【62】クリスマスパーティー(前)
「む~、きいろちゃんの姿が見れなくてちょっと残念~」
「それくらいのことでいちいちカバーめくるのメンドクサイ。あきらめて」
奈津美さんの車を地下駐車場の俺の愛車の横に止めてもらって、降りてきためぐちゃんからの第一声がこれだ。他に言うことあるだろ?
「もう萌美、まずは挨拶でしょ? 佑奈さん、わざわざこんなところに止めさせてもらえるよう手配してもらってすみません。でも、助かります」
「気にしなくっていいです、けっこう空いてるとこ多いから……、ちゃんと手続きすれば止めさせてもらえるんで」
今どきは車持ってない入居者も多い。俺の両隣も普通に空きスペースだった。とは言え、セキュリティがどうのと最初は渋ってたけど、なんとかコンシェルジュをまるめこんで止められるようにした。ま、それなりに必要だったけど、それは言わないでいいだろ。
「お姉ちゃ~ん、おひさし! 荷物いっぱいあるから、運ぶの手伝って~」
こいつめ、礼儀正しい奈津美さんを少しは見習え。
「へいへい、まったく姉使いの荒い妹だわ」
SUVのリアハッチが開けられ、そこから次々大きなカバン出てきて草。ちなみに今晩はみんな俺の部屋に泊ってく手はず。澪奈が勝手にそう決めてきて俺に事後承諾求めてきたときは絞めたろかって思ったわ。
「見た目はゆーなさんが妹だけどね~」
「めぐちゃん、うっさい」
「まぁ、その通りだから、仕方ないね!」
「澪奈~、そんなこと言う? 私、今回色々協力してあげてるのに、そんなこと言う?」
「あ~、お姉ちゃん、ごめん、ごめんって! もちろん感謝してる、感謝してますって。ね、めぐ!」
「うんうん、してる、してる~! お姉さま!」
まったく、いつもいつも。ほんと懲りないよな。
結局、澪奈とめぐちゃんは奈津美さんの車に乗せてもらい、一緒にここまで来た。奈津美さんもこいつら乗せてきてさぞうるさかったことだろう。
ってことで、こんな感じでわちゃわちゃしながらもみんなで俺の部屋まで移動した。ついでにコンシェルジュからパーティールームの鍵も受け取ってきた。注意事項がまとめられた冊子も一緒に渡されたので澪奈に投げ渡す。
ちょっと不服そうな顔をしたけどそんなの知らん。おまえ、責任もってちゃんと見とけ。
***
「私と澪奈でこっちの部屋使うから、奈津美さんたちはそっち使って」
戻ってまずやったのは部屋の割り振り。
一人で使ってる分には手に余るくらいだけど、四人で寝るとなるとちょっと困る。
当然人数分のベッドがない。
妹がしょっちゅう遊びにくるから奈津美さんたちに割り当てた部屋に一つは置いてある。普段はソファで、広げるとベッドになる奴だ。
「澪奈は床で寝るのでOK?」
「いやなんで? お姉ちゃん一緒に寝ようよ」
「う~ん、でもなぁ、澪奈寝相悪いし……」
「いや、私悪くないから。寝たらそのままピクリともしないし!」
冗談めかしながらそんな話をする俺たち。
「なっちゃん、寝袋持ってきた? 私、それで寝るから、なっちゃんはベッド使いなよ~。部活で雑魚寝とか慣れてるし~」
「一応あるけど車に置いたまんま。久しぶりなんだし、私たちも一緒に寝ようよ」
「う~、まぁそれでもいっか」
あっちもまぁ、どうとでもなりそうだけど……、
「あのさ、一応来客用にお布団あるから。ちゃんと澪奈の分もある。部屋の収納にしまってあるから好きに使って」
「わ~、マジ~? ゆーなさん、神! 感謝~!」
マンション借りた当時、両親が見にきた際に用意してくれたやつ。いや、初めて役にたつわ。
割り振りが済んだらトイレとかお風呂の説明をざっとして、いよいよパーティールームへ移動することにする。パーティーは午後三時スタートの予定。
今の時間は午前十二時な訳だけど、お昼はコンビニで買ったパンとかおにぎりで軽く済ました。夕方にメインが控えてるし、腹八分目ってね。
パーティー用の荷物を皆で抱え、エレベーターで部屋がある階まで上がる。運よく最上階の一角にある部屋が取れたし。
「おお~、すっごい! うわ、見晴らしサイコー!」
「ほんとだ! 見て見てみーな、富士山見える~!」
てめーら騒いでないで準備しろや。富士山なら俺の部屋からでも見えるだろ~が。まぁカーテン締め切りで気付けないかもだけど。
「ほんと、キレイだね~、地元じゃなかなかこんな景色見れないね」
今日のために準備したってグッズが色々出て来るなか、けっこう奈津美さんもノリノリなんだけど。注意してくれる人がいねぇ!
