【61】人間模様。なんやかやで忙しい、なんでぇ?
瑛莉華さんに代車の返却がてらマンションまで送ってもらい、風呂に入って部屋着ジャージに着替えたことでようやくほんとの意味でゆっくりできた気がする。
俺が眠りこけたせいでワンボックスの返却期限を一日オーバーさせてしまい、申し訳なかったわ。
それにしても、ここ最近あまりにも忙しいが過ぎた。
あまりにも俺らしくないことの連続だった。
もう当分なにもしたくない。
……うん、事あるごとに同じようなこと考えてる気がするな。
でもって、今回もそうは問屋が許さないとばかりに週明けから予定が控えてる。
超メンドクサイ。
でも、とりあえず今はグータラしよう。そうしよう。
俺はそう心に決めつつ、二日ほどサボって、いやサボるしかなかった日課の株トレをするべく、PCの電源を入れた。
あれぇ?
***
「主任、計算結果出そろいました。やはり衝突回避は、間違いありません。良かったです!」
「そうか! どれ、見せてくれ」
――首相の臨時会見が終わってから三日。
今回の騒動における情報発信元であった観測センターの代表として官邸へ出張していた私は、会見のあともしばらくマスコミ対応などに追われた。
一日休みをもらい、疲れを多少癒したところで職場に出たわけだが、帰ってきた私への最初の報告はどうやら嬉しいものであったようだ――。
「七か国、全ての観測センターの計算結果がそろっています。うちもPC環境や計算ソフトのアルゴリズムの見直しが奏功して他所と歩調合せられたんですよ!」
「ははっ、それは良かった。私も設備更新に苦心した甲斐があったかな?」
彼女を前に軽口で答えつつ、渡された資料を流し見る。
いつもながらわかりやすくまとめられていて感心する。これなら確認したい事項をすぐ読み取ることが出来る。
「うぅむ、確かに。いやありがとう。総理の臨時会見での発言に一抹の不安もあったが……、これで一安心だね」
「はい! この資料に関してはメールでもお送りしてありますし、関連データも全て共有フォルダに投稿済ですのでそちらをご確認いただければと」
「うん、そうしよう。……ところで、深町君はどこに行ったか知ってるかい?」
深町君はこの部署で私付の研究員であるとともに、部の管理やその他雑事など、庶務的なことをお願いしている人材だ。
「ああ、深町さんなら総務部に行ってると思います。えっと、代田主任にご用だったみたいですけど、不在でしたので変わりに連れていかれました」
「そ、そうか。そういうことなら私も顔を出してこよう」
警備部に行くのは少しばかり気は重いが……、深町君が気の毒だ。早く行ってあげるとしよう。
***
「あ、代田主任~!」
警備部に顔を出した途端、深町君の縋るような声が私の耳に飛び込んできた。深町さんはうちの部署では一番若手の女性研究員。体力と頑丈さが売りであるこの職場に呼び出され、彼らに囲まれてはさぞ肩身が狭かろう。
「おお、代田主任、いや助かった。深町さんではてんで要領を得なくってね……、ちょっとコレを確認してもらえませんか?」
俺の後ろに逃げ込んだ深町君に苦笑いしながらも示された画面を見る。映っていたのは背の高い気の強そうな女性と、高校生くらいに見える小柄な女の子。どちらも私服姿で、うちの職員ではなさそうだ。しかし、ちらりと見える女の子髪の色、すごいな。今どきの子はこれが普通なのか?
いやしかし、まてよ。この二人、どこか見覚えが……。
なんだこの既視感は。
「こ、これ……は、いったい」
「これは五日前のセンター受付での防犯カメラ映像です。定例のデータ更新を前に内容チェックしていた際にこれを見つけました。この時間帯、来客の予定はなかったはずですが実際にはこの二人がこうして映っています」
ううっ、この二人……なんだ。見ているとなんとも言えない気分になる。
「受付も普通に対応し入場を許可していますし、代田主任、そちらからも今日、今に至るまでどのような報告も上がってません。そう、なんの問題も起こっていませんでした。このカメラ映像を見るまでは」
「ううん……、た、確かその日は……」
記憶に霞がかかったかのようで、思い出そうとすると頭の奥底がとても重く感じ、体がそれを拒否しているかのようだ。
それでも……少しだけ、なんとか記憶の片りんに触れることができた。
「た、確か……取材、そう、取材に誰かが訪れてきたはずだ」
私は、それだけどうにか思い出し……、答えた。
「はい、そうです。代田主任がおっしゃるように受付の記録にもそう記載されていました。アポイントもなにも取られてなかったにも拘わらず、受付はそれに素直に応じ、代田主任、あなたの部署からも特にそれに関しての問題は上がってこなかった。変だとは思いませんか?」
むぅ。
言われてみれば……、確かに。
「記載されていた内容はこうです。『LRあべこべ新聞。記者、山田はな子、そして助手の鈴木けい子』。軽く調べてみましたがそんな名前の新聞社は存在しません。名前にしてもいかにもな名前で、これ、どう見たって偽名でしょう」
「そ、そのよう……ですね。それで? どうするんです」
気味は悪いが、これといって被害出たわけでもない。いや、むしろ、何かすごく大事なことがあった気がするのだ。
なのに、その時のことを何も思い出せない……、そう、思い出せない!
