう! あ、いや、別に知りたくなんかないけど」
テンイって転移か?
そうならめっちゃ厨二心が疼く熟語なんだだけど!
いや。そんな浮ついたこと考えちゃダメだろ。まだ十一歳の、遊び盛りの男の子が不自由な目にあってるんだから。
「佑奈様が何を考えておられるのかはだいたい察しはつきますし、あながち的外れでもないのですが、ひとまず話を進めさせてください」
「あ、はい。ごめんなさい。どうぞ」
瑛莉華さんにチクっと言われたのを見て巫女さんズがクスりと笑った。むぅ、オマエラだって絶対気になってるくせに~。
「申し上げたカイロス殿下の能力についてですが、それについての詳細まだ伏せられております。先方としましても情報の拡散は防ぎたいようで、異能力の開示は佑奈様との対面が果たされた場合に限るとのお話しです」
ええ、ここまで話しといて据え膳? まぁそれも仕方ないのか? むやみに外で異能力の話なんてするもんじゃないし。どっから情報漏れるかわかったもんじゃないし。
具体例は俺。
……色々思うところはあるけど、とりあえず置いとこう。そんなことより大事なのは――
「む~、そりゃそうか……。で、結局、私はその殿下にとりあえず会えばいいってこと? なんか、あんまり関わりたくない」
所々に漂うキナ臭さ。殿下のことはかわいそうだとは思うけど、メンドクサイことには巻き込まれたくな~い。
「はい。ぜひお会いしていただきたく」
にっこり笑顔の瑛莉華さん。っていうか、向こうがすでに来日してる時点でほぼ決まってるんじゃね?
「ちぇ、どうせ嫌って言っても会わせられるんでしょ。はいはい、わかりました~、会います、会いますとも」
どうとでも好きにして。引きこもり系社会人――もうこれもそう言えなくなってきたけど――の俺に会話は無理だから全てお任せでお願いしたい。
「ふふっ、ありがとうございます。感謝します」
あ、っていうか何語で話すの? 俺、日本語オンリー。外国語なんて学校で英語習っただけ。当然もう忘れた。しゃべることなんて無理!
「言っとくけど私しゃべんないから。何語か知らないけど日本語しか無理だから」
「ええ、もちろんこちらにお任せください。佑奈様に不自由はおかけいたしません。ですが、先方の公用語は英語ですから佑奈様も挨拶ていどならお試しになられてはいかがでしょう? 案外いけるかもしれませんよ」
瑛莉華さん。目が思いっきり笑ってるから。口元、ちょと弧を描いてるから!
やだもうこの人、絶対面白がってるし~!
「まぁご心配なさらずともきっちりサポートいたします。ちなみにこの二人も英語はそれなりですからせいぜい使ってあげてください」
そう言いながら巫女さんズを指し示す瑛莉華さん。
「え! マジ? うっそ~」
二人の顔を交互に見る俺。
どっちもドヤ顔しててめちゃウザい。デコピンくらわしたくなった。瑛莉華さんなら英語出来ても普通に納得できるけど、この二人……特に彩如がしゃべれるのが納得いかない。
絶対俺と同類って思ってたのに!
「佑奈様! 彩如にお任せください。ばっちりサポートいたしますね!」
「ああ、うん。まぁ……適当によろしく、ね」
ほんと、大丈夫なんかね、コレ。
***
日本に着いてすぐ、僕たち家族と一緒に来た使節団――とは名ばかりの僕たちの身辺警護の人たち――は、とても立派なホテルに案内され、しばらくそこに滞在することになった。ここで日本政府の正式な回答を待つってことみたい。
回答もらう前に来ちゃたから仕方ない。ほんと、父様も母様もせっかちなんだから。まぁ迷惑かけてる立場の僕がそんなこと言えるわけないので黙ってるけど。
スケーリア王国の王族ではあるものの、今回は非公式での訪問ということで特に歓迎式典とかもなくそのままホテルまで直行でうれしかった。式典なんて面倒なだけだし、なにより外に出る時はアイマスクしなきゃいけないから嫌。そうは言っても僕も立場上出ないわけにはいかないから……外出とか大嫌い。
王弟である父様には日本のえっと、内閣官房長官……とか、他にも数人が挨拶に来てるみたいで、父様と母様はその応対のために忙しそうにしてる。
もしかして今回の僕たちの目的についての話し合いだってしてるかもしれない。
[はぁ、こんなところでしかアイマスク外せないなんて。こんな僕の異能力、迷惑でしかない……]
僕用に用意してもらったホテルの一室。窓はまだ昼間だというのに全てカーテンが引かれ、外の景色を眺めることも出来ない。高層ホテルの上階に位置してるらしいこの部屋から望む東京の景色はとてもすごいらしいのに。
見れなくて残念だけど。もしものことがあったら……、皆に迷惑かけることになっちゃうから絶対そんなこと出来ない。
煩わしいアイマスクだけど、今は外してテーブルの上に放りだしてある。僕の目はしっかり部屋の様子を確認出来てる。目が悪い訳じゃないから当然だ。幼い頃は普通に外の景色も見れたし、当然アイマスクなんてしてなかった。
