【77】ぐだぐだしつつも改変ーオルタードー!
橘川課長からやたら長い前置きとともに『かの方』を紹介された俺たち。聞いたはいいけど、巫やら斎姫とか聞いても結局よくわからん。
要は偉い人ってことでいいんだよな?
そんな人が先に挨拶してくれたんだ。ただの庶民な俺たちが挨拶返さないのも礼儀に反する。
とは言え、自慢じゃないけど俺は引きこもり系社会人、なんて返せばいいんだ……。
「紡祈様……と呼ばせていただいてもよろしいでしょうか? 私は新野見瑛莉華と申します。本日は拝謁を賜り、恐悦至極にございます」
うえぇ、どうしようか悩んでるうちに瑛莉華さんに先を越された! っていうか、なんちゅうメンドクサイ挨拶してくれるの? 俺そんなうまいこと言えないから! ハードル上げないで~。
「ああ、あのぉ、その……、わた、わたし……」
くぅ~、やばい、言葉でない~。
「……ほほ、嬢や。そのように畏縮しなく……とも、よい。……そなたのこと、我はよく、存じて、おる……。瑛莉華……も、そのような、堅苦しい物言い……なぞ、せずとも……よい。そなたらも我も……等しく『暖かき存在』の係累……。遠慮せず、我……のこと、紡祈と……、そう呼んで……おくれ」
かの方……いや、紡祈様がやせ細った体を懸命に起こして俺たちと会話をしようとしてくれている。見てるこっちはひやひやものだ。
それにしたって、じょ、嬢って……。二十四歳の元男としては、そんな呼ばれ方微妙すぎだわ。っていうかこの人いったい幾つなんだろ? 小さい体に子供のような顔の造作。でもしわしわな肌はまるでおばあちゃんだ。
……まぁいいか。そのうち教えてもらえるだろし。ともかく、ちゃんと覚えてもらうためにもしっかり挨拶しないと!
「そ、その、川瀬佑奈です。こ、こんな見た目……ですけど、二十四歳です。よ、よろしくお願いします」
なんとか言えた!
けど何言ってんだろ俺。かっこ悪すぎだわ……。
「……うむうむ、そうであった、そうであった……のう、すまなかったの嬢……、ぅう、っけほ、けほっ!」
ああっ、ちょ、大丈夫なん?
「っ! 紡祈様! 余りご無理をなさらず。さあ、ベッドに体をお預けください」
くぅ~、橘川課長が健気だ。そんでもって紡祈様はほんとヤバイな。
「話たいこと、聞きたいことなど、色々ありましょうが、まずはこの場に来ていただいたことについて話をいたしましょう。よろしいですね?」
よろしいです。早く進めちゃってください。
「ええ、そのためにここに来たのですから。早急に進めましょう」
橘川課長の話を聞いた。
禍根溜。
その小さな体で長きに渡り国のために尽くしてきたその代償。長年にわたる能力の行使により少しずつその体に蓄積されてきた禍。災いの残滓。それが禍根として残り、紡祈様の体に溜まりに溜まった結果が今なのだという。
紡祈様は今年で御年百十八歳になるっていうから驚きだ。しかも今のような姿になってしまったのはたった四、五年前くらいのことだと。それまでは成人にも満たない……、そう、まるで俺みたいな未成年の娘の姿だったのだと。
はぁ?
写真も見せてもらった。
長く伸びた綺麗な黒髪は背中の中ほどでリボンでくくられてて、前髪はパッツン。ちょっとどこぞの誰かを連想してしまった。若々しい面持ちだけど切れ長で涼し気な目は知的で落ち着いていて、すごい美人ってわけではないけど純和風で品がある、どこか日本人形をイメージさせる容貌をしてる。
さすが『かの方』と呼ばれるだけある。
って、おかしいだろ。これが四、五年前?
こんなの百歳越えの姿じゃないっての。不謹慎ながら、今の姿の方がよっぽどらしいわ。
俺が頭の中で大騒ぎしてたら瑛莉華さんが俺をしばらくジーッと見つめて、ついと目をそらしてフスっと鼻を鳴らした。っていうか鼻で笑った?
「なっ! なに、瑛莉華さん? なんか言いたそうなんですけど?」
「いえべつに。まぁ時間が経てば佑奈ちゃんも……いつか気付く――」
「さあ、本題に入りましょう。知らずに時間が過ぎています」
瑛莉華さんの態度が気になるけど、そ、そうだな、まずはこっち片づけなきゃ。
「川瀬佑奈さん。君の改変能力。その力、紡祈様にすぐにでも振るってほしい。小惑星の形を変え、軌道を逸らせたその奇跡のごとき力。それでもって紡祈様を救って差し上げて欲しい……」
橘川課長が絞り出すようにして口にした言葉。
重い。重すぎだって。
「えっと、そのぉ、人の治療なんてやったことは、ないわけで……」
「なに、今までと同じようなものでしょう。この病魔、いや、禍を害無きものに変じればいいのだから。君ならば、いや、君にしかできない。頼む。いやお願いだ。力を、力を貸して欲しい。そして紡祈様を何としても救って欲しい」
「ううぅ」
ま、まぁさ、そもそもそのためにここに来たわけだから?
