【66】オハナシしましょう?
「……うぅん……、んぁ?」
朝方近く。
何とは無しに目が覚め、何とは無しにスマホに目をやった。ほんとたまたまだ。たまたま目が覚めたまたまスマホを見た。
「……瑛莉華……さん?」
瑛莉華さんからLINIEが入ってた。時間を確認すればまだ五時前。この時期のこの時間、まだ外は真っ暗だっていうのに。
コメの投稿時間を見れば四時三十六分。十分前くらいの投稿だ。
「ふぁ……、なんでこんな早朝に?」
俺は起きたら途端にもよおしてきた尿意に従い、スマホを手に取りつつトイレに向かう。澪奈や奈津美さんたちを起こさないよう静かに動かないとな。
便座に座り用を足しつつ、瑛莉華さんのコメを確認する。
…………。
「は?」
見た内容に目を疑った。
俺、まだ寝惚けてるかな?
もう一度しっかり、じっくり確認する。
短く二つのコメントが投稿されてた。
『バレました』
『朝一で会いたいです』
ま、まじ?
バレたっていったい何がバレたの? なんて突っ込む余地もなく、そんなの思い当たるのは一つしかない。
観測センターに突撃してからすでに一週間とすこし経った。今日まで何も無かったし、もう大丈夫じゃね? とか思ってたのは甘々だったみたいだ……。まぁしっかり隠蔽工作したわけじゃないし、そもそも素人の俺たちにそんな手の込んだこと出来るはずもなく。
やっぱバレちゃったわけね。
くっそぉ、明日実家に帰るってときに、厄介な……。
でもこうなったら仕方なしか。
とりあえず返事しとこ。
『了解。どこで会います?』
朝からめんどくさいけど対応しないわけにもいかない。澪奈たちになんて言おう?
今日はみんなで買い物行く予定だったんだけどなぁ……。
いや、買い物は正直どうでもいいけど、行けなくなった言い訳考えないとなぁ。
っていうか、今日だけで済むのかも微妙だ。何がどう転ぶかわかったもんじゃないし、とっつかまったりしたらどうしよ?
最悪、そん時は能力全開でバックレるか?
ああ、何聞かされることやら。
そんなこと思い悩んでたらコメが返ってきた。
『朝早くからゴメンなさい。 早いけど八時に近くのコーヒーショップで。みんながいるでしょうから外に出て話しましょう』
『了解です』
とりあえず、返事したけどまじどうやって抜け出すかね?
一人で居ればこんなことで悩まなくて済むのに。
やっぱ人間関係はメンドクサイだけだわ。人付き合い、ほどほどにしとこ……。
ま、家族にそれは通用しないのがツライとこだな。
***
「佑奈ちゃん、朝早くから呼び出してごめんなさいね」
「いえ、お待たせしてすみません」
澪奈やめぐちゃんの「なんで?」、「どうして?」攻撃からなんとか逃れ、無事約束の時間にコーヒーショップに来れた俺だった。結局、変に誤魔化さず、正直に瑛莉華さんと会うからと言って抜けてきた。
まぁ、会う理由についてはプライベートだからと言って切り抜けた。これに関しては奈津美さんが助け船だしてくれたのが大きい。さすが大人の女性! 胸もでかいけど心もでかい! いや、広い!
それでも、澪奈たちにはこの埋め合わせは絶対するって約束させられた。チャッカリしてるわ、ほんと。
「早速だけど……昨日の午前中、国のとある情報機関から連絡が入りました。一度話を聞かせて欲しい……と」
え? 昨日の午前? それってクリパ前ってことじゃん。
「なにそれ? それでよくクリパ出れたね? ……あれ? でも私にはなにも連絡なかったけど……」
「そこは私が話をつけました。もとより任意の出頭依頼でしたし、佑奈ちゃんへは私から話を通すからと、直接の連絡は避けてもらいました」
まじかぁ。っていうかよく聞き届けてもらえたな。でも国の機関からって……、どこだよそれ? こっわ。任意って言うけど、そんなのほぼ強制だろ?
「な、なんかありがとう? でもそんな無理通さなくても良かったのに……」
瑛莉華さん、なんとなく元気無かったのはこのせい?
「ふふっ、いいんです。佑奈ちゃんには未来視の件では頑張ってもらいましたし、クリスマスパーティーもちゃんと楽しんでもらいたかったですし」
まぁ、瑛莉華さんがそう言うならいいんだけど……。
「ま、いっか。それでこの後の予定はどうなるの?」
「はい、実はここに迎えがきます。あちらが公用車を出してくれるそうなのでそれに乗って情報機関の施設へ移動し、そこで話しをする段取りです」
「うげっ! マジ? こ、心の準備が~」
突然すぎる~!
