【96】佑奈は趣味部屋でお気楽に過ごしたい
「ふぃ~」
自室のベッドに体を投げ出し、思いっきり体の力を抜いたら、溜まっていた空気が全部抜けるくらいのふか~いため息が出た。
ふとんに埋まった自分の顔。深く息をすれば慣れ親しんだ自分の匂いが鼻孔に入り、何とも言えない安心感に包まれる。
どんな匂いかは言葉に表すのは難しいけど、悪い匂いじゃないはず。臭くなんてないはずだ!
何自己弁護してんだろ、俺。
空が夕焼けに染まるなか、やっとマンションに帰ってきた。たった一日の出来事のはずなのに中身濃すぎた。もうくたくただ。主に精神的に。
ベッドですこしばかりくた~っと寝そべってたけど、いい加減着替えなきゃって思い、疲れた気がする体を起こして着ていた服をバサバサ脱ぐ。もうね、スーツなんて窮屈だから二度と着たくない。次から仮宮へは裏門入りだし、瑛莉華さんも私服でいいって言ってくれたし、マジ着ることはないであろう。
巫女装束はもち、向こうの仮宮で着替えて置いてきた。瑛莉華さんに笑いながら「そのままお帰りいただいてもよろしいですよ」なんて言われたけど、冗談ぽいである。
けど俺のスマホで、いくつか写真は撮ってもらってある。母さんや澪奈が巫女服着たら見たいとか言ってたし。あまり見せたくないけど、見せないとずっとグチグチ言われそうだし。特に澪奈。
ふふっ、自分で言うのもなんだけど俺の巫女服姿、めっちゃ可愛いからな。さぞやウケることであろう、うん。
で、下着姿になった俺はそのまま風呂へと向かう。お湯は当然張ってないからシャワーのみだけどそれでいい。とりあえずお湯で色々流したい気分なんだ。スーツは後でコンシェルジュに頼んでクリーニングに出しといてもらおう。脱衣所ですっぽんぽんになって下着は洗濯機にぽい。とっとと浴室にインだ!
頭から熱めのお湯をジャンジャン浴び、シャンプーを手に取り髪をぐしゃぐしゃ泡立てる。そんでもって泡を流したらトリートメントつけてまたさっと流してはいお終い。澪奈に見られたら一発でお説教コースだ。ぬるま湯で洗ってからだとか、ブラッシングしろとか、髪先まで泡をしっかりのばして優しく洗えとか、そんなことイチイチやってられるかっての。
俺の髪はそんなこと気にしなくてもいつも艶々サラサラで絡みつきもしない。洗い方なんて気にするだけ無駄だろ?
体も適当に洗うけど、さすがの俺も大事なところは丁寧に洗う。今はアレの真っ最中だし特に優しくしないと。
めんどくさいけどこればっかりは仕方ない。
それにしても我ながら綺麗な体だと思う。小傷一つなく、当然シミそばかすなんかも全くない。日焼けの痕跡もない真っ白な肌はいつもみんなに羨ましがられる。胸の先っぽや下の大事なとこもきれいな桜色してて、見てるとちょっとエロい気分になってきてしまう。いけない、いけないぞ俺。ちなみに下の毛はうぶ毛程度しか生えてない。ちょっと子供みたいでヤダ。
もちろん日々生活してれば軽い切り傷作ることもあるし、打ち身で青痣作ることだってある。けど、そんな傷や痣をいくら作っても数時間もすればどこに傷があったのかさえわからなくなってしまう。
俺の体チートすぎ。ま、今更か。俺は軽くため息ついたあと、最後にもう一度全身に熱いシャワー浴びてから風呂を出た。
「いや~、やっぱジャージ最高!」
風呂を出て着たのはもちろんジャージ。スーツも巫女服もずっと落ち着かなかった。やはりジャージは最強の外装装備だ。
身ぎれいになったところで晩飯をとるような時間になってたので瑛莉華さんに持たされたすき焼き弁当を食べることにする。どっかの高級店のやつでたぶんめっちゃ高い。正直、この体はあまり腹が減らなくなってしまったので食わなくても済んでしまうんだけど、食べれば普通にお腹に入るし、美味しいものは当然美味しく感じる。
いやこれマジ不思議なんだけど。
試しにずっと飯食わなかったらどうなるんだろ?
一度仙人暮らししてみるか?
ないな。食べる楽しみを捨てるなんてありえないわ。
ではいっただきま~す!
***
食後は、とっとと趣味部屋に籠る俺。
いや、仮宮のあの部屋を見た後ではなんか俺の部屋がめっちゃ負けた気分になって悔しい。
「くっそ、この部屋もパワーアップしなきゃいけないな。最近色んなことが起こりすぎて趣味が疎かになってた」
そうは思うものの、俺ってこれからは基本あっちで過ごすことが多くなるわけで、この部屋を強化する意味って――
「いや! 何を考えてる俺! そんなことは関係ない。あくまでここが俺の本拠地! 俺の城! ここを一番にしなくてどうする」
そう自分に言い聞かせ、小一時間ほどネットで欲しいものを物色し、色々ポチってしまった。くぅ~、久しぶりのオンラインショッピング、めちゃ楽しい!
