【82】解決と新たな兆し?
瑛莉華さんの能力であるPSIは簡単に言えば対象の記憶や思考を読む能力だ。この能力は強力で一度目にした人や意志のある生き物であれば無制限に読み取れるし当然それを防ぐ手立てもない。更にレベルアップ特典で過去視と未来視がある。ただし制限もあって、一年以内の範囲で一日に一度しか視ることは出来ない。
意志ある人から見ればなんとも恐ろしい能力である。人に知られたくない考えや記憶が赤裸々《せきらら》に覗かれるだなんてマジやめてと思うだろう。
俺だって幾度となく彼女に覗かれ恥ずかしい思いをし揶揄われもした。
けれど、今となっては読まれてること前提で行動しているとまで言える。慣れって恐ろしい。
それ以上に色々助けられたことも多い。特に小惑星の関東圏への被害を無くすことを実現できたのは瑛莉華さんの未来視があってこそだ。
そんな便利で強力な能力。
持つ者には持たざるものでは考えられない苦労や悩みがある……か。
そりゃそうだよな。
引きこもりな俺には人を気遣う経験や余裕はなかったとはいえ……、ほんと頼りすぎだった。俺の周りにはあまりいない年上のお姉さんってこともあり……甘えてた――。
改変するために俺が考えたのはシンプルに『暖かき存在』から与えられたのであろう能力の抹消だ。細かいことイチイチ考えてられないし、そもそも能力のすべてをきっちり把握できてるわけでもないし。
赤く目をはらし、弱々し気な、今まで見たことのなかった一面を見せた瑛莉華さんをこのままにしてはおけない。元男としてそんな彼女を。お世話になりっぱなしな彼女を救えないでどうする!
そんな色々な想いを浮かべつつ、俺は過去一必死な想いを込め。
改変の力を使った……んだ。
くっ……。
な、なんだ!
今までにない、強い抵抗感が返ってくる。
「……く、うぬぬぅ……」
頭痛までしてきた。くぅ、こ、これは……。
「佑奈ちゃん? 大丈夫? 顔色、真っ青……」
瑛莉華さんが心配して声をかけてくれる。
「だ、だい、じょうぶ……」
いや、ほんとは大丈夫じゃない。
頭痛、半端ない。
これ絶対『暖かき存在』、嫌がってるだろ。くっそ、邪魔……すんな!
「改変、するっ!」
俺は声にまで出し、強い意志をもって更に能力行使に力を込める!
く、くぅ~!
「っ、佑奈ちゃん、 鼻血が! その、もうやめて。そんな無理をしてまで……」
鼻血?
まじかぁ……。でもやめられるもんかよ。元男としては絶対負けられない!
いくら助けてもらってるとはいえ、俺たちは『暖かき存在』の道具じゃねぇ~!
――――――。
――――。
――。
「……っしゃ!」
よっしゃ~!
「と、通った……」
頭痛、まじでヤバかった。
けど。
なんとか押し通せた。
「ゆ、佑奈ちゃん?」
でも。
「瑛莉華さん……、力、通った。もう、PSI……は消失した……はず」
うん、それは間違い……ない。
「……そう。そう……なんだ」
瑛莉華さんの表情は嬉しさと俺への心配で綯交ぜになった表情をしてる。
「佑奈ちゃん、自分じゃわからないかもだけど……、目や鼻から血、出てるから……」
え、そうなの?
