【73】初詣に行こう!(後編)
俺たちが向かったのはこの地方じゃそこそこ名の知れた、でも初詣に行く神社としては余りメジャーじゃないところ。要はあまり混雑しなさそうな神社を目指して車を進めてる。
「私の友達も同じところに行ってて、その娘の情報によれば、そこそこ人は来てるけど揉みくちゃになるほどじゃないって。普通に流れに乗って境内まで行けるらしいよ」
「そーなんだ? 私は人が多すぎて、ぎゅうぎゅう詰めで自由に動けないとかならないならどこだっていい」
めぐちゃんが奈津美さんの話に軽~く合わせてるけど、俺も賛成だ。もっと言えば家の近所の神社でいいじゃん、とさえ思う。小さいころはよく連れてかれたし、歩いて行けるとこだし、空いてるし。なんでわざわざ遠いとこまで出向いて人混みに揉まれなくていけないのか!
「奈津美さん、そこって屋台とか出てるかな? 何か買って食べたいよね~」
「少しだけど出てると思うよ。前行ったときはたい焼きとかたこ焼き、それにベビーカステラとかあったかな? それにお休み処もあるから食事も出来るんだけど……、さすがにそこは人で一杯だろうなぁ」
なんでみんなわざわざ人混みの中に入り込もうとする? 参拝だけ済ませたらとっとと帰ろうや!
なんて思うけど、口には出さない。出したら吊し上げられるのは目に見えてるからな。とりあえず少しでも空いてることを願うばかりだわ。
道中はそんな話で盛り上がりつつ、一時間と少しばかり車を走らせたところで目的地である神社へと到着した。まじ、なんでこんな時間かけて……。
いや、去年のゴールデンウィークに行った神宮よりは断然近いんだからまだマシと思っておこう、うん。
広い駐車場はなんと無料だった。さすが地方の普通の神社。田舎はおおらかでいいね。すぐそばに広場もあって、参拝を終えた人たちが屋台で買った食べ物を手にしながらのんびりくつろいだりしてる。俺、ここで待ってちゃダメ?
「ほらお姉ちゃん、何よそ見してるの? 行くよ~!」
「うわっ、わかったから引っ張らないで。ころんじゃうって」
振袖の足元はとても不自由なんだぞ! しかも履きなれない草履! もう慣れない尽くしでどうしてくれよう。
「ちょっとお姉ちゃん、寄りかかってこないでよ~」
「はぁ? 澪奈が引っ張るからだろ!」
「いやー、いつも姉妹で仲いいね!」
いや、めぐちゃん、これのどこが仲良くみえるの? 俺、いつも妹にいじられまくってるよね?
「ほらほら、はしゃぐのもいいけどまずは参拝しましょ? お楽しみはその後で好ききなだけすればいいんだから」
「「はーい」」
「うう……」
ぐぬぬぅ、澪奈めぇ、俺まで一緒くたにされてしまったじゃないか!
そんなやり取りをしつつ振袖三人組はパタパタ草履を鳴らしながら歩いていく。奈津美さんはブーツで歩きやすそうで羨ましい。参道に向かう途中には前情報通り屋台が並んでいて、みんなそれに気をとられながらも奈津美さんの「まずは参拝!」の声で先へと進んで行く。
鳥居までたどり着いたところでみんなで揃って一礼してからくぐりぬけ、参道を進んで行けば、広い境内の至る所に梅の木が植えられてるのが目に入る。まぁ残念ながら梅見にはまだまだ時期尚早すぎる。二月以降に来ればざぞ見ごたえあるだろうけど、ま、わざわざまた見に来ようとは思わんね。
「ここはしだれ梅が有名で梅祭りとかあるんだよ。また、みんなで見に来るのもいいかもね」
いや、俺はいいですから。俺以外のみなさまでお願いします。
「おお、賛成! またみんなで見に来よう!」
ちっ、無駄に元気なめぐちゃん。そう言うと思った。けど残念。俺、絶対その時期には帰ってこないからな。っていうか次こっち来るのはGWだ。だから君たちだけで見に行ってくれたまえ。
とは言うものの、今は藪をつつかないでおく。黙っとくのが吉。
普通の神社とはいえさすが正月。初詣に来た人の列がきっちり出来ていた。けどまぁ、列はぎゅうぎゅう詰めということもなく、ゆったりとした間隔でゆっくり流れていってるからそれほど待つことなくお参りできそうである。俺たちは手水舎で身を清め、その列の中へと突入した。
並ぶこと十分ほどで拝殿に辿り着いた。案外かかったし、列に並んでると振袖三人組はさすがに目立ってちょっと、というかかなり恥ずかしかった。
いや、みんな見て来るんだもん。勘弁してほしい。っていうか、並んでる人達の服装が黒とかグレー系が多いのもあって、やたら目立つんだよな。
賽銭を放り込んで鈴を鳴らす。いや、この綱、小さい手で引っ張るのけっこう大変だわ。しっかり両手で抱えて必死にガラコロと鳴らした。
お礼と柏手を済ませお祈りをする。
昨年は色々大変すぎた。今年はいい出来事お願いしますってな感じで漠然と祈る。ああ、そういや神宮で拝んだときになんか頭の中に聞こえてきたりし……、
〚……ようやく機会が訪れた……いま少し祈りに訪れてもよかろうものを……されど今はいうまい……其方はよくやってくれたことでもあるし……さらにもうひとはたらきしてもらわねばならぬゆえ……〛
へ?
