【87】やっぱマンション一人暮らしがいいよね!
ばあちゃんからのメンドクサイ話しが一応結論づいたところで、雑談というかどうしてこうなったかの話になっていく。
いや、俺の意思なんて関係なく勝手に決まってさ、俺は置いてけぼりもいいところ。巫女役として送り出されるのは決定したみたいな雰囲気だ。
まぁ説明されなくてももうお察しなんで、わざわざ反発とかしないけどさ。
なんだかなぁ。
「お母さん、それにしてもどうして今更佐久目にこの話が回ってきたんですか? 私の代でさえもうそんな話来てませんでしたよね?」
この口ぶりだと母さんは巫女となる娘を送り出してたこと自体は知ってた感じか。まぁ、必要ないならわざわざ俺たちに、そんな面倒な話はしないか?
「ああ、それはだね、向こうの当代様の事情ってこともあってね。まず言えるのが当代様の在位期間が非常に長いってのがある。当代様がお役目についたのは私がまだ幼少のころ、私の母の世代だったんだよ。当然、各家に巫女となる娘を出してくれって話になったけど、そのころから佐久目は送り出す娘には苦労していたらしくてねぇ」
そりゃな。そう都合よく条件にあう娘が居るわけもないか。今どき、子供の数も減っていってるしな。
「……まぁそれはともかく、今も尚、そのお方がお役目を担っているんだけど、それ以降、当家に追加の娘を送れとの要請は来ていなかったんだよ。他家には何度か出ていたんだが」
ばあちゃん、ちょっと悔しそうだな。でも出さずに済むんならそれでいいじゃんか。巫女役に出されるなんて面倒すぎるだろ。
「ええっ? 今も……その方が現役? いったいそのお方ってお幾つなんです?」
で、母さんが当然の疑問を投げかけた。ま、そりゃ驚くよな。そんでもってそのお方が、紡祈様であるならば。
百十八歳です。
そして今もその姿は中高生レベルの若々しさだったりするわけで。
うん、化け物ですね。
「当代様のことはおいそれとは話すことは叶わぬし、かく言う私もはっきりとは教えてもらえていない。皇室とは別の、わが国の導を示すやんごとなき存在であるということだけ理解していればいいということさ。それでもそうだね、私が今、六十七だからね。当時母が三十代半ばくらいだったはずだから、少なく見積もっても今九十歳は優に超えて、百の大台にすら乗っているかもしれないね。いやはや、なんとも凄いお方だよ」
「そ、そうなのね……。でもそんなご高齢の方の所に佑奈なんかやって、お役に立るのか……すごく疑問なんだけど」
「う~ん、まぁ、そうだねぇ……」
母さん、失礼だね! そんでもって、ばあちゃんまで頷かないでよ!
その通りだけど。
この俺に人の世話なんて出来るはずもない。まぁ実際何やるのか知らんけど。てか俺を守るためとかどうとか言ってたし、正味の話としてはお世話係ってのは周りへの方便ってとこかもな。
ま、普段はいつも通りでいいって言ってたんだし、ばあちゃんもアルバイト感覚でって言ってるんだし。
俺はマイペースでやるだけだし!
***
家に帰ってきたら早速澪奈に捕まって質問の嵐となった。
「で、お姉ちゃん、巫女さんになっちゃうの?」
「なっちゃうみたいだ」
そこに俺の意思は反映されてないけどな。
「え~! いいのママ? お姉ちゃんだよ? 引きこもりのオタクだよ? 大丈夫なの?」
うっさいな。どっか遊びに行ってればよかったのに。っていうか何気に失礼なやつだな。
「それはまぁ……ママも心配は心配だけど、お母さんの決めたことだし、それに佑奈も少しは外に出て色々経験するのもいいかと思って」
「巫女ってことはそのなんだ、神社みたいなところに勤める感じか。しかも国まで絡んでるところとなれば、要は佑奈は国家公務員になる感じなのかい? もしそうなら凄いじゃないか。しかし、佑奈が……、大丈夫なのか」
「お姉ちゃんが公務員? 絶対無理でしょ? うける~!」
おうおう、みんなして好き勝手言ってくれんじゃん。
「ふ~ん澪奈、おまえ、そんなこと言っていいんだな?」
もうマンションに泊めてやらん。
「あ~、ちょっとした冗談、冗談じゃん。わぁお姉ちゃん、すっごい! きっと可愛らしい巫女さんになるよ。うん、マジで!」
へいへい、調子いいね。いいけどさ。
「それで、そこにはいつから出ることになるんだい? というか行き先である神社なりなんなりは実際どういったところで、どこにあるんだ? 職場環境や条件は大事だ。具体的な話はしたんだろうね? その辺、はっきりしてないとさすがに大事な娘を送り出せないよ?」
さすがに父さんはそういうとこにも突っ込んでくるな。なんでもかんでも伏せられてたら、不信感も湧くってもんだよな。
「そうねぇ、まず来月頭に顔合わせする手筈になってて、佑奈のマンションに迎えが来てくれるんですって。勤め先って言っていいのかわからないけど……、公開されない国の祭事にまつわる行事を行っているところ……かな。『ひえんの社』とだけ教えてもらったけど。聞いたことないでしょ?」
「うん、聞いたことないし、変わった呼び名だね」
俺も初耳!
