【71】川瀬家プチ騒動?
久しぶりに実家に帰ってみれば、珍しいことに家にはすでに父さんが居た。土曜日とはいえ、まだ明るい時間帯で家に居るとは珍しい。
「佑奈~、会いたかったぞ~!」
「ちょ、ちょっと父さん、や~め~て~」
思いっきりハグされ、しかもほっぺにチューまでされてしまった。
くぅ~、俺を見つけてからの父さん動きが無駄に素早くて、どんくさい俺ではとても逃げきれん。
「あははっ、お姉ちゃん捕まっちゃってる。まっ、久しぶりなんだし仕方ないね!」
「もう澪奈っ、そんなこと言ってないで助けてっ。父さん、もういい加減離して、あ~もう、暑くるしぃ!」
わめきながらも脱出しようと、抱えられつつも父さんの背中になんとか腕を回し、けっこう本気でバンバンたたいたけど、そんなことでハグを緩めるような柔な父さんじゃなかった。
結局母さんが来て睨まれるまでハグは続いた。いやもうこれ、親子とはいえセクハラで訴えていいんじゃないのか?
まあモチロンそんなことしないけど。
そんな感じで帰ってきて早々、父さんのハグ出迎えの洗礼を受けた俺だった。
***
荷物整理を適当にして部屋着に着替えたところで、一度リビングへと顔を出す。メンドクサイけど仕方ない。そうしないとヘタすると父さんが部屋に突入してきそうだし。
ほんと子離れできてない父親持つと大変だわ。
「なぁ佑奈。そろそろこっちへ帰ってくる気はないか? 最近、あちらは何かと物騒じゃないか。父さんたちは心配なんだ」
うへぇ、年末にこんな話しないでほしいわ。俺、もうゆっくりしたいのに。
「やだ。私にだって向こうで色々あるんだから。はいそうですかって帰れない」
そう簡単に向こうの生活をやめられるもんか。友達っぽい人だって何人か出来たのに。
「でも佑奈、ついこの間も、えっとなんだっけ……、ああ、小惑星。小惑星が落ちて来るとかで随分騒ぎになったじゃない? アレもう大丈夫なの? 正月明け早々くらいでしょ? 落ちるって言ってた日。ママ心配なんだけど」
うう、やっぱその話でちゃうか。そりゃ出るよなぁ……。
「それはもう大丈夫だから。TVで岸部総理も言ってたじゃない。危機は去ったって。だから全然問題ない」
「それはそうだけど……。でもねぇ佑奈。あなた、少し前もコンビニ強盗に巻き込まれてたし、SNSでも写真上げられたり色々話題に上げられたりしてるし。ちょっと無防備すぎだし、危なっかしくて放っておけない感じなのよね……」
ぐぬぬぅ。全部あったことだけに反論むずい。でも言われたままってわけには。
「だ、だけど結局大丈夫だし、問題になってないわけだし。向こうでも知り合いとか友達出来てきたし。そもそも私子供じゃないし。自分のことは自分で決めるし!」
あれ? なんかちょっと……、俺何言ってんの? そんな言い方はまずい……。
「う~ん、でもねぇ。今住んでるマンションだって……」
あ、それ言っちゃうの母さん。それならそれで俺だって!
「マンションが問題だって言うなら私あそこ出るし! 無理してお金出してもらわなくていいし! 自分の稼ぎだけで住めるとこに引っ越すもん!」
くあぁ、言ってしまった。っていうか、なんか俺ガキっぽすぎだろ。自分で言っててはずい。でも抑えがきかない。ああもう、なんなの俺?