たった五日前の。あの小惑星の軌道が変わったかもしれないことに気付いた、あの時、あの場における記憶!
小惑星の形が変わったことに気付けたあの時の状況。
私はどうしてそんなことすら今の今まで気にも留めなかったのか?
「何もなかった……、少なくとも今現在問題は出ていないとはいえ、不審人物が出入りしたことは事実です。ですのでこのことは一応上に報告します。そちらにもなにがしか話がいくことがあるかもしれませんので、そこはご承知おきのほどを」
はぁ……、ま、そうなるか。
もう面倒ごとは勘弁してもらいたいものだが、仕方ない。
「なるほど、わかりました。留意しておきましょう。用件は以上ですかね。……では、深町君、戻ろう」
「あ、はいっ」
私は深町君を連れ、そそくさと自職場へと戻った。
やれやれ、何事もなく済めばいいがな……。
***
『お姉ちゃん、いよいよ明日だけどほんとにお部屋とれたんだよね? 今さらやっぱダメだったとか言うの無しだからね!』
俺、もう寝ようと思ってるのに妹からのLINIEがなかなか止まらない。昨日くらいからあれやれ、これやれとひっきりなしにLINIEのコメが入って来て、もうたまらんわ。
『ああもうしつこい。大丈夫だから。ちゃんと抽選当たってるから。だから安心してこっちきて』
妹が言ってる部屋というのはマンションにあるパーティールームのことだ。どこから調べたか知らないけど、クリスマスパーティーするのに、そこ使えないかって妹に聞かれ、コンビニ行くついでにコンシェルジュに聞いたら普通にあるって言われた。
ま、フィットネスやプールだってあるんだし、そんな部屋くらいあるかと、納得した。
せっかくなのでその場で速攻予約入れようとしたら、そもそも部屋数が少なく、しかもイブのその日は当然人気も高いので抽選だって言われた。しかもすでに締め切り三日前っていうね。
ま、結果的には取れたんだけど。
俺の強運すげぇ。
最悪、改変使って当たり操作するって荒業もあったけど、使わずに済んだ。まぁ、うちのマンションにこだわらなくても世の中にはレンタルルームとか腐るほどあるし、そこまではねぇ。
やっぱズルはよくない、よくないよね。
『じゃあそろそろ寝る。明日ちょ~楽しみ! おやすみ~』
『おやすみ。明日は気を付けてきてな~』
『は~い』
お約束な、お休みのスタンプをいくつか貼って澪奈は落ちた。
「はぁ。明日かぁ……。準備とか色々メンドクサイなぁ。でもお世話になった人に御礼するにはちょうど良かったともいえるし……」
明日の参加メンバー。
このメンバーでパーティーと早々ないかもしれない。別々では会ってても一堂に会すなんてことほぼないだろうし。
めぐちゃんに奈津美さん、それに澪奈。ここまではまぁありそう。
けど今回は茂木クンにもちゃっかり声をかけたらしく、あいつめ即答で来るって返事きたらしい。女ばっかのとこによく来れるよな。俺なら絶対無理だ。
まぁいいけど、絶対ネタにされるわ。めんどくせぇ。
それに加え俺からのお願いで、更に一人追加させてもらってる。それが瑛莉華さんだ。
瑛莉華さんにはほんと~に、色々お世話になった。まぁちょっとストーカーの気はあるけど……、それはそれ。仕方ないことでもあったし、割り切れる。
本人も喜んで受けてくれたし。
ってことで明日はそうそうたる顔ぶれ。
俺のマンションでもさすがに手狭ってことでパーティルームの話にも繋がるわけだ。
めぐちゃん
奈津美さん
茂木クン
瑛莉華さん
澪奈
そして俺。
総勢六人でのパーティー。
たかが六人。
でも引きこもり系社会人の俺にとっては十分多い。多すぎって言ってもいい。
ああ、何ごともなく無事済みますように。
そう願いつつ、俺も寝ることにする。
おやすみぃ……