ひえんの社……ね。ひえん、ひえん……んあっ!
ちょっと考えこんだら頭にビビッとなんかきた。今回は頭痛じゃないやん。
なるほど、日に爰でひえん……か。そんでもって『暖かき存在』の『暖』を冠した社ってわけね。
そんなの誰もわからんて。
「場所は東京のどこからしいけど国が管理しているところとしか。処遇についてもまだまだこれからなんだけど、まぁその辺は佑奈自身が決めなきゃいけない部分だから、私からはなんともって感じね」
「なるほど、聞いてもいまいち把握できない話だけど……。とりあえず迎えに来てくれるなんてすごいな。いやまぁ、場所もわからないんじゃそうしてもらうしかないか――。う~ん、なんだかなぁ……、佑奈、お前ほんとに大丈夫かい? 嫌ならパパが今からでもお義母さんに一言――」
「パーパ! それだけは絶対やめて。これはもう決まったことなんだから。佑奈も納得してるの。だから話を蒸し返さないで」
「あ、いや、しかしだなぁ……」
父さん、俺のために気を使ってくれてありがと。でもまぁ、紡祈様絡みだろうし、橘川課長からも言い含められてるし……避けられない。それに瑛莉華さんだってこっち側になっちゃうんだろうし。
「父さん、ありがと。でもいいよ。とりあえずやってみるから。おばあさまもアルバイト感覚でもいいって言ってたし。えっと、そのぉ、頑張ってみるよ」
「おおっ、お姉ちゃんから頑張るなんてセリフ出るなんて! 明日は大雪だ!」
うっさい、澪奈、だまれ。
ちょっとごたごたしたものの家族間での話もまとまり、その夜はそのまま実家で休み、翌日の朝一でマンションへと帰ることにした。
いや、実家にいると色々うるさいし。父さんはずっと心配そうにするし。いつも仲のいい母さんともちょっとだけギスってるし。とっとと居なくなるが吉だ。
それにしても母さん、案外ばあちゃんよりの考えで意外だった。思いっきり反対されるんじゃないかって思ってたのにあっさり受け入れちゃってさ。
俺、ビックリだわ。
***
そんなこんなでマンションに帰ってきた。
部屋に入って一息ついた俺は『異空間接続』を意識し、何もない目の前の空間にポケットの口が開くイメージを持つ。大きめでイメージしなきゃな。
すると俺の意識を向けた辺りにぽっかり空虚な灰色空間が現れる。
で、開いた空間におもむろに手を突っ込み、そこから荷物をひょいと引っ張り出す。『きいろちゃん』に積んであったリュックやら母さんが持たせてくれた色々だ。荷物が開いた口から出きるまでは不思議と重さを感じさせない。
そう、いわゆる異空間収納として今回やっと使ってみた。おかげで駐車場から部屋まで手ぶらでらくちんだった。
もっと早く使っとくべきだった。俺のうっかりさんめ。
ちなみに母さんが持たせてくれた色々とは、ほぼ化粧品である。「外に出るならちゃんとメイクしなさい」だって。ご丁寧にその手ほどきまでされてしまった。澪奈がずっとそばで見てるわ、口出ししてくるわで、めちゃ鬱陶しかった。
いや俺だってちょっとくらいはして……なかったけどさ。改変製ボディは何もしなくてもね。ピッチピチお肌だし? ぷるぷる唇だし?
いらないよね。
ま、とりあえず何もかも後回し。今はつかの間の自由を満喫しよ。やっぱこっちは落ち着くわ。
一人はいい。ぼっち最高!
そんな俺にご褒美だ。お腹は空いてないけど……晩ご飯はお寿司取ろう! デリバリー最高!
あ、茂木クンに連絡しなきゃだった。
ま、これも後でいっか!




