【91】佑奈の先行きが面倒しかない?
「え、それじゃ瑛莉華さんが私付の係員になったってこと?」
「正しくはその役目も負っているといったところでしょうか。所属は国家情報調査室なのだけど、そこから出向して『ひえんの社』専属の係員、専属というと聞こえはいいですけど、まぁ体のいい雑用係ですね。入ったばかりで何が出来るでもないし、佑奈様と極めて親しい間柄と認識されていますから、妥当なところでしょう」
うへぇ。一聞いて倍以上になって返ってきた。ってことはひっつめ髪のお姉さんはお役御免か。最後まで名前聞けなかったな。けど、さっそくばあちゃんとこで聞いた『ひえんの社』ってキーワード出てきたな!
国産高級公用車で移動しながら瑛莉華さんの近況報告を聞いてる俺。運転席と後部座席でのやりとりはちょっとめんどくさい。公私をキッチリ分けてる瑛莉華さんは助手席には座らせてくれなかった。それにしても……、さっきから違和感しかない様付け。勘弁してほしい。俺ただの巫女さん見習いだろ?
「あの~、瑛莉華さんの現状はある程度理解できたけど……、様付けやめてくれません? なんか気持ち悪い。そもそも私そんな大そうなやつじゃないし」
いつも佑奈ちゃんって呼んでた人にいきなり様付けなんてさ。
「ふふっ、そうはいきません。今は仕事中ですし。早々になれてもらわないといけませんね。佑奈様のお立場は自身が思っているよりもずっと重要なものになるのです。ご家族への手前、巫女見習いの名目で採用された体となっていますが、実際は違います。そのあたりの話はこのあとあるはずですが。……ほんと橘川課長にも困ったものです……」
え?
なにそれ?
「はい、そろそろお話しもおしまいです。佑奈様、しばらく窮屈な時間が続くかと思いますが我慢してくださいね。心配はいりません。私がきっちりサポートしますから」
話してるうちに目的地付近に到着していた。聞けば聞くほどめんどくさそうで嫌になったわ。結局佑奈様呼びも改めてもらなかったし。ま、いいや。普段会う時ならそんなことないんだろうし……。
乗ってきた車は周囲が見れない小細工とかされてなかったから走ってる最中も景色とか見れた。つっても土地勘ないとこだし、よくわからんことがよくわかった。都心からほどほど外れた山間部。深い森の中にある人知れぬ場所ってところで、まぁぶっちゃけ以前も連れてこられたところらしい。
都心付近のどこかだとは思ってたけど、こんな山奥まで来てたのね。
ただ、今回は前見たく歩き周ることはなく、車で中まで入ってから降ろされた。なんだよ、こんなとこあるんだったら前もそうしてくれっての。そう思って瑛莉華さんに愚痴ったら、どうやら以前通された場所は紡祈様の私邸であり、今案内されたのが『ひえんの社』の正面入り口となる場所らしい。
なるほど、違う場所ね。まぁそれならしかたないか。
車から降りて改めて辺りを見回す。ほんと周囲はどこを見ても森、森、森だ。山奥が過ぎる。とは言うものの、当然ながら今俺が立っている場所はしっかり整地された敷地内であり、外周は古びた石積みの高い塀に覆われてるのは前の場所と同じだ。
そこそこ広さのある車止めからエントランスに向かう。そこよりまだ少し遠めに見えるいかにも歴史を感じさせる建物の佇まいは、それほど大きな規模ではないものの、まんま社殿。どこぞの神宮にでも迷い込んだみたいだ。
それに比べればエントランスのある建物は和風っぽい見た目なものの、コンクリートで作られた現代建築なのでこっちのが落ち着くわ。どうやらまずはこっちの建物で色々やるみたい。俺たちの到着を見て、中から二人、巫女服姿の女性が現れた。いや、いきなりキタコレ。
「当社へようこそ。橘川様がお待ちですのでご案内いたします」
こっちを確認することもなく笑顔でそう言われた。スマイルゼロ円。美人の笑顔はいいものだ。……こほん。ま、門を通るときに本人確認されてるし、ここって人の気配もほとんどなさそうだし、そんなもんなのかね?
