【84】ストレスフル佑奈!
「ところで嬢や」
「あ、はい。なんでしょう紡祈様」
色々めんどくさい話がひと段落したところで、紡祈様がいたずらっぽい笑みを浮かべながら俺に話しかけてきた。
なんだろ、嫌な予感しかしない。
「今日はまた随分手の込んだ可愛らしい髪型をしてきておるなぁ。それは自分でやっておるのかえ?」
うぬぬ、まさかの紡祈様から髪型つっこみ? 全然そんなの興味なさそうなのに。ついでにしゃべりと見た目の違和感がひどすぎる。ま、それはともかく。
俺は思わず瑛莉華さんのほうに目をやる。
苦笑いしてた。
「あははっ、こ、これは、瑛莉華さんがこちらに来る前にヘアアレンジしてくれて。えっと……、まずかったですか?」
今の髪型はゆるふわ編み込みツインテール。背中に垂れる二つの房に至るまでは編み込みでしっかりまとめられてて、耳の上半分をしっかり覆うように仕上げてあるからエルフ耳の尖った先っぽが見える心配はないし、そう簡単にほどけたりもしない。ピンクブロンドの二つの房にはご丁寧に白いリボンも一緒に編み込まれてて今までやってもらったツインテールの中じゃ一番手が込んだ仕上がりになってる。
我ながらめちゃ似合ってて可愛いい。
けど、あまりにもガーリーで元男二十四歳のヘアスタイルとしてはどうなんだ? って葛藤もあったが。
最初はニット帽被って隠せばいいやって思ってたんだけど、瑛莉華さんが帽子とか被ったまま紡祈様の前に出るのは良くないかもと指摘があり、それならとこの髪型にまとめられたわけ。瑛莉華さんもよくこんなヘアセットできるよな。俺には絶対無理だわ。
「女子の髪型程度、まずいもなにもあるまい。とても似合っておるしの。可愛くてよいのではないか? その耳を隠すためにその髪型にしたのであろうが、これからもそれを続ければよいのではないかの?」
「え?」
「あらあら、ふふっ」
今なんて? その耳を隠すためとかどうとか……おっしゃいました?
なんで~?
「あ~こほん。お二人の了承を得る前ではありましたが、当方の判断により既に警護対象となっておりますので。川瀬さんは外出時、もう少し警戒なされた方がよろしいかと。いくらお住まいのマンション内とはいえ、人目はあるのです。すでに幾人かの目にも留まっています」
ぐはっ!
橘川課長が口挟んできたけど……。
まじか。ちょ~っとコンビニ行っただけだし。ちなみに茂木クンはいなかった。気分転換に顔見たかった気もしたので残念だった。しかし、確かに油断して……っていうか耳のこと忘れてて、そのまま隠しもせずに出てしまってたけど。
っていうかもう俺に警護っていうの付いてるわけ?
まじ? 俺のプライバシーは? 家も覗かれてんの? やばくない?
二次元イラスト趣味とか、あんなことやこんなこと……な~んにもできなくなっちゃうじゃん!
「はぁ、佑奈ちゃん……」
なんか瑛莉華さんの目が冷たい。え? もう俺の頭ん中覗けてないよね?
「考えてること、顔にみんな出てます。困った子ですね」
「ま、まぁ、なんです。警護はあくまで住居周辺の警戒と外出時の対応です。住居内をどうこうするようなことはありませんからご安心を。しっかりプライバシーは守ります」
「あ、は、はいぃ……」
ひ、ひぃ~。恥ずかしすぎるぅ。
俺、顔真っ赤になってる自信ありすぎる~!
「恒志。あまり嬢を揶揄うでない。嬢や。その耳のこと。それに力が増したこと。更には瑛莉華の現状についても我はおおよそは把握しておる。神託もあったゆえにな。もちろん事細かなことまではわかってはおらぬから過度な警戒は不要ぞ? ましてや其方らは我にとって恩人。決して悪いようにはせぬと約束しよう」
え、俺、揶揄われたの?
橘川課長に?
どっからどこまで?
いやもうわけわかんないんですけど!