ちょ、なんかまた来た! 来ちゃったわ。前はわけわからん意味不明な想いが伝わってきただけだったけど。今回はわかる。LV5になったせいなのかどうかわからんけど……。
〚……その通り……であるが……我の言の葉は社より告げるが最も容易く……しかるに其方はなかなか訪れぬ……ゆえにわびしきかな……〛
わかるようなわからないような。何言ってんの神様? いや、えっと、瑛莉華さんやあの人いわく、『暖かき存在』……だっけか。
〚……すまぬが……思ひ解いてほしい……また我の巫をその『変へ改むわざ』をもって扶けたし……〛
長いしマジわかりにく過ぎ。つうかガンガン響いて頭痛くなってくるって。
「……ちゃん! お姉ちゃん!」
「……はぇ?」
「あ、ちょ、大丈夫? お姉ちゃん!」
気が付けば澪奈に肩を抱くように支えられてた。周囲の人たちの好奇の目がやばい。こっち見んな。
「澪奈ちゃん、ちょっと脇によって休んでもらお?」
「あ、うん。お姉ちゃん、大丈夫? ちょっとこっちで休も?」
俺は澪奈に肩を抱かれながら拝殿のそばにあった石積みまで連れて行かれ、腰を下ろすよう促された。どうやらお祈りしてるうちにふらついて隣にいた澪奈に寄りかかっていったらしい。
「ゆーなさん大丈夫?」
「貧血かな? 着慣れてない振袖だし体を締め付けてるし」
みんなに心配かけてしまったみたい?
ったく、『暖かき存在』だったかの頭の中の声が長すぎなのが悪い! あれって神託って言えばいいのか? こんな目にあったのにろくに理解出来てないけど。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
「え? あ、ご、ゴメン、なんだっけ?」
「もう、さっきからボーっとしちゃって……大丈夫って聞いてるの!」
いけないいけない。気をしっかり持って意識をこっちに戻せ、俺。
「だ、大丈夫。ごめん、ちょっとお祈り頑張りすぎてくらっときた。目を瞑ってたせいかな? みんな驚かせちゃってごめん。もう大丈夫だから!」
「ほんとかな~?」
そう言いながら澪奈が顔を覗き込んできた。澄んだ黒い瞳が俺の目を見つめてくる。いや、そんなにジッとみられると照れる。俺はつい照れ隠しに、近すぎる澪奈の顔、その鼻に手を伸ばしキュッと詰まんでしまった。
「ひゃ! ひょ、あにすりゅの、おねいちゃん!」
「ぷっ、みーな変な声」
「あ、ごめん、つい」
俺はすぐ手を離した。が、そんなことすれば、当然澪奈のご機嫌は急降下である。
「もう人が心配してあげてるのに何さ。お姉ちゃんサイッテー!」
「ほんと、ごめんって澪奈。つい出来心で。だって、可愛い鼻が目の前にあったから。まじ反省してるから許してー」
俺は腰を下ろしていた石積みから立ち上がって澪奈の腕に縋り付いてご機嫌伺いしまくった。
「ふふっ、どうやら大丈夫な感じ? 佑奈さん歩いて戻れる?」
「あ、奈津美さんもごめんなさい。もうぜんぜんオッケーです。……えっと、あれだ、あれ。屋台。屋台、行きましょう。澪奈。お詫びに奢るから。だからご機嫌直してよ~」
これでご機嫌とれるなら安いもんだし。
「たこ焼きにベビーカステラ。ママの分も」
「うん、わかった。買う買う。ぜひ買わせていただきます!」
「めぐや奈津美さんの分も」
くぅ、こいつ。調子に乗ってきたぞ……。
「わーい、ゆーなさんご馳走様!」
めぐはめぐで、まったく遠慮しねぇ。
「はいはいわかりました。奈津美さんも遠慮なしで。迷惑料ってことで!」
このあと大盤振る舞いで屋台で買いまくってやった。ま、所詮屋台での買い物なんてたかが知れてる。
で、いつの間にか澪奈も普通に戻り、帰るころにはいつものごとく、いじられまくってる俺なのだった。
なんで~?
――それにしても、拝殿での『暖かき存在』からの神託? 啓示?
気になる。