「おいおい佑奈、それにママ。ちょっと落ち着こう。な、冷静になろう。パパも悪かった。こんな話、今しなくて良かったな。……佑奈、別に父さんたちは本当に今すぐ帰ってこいって言ってるわけじゃないんだ。ただちょっと……佑奈の気持ちを確認してみたかっただけだ。な、ママもそうだろ?」
父さん、ごめん。助かる。俺、ちょっと熱くなりすぎた。でも母さんは……、どうなんだろ。
「……ええ、まぁ……そうなんだけど。でも、帰ってきて欲しいって気持ちも嘘じゃないの。ママ、本当に心配だから……」
……マジで心配かけちゃってる感じだな。でも、それでも今は家に帰るつもりは、ない。
「母さん、さっきはごめん。ちょっと言い過ぎだった。でも……、やっぱまだ向こうに居たい。やりたいこともあるし、帰りたくない。その……心配かけちゃってごめんね」
「パパ、ママ、お姉ちゃんってば、あっちでたくさん友達とか出来てるんだよ。あの引きこもりだったお姉ちゃんにだよ? だから……そのぉ、もう少しお姉ちゃんの好きにさせてあげて欲しいかなぁ……」
おおっ! 澪奈。まさかの澪奈からのフォロー。ああいや、でもこいつのは自分のためでもあるんだった。微妙。
「澪奈まで? ……はぁ。まったくもう。しかたない、佑奈の好きになさい。見た目も行動も子供みたいな娘とはいえ、確かに佑奈は二十四歳になったわけだし」
母さんひどい~、そこまで言う? けど認めてもらってうれしい。
「ありがと~、母さ~ん」
俺はうれしくてつい、母さんのところに駆け寄り、そのまま抱きついた。いつもの俺なら絶対そんなことしない。いい大人の元男が母親に抱きつくなんてありえない。
なのに抱きついてしまった。
なんかさっきの興奮したときの発言といい、なんか俺……大丈夫なんか?
「あらあら、佑奈ったら」
「わぁ、お姉ちゃんの甘えんぼ!」
「佑奈~、次はパパのところに来てもいいんだぞ?」
いやお断りします。父さんとは当分、いや、もうずっとハグしなくていいです。
「でも佑奈、向こうでの暮らしが辛くなったらいつでも帰ってきなさい? 無理しちゃダメよ」
「うん、わかった。……でも、まぁそんなことにはならないよ、きっと」
「そう……」
そう言って母さんは俺の頭を人撫ですると立ち上がった。
「さて、ちょっと遅くなっちゃたけど、晩ご飯の支度しないと。せっかく佑奈が帰ってきてるんだし、腕によりをかけて作らなきゃね」
「あ、私も手伝うよ~」
キッチンに向かう母さんを澪奈が追いかけていった。俺はまぁ、手伝うと逆に足引っ張るのでリビングで待機である。いや、しばらく時間かかるだろうし、一度部屋に戻るか?
なんて考えてたら父さんが何か言いたげにこっち見てる。
「何? 父さん」
「その、なんだ。さっき澪奈が言ってた話しなんだが……、佑奈。友達が出来たというのは、あ~」
「ん? 友達? ああ、うん、何人か出来たよ。瑛莉華さんに茂木クン、あと一応、奏多。瑛莉華さんは友達って言えるか微妙だけどね~」
うん、瑛莉華さんは友達っていうより仕事仲間に近いような……。
「ゆっ、ゆうな! ちょっと待ってくれ。も、モギクンというのはその、なんだ、お、男か? 男なのか!」
「はわっ」
な、父さん、まって!
いきなり両手で肩を掴んだかと思うと、グワングワン揺すり出した。
「ちょ、ちょっと父さん! 揺するのやめ~!」
まじ勘弁して。急にどうした父さん?
ああ、いや、わかったわ。茂木クン……男で反応したわけね。もうめんどくさい!
「と、父さん、落ち着いて、落ち着いて! 茂木クンは友達。ただの友達! 高校二年の十七歳だから! 澪奈と同い年。年下も年下。心配しずぎだから!」
「友達? ほんとうにただの友達なんだな? いやしかし、そのモギクンが佑奈のことをどう思っているかわからんじゃないか! 歳の差だってたかが六つや七つ程度の違いじゃ何も安心できないぞ! ああ、私の可愛い佑奈がよその男のどくっ
『グッア~~~ン』
……ぐはぁ!」
あっ。
「パパ、いい加減にして」
すっごい音……した、な。
父さんの頭にステンレス製のお盆が炸裂した。
母さんが、思いっきり叩きつけた。
母さん、なにげにひどい。
「ま、ママ、ひどいじゃないか……」
「あなたがバカやってるからです。佑奈が怪我したらどうするんですか? 男友達くらいで大騒ぎしないでちょうだい、まったく」
「パパ、かっこわる~い」
「あ~びっくりした。母さんありがと」
俺の横に立った母さんを見上げてお礼を言った。いやしかし、肩ちょっと痛いんですけど。父さん力入れすぎだっての。
「パパ、お姉ちゃんの彼氏くらいで騒ぎすぎ」
言い方!
澪奈、おまえ、それじゃまた再点火するわ!
「か、彼氏! ゆ、佑奈ぁ?」
「いや、違うから! 澪奈が揶揄っただけだから! もう澪奈も変な言い方すな~!」
あ~もう混沌すぎ!
もうマンションに帰りたい……。




