【68】オハナシ。とりあえずの終了
「かの方も、そんな風に現れてはすぐ消えていってしまう能力者については心を痛めておいででした。更には来るべき災厄に対処できるものが現れ、消えずに残っていてくれるのか? についても……」
そう話すモテおじ課長の表情には陰りがある。かの方って人にけっこうよく会ってるのかね? 随分親身になってる感じだ。
「私はともかく、佑奈ちゃんは純粋で、裏表がなく、邪な心とは無縁な子ですから。そのような心配は無用でしたね。……それにしても、あなたが『かの方』といわれる人は災厄……小惑星についてはわからなかったのですか? TVの会見でも総理は集団疎開まで検討したとおっしゃられていましたが……」
「ふふ……なかなか踏み込んだことを聞いてきますね? それについてもあなた方を見出したことと併せてご説明しましょう」
なんかもう話がこんがらがって、わけわからんわ。つうか瑛莉華さん、俺、そんな清く正しいやつじゃないから。ただの引きこもりだから。そんなこと言われると恥ずかタヒねる。
いたたまれない。
もうまじ、帰っちゃだめ?
「佑奈ちゃん、もう少し我慢してくださいね。あと少しで終わるでしょうから。ねぇ、橘川さん?」
「ええ、そうですね。堅苦しい話ばかりで申し訳ないですが、もう少しだけお付き合いください」
二人して言われれば俺、いやとはいえないし。
「う、うん……」
「では。先ほども言いましたが、かの方は能力者の存在を把握する能力をもっておいでです。ですから、あなたがたお二人についても我々は早くからその存在を掴んでいました」
うへぇ。まじかぁ。俺、変なとこ見られてないよな?
「とは言うものの、すぐさまどうこうするわけではないのです。あなた方には説明するまでもないでしょうが……、能力者にはレベルという概念があり、必要なレベルに達成していなければなんの意味もないのですから」
スクリーンに五段階のレベルがあることが映し出された。よく調べてあるわ。でも残念なことにその内容については未記載で残念。ま、人によって違うだろうし、あまり意味ないか。
「あらあら手厳しい。でも、そちらが協力すればレベルアップを早めることもできたのでは?」
だよねだよね。レベルアップ大変だったもん。
「そうですね。実際、最初期にそれは行われたのですが、見事失敗しました。あろうことか他者が協力すると能力が消え失せてしまったのです。これについては、かの方からも『手を貸してはならない』とのお言葉を頂いていたのですが、強硬派が先走りまして……、残念な結果となってしまいました」
それはまた。なんか、『暖かき存在』けちくせ~。
「いてっ」
痛ったぁ。急に頭痛した。
「佑奈ちゃん? どうしたの?」
「あ、いや、別に、なんでもない、なんでも。アハハ……」
二人に訝しげに見られた。なんだよもう。『暖かき存在』けちくせぇって思っただけ……、
「っ、いったぁ!」
ちょ、ちょっと、なにそれ! 勘弁してよもう。これ『暖かき存在』ってやつが怒ってる感じ?
けちくせぇって思ったから?
けっ、お心が狭きお方ですことっ!
「あっ、いたっ、いたいってっ!」
脳天直撃、連続できた。くぅ~!
「ゆ、佑奈ちゃん……、あなた、ほどほどにね?」
「はぇ? あ、ひゃい……」
瑛莉華さんにメッって感じで睨まれた。
くぅ、くっそぉ……、どこが暖かき存在。全然暖かくな~い!
と、とりあえずもういいわ。話しに集中しよ。
「よろしいでしょうか? 続けますよ。……このように紆余曲折ありまして、能力者を確認しても我々としては見守っていくことになったわけです。しかしながら、それは先にあげた事件のような弊害をも齎してしまったわけで、我々も苦慮しておりました」
情報なんちゃら室のみなさんも色々苦労してたんだな。お勤めご苦労さまだわ。
「ですが、ついに我々はあなた方を見出した。ふふ、新野見さん、あなたの観察・護衛はその能力ゆえに、ほとほと手を焼きました。担当の者が言うんですよ。目が合ってしまって困るとね。結局、お互い暗黙の了解と言った形で護衛させてもらうことになってしまいましたね。うちもまだまだです」
ま、そりゃそうだろ。人の思考読めるんだから。未来視だってあるし。でも見境なく見てるわけでもないだろうし、そこはやっぱ瑛莉華さんが上手だったってことか。
「そして川瀬さん。あなたは……、あなたは本当に素晴らしい。都民を救ってくれたことはその最たるものですが、それ以前においてもコンビニ強盗の確保、マンション火事における男子の救助。変わったところでは公園での多数の野鳥との交流は、大変心癒されました。女性部員の好感度の上がりようはすごかったですよ?」
スクリーンにデカデカと映る、鳥と戯れてる俺の動画。
いや、ちょっと。そんなの映さないでよ!