「かえってその方がいいのでは? 下手に時間を空けると余計もやもやしますからね。面倒なことはさっさと済ませちゃいましょう。ね?」
「そりゃ、さっさと済ませればいいけど~! 大丈夫なの? なんかやばくない?」
「大丈夫です。大丈夫。それにほら、いざとなったら佑奈ちゃん、あなたがいますから。くすっ、頼りにしてますよ、佑士さん!」
ちょっと~、こんなときだけ男の時の名前だすなんてずっる!
けどまぁ考えてみたら瑛莉華さんには未来視があるんだった。その瑛莉華さんが大丈夫って言ってるんだからほんとに大丈夫なんだろう。
待つこと十五分ほど。
待ち人来たり。
来たのは三十代前半くらいに見える、ひっつめ髪をしたスーツ姿の女性。どこにでも居そうな年増のお姉さんって感じの人だ。いたって普通。
おばさんって言ってはいけないのがお約束な。
「大変お待たせしました。少々道が混んでいまして……。それにしても、聞いてはおりましたが、その、随分お若くて、可愛らし……」
むぅ。
初対面のおばさんにそんなこと言われる謂れはない! おっと、おばさんって……、いや、口に出してないからセーフ!
ちなみに俺のカッコはダウンジャケットにスキニーデニムパンツ。髪はポニテだ。ま、いつもの外出時のスタイルで特に可愛い要素なんてない!
で、瑛莉華さんはビジネススーツ。これもある意味いつもの姿。まじめか!
「あ、これは失礼を。で、では参りましょうか」
「はい、よろしくお願いします。佑奈ちゃん? 行きましょう」
「は~い」
っていうか親しくもなんともない人の前で佑奈ちゃんって言うなし!
お姉さんの後についてコーヒーショップから出る。ここでの飲食代、出してもらえた。朝めし食ってなかったからコーヒーの外にパンケーキを食べてたのでラッキーだった。ま、どうせ経費で落ちるんだろ? もっと食べときゃ良かったわ。
いや、もう食えないけどさ。
「どうぞお乗りください。目的地まで三十分少々かかるかと思います。到着までごゆっくり」
迎えに来た車は某大手自動車会社の100年とか一世紀って意味な車名のやつ。また御大層なやつで来たもんだ。まぁ乗り心地も装備も最高だから文句はない。おば……お姉さんは助手席に乗り込み、俺たちは後席。ふむふむVIP待遇!
はぁ……。
そんなわけないな、ない。
しかし、話聞きたいって言うけど、いったい何話すんだ?
なんで不法侵入したんだ、とか?
小惑星の軌道が変わったきっかけについて……とかか?
いや、それを連想するのはさすがに無理あるか。人がどうこう出来るレベルのもんじゃないし。
ま、俺はやったけどな!
うん、考えてもなんもわからんことが分かった。
「佑奈ちゃん、この先色々聞かれると思うけど……」
瑛莉華さんが小声で話しかけてきた。いいんだろうか?
盗聴とかされてない?
いや、映画の見過ぎか?
いや、今どきのIT技術をもってすれば普通に可能だわ。
「うん? なに?」
「ありのままを話せばいいから。隠し事とか無しで、ね」
「へ? ええっ! い、いいの?」
やべ、ついでかい声だしちまった。
いや、まじでいいの? しゃべっちゃって?
「うん、聞かれたら……だけどね。まああれです、私たちみたいな素人が変に誤魔化しても……ね。それに……」
「それに?」
「……いえ、なんでもない。ほら、もう着くみたい。お話はこれくらいにしておきましょう」
な、なんだよもう。
そんな言い方、気になって仕方ないっつーの!
思わせぶり禁止!
でも、まぁ、瑛莉華さんは前からそうか。
三十分と少し。
言われた通り目的地へと到着した。
官公庁のビルが立ち並ぶ一角、とある高層ビルの地下駐車場に止まった高級公用車から降ろされた俺たち。
「ありがとう」
乗せて来てくれた運転手さんにしっかりお礼言って降りた。
めちゃ猫被って、可愛らしく言ってみた。
瑛莉華さんに呆れた目で見られた。
ふふん、何ごとも第一印象大事。ヘタレな引きこもり系社会人なりに必死!
まぁ完全スルーだったが。
「かわぃ……こ、こほん。ではご案内しますが、入場の際はこちらを通してください。ゲスト用のICカードになります」
何も印刷されてない無機質なカード。胸の前にぶら下げられるよう、ひも付きのケースに入ってた。ちょっとダサい。まぁ見た目なんてどうでもいいから首から下げる。
お姉さん先導で、俺たちは二人並んでついていく。
さて、どうなることやら?
俺氏、いざとなれば遠慮しないからな!




