【93】お披露目。ひそやかな任命式
俺の様子がおかしいことに瑛莉華さんがいち早く気が付いた。
「佑奈様? どこかお加減でも悪いのですか? 随分顔色が優れないように見えます」
もう佑奈様呼びがデフォですか。そうですか。うう、今そんな突っ込みしてる場合か。
「う~、お腹いたい。やばい」
俺が元男と知ってる瑛莉華さんにこんなこと言うのは正直かなり嫌だけど……、そうも言ってられない。
「お腹……が、あっ、なるほどそういう……」
勘のいい瑛莉華さんはそれだけでピンときたみたい。
「佑奈様、それの用意はしてありますか? ないのであればこちらで何とかしますけど」
そう言いながら巫女さんズに目配せする瑛莉華さん。巫女さんズがそれを受けてウンウン頷いてる。あるんだ。っていうか、なんかすでにバレバレ?
恥かしすぎる!
「ある。収納に入れてある。けど……」
時期的にいつ来てもおかしくなかったので一応持ち歩いてはいた。以前母さんにめちゃ叱られたし。けど巫女さんズの前で出してしまっていいのか?
「大丈夫。ここの職員は能力についてはすでに承知していますし、守秘義務が課せられているので外部に漏れることはありません。安心して?」
そりゃそうか。紡祈様がいるんだし、そもそも俺を囲いこもうとしてるんだし、事前に情報共有しててもおかしくないか。
う~ん、でもなんか釈然としないわ。俺の知らないところでいつの間にやら力のことが知れ渡ってるだなんてさ。ま、ともかく今はこのお腹の痛いのなんとかしなきゃ。せっかく来た巫女装束もこのままだと汚してしまいかねない。
「こ、これ。中に痛み止めも入れてある……」
異空間接続し、空間に開いたポケットからポーチを取り出した。巫女さんズはそれを見てお口ぽか~んである。そりゃそうだろ。いくら話に聞いてても実際見れば驚くわ、うん。
その後は色々わちゃわちゃして大変だった。せっかく着た巫女服もまた着なおす羽目になったし。
ご迷惑おかけしてスミマセン。
でも仕方ないじゃんね? ゆるして~!
***
とりあえず一息ついたと思ったら、任命式の時間が迫ってきた。休む間がない。せっかく痛み止め効いてきて楽になったのに、これじゃまた痛んできそう。つらい。
「ほう……、これはこれは」
俺の様子を見にきた橘川課長が感嘆の声? をあげた。
「お気に召しましたか?」
少し自慢げな声で瑛莉華さんが問いかけるとすぐさま相槌を打つ橘川課長。
「なんとも素晴らしい……。楚々として、可憐であるうえに神々しさすら感じられる。いや、言葉に言い表すことが難しい」
十分言葉で言い表してると思うけど!
っていうか、恥ずかしいからそんなにジロジロ見ないでくれます?
「も、もういいから。それより就任式って私は何すればいいんです? 段取りとか全然わかんないんですけど!」
何しろ急だったし、俺はいったい何すりゃいいの状態だ。
「ご心配には及びません。本当に簡略的なものにすぎません。川瀬さんはこれよりお連れする社殿にて紡祈様より『ひえんの鬘』を冠してもらえばいいだけです」
「は、はぁ……?」
「『ひえんの鬘』というのはわかりやすくいえば髪飾りです。暖かき存在を象徴する図案が刻まれた半月状の櫛の形をしたもので、それを川瀬さんの髪にさしてもらうだけです。作法もお教えしましょう。なに、簡単ですからすぐ覚えられます」
ってことで十分程度で簡単な段取りや作法を教えられた。うん、まぁ俺でも覚えられるレベルだった。それが洗練された動きになってるかどうかは別として。
「では参りましょうか」
俺たちはぞろぞろと移動を開始した。
今いる建物を奥へ抜けると外に出られた。履物は真っ白な草履が用意されていてそれを履いた。鼻緒の付いた履物なんてビーサンくらいしかはいたことないわ。足袋と言い草履といい、もっと言えば巫女装束といい……慣れないものだらけだ。
表は玉砂利の敷かれたそこそこ広い場所となっていて、人の通り道は石畳できっちり舗装もされていた。人の気配が微塵も感じられず、なんとも静謐な雰囲気が漂い、寒いのもあって嫌でも気が引き締まってくる。ま、寒さはどれだけ寒くなろうがEXレベルアップのせいで震えるようなことにはならなくなってしまったけど。
