【80】瑛莉華さんの告白(前)
例のアプリのあまりの内容に、何もかも放り出してふて寝したせいで朝から色々サイテーな気分だ。
とりあえず熱いシャワーでも浴びようと思って風呂に入った。んだけど、そこでもちょっと驚く出来事が起きてしまった。
「な……、なんだこれ……」
ふと鏡を見たら耳が……、耳が……。
「エルフかよ……」
先っぽが延びてて、まるでエルフだ。
いや、漫画や小説じゃないんだから……。髪の毛で半分くらい隠れてたから気付くの遅れた。髪が濡れて耳が飛び出したせいで気付いた。
幸いバカみたいに先端が細く伸びてるわけじゃなく、常識的な範囲でのとんがり具合だから髪型しだいで目立たなくできそうだ。ま、耳の上端が尖がってる時点で常識もくそもないけど……。
ピンクブロンドな髪色にみどりみの強い碧眼とかしてて今更だけど、俺の見た目、どんどん普通じゃなくなってくよな。もうこれ以上は勘弁してほしい。
どこにも出歩けなくなるって。いや、まぁ積極的に出歩くことはないけどさ。
『暖かき存在』もさ、どうせ変えるなら背を伸ばして欲しいわ。耳伸ばして誰得なんだっつうの。これ以上文句垂れるとまた頭痛かまされるからこれくらいにしとくけど……。
「はぁ……、マジかんべん」
***
違和感と戦いながらも朝の日課を一通りこなした。
とりあえず落ち着いたところでリビングのソファでだらけながら改めてスマホとにらめっこする。
もちろん見てるのは例のアプリ。
昨日はぶん投げてしまったけど、改めて確認しようと思う。
【Congratulations! 祝福により改変レベルを更新しました!】
◇川瀬佑奈 かわせゆうな altered
◇年齢 二十四歳
◇性別 女 altered
◇ALT_LEVEL ●●●●●
※_『ΣΘΘΨжφξЛ‡』の啓示に従い災禍を抑止しました。
※_『ΣΘΘΨжφξЛ‡』の巫かんなぎを禍根溜かこんりゅうから済すくいました。
※_二つの行いをもって『ΣΘΘΨжφξЛ‡』の祝福を得ました。
※_改変レベルを更新します。
◇ALT_EX_LEVEL ★
※_改変がエクストラレベルに移行しました。
※_『ΣΘΘΨжφξЛ‡』の加護
<存在位階向上><代謝機能向上・効率化><老廃物減化>
※_異空間接続―思考固定空間―
※_エクストラレベル化に伴い、他者は閲覧不可となります。通常レベル範囲はその限りではありません。
はぁ。
色々ツッコミどころ多すぎない?
最初の流れはいつものやつだけど……、いつもなら条件クリアってところが『祝福』によりってなってる。
祝福って……。
まぁ俺がやったことを評価してもらえてるのは素直に嬉しいとこだけど。
祝福ねぇ。
もしかして耳が尖がったのもこれのせい?
福耳ならぬエルフ耳……みたいな?
何の冗談だよ、それ。
確かに小惑星も紡祈様の病魔も……結果的に俺が対処したけど、さ。なんとも言えないこのやらされた感。それに俺一人でやれたってわけでもないし。
素直になれない俺がいる。
ま、それでも俺がやり切ったのも事実。だから貰えるものはもらうけど。
その貰えるものがなんか、よくわからん。
何なんだろこれ。
◇ALT_EX_LEVEL ★
※_改変がエクストラレベルに移行しました。
これはまぁ見たまんまだからいい。しかし、いつもながらとことんゲームっぽいな。で、問題はここからだ。
※_『ΣΘΘΨжφξЛ‡』の加護
<存在位階向上><代謝機能向上・効率化><老廃物減化>
※_異空間接続―思考固定空間―
※_エクストラレベル化に伴い、他者は閲覧不可となります。通常レベル範囲はその限りではありません。
文字化けのとこは『暖かき存在』のことに違いないからいいとして、加護ときたよ。祝福といい、この加護といい……なんか畏れ多すぎてひくわ。
<存在位階向上><代謝機能向上・効率化><老廃物減化>
これも難しい言葉並んでるけど結局なんなん?
<存在位階向上>
存在位階が向上って何? 存在感でも増したの? 引きこもりの存在感って一体?
<代謝機能向上・効率化>
代謝機能向上に効率化? 代謝って自分の体に関わるエネルギーとかそんなの? それとも新陳代謝みたいなこと? どっちにしても体の機能が良くなるみたいな感じなんか?
具体的にどうなるのかさっぱりだ。
<老廃物減化>
これって新陳代謝とまた違うの? ぶっちゃけ老廃物って……アレだよね? 体から出る色々とばっちいやつ。そういうのが減るって話?