余は満足じゃ。あっちの部屋にもこれで勝つる!
なんて悦に浸ってたらスマホがプルプルした。
あ、やべ、忘れてた。
恐る恐るスマホを覗けばやはり澪奈からのLINIEだった。すっかり連絡するの忘れてた。写真も上げてないわ。
『お姉ちゃん、今日どうだったの? おばあさまに言われた件、ちゃんとお仕事してきたの? 当代様だっけ、顔合わせした? それに巫女服着た? もうマンションに帰ってきてるの?』
怒涛の質問攻撃である。
『もう帰ってきてる。つかれた』
『おっ、返事きた! もう帰ってるんだ。で、どうだった? 向こうの人に迷惑かけてない? どんな様子だったの? 巫女服の写真は?』
ああもう、だからいっぺんに色々コメ入れんなっつうの。
『いっぺんに書き込まないで。ちゃんと顔合わせもしたし。あ、迎えに来たのは瑛莉華さんだった。ビックリした。巫女服着たから写真送る』
そうコメ入れてから向こうで撮ってもらった写真を何枚か送った。紡祈様の写真はNGだったけど巫女さんズはOKだったので三人で写ってる奴も送ってやった。
『え、瑛莉華さん? クリパで会った人だよね? なんでその人が?』
何でって言われても答えに困るけど。
『さぁ? 私と知り合いだったから……とか? その辺はよくわからないけど瑛莉華さんがお役所の車で迎えに来た。まぁ細かいことはいいじゃんか』
『ふ~ん、まあいいか。あっ、ちゃんと巫女服着てるじゃん! すっごい、お姉ちゃん案外似合ってる、可愛い!』
うんうん、そうだろうそうだろ。俺可愛いだろ!
『ほんと、よく似合ってる。さすが私の娘、すごく可愛く着こなせてるじゃない。あら、この一緒に写ってる二人、なんだか見覚えがあるような……』
母さんまで入ってきた。そんでもって目ざとい。
『あ~、その二人……えっとなんだっけ、ばあちゃんの話にあったよその家からも出してるって言ってた巫女さん? その二人がそうみたい』
『ふんふん、そうか。名前は? 家の名前とか聞いてる?』
もちろん覚えてない! が、こんなこともあろうかと、メモしておいた!
『えっとね、松木家の彩如さんに、世木家の楓佳さん。ふふん、ちゃんとメモってきたから。バッチリだし!』
『お姉ちゃん、めちゃえらそうw 歳はいくつなの? お姉ちゃんより上に見えるけど?』
そんなコメと一緒にニヤリ顔のスタンプ貼り付けてきた。むっか~!
『二人とも十九歳。私より年下だから! 私のがお姉さんだから!』
『はいはい、お姉ちゃん、えらい。お姉ちゃん頼りになる。すっごいね~』
『きー!』
マジむかつくこの妹! いっぺんしばいたろか。
『バカなこと言い合ってないの。なるほど、松木のさゆちゃんに、世木のふうかちゃんね。思い出した思い出した。以前六家が集まったときに会ったことあるわ。その時は中学生だったけど。さゆちゃん、すごい髪の色。驚いた、これで巫女さんOKなんだ』
まぁ髪の色はほんとは俺の方がヤバイと思うけど……、俺のピンクブロンドの髪はレベルアップ特典で印象操作されてるから変わってるって思われても、誰も異常とは思わないんだよな。
『へぇ、ママ知ってる人なんだ。グレイ系の色って私もちょっとやってみたいな~』
『絶対やめて。もしそんなことしたらお小遣い無しにします』
うんうん賛成。ぜひ無くしたって!
『あ~うそうそ。そんなことしないって。ちょっと言ってみただけじゃん』
そんな感じでしばらくとりとめのないコメントのやり取りが続いてたんだけど、澪奈があえて避けてたことに突っ込んできた。
『あ、そう言えば肝心の顔合わせはうまくいったの? その人の写真ないの?』
やっぱ聞いてくるか。そりゃ見たいよな。
『あーそれね。顔出し禁止だって。ネットに写真とかあげるのもダメ。ちなみに今見てるこの写真もSNSにあげたりしないでよ。一般に非公開のお社の巫女やることになったんだから。わかった?』
『はいはい、わかってるって。おばあさまに叱られるの嫌だし、漏らしたりしないって。でもさ、どんな人だったの? 百歳越えてるかもしれない人なんでしょ? めっちゃよぼよぼのおばあちゃんとかだったらお世話大変そ~』
ほんとわかってんのかね?
んでもってめちゃくちゃ失礼なやつ。
実物見たら驚いて腰抜かすかもな。俺より若く見えるくらいのロリババアだし。まぁ顔は昔の日本人形みたいな容貌だから可愛らしいイメージとはちょっと違うかもだけど。
とりあえず顔合わせはうまくいったからと適当に流して誤魔化しつつ、LINIEから落ちた。あとはそっちで写真見ながら適当に騒いでて。
実は日本政府のお偉方が揃った任命式でしたなんて知ったら、澪奈どころか家族全員腰抜かすかもしれん。
はぁ~~~、つくづく面倒なことする羽目になっちまったなぁ……。
つらい。