ああ、またお腹痛くなってきそう。もう早く終わらせてお家帰りたい。
橘川課長先導のもと石畳を進んで目指す社殿へとたどり着く。五段ほどの階段を上り観音開きの扉を開いて中へと入る。もちろん草履は脱いだ。
中に入れば少々薄暗いもののキレイに磨かれた板張りの広間となっていて、その両側に幾人かの人が並んで待ってくれていた。俺の姿を見たその人たちが感嘆の声で出迎えてくれたもんだから、なんとも気恥ずかしかった。
なるべく気にしないようにして教えられた通り奥へと進む。
奥の方は床面が一段上がっていて、そこに神社でよく見るような祭壇が設えてあった。今回の任命式はその祭壇の前で執り行う手筈である。
「ではこの後は先ほどの段取り通りでお願いします」
橘川課長が小声で俺にそう言ったのを最後に、俺を置いてそのまま横の人の並びに加わってしまった。残念ながら瑛莉華さんもそっち側だ。一緒に来た巫女さんズは祭壇の方に進み、祭壇前で一礼したあと両側に別れて待機ポジとなった。
ちなみに両側に並んでる人たちは聞けば国のお偉いさんってことで、誰が来ているかとか教えてもらったけどぶっちゃけ覚えてない。唯一覚えてるのは内閣官房長官である波多野とかいう人くらいだ。
さすがの俺も官房長官くらいは知ってる。っていうか何でこの場にそんな偉い人いるの?
ほんとは総理大臣が来る予定だったとか。別件でこれなくなって代わりに官房長官が来たんだと。いやマジ勘弁してほしい。どーして俺如きの任命式にそんな人たちが来ちゃうわけ? 意味わからん!
あとはなんとか大臣が数人いるらしいけどまあええわ。もうお腹いっぱい。気にしないようにしよ。
教えてもらった通りに祭壇の前でお礼とかしながら紡祈様が出て来るのを待つ。
それほど待たずして綺麗な装いをした中学生、いや失礼、紡祈様がしゃなりしゃなりと気取った様子で出てきた。俺の巫女装束に似た衣装を着てるけど色合いが紫系で統一されてるのが違うところだ。頭に派手な金色の髪飾り付けてるしな。
俺の向かいまで来たところで、紡祈様に一礼してから一歩前に出た。動きがぎこちないのは仕方ないだろ。緊張して体が滑らかに動いてくれないんだから!
紡祈様が笑った気がしたけどきっと気のせい。
俺が前に出たところで紡祈様は祭壇側に体を向け、そこに供えてあった何かを取り上げた。そしてこちらに向き直ったところで何を取り上げたかがわかった。
橘川課長が言ってた『ひえんの鬘』って髪飾りだ。デザインはハハコグサって野草の花がモチーフらしい。聞いてもまったくどんな花かわからんけど。瑛莉華さん曰く、春の七草のひとつ、ゴギョウってやつらしい。いやそれ聞いてもピンとこないわ。無知ですまぬ。
紡祈様がその『ひえんの鬘』を掲げたので俺は膝を折り、首を垂れて待つ。紡祈様が掲げた手を俺の頭に寄せ、手に持った『ひえんの鬘』、髪飾りを髪に挿した。両側の巫女さんズがいつの間にか手に持った鈴をシャンシャン鳴らしたからなんかめっちゃ雰囲気盛り上がった。
紡祈様に髪飾りを挿してもらったところで次は官房長官様の出番である。紡祈様と入れ替わって波多野官房長官が俺の前に立つ。巫女さんズの一人がヒノキのお盆を長官に差し出せば、長官がそこに三つ折りにして置かれた書状を取り上げて広げ、俺の前でその内容を読み上げた。
「川瀬佑奈殿。あなたの――――をもって――――とし、『ひえんの巫』と認め、ここに任命する。内閣総理大臣、岸部広住。代読、内閣官房長官、波多野昭雄」
読み終わり差し出された書状を学校の卒業証書をもらう要領で受け取った。ガチ緊張した。何言われたのかすでに覚えてない。
もう金輪際こんなのゴメンだわ。
周りの人が祝福の意を込めて拍手してくれてるけど、俺、まったく喜ばしい気がしないんだけど?
むしろ今すぐ辞退してもいいんだけど?
――ふぅ。
俺もトコトンあきらめ悪い奴だよなぁ。いい加減しつこすぎるよな。もうグジグジ考えるのやめよ。
と、ともかくやっと終わった……。
そんでもってホッとしたとたん、またお腹痛くなってきた。
やっばいわ。