もちろん健康的に……だよね?
便秘になるとか、勘弁だし。
なんかさ。どれもこれも漠然としててよくわからん。
どれもこれも要観察だな。
とりあえず今回のEXレベルアップではっきりしたのはエルフ耳っぽくなったことだけじゃん。なにそれ、全然ありがたくないわ。
っていうか出かけるとき、余計な気を遣わなきゃいけなくなった分マイナスだわ。
勘弁してくれ。
***
その日はいつも以上に何もする気がおこらずリビングでダラダラとサブスクで公開されてる映画を見て過ごしてた。もうね、まじ外に出かける気が起きない。
俺もうこのまま一生このマンションから出ないでいたい。
つうか出たくない。
しかし、コスモ世紀シリーズはやっぱファーストだな。うん。天パ最強だわ。
この人型兵器に瑛莉華さん乗ればもしかしてめちゃ強いんじゃね? 新タイプに対抗できね?
氷の悪魔とか言われて、恐れられたりしてな?
ぷふふ。
はぁ……、しょうもな。
ん?
スマホ鳴った。
今度はなんだ? 今日はアプリに変化出るようなこと、何もしてないぞ。
覗いてみれば普通にLINIEだった。しかも瑛莉華さん。まさか今考えたこと読まれでもしたか? それはやべえ。
『こんにちは、佑奈ちゃん。昨日の今日で申し訳ないけど今から会えますか?』
確かに。瑛莉華さんとは昨晩別れたばかり。なのにもう用が出来たって、何あったの? ま、いいや、とりあえず返事しよ。
『いいですよ? なんもしてないので暇してる』
なんつうええ加減な返事。……なんのかの瑛莉華さんとは砕けた仲になったよな。まぁあの人はずっと変わらず丁寧口調だけどさ。
『それはよかった。実は佑奈ちゃんのマンションのロビーまで来てます。降りてきてもらえますか?』
げ、まじか!
これはさっき考えたこと、マジで読まれた?
ひいぃ、会ったらおもっきり揶揄われそうだ。
ってことでロビーで会うことになった。
「こんちは、瑛莉華さん。昨日ぶり~」
「ええ、佑奈ちゃん、昨日ぶりですね」
そう言いながら瑛莉華さんはクスリと笑った。笑ったけどやっぱ元気がない?
なんだろ、ここ最近薄っすら感じてたことだけど……、なんだか瑛莉華さんずっと元気がない気がする。目に見えてそうって訳じゃないんだけど……、どことなくそう感じるっていうか。
「えっと……、今日はどうしたんです?」
コーヒーを飲んでくつろいでる瑛莉華さんの向かいに腰を下ろしつつ、そう問いかける。うん、丁度いいし、ついでにレベルアップの話もするか。
「ちょっと確認したいことがありまして。あと、少し相談したいことも……」
そう口にした瑛莉華さんの表情はさっきまでと違ってちょっと強張っていて、いつもの余裕ある様子も鳴りを潜め、どこか不安げにさえ見える。
「へぇ、なんだろ? 私もついでに報告したいことが。まぁ瑛莉華さんのことだからもうわかってるかもだけど」
うん、心ばっちり覗かれてもうバレバレかもしんない。
「そうなんですね。……聞いてみないと何とも言えませんが……取り急ぎ私の話を聞いてもらってから佑奈ちゃんのお話しも伺いましょう」
ん?
瑛莉華さん、俺のレベルアップのこと……まだ気付いてない感じ?
ええ?
微妙に心の中で葛藤してたところに瑛莉華さんの言葉でとどめ刺された。
「佑奈ちゃん。昨晩から、その、言いずらいことなんですが……佑奈ちゃんの思考が読み取れなくなりました。今まででしたら強い喜怒哀楽の感情が起こった際にはすぐ私の思考にそれが届いていました。それが、それが昨日の夜、別れてからしばらくして……ぷっつり届かなくなりました」
えええ……。
「そ、そうなん……ですか? あの、それって……今も? 目の前に私がいる今、この時も?」
「はい。会った時からずっと。読み取ろうとしていますが全く……。周囲の人の思考は問題なく読み取れます。佑奈ちゃんだけです。佑奈ちゃんからだけは、全く読み取ることができません」
固い表情の瑛莉華さん。その表情の理由はこれか。
俺は今の話を聞いて一つ思い当たることがあった。
<存在位階向上>
EXレベルになった時にもらった加護。
こいつの仕業じゃないのか? って。
俺はそう考えてる。
くぅ~。
っていってもさ、なんかもうようわからん!
どうしたらいいのこれ?