あ、書記してるおば、いやお姉さんもそれ見てニッコリだ。そ、そうですか。気に入っていただいてるようでなによりデス。
はっず!
「というように、我々はあなた方お二人のことをずっと見させていただいておりました。……それで、あともう一つの話ですが……。件の小惑星。あれに関しては残念ながら、かの方のお力では予期することは叶わなかったのです。大きな災いが近いうちに起こると言う、漠然としたものしかわからなかったとの仰せでした」
まぁ、災いが起こるってわかっただけでもすごいとは思うけど。さすがにそれだけじゃな……。つらいな。
「我々に出来ることは備えることだけ。なのに能力者の確保は思うように捗らず、見つかった能力者はことごとく自滅してしまう。総理はリアリストで、我々の動きについては懐疑的でしたから初動が非常に遅れてしまったため、あのまま集団疎開を行ったとして間に合ったかどうか? だからこそ。だからこそ、お二人の存在とご活躍は奇跡としか言いようがない」
「私たちも出来ることをやっただけです。ね、佑奈ちゃん」
「うん。でもだいたいは瑛莉華さんのおかげ。瑛莉華さんがいなかったら何もしてなかった。たぶんみんなと一緒に疎開してた。最悪巻き込まれて死んじゃってた」
うん。間違いない。一番の功労者は瑛莉華さんだ。
「なるほど。そう、ですね。これは私も認識不足でした。川瀬さんに教えられましたね。では改めて……」
またしてもすっくと立ちあがったモテおじ課長が、瑛莉華さんに深々と最敬礼した。
この人すげえ。躊躇しない。ちょっと尊敬するわ。
「も、もう、佑奈ちゃんが余計なこと言うから……! 橘川さん、もういいですから。お礼はすでに受け取っていますから。頭を上げてください!」
珍しく瑛莉華さんが慌ててる。くくっ、レア瑛莉華!
「ゆ、佑奈ちゃん! 笑ってないでなんとかして」
「あ、うん。えっと……、橘川さん? 瑛莉華さん泣いちゃうから、それくらいで」
「な、泣きません! 何言ってるのもう……」
そう言ってる瑛莉華さんの目、もうウルウルだってわかってんのかね?
「これは失礼しました。私なりの誠意でしたが……」
「いいの、悲しんでるわけじゃないし。でも、橘川さん凄い。お役所の人なんて、みんな偉そうにしてるとばかり、思ってた」
「ははっ、これはまた辛辣ですね。私もそう思われないよう肝に銘じましょう」
モテおじ課長、いや、橘川さんは最初の印象と違ってけっこう気さくな人っぽく感じる。まぁ、こういう演技なのかもしれないけど。
「それにしても、小惑星の形が変わったと報告を受けた時はさすがの我々も耳を疑ったものです。核ミサイルを撃ち込んだとしてもそれほどのことが出来るかどうか?」
聞くべき話、話すべく話を終えた俺たちはお茶菓子をいただきながら談笑していた。いやほんと、最初の状況からすれば随分打ち解けたなぁ。
「距離とか大きさとか関係ない感じ。認識さえできれば、なんでもやれる……と、思う」
「なるほど……。とは言え、ほんとうに凄い……」
改変、ある意味核より強し!
こっわ。
しかし、こうやって改変のことを人に説明する日が来ようとは。こうなるって瑛莉華さん、わかってたのかな?
***
橘川さんは次の予定があるということで、俺たち二人は無事解放された。俺たちの今後の扱いについては追って連絡するってことだけど、俺的にはもう連絡してこなくていいわ。めんどくさいから。
で、最寄りの駅までキッチリ送ってもらえた。帰りは普通にタクシーだったけど。
「佑奈ちゃん、今日はお疲れさま。色々あったし、お話もたくさんしたけど……、あの人たちに心を許してはだめよ? 彼らは国に仕える人たち。もちろん悪い人たちではないけど、今後彼らが何か言ってきたとして……、それが佑奈ちゃんにとって良いことばかりとは限らない」
瑛莉華さん、最後にぶっこんで来た。
けどそれくらい、さすがの俺だってわかる。個人の想いと仕事はまた別だ。ま、あの人たちの場合、その仕事が国に関わることだから規模が違うけど。
「うん、わかってる……」
「そう……、それならいいの。じゃあ今日はこれで。佑奈ちゃん、明日は帰省でしたね。気を付けて帰ってください」
そう言って、最後に俺の頭をひと撫でし、またタクシーに乗り込んで去っていった。
まったく、撫でるのは余計だっつうの。
「寒っ!」
はよマンションに戻ろ。澪奈たちもう買い物から帰ってきてるかな?
絶対ぶつくさ言われるわ。
つらい。