[あの塔に入らなければ……、あんなことさえしなければ今も普通に外に出れて、父様や母様とも色んなところに出歩けたのかな。でも……そうしたら僕は今ここに居なかったかもだし、父様と母様はきっと悲しんでたと思う……し]
――王宮にはいくつか立ち入り出来ない場所があった。僕が入り込んだ塔もその一つ。あの頃の僕ってやんちゃで王宮を駆け回って従者を困らせてたんだよね。
その日はなぜかそこの入り口が開いてて、やんちゃだった僕は従者の目を盗んでそこに入り込んだ。
いつもと違う従者だったから慣れてなかったのか簡単だった。いつもなら脱走してもすぐ捕まっちゃってた。
スケーリア王国は小さな国だから、王宮っていってもどこかの大国みたいな大きなお城じゃないし、塔だってたいした高さじゃない。上に登るのだってそんな苦になるほどでもなかった。
塔の中は式典で使う道具とか使わない調度品とか置いてあったりしたけど、イマイチ興味がわかない僕はガッカリだった。幼い僕はもっと面白いものがあることを期待してた。そう想いながら塔を登れば、そこは小さな書庫になっていた。本が大好きだった僕のテンションは一気に上がった。
まぁ当時の僕が好きなのは絵本だったけど。
そこにあった本を背伸びしながら引っぱり出しては見てみたけど、さっぱりだった。絵本とかぜんぜん無かった。
読めない本にすぐ飽きた僕はいい加減戻ろうとした。けど、なぜか一冊の本が気になった。
薄っぺらな本。
僕の手が届くところに丁度あったから抜き取って開いてみた。
[なにこれ~、変なご本]
開いたページには大きな鏡の絵が描いてあった。それだけ。
ただそれだけの本だった。
けどなぜだか引き込まれるように、しばらくじっとその絵を見てた。
[殿下~! カイロス殿下~!]
外から僕を呼ぶ声が聞こえてきて我に返った。
なんだったんだろ、今の。すごく不思議でフワフワした気分になってぼーっとしてた。
古い本の匂いで少し気分が悪くなってきてたし、キレイな空気を吸いたかったのもあって、本を戻して書庫から出た。近くの窓から塔の外に顔を出し、呼びかけてくれた従者を探した。
[あっ?]
顔の横を何かが通った?
[熱い……]
耳の上辺りがズクズクする。
手を当てたらべっとりした。目の前に手のひらを広げたら真っ赤になってた。クラクラしてきてそのまま倒れた。
最後に見た外の景色は、王宮の中庭に面した僕のお部屋がある辺り。
それっきり僕の記憶は途切れた――
[あの本、結局見つからなかったんだよね……]
僕が異能力を使ったのはあの日が最初だった。僕は自分の部屋の前で血だらけで倒れてたところを通りがかった侍女に見つけてもらいすぐ治療を受けた。幸い命に別状はなかったけど一歩間違えてたら即死だったって母様に泣きながら言われた。
僕、王宮の外から狙撃? されたらしい。あの時僕に付いてた従者はいつの間にか居なくなってたけど、後日遺体が見つかったらしい。
怖すぎた。
それ以降、当然ながら王宮の警備とか、人の雇用状況とかなんだとか、色々見直しがあったみたい。僕にはよくわからなかったけど。
そしてなにより一番変わってしまったのが僕だった。
[見たところに一瞬で飛んでっちゃうんだよね……]
最初、よくわかってない時、何度かそれが原因で死にそうになった。いつの間にか居なくなってヤバイところに居るのが見つかったりした。僕、壁とか床に埋まり込まなくて良かったってつくづく思ったし。
父様や母様、侍女や侍従、王宮付きの侍医、王である伯父様まで、原因を探るため王宮が大騒ぎになったらしい。
苦労の末に関係性を見つけ出し、それにちなんで付けられた名前が『突発性自己実在相対座標転移』。
僕が見た景色や風景、目に映る場所に一瞬で移動してしまう。しかも面倒なことに僕の意志に関係なく突発的にそれが起こっちゃう。いつそうなるかわかんないから危なっかしくって仕方ない。だから僕の目にはアイマスクが付けられることになった。
見たところに転移してしまうから。
いつ転移してしまうかわからないから。
せめて転移するきっかけがわかれば。自分で転移を制御できれば。
こんなアイマスクしなくて良くなるのに。
いや、いっそこんな能力なんていらないし!
あの本。あの本見たせいでこうなったに違いない。僕はそう確信してる。
もうないからどうしようもないけど。
まぁ不幸中の幸いで、狭い部屋の中とか、周りの景色が見えなければ転移は起こらなかったので、生活する分には困らなかった。これがダメなら食事やお風呂さえアイマスクする羽目になるところだった。いずれにしても狙撃されたこともあって、僕が外に姿を見せることは極端に少なくなってしまった。
そんなことから、この異能力を何とか出来るかもしれないっていうプリーテス。僕くらいの年頃の女の子らしいKANNAGIを頼って、僕はお忍びで遠い日本までやって来たんだ。
でも、会いたいような会いたくないような。
ガッカリするのが怖い。
いつもいつもいつも。ずっとそんなことを考えてる僕だった。