鼻血はわかるけど、目からもか……。くっそ『暖かき存在』めぇ、そこまで嫌だったなんて。
まぁ数少ないLV5までいって残ってる能力者だもんな。失いたくないのもわかるけど。人の意志や気持ちってものも少しは理解してよね……『暖かき存在』様。
ま、認めてくれたから通ったんだろうけど。
往生際、悪いよな。
瑛莉華さんがハンカチで俺の顔を優しい手つきで拭ってくれている。俺はされるがままにしつつ、もう一言追加した。
「ごめん、瑛莉華さん。改変……、完璧には出来なかった」
「……そう」
俺のそんな言葉を穏やかな面持ちで聞いてくれてる瑛莉華さん。その表情に驚きや残念感はない。
自分のことだし……、もうわかってるのかもしれない。
けど、ここはハッキリ口にしておかなきゃ。
「未来視……。それだけは消せなかった。ほんと……力不足でごめん……」
PSI能力。あと過去視。そいつは抹消できた。
けど、未来視。それだけはどうしても消せなかった。いや、消させてくれなかった。
ほんと往生際悪いわ、『暖かき存在』。
「そう……ですか。――ええ、そう……ですね」
瑛莉華さんが少しの間を開けてそう答えた。
そんなシリアスな空気の中。そんな中でも俺の顔を綺麗にしてくれているのがなんとも微妙なんだけど。
いや、子供じゃないんだから。あとで自分でやるから。
「ふふっ、どうやら本当に……、本当にうまくいったみたいです。ああ……、なんて清々く、晴れやかな気分なんだろう……」
瑛莉華さん、泣き笑いしてる。
これさ。
人通りがあまりないマンションのロビーだからいいものの、人目についたらめちゃ不思議な目で見られそう。今更ながらこんな場所でやることじゃなかったよな。
いや、能力の確認をするためにもここのが良かったさ。うん、きっとそう。
ま、今更か。
「だ、大丈夫?」
自分でもティッシュを取り出して目を拭い、鼻をゴシゴシしつつ、そう確認する。ちなみにティッシュにもう血はほとんど付かなかった。瑛莉華さんがグッジョブすぎる。ま、あとでちゃんと顔洗おう。
「ええ、大丈夫。ここ数年で一番、最高な気分です。ありがとう。佑奈ちゃん!」
そう言いながら俺の頭を撫でてきた。
「ああもう、それはやめて。私、子供じゃないし!」
まじやめろ!
「良かった……。でも未来視、残っちゃった。どうしても抹消させてくれなかった……」
「……まぁ仕方ありません。それに……、その力は自分から使おうと強く意識しなければいけませんから普段負担になることはありません。――むしろ、その力を残してもらえたのはこれからも佑奈ちゃんの力に少しでもなれるのですから良かったのかもしれません」
「瑛莉華さん……」
前向きだ。
なんて前向きなんだ、瑛莉華さん。さすが出来る女、クール系美女の瑛莉華さん。引きこもりな俺とは違うわ。
「……瑛莉華さんがいいんなら、まぁいいんですけどぉ」
「ええ、いいんです。ほんとにありがとう、佑奈ちゃん」
改めてそう言ってきて、そしてまた撫でられた!
「ああもう、だからそれやめ~!」
「はいはい。わかりました。それで……なのですが、さきほどから気になってしかたないのですが」
ん?
「なに?」
なんでございますか?
なんでも答えるけど、まずは撫でるのやめようか。
「その耳、どうしたんです? すこし尖って見えます。ふふっ、まるで物語に出て来るエルフみたいですね」
「あっ!」
忘れてた!
俺は反射的に両手で耳を隠した。今更すぎた。出て来るとき、髪の毛で隠してたつもりだったんだけど。こんなことならニット帽でもかぶってくれば……。
いやでも、瑛莉華さんに隠してもしゃーないか。
「えっと、その、これもエクストラレベル化でこうなっちゃって……。もう意味わかんないよね? あはは」
笑って誤魔化す俺。
対する瑛莉華さんが意外なことに真面目顔してる。もっといじってくると思ってたのにマジ意外だ。
「なるほど……。――私見ですが、それはやはり祝福の一環かと。レベルアップで得た加護の中に<存在位階向上>がありましたよね。きっとその耳はそれの影響ではないかと思われます」
「ええぇ……」
いや瑛莉華さん、あんたの記憶力に脱帽せざるを得ない。今さっきあんなことあって、一度聞いただけのことよく覚えてるよな。
「ふふっ、エルフ耳ですか~。なんて可愛らしい。佑奈ちゃんの見た目レベル、確かに上がっちゃいましたね」
頭なでなでに耳さわさわが追加された。
されてしまった!
「いやもういいから。まじヤメー」
さっきまでの緊張感返して!
「はいはい。それで真面目な話なのですが。今試しに未来視をしてみました」
「え? マジ? 早速?」
この人はほんと……、強いな。
で、瑛莉華さんに聞かされた話でまたげんなりしてしまった俺なのだった。
平穏な暮らしがしたいだけなのに。
ほのぼのどこいった?