もちろんやらせてもらいますけど。
まじこの空気。重すぎてやばいの……。これ、俺がもし、もし失敗なんかしちゃったら。しちゃったらどうなんの?
「佑奈ちゃん」
瑛莉華さんが俺の頭に手を乗せて撫でてきた。いや、今は変なネット状の帽子かぶらされてるからモソモソごわごわだからそんな事されてもイマイチなんだけど?
ま、言いたいことはわかる。
「う~、わかったし。やるし。がんばるし」
「嬢や。無理……しなくてよい……のだぞ? 我は大丈夫ゆえ……」
そう言う紡祈様はまったくもって大丈夫な様子ではない。
百十八歳のミイラみたいになったばあさんだ。さっきみた写真がたった四、五年前のものだなんて信じられないくらい骨としわくちゃ皮な、ぶっちゃけいつタヒんでもおかしくなさそうなばあさんだ。
俺たちとの会話に体力を使いすぎたのか、ベッドに体を沈め目を閉じてしまった紡祈様。やべ、全然動かない。ちょ、まだ逝っちゃダメ!
「いてっ」
瑛莉華さんにチョップくらった。
「眠ってるだけ。変なこと考えない。――さ、グダグダ考えてないでさっさとやっちゃって。佑奈ちゃんならできる。小惑星の時だって……ささっと終わらせちゃったでしょ?」
背中をポンポン叩かれ、更に紡祈様のすぐ横まで押し出された。
「はぁ」
仕方ない、腹くくるか。
俺も男だ! 元だけど。
「やる!」
俺の言葉に瑛莉華さんと橘川課長が無言で頷いた。ちなみにお姉さんはずっと端っこの方に立ってて空気だ。モブに徹してる。すごいわ。
俺はガリ骨の紡祈様を見つめる。さっきの写真を借りて手に持ち、その姿を目に焼き付ける。もちろん改変のイメージの足しにするためだ。
ちょっと、ガリ骨ばあさんのイメージが強烈すぎて改変後のイメージが湧きにくい。
「集中!」
頭を振って変なイメージをぶっ飛ばす。黒髪のパッツンってイメージしてたら奏多が出てきた。いや、お前はいらん。こっちくんな。
『暖かき存在』さん、あんたも力かしてくれよ? あんたのお気に入りを改変するんだからな?
「ふぁっ」
ズンっと一瞬体になんか降りてきた。体がめちゃ楽になった。ぽかぽかしてきた。いや、こんなこと出来るんなら紡祈様に直接……、って今はそんないらんこと考えてちゃダメ。集中!
紡祈様の胸の上あたりに両手を掲げた。
よしヤル! 気合い入れた途端になんか見えてきた。黒いもわっとしたやつ。紡祈様の体全体を覆うようにもやってる。
何だこれ?
こんなの今まで見たことない。
けどどう考えてもコイツが禍根だろ? そう決めた。こいつを黒いもやから光に改変してやる! そんなイメージでいいだろ。で、出来上がりがあの写真の紡祈様ってことで。
「くぅ~!」
気合い込めてたら、黒もやのやつ、まさかまさかで俺の手に纏わりついてきやがった。こ、こっちくんな!
「ぐぬぬぅ!」
くっそ、小惑星の時よりよっぽどきっつい。うっそだろ。
「佑奈ちゃん、がんばれ!」
瑛莉華さんの声援。他の二人も声には出してないけど俺を後押ししてくれてることがよくわかる。
くぉの~~~!
ぜったい改変したる~!
く~~~!
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――――。
――き、きた。
掌握……、
掌握……できた。できた……わ。
つかれたぁ……。
黒いもやも消えた。で、その代わりに……
紡祈様の体から湧き出て覆っていた黒もやの代わりに、光の膜みたいなのがチラチラキラキラ見えてきた。その光がだんだん強くなっていき、ついには紡祈様の体がその光で覆われ見えなくなった。
その様子、見届けたいけど……俺ももう限界。こんなに疲れたの初めて……。
「佑奈ちゃん、こ、コレは?」
「紡祈様が……」
橘川課長たちにも見えてる?
「改変、たぶん成功……」
俺はそれだけ言って、その場に崩れ落ちた。
瑛莉華さんが抱き留めてくれたことだけはわかったけど、そのまま俺の意識はぶっとんだ。