けどさ、『暖かき存在』って紡祈様にはお優しいよね。いっそ俺の力や瑛莉華さんの力、まとめて紡祈様にあげとけばよかったんじゃないの? わざわざ分けるなんて手間かかるだけで面倒だろうにさ。今更だけど。
悪いようにはしないって言われても、今この状況が俺にとってはもうね。いっぱいいっぱいだわ。
「ははっ。別に揶揄うつもりは毛頭ありませんでしたが。それはそれとして警護の話は事実です。それとです。異能力については差し支えない範囲でかまいませんので一度情報の精査をさせていただきたいものです。それ次第でこれからの動き方も違ってくるかと思いますので」
はいはい、もう好きにして!
俺はもうどうでもいいや。み~んなお任せします。
所詮俺みたいな庶民が色々考えたって今みたいに振りまわされるだけだ。ほんとに嫌なことさせられそうになったら改変使ってでも逃げちゃえばいいさ。
うん。
「嬢……、其方もうすこし……。いや、まあ、それを今言っても詮無きことか……」
紡祈様がなんかブツブツ言ってるし、瑛莉華さんと橘川課長も生暖かい目でこっち見てる。
ふんだ。ほっといて!
***
あの後、紡祈様宅で晩ご飯をお呼ばれし、緊張で全く食べた気になれないまま送り出されマンションに帰り着いた後、速攻風呂入ってふて寝した。
ここ最近の出来事は引きこもり系社会人にはキャパオーバーもいいとこだった。
今日も起きたら普通に昼過ぎてた。おまけに目が覚めた原因であるお腹の痛みがしくしく続いててサイテーな気分。遅れてたあれが今頃始まったみたいで最悪。
これもみんな年明けからのストレスが悪い!
なにもやる気がおこらずリビングでTVをつけっぱでぼーっとする。何か食べたいって気にもならない。日課だった株も昨日の話のせいで今はやる気が起こらない。
俺が公務員とか、一体何するんだって話だ。能力のことも含めてまた場を設けるらしいけど……。
はぁ……、もう何もかも放り投げたい。
ふとスマホを見ればLINIEに未読コメがいっぱい溜まってる。
「澪奈に母さんか……。なんか随分久しぶりに感じてしまうけど、まだ正月から二週間とちょっとしか経ってないし。なんだかなぁ……」
それにしてもいったい何用だろ? 帰って来いって言うにはさすがにはやすぎだよな? しかも母さんからも来てるなんて珍しい。俺はLINIEを開き、二人から送られ溜まったコメントを閲覧する。
『佑奈、あなたのことで実家から呼ばれています。何か知ってる?』
『お姉ちゃん、いったいどういうことなの?』
『こら~、早く見ろ~』
『佑奈。あなたは理由知ってるの? 母さんが佑奈に話があるから早く顔を見せに来なさいって何度も連絡が来るんだけど?』
『お姉ちゃん、おばあさま、LINIEでは話せないって。これ、どういうことなの? いったい何しでかしたの』
『既読すらつかない~!』
えええ……。
なにこれ。
見なかったことにしたらダメかな。
ダメか。もう既読つけちまったし。
なんて考えてたら着信音が鳴る。はっや。今既読にしたばっかだぞ。
『やっと既読ついたし! お姉ちゃん、説明!』
いや、説明言われても俺だってわからん。ばあちゃんが俺になんの用? ああもう、お腹痛い。これ以上のストレスいらないっての!
つうか澪奈は授業中だろ。スマホいじってたらダメだろ。
『知らない。知るわけないし、こっちが聞きたい』
『え~、なにそれ、マジで?』
『マジで』
『それならそれでいいから、とりあえず帰ってきなさい。なるべく早く』
母さんまで入ってきた。いや昼過ぎだってのに二人とも暇なの? 暇なんだろなぁ。少なくとも母さんは。で、澪奈はまじめに勉強しろ!
『帰らなきゃダメ? 正月に帰ったばかりなのにめんどい』
『母さんは別にかまわないけど。そうなると、きっとおばあさまは佑奈のところまで行くと思うけど? それでも良ければ好きになさい』
はぁ~~?
なんで?
うそでしょ?
『こっち来ちゃうって……、冗談でしょ?』
『お姉ちゃん、甘すぎ。あのおばあさまだよ。行くに決まってんじゃん。で、ホントに理由わかんないの?』
『わかんない。わかってたまるかって。もうなんなのいったい?』
わけわからない中、LINIEでしばらく不毛なやりとりを続けた俺たち。
結局帰ることになってしまった――。
溜まる一方のストレスに、月イチのアレに、更にばあちゃん追加。
今年も最初からこんなのばっか。
泣きたい。




