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少女改変-オルタードマン-  作者: あやちん


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【95】思惑十色

 俺のために用意してもらってあった仮宮、その私室がとんでもなく俺にぶっ刺さったのでついそのまま居座ってしまいそうになってしまった。


 くぅ、これを仕組んだのは橘川きっかわ課長か? 情報提供者は瑛莉華えりかさん?


 ずるい。大人ずるいわ~!


 俺も大人だけど。男の子は幾つになっても心は子供なんだよ!


 今は女だけど。


 と、ともかく!


 俺は趣味部屋以上に魅力的な新たな私室の誘惑を振り切り、『ひえんのやしろ』を後にした。もちろん帰りも瑛莉華さん運転による国産高級公用車で送ってもらった。


 ちなみに、帰りは以前通った紡祈様宅訪問ルートからだったので、少しばかり歩く距離が多くてたるかった。もっと中まで乗り付けられるようにしてください。


 お願いよろしく!





***



「なかなかうまい落としどころをみつけたな? 橘川君。直接的な国の管理下ではないにしろ、『かの方』の庇護ひご下に組みいれるとは。これはある意味、霞が関のいずこかの機関に所属させるよりよほど安心ともいえる」


 波多野はたの官房長官が執務室の椅子に深く背中を預けながらそう語る。佑奈様の任命式を終えた後、少し話をしたいとの長官の要望でここに呼びつけられたわけだが、正直私も色々あって疲れているので自職場に戻りたかったのだが……、まぁそう都合よくはいかないか。


「そう判断いただけるのであれば幸いです。官公庁に引き入れるともなれば佑奈様は難色を示されることがわかりきっておりましたので。『かの方』からのご提案はそんな中、まさに渡りに船。速やかにその方向で調整することにいたしました。長官におかれましてもその際はご助力いただき、大変助かりました。ありがとうございます」


「いや、私は総理に話を通しただけだ。大したことなどしてはいないが……そうだな、近々来日するあのお方の件、きっちり対処してもらうことでその見返りとするのもよいかと思うのだが、どうか?」


 大したことをしていないと言いながらも、そんなことを問いかけてくる長官。


 側頭部に薄っすら髪が残るだけの面長の顔。しわやシミが目立つその年齢を感じさせる容貌ようぼうの中で、唯一その目力だけは射抜くように力強い。笑っているようでいて人を見透かすような視線でそんことを言われればいなとなどとても言えない。


「善処しましょう。今の時点では確約出来ないこと、心苦しくありますが……、ご容赦のほどを」


「うむ。まだ何かと落ち着かないだろうしな。だが君の手腕に間違いはない。期待しているぞ」


 くっ、釘を刺してきたか。まぁ仕方ない。想定内のことだ。


「はい、それはもう。ご期待に添えるよう最大限努力いたします」


「よろしくな。それにしても、かの佑奈……様のお力は、ほんとうに凄いものだな。まさか『かの方』の、あの変わり果てたお姿をああも完全に以前のお姿に――いや、それ以上にも見えたが――お戻し差し上げることを成し遂げるとは。小惑星のことといい、もはや神の御業みわざとでもいうべきではないか」


 この時の長官の表情は何も考えが読み取れず、うすら寒いものを感じた。今どきの政治家ではあまり感じることのないこの雰囲気。恐いお人だ。


「まさに。あのお力が我が国の利益となるよう、こちらとしても精進したいと考えておりますのでご寛大なるお心で見守って頂ければと」


「くれぐれも……な」



 波多野官房長官との胃の痛くなるような短い会談を終え、私はようやく自らの職場へと戻ることが出来た。




「課長、お疲れさまでした。どうでした? 佑奈ちゃんの晴れ姿! ああ、私もその場に居たかったです」


 職場に戻れば部下の中村君がさっそく席の前に駆け寄ってきてそんなことを言う。まったく……、仕事そっちのけでそれか。他に言うことがあるだろうに困ったモノだ。


「中村君。佑奈様です。『ひえんの社』において、かの方に次ぐかんなぎとなられたお方です。わきまえるように」


「あっ、そうでしたね。気をつけます。気をつけますとも。それで写真とか撮ってありますか? もったいぶらずに見せてください! ああ、今まで佑奈様の運転手はずっと私の役目だったのに。新野見にいのみさんに取られちゃったから……」


 まったく。三十半ばになろうかという女性がこうも落ち着きがないなど困ったものだ。仕事は出来るのだからもう少し性癖せいへきを抑えてくれると助かるのだが……。


「記録映像が撮られているから、それを見せてもらいなさい。それよりも外務省との打ち合わせの報告を。波多野長官からも今しがたほのめかされた。時間の無駄です、早くしてください」









***



[今から引き合わせてもらえるという、プリーステス(女神官)……KANNAGI()でしたか? 聞けば就任したばかりとか。そんな頼りなさそうな娘に、この子の治療を任せて大丈夫なのですか?]


