【81】瑛莉華さんの告白(後)
「実は私、昨晩また例のアプリにレベルアップの通知入ったんだけど……」
俺はそう打ち明けながら瑛莉華さんにスマホを差し出し、アプリの画面を見せる。瑛莉華さんはしばらくその画面を見つめてたけど困った表情を浮かべて俺に言う。
「佑奈ちゃん、残念だけど私には内容がまったく読み取れないみたい。全て文字化けしちゃってる」
「えっ? な、なんで?」
俺は瑛莉華さんのそんな言葉に慌ててスマホを自分側に戻し、アプリの表示を確認する。
「あっ! そ、そうだった!」
俺は当然のことながらレベルアップの通知内容は普通に読めた。で、内容を流し見してその最後の言葉に目がいった。
※_エクストラレベル化に伴い、他者は閲覧不可となります。通常レベル範囲はその限りではありません。
そうだ、そうだった。すっかり忘れてた。
なんてケチくさいんだ。同じ能力者なんだし、見せるくらいいいだろうにさ。
まぁそれはともかくとして……、更にもう一つ、とんでもない奴を確認忘れしてるのにも気付いてしまった。いやつい加護の内容考察に気をとられて続きを見るの、すっかり忘れてたわ。
※_異空間接続―思考固定空間―
なんだよこいつは。これ加護と同じくらいやばくない?
「佑奈ちゃん? 黙り込んじゃってどうしたの?」
っと、いけないいけない。その考察はとりあえず後回し……、いや、この際これも瑛莉華さんに相談するか?
「ごめん。ちょっと通知内容再確認してて……。えっとですね、どうやらレベルアップの中身は他の人には見れなくなったみたい。エクストラレベルってやつに上がったせいっぽいんだけど。こっちは見れるかな?」
EXレベルの一つ前、LV5のタブをタップし表示させる。瑛莉華さんがそれを《のぞ》覗き見る。
「ああ、こちらは読めますね。で今回の……EXレベルですか……、こちらはやっぱり文字化けして読み取れないですね」
LV5とEXレベルのタブを行ったり来たりさせて確認する瑛莉華さん。
「う~、そっかぁ。じゃあ仕方ない、とりあえず口頭で説明するかぁ……」
めんどくさいなぁ。でも必要なことだし。
俺はEXレベルの内容を一字一句余さず瑛莉華さんに伝えた。ちなみにメモに取ろうとしたらなぜか取れないという珍事まで発生した。更に言うとスマホで写真撮るのもダメだった。
うが~!
『暖かき存在』、徹底しすぎだろ。いいじゃんか、それくらい!
っと、余りグチグチ考えるとまた頭痛が返ってくる。とりあえずこれくらいにしといたらぁ!
「なるほど……。また今回のレベルアップは凄いことになっていますね。まぁでもそれだけのことをしましたから。佑奈ちゃんへのご褒美も当然のことかもしれませんね」
そう言いながら俺に向けて優しい微笑みを見せる瑛莉華さん。なのにそんな表情すら憂いを帯びて見えてしまうのはどうしたことか。
「思考が読み取れなくなったのは佑奈ちゃんの考えで正解のような気がしますね。<存在位階向上>というのは端的に言えば、佑奈ちゃんが人としての格が上がったと思えばわかりやすいのじゃないかな?」
「格……ですか」
「そう、格です。まぁ位階も同じような意味合いですけど……よりわかりやすいでしょう? ですから私では格上の佑奈ちゃんの思考を読むことが出来なくなった――と考えれば理解できそうです」
「むぅ……、そんな自分が誰かの格上になるとか……そんなのぜんぜん望んでない……」
「まぁ、そう言わずに。別に悪いことではないのだし。他の二つの加護も今の段階ではなんとも判断できませんが、普通の人よりも確実に何かしら体の機能的なものが向上しているんでしょう」
やっぱ瑛莉華さんもそう思うよなぁ。まったくさ、もっと具体的に教えて欲しいもんだわ。なんでこう、みな漠然とした表現なのか。
「まぁ佑奈ちゃん、そんな不貞腐れた顔をしないで、じっくり確認していってください。私からはそうとしか言えないですね」
「へいへい、めんどくさいけどそうするしかないか……」
「うん、そうしてください。それと『異空間接続―思考固定空間―』でしたか……、それは、まぁなんというか、ちょっと胡散臭い言い方になってしまいますけど、きっと佑奈ちゃんもそう考えてるでしょうから言ってしまいますが……」
うん。
言っちゃってください。
めちゃ嘘くさて漫画やアニメじゃないんだからってツッコミたいところだけど!
瑛莉華さんの口から俺のこのアホな考えが間違ってないってこと、追い打ちかけてくだされ。
「ファンタジー小説とかでよくある……、異空間収納とか亜空間収納って呼ばれてるものじゃないかな? 私も結構小説とか読んでるので、真っ先にそれが頭に浮かんでしまいました」
うん、ずばり来た!