「ええ、よろしくお願いします」
あ、いや、瑛莉華さんがすでに顔パスってこともありえるな!
そんなしょーもないこと考えてたら瑛莉華さんに背中をこづかれた。え、早く行けって? あ~いや、スミマセン。
「川瀬佑奈さん、お久しぶりです。さぁ、お座りください。新野見君も座って? 今回は君のことを含めての話になるからね。再確認も兼ねて一緒に聞いていてくれたまえ」
暖房のよく効いた簡素でそう広くもない応接室。そこに入ると橘川課長が大げさに手を広げて迎え入れてくれた。俺たち二人は言われるがままにソファーへと座る。うん、ここのソファーふっかふかである。よきよき。
案内してくれた巫女さん二人は、一人がそのまま隅っこで書記みたいなことを始め、もう一人が隣の部屋へと消えていった。かと思うとすぐ戻って来てお茶を出してくれた。
ありがとう!
「さて、改めてこの場に来ていただいたこと感謝いたします。また、こちらで色々手を打ったことで少なからずあなたのご自由を奪うことになったこと、ご容赦いただきたく」
そう言って向かいに座りながらとはいえ、お得意の出お辞儀をかましてくれる橘川課長。何回かしてもらったせいで、つむじの位置覚えてしまったわ。なんていらない知識!
「あ、いや、そのぉ、前から話は振られてたから理解はしてます。だからそんなことしないでください」
わかったふうなこと言ったものの理解はしてるけど納得はしきれてない。ほんと嫌々なんだからな。嫌々!
ま、言わんけど。
「それはそれは。では今回の一連の処遇についてご説明させていただきす。リラックスしてお聞き頂いて結構ですので。不明な点もその都度聞いていただいて構いません。では始めます」
ってことで俺と瑛莉華さんを前にして今回のことに関する説明が始まった。
「まずひとつ。一番の目的は川瀬さん、あなたがお持ちのその能力、そのお力を我が国のために使っていただきたい。その想いから。もう一つはあなたを保護する観点から。どちらかといえばこちらの優先順位のほうが高い」
初っ端からぶち込んできた。話が早くて助かるけど、いきなり内容が重い……。
「あなたのそのお力。興味を示している国がすでに幾つかあります。不本意ながらどこからか情報が漏洩しているようで、なんとも由々しき問題なのですが、それはさておき。それらの国が今後どのような動きをするか予測がつきません。今も警護を可能な範囲でつけてはいますが、今後それだけでは不十分な事態になっていくことも十分考えられます」
な、なんですと!
なんか話が大きく、そしてヤバい方に向かっていってない? っていうかさておかないで? 解決しとこうよ、ソレ!
「ということでもう一つ。以前お話しさせていただいたときは今までの暮らしはそのままでいいと、そうお伝えさせていただきましたが……」
うっわ、なんかもう聞く前にわかった。でも聞きたくねぇ~。
「状況は刻々と変化していっています。ですのでこちらとしてもそれに合わせて対応を変えていかざるを得ません」
橘川課長の目がヤバイ。めちゃ真剣な目でこっち見て来る~!
ああ、目をそらしたい。っていうか回れ右してこのままバックレたい。そんなこと考えてたら横に座ってる瑛莉華さんが俺の手をギュッと握りしめてきた。
いや、アンタ。もう心読めないはずなのに俺の今の心境ばればれ?
「従って川瀬さん、当初はあなたを紡祈様の側付の巫女とする手筈でしたが、その扱いを一足飛びにあげ、紡祈様に次ぐ『暖かき存在』の新たなる巫として役についていただくことになりました。大変急ではありますがこの後、任命式も執り行います」
「は、はぇ?」
応接室の張り詰めた空気の中で、俺のアホっぽい素っ頓狂な声が響き渡った。
俺の手を握ってる力が増す。瑛莉華さん、ちょっと痛い!
いやしかし。なんなのそれ?
そんなの一足飛びとかいうレベルの話じゃないだろ!
俺の意思は?
俺の悠々自適なひきこもり生活は?
どうなっちゃうのコレ~!