[わからない。しかもまだ先方が回答を引き延ばしていて面会が確約されたわけでもないしね。だが今となってはそれにすがるほかない。不安に思う気持ちは私も一緒だが受け入れるしかない]


[ほんとうに、あの国はなかなかはっきりしなくてイライラします。こちらはわらをもすがる思いでこうして足を運んでいるというのに……]


[まぁ元はと言えば、互いの友好国でもある()()()()が取りなしてくれた話なんだ。最終的には日本は受け入れるしかないさ。私たちはこの子のあの力がどうにか出来る可能性があるのなら……それに望みをかけて行くしかないんだからね]


 僕の頭越しに父様と母様の声が行き来してる。国からプライベートジェットで飛び立ってからというもの、似たようなやり取りが何回かされてていいかげん鬱陶うっとうしくなってきちゃった。


 はぁ。


 僕のいないところでやって欲しいな。――無理か。飛行機の中だもんね。少し離れた席にはSS(シークレットサービス)の人たちもいるし。


 気を紛らせたくて今どのあたりまで来たんだろうと、腕時計型の端末から流れる音声ガイドに耳を傾ける。もちろん飛行機のガイドじゃない僕専用に作られたもので、現在位置から割り出した周辺情報をもとに、要約した音声ガイドをイヤホンに流してくれる優れものなんだ!


[ふんふん……、えっと……ふじ、や、ま?]


 なるほど~。もうそんなところまで来たんだ。じゃあもうすぐ――


[うん? カイロス、どうしたの?]


 僕のつぶやきが聞こえちゃったみたいで母様が僕の顔近くにそのお顔を寄せてきた気配がする。


[あ、ゴメンなさい。ただのひとり言。今どの辺かなって思って、ガイド聞いてたから]


[そう。カイロス、ごめんなさいね、母様たちったらあなたを放って話し込んでしまいましたから。……そう、今は日本がいつも自慢してる富士山の上を通りすぎたところですね。日本は雪がたくさん降るのね。山が真っ白になっていましたよ]


 そう言いながら僕の頭を撫でてくれる母様。国の宮殿では一緒に居られないことの方が多いからとてもうれしい。けどちょっと恥ずかしい。僕ももう十一歳になったし、いつまでも甘えてちゃダメなんだろうけど。


 そう思いつつも自分一人では自由に外を歩き周ることは出来ない。そんな自分自身が歯がゆくって仕方ない。今も自分の目の前を覆ってる光を全く通すことのない分厚いアイマスクに手をやって、ついため息をついちゃう。


[カイロス……、不自由かけてごめんなさいね。あと数十分程度で空港に着きます。ホテルでしばらく滞在することになるでしょう。そこの部屋でならそのマスクも外せましょう。もうしばらく辛抱してちょうだいね]


 僕の目の上あたりを労わるように撫でてくれる母様。心配させてしまった。そんなつもりなかったのになぁ……。


[カイロス。日本の新たなプリーステス(女神官)はとても可愛いらしい娘らしいよ。背格好もお前と同じくらいだそうだ。仲良くなって我が王国に来てもらう約束でも取りつけてみてはどうだい? カイロスはソフィーアに似て美少年だし、見初められるかもしれないよ?]


 父様が空気を変えようとでも思ったのか、ちょっとからかうような口ぶりで変なこと言ってきた。


[そ、そんなことしない。するわけないし! 相手はプリーステスなんでしょ? そんな失礼なこと出来るわけないし!]


 思いっきり言い返してやった。ちょっと不貞腐れた声になっちゃったのは仕方ないことだと思う。


[はははっ、ごめんごめん。父様なりのジョークだよ。――だが、そのプリーステスがもし……もしもカイロスの異能力を何とか出来るのであれば――]


 父様、最後の方なんて言ったのかな?


 よく聞き取れなかった……。


[ん~? 父様、最後何て言ったの?]


[いや、なんでも、なんでもないさ。おっと、アナウンスが入った。そろそろ空港だね。着陸に備えなければいけないよ]


 機長の機内アナウンスが入ってしまい、そこで話はうやむやになった。なんかうまくごまかされてしまった気がするけど……ま、いいか。


 これから会えるかもしれない日本のプリーステス。KANNAGI()って言うのが正しいらしいけど一体どんな子なんだろ?


 僕がアイマスクをしないといけないそもそもの要因。『突発性自己実在相対座標転移』とかいうわけわかんない忌々しい能力。


 まぁきっと、どうにかするなんて無理だろう。今までもずっとそうだった。


 けど……、そのせいでプリーステスが責められたり、落ち込むようなことにならなければいいんだけど。


 そんなことを思いつつも、これからの出来事が良いものになればいいなと……、祈ってしまう僕だった。

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