「や、やっぱそう思う?」
「思います。それでどう扱えばいいかとか、わかりますか?」
実を言えばさっきまでは全然わかんなかったんだけど、今こうやって話をしてるうちにどんどん頭の中にジワジワ来てるんだよね。『異空間接続―思考固定空間―』がどういったものであるのか……が。
「見てて」
俺は手に持ってるスマホを瑛莉華さんの目の前に掲げ、何もないはずの目の前の空間、そこにさもポケットでもあるかのように放り込む仕草をする。
「あっ」
瑛莉華さんが驚きの声を上げる。
うん。スマホは見事、目の前から消え失せた。
空中で忽然と。
二人の間に作り出した異空間にスマホがすっぽりと収まり、俺や瑛莉華さんの目の前から完全に消失した。
で、今度はその任意に作った空間に手を差し入れ、スマホを掴みとりそのから取り出した。
「す……、すごい……ですね」
さすがの瑛莉華さんもこれにはほんとうに驚いたみたいで、言葉がなかなか出てこないみたい。
『異空間接続―思考固定空間―』
まさに言葉通り、異なる空間に接続する力。その空間は自分自身の思考により任意の場所に設定……要は入口を作り、そこに固定することが出来る。大きさに限度はないけど、空けられる入り口は一つだけ。入れられるものもそのとき自分が触れていたものに限られる。
そんなことが自然に知識として頭の中に入ってきた。
入口は任意。自分の周りであれば何処へなりとも開けることが出来る。空中だろうが壁だろうが、地面だろうがお構いなし。
まだ試したわけでもないのに、確実にできるって当然のように理解してしまっている。
やべぇわ、コレ。なんか工夫次第で色々出来そうだよな、コレ。こんなの俺が貰っていいの?
現代日本でこんなのファンタジーがすぎるわ!
「ふふっ、まさかこんな光景を目の前で見せてもらうことになろうとは……。ほんと人生何があるかわかりませんね。今までも散々驚かせてもらいましたけど……、佑奈ちゃんといるとこんな不思議の連続ですね。ですが私は……」
瑛莉華さん?
やっぱ瑛莉華さん、様子が変だよ。
「あ、そう言えば相談したいことがあるって言ってませんでした?」
今日ここに来た理由の一つはそもそもそれだったよな。つい俺の話ばっかになってしまった。
「ええ、そう……でしたね。相談したかったこと……、いえ、相談というよりお願いと言った方がいいのでしょう」
俺の問いかけに対し返ってきた言葉。それと共に今日一番の真剣な眼差しで俺を見つめて来る瑛莉華さん。
まって。
なに? このシリアスすぎる雰囲気。
俺は思わず唾を飲み込んだ。でもその先に続いた言葉はシリアスどころか辛くなってしまうような言葉だった。
「私の能力を消して欲しい。佑奈ちゃんのその力で。どうか……お願い……」
「え? 消す? 能力……を?」
な、なんで?
「ど、どうし……て?」
「今日、その一部は解決しました……ね。ですが。それでも、それだけでは……もう、私は……、私の心は限界なんです! これ以上……、もうこれ以上、人の心を覗き続けること……見せつけられること……に、耐えられそうもない……のです」
そんな言葉を吐き出した瑛莉華さんの顔は今にも泣き出しそうだった。
そんな弱音を吐く瑛莉華さんなんて見たことなんてなかった。
そんな気持ちを隠し持っていただなんて俺は全然わからなかった。
瑛莉華さんがそんなに苦しんでいただなんて俺は気付きもしなかった。
考えてみればそうだ。人の心が覗ける。読める。それだけ聞けば便利でいいなってなるだろうけど……。年がら年中、四六時中、いつでもどこでも聞こえてくる心の声。それがもう何年も続いてるんだ。瑛莉華さんは読むタイミングは選べるって言ってたけど……それも絶対的なことじゃないのかもしれない。いやでも聞こえてくる時があるのかもしれない。嫌なことだっていっぱい聞かされたんだろう。
そんなの地獄の苦しみだ。
俺はいつも自分のことばっかだった。瑛莉華さんが助けてくれるのも当然のことのように思ってしまってた。好意に甘えてた。
俺はサイテーだ。
「本気……なんです、ね?」
「ええ……。この先のことは紡祈様がいらっしゃればきっと……。人任せにしてしまうのは無責任かもしれません。けれど……」
「そんなことは! そんなことは気にしなくていい……と思う。……えっと、その……、じゃあほんとに、ほんとにやっちゃいます、よ?」
まさか今日こんなことになるだなんて……。
でも俺には断るなんてことできない。できるわけない。
それ以前に、能力者の改変なんて成功するかどうかもわかんないけど……。
「うまくいくかも、わかんない……よ?」
「やってください……、お願いします」
うう。
もうやるしかないじゃないか……。
俺は覚悟を決めた。
そして今にも泣きそうで目が真っ赤になってる瑛莉華さんを見つめ――、
力を使った。