部屋の構成は2LDK。質素ながらも白い壁にぴっかぴかフローリングはいい雰囲気。リビングには大型の液晶TVが置かれていて、一通りのAV機器が揃えられてるから映画や音楽とかも楽しめる。一応トイレとかバスルームもある。ま、使ってしまうとあとが面倒だからバスルーム使う予定はないけど。
十人程度なら余裕で座れるテーブルセットも標準装備されてて、パーティールームって名がついてるだけのことはあるな。
そんな感じで部屋のものがバッチリ活用できるから、俺たちがやるのは主に飾り付けだ。と言ってもその辺は澪奈にお任せな訳だが。
じゃ俺は何するかと言えば、特に何もない。
すること無い。
いや、逆に邪魔だからその辺に座ってろとまで言われた。
圧倒的疎外感!
だがそれがいい。
しなくていいならしない。楽でいいわ~。ゲームしよ。
時間が経つにつれ仕上がっていくパーティールーム。
料理とかは基本的には宅配サービスで届けてもらうんだけど、軽いものは奈津美さんと澪奈が用意してくれてる。飲み物とかもな。
唯一俺がしたことがある。
クリスマスツリーの設置!
いや、大変だったわ、ツリーにあのピカピカ光るやつ巻き付けるの。あといろんな小物とか。あの飾り付けだってセンスいると思うの。すごかろう!
和気あいあいとした雰囲気で適当にだべったりおやつを食べたりしながら準備をすすめ二時間ほどでだいたい整ったところで、女子共はおめかしタイムに突入した。キッチリ準備してきてるようでなによりである。ようやるわ。さっきまでの服でいいだろ?
「はい、お姉ちゃんもちゃんとお着替えしましょうね~」
「え? うそぉ? 私、このままで……」
「そんな部屋着、だ~め、ほらほら、こっちきて~」
俺はあえなく澪奈&めぐ地獄に引き込まれた。
奈津美さんはそんな様子を笑いながら見てた。着替える様子も特に見せない。
くぅ、奈津美さんの薄情もの~!
***
全ての準備を終え、一息ついたころ。
いや、俺はついてないが!
「あ、お姉ちゃん、モギモギからLINIE入った。もう下に来てるって!」
「え? あ、ほんとだ。じゃ、迎えに行ってくるわ」
スマホ確認すれば、確かに入ってる。時間も二時四十分をまわったところ。いい頃合いである。ちなみにLINIEはパーティー用にグループ作ってあって、みんなメンバーになってる。ま、使ってるのは、ほぼほぼ澪奈とめぐちゃんだけだが。
『佑奈ちゃん、私も着きました。茂木さんたちと一緒にいます』
「っと、瑛莉華さんも来た。一緒なら楽でいいな」
どうやら瑛莉華さんも同じタイミングで登場か。つうか瑛莉華さん、茂木クンと会ったこと……ない、よな? って思ったけど、それはもう考えるだけ無駄か。瑛莉華さん……だもんなぁ。
「じゃ、行ってくる~」
一階エントランスホールのロビーに向かう。
エレベーターに乗り、ふと鏡に映る自分の姿になんとも言えない気持ちになる。
「なにやってんだろ、俺……」
めっちゃガーリー。俺もう二十四なんだけど。いや確かに似合ってるし可愛いんだけど……。なんだかなぁ? って気分になってしまう。
アイボリーの開襟ニットセーターの襟は、セーラー服の襟並み大きさがあってしかも色は赤。前はボタン止めだけど、そのボタンも赤。袖口も当然赤。完全クリスマス仕様だよなぁ、これ。まぁ黒のロングスカートは落ち着いてていいけど、これで外には出たくないわ。髪もハーフアップってやつにされてて、ちょっとお上品なお嬢様みたいな感じにされた。
この、俺じゃない感……。
あいつら絶対俺で遊んでるだろ?
ちなみに服は母さんに買ってもらったらしい。写真撮ってLINIEで送られてしまった。
うん、母さんもグルだったわ。
エレベータを降りて、ちょっと俯きかげんで歩いてたら声かけられた。
「は~い、佑奈ちゃん、こっちですよ」
「こっち、こっち~!」
あれ? 最初の声は瑛莉華さんだけど、もう一つは? え、女の子?
俺は驚いて顔を上げた。
「げっ」
自然とそんな声がでた。
「いけないんだ~、佑奈ちゃん。可愛い女の子がそんな言葉~」
な、なん、だと。
「やっほ~! 佑奈ちゃん。来ちゃった!」
いや、来ちゃったじゃねぇわ!
目の前にいたのは前髪パッツンな癖っけショートヘア。一見しただけならまじめ女子。しかしてその実態はスーパーはっちゃけうざうざ女子!
「し、式守……さん? ど、どうしてココに?」
「佑奈さん、ゴメン。バレちゃいまして……」
気まずそうにあやまる茂木クン。お、お前なぁ……。
「もう佑奈ちゃん、奏多でいいって前も言ったじゃん、ほらほら」
「あ、あはは。奏多さん……、えと、いらっしゃ、い?」
奏多まで襲来した。
あ、あいつら、知ってたな~!




