【60】終結からの日常?
観測センターを出て車に乗り込んで帰途につくやいなや、俺はまるで気を失ったかのごとく爆睡した。いや、してたらしい。
瑛莉華さんが俺の体を揺すって、半ば強引に起こしてくれたから起きたけど……そうでなきゃまだまだ寝てたはずだ。
周りの景色を見れば、高層ビルが立ち並ぶ見慣れた景色になっていて、俺のマンションまでそうかからないところまで戻ってきてる感じだ。しっかし、まだまだ体は睡眠を欲してるようで、ほっときゃまたすぐ寝てしまいそうだ。
ここまで疲れ切ったのって過去を振り返ってみても初めてじゃないかな?
昨日の改変、想像以上に負担かかってたのかもな。知らんけど。
「今日はとりあえず解散しましょう。佑奈ちゃん、お疲れさまですからね。私も正直きついですし……、この車返したら休むことにします」
「う、うん。そうしてもらえると助かる……。あ、それと……、ずっと運転させちゃってごめんなさい」
行きも帰りも瑛莉華さんに頼りっぱなしだ。二十四歳にもなった元男としては、情けない限りだ。
「ふふっ、気にしないでください。佑奈ちゃんにはそれ以上の、あなたにしかできない大切なお役目を無事果たしてもらったんですから。これくらいはさせてください」
「そ、それはそうかもだけど……それ言うなら瑛莉華さんだって……」
会話しながらも眠気の波がどんどん押し寄せてきてきちい。くぅ……、今にも寝て、しまい……そ――
「佑奈ちゃ……、え? あらあら、また寝てしまいましたか。う~ん、これはもう仕方ない……、お持ち帰りしちゃいましょう!」
***
『国民の皆様にこのことをお伝えするかどうか、私としても大変悩みました。ですが、やはり真実をお伝えすることを決断いたしました。嘘偽りなく、誠実であれ。私の政治信条的にもそう判断することが妥当と考え、改めてこの場を用意させていただきました』
「ん……、ううん……」
なんか、うるさいなぁ……、TV? TVの音か?
「あ、佑奈ちゃん、目が覚めた? 良かった、ちょうど始まったところです」
「ん? んん? ほぇ?」
ちょ、なんで、なんで瑛莉華さんの声すんの?
あれ、家のベッドじゃ、ない、だと?
ここ、どこ!
「くすっ、佑奈ちゃん、お寝坊さんですね? もう十時ですよ」
「え? なにこれ? どういう状況? なんでなんで?」
「ここは私のマンションです。事情はあとで。それより今はTVを見ましょう。官邸からの臨時の会見、始まってますよ」
瑛莉華さんのマンション? ええ、俺お泊りしちゃったの? いつの間に? ええ?
俺は知らない部屋のソファに寝かされてた。かけてもらってた毛布が起きた拍子に床にずり落ちたので慌てて拾う。
ああ、やっちまった。まだ一応若い、独身女性の部屋にお泊りしちゃったわ。
『……ということから、関東平野のいずこかに小惑星が落下することは間違いなく、避けるべくもないとの見解が専門機関を通してありました。本日は国民の皆様にそのご報告をいたすと共に、首都圏のみなさまにおきましてはまことに遺憾ながら、可及的速やかに集団疎開をお願いするための会見となる……はずでした! しかし、しかしです! なんと言いましょうか、奇跡が起こったのであります』
「おおぉ……、総理がしゃべってる……」
「もう佑奈ちゃん、しゃきっとして? あなたが頑張ったからこその、この会見ですよ」
「あはは、そ、そうなの、かな? なんか、まだ実感が。それにほんとにうまくいったかはまだ……」
『……でありますので、もう集団疎開の必要はほぼほぼ無くなったと言えるかと思われます。もちろん、変わったであろう小惑星の軌道の正確な計算結果が出るのはもうしばらくかかるかと思いますが……「危機は去った」と、ご報告申し上げるのは間違えようのない事実でありましょう!』
いやもう、さっきからまわりくどすぎで草。
でもまぁ、総理、めちゃ安心した顔してるな。
ま、そりゃそうか。集団疎開もそうだけど、実際小惑星が落ちるとなったら色んなプレッシャーで大変なことになってただろうし。被害も損害もとんでもないことになって、そこら中から責めまくられて、心労でぶっ倒れコース待ったなし! ってな。
『……そうしたことから、結局落下しない……となれば事を内密に処理し、この事案そのものを知らしめないという選択肢も当然ありました。ですが、ですがです。こうしてすべての事実を国民のみなさまに打ち明け、ご報告させていただいた訳であります! これこそが私、そして政権与党の誠意のたまものであると、ご理解いただければ幸いなのであります』
あ~あ、そんなこと言わなきゃいいのに。
冗長な総理の発言終了とともに、待ってましたとばかりに、会見に参集していた記者たちの質問攻めが始まった。いや、すっごい騒ぎ。総理がんばれ~。
「まぁ、こんな感じですね」
瑛莉華さんがTVを潔くプチっと消した。
「あ~、まだ続いてたのにぃ」
「あら、見たかった?」
「え、いや……、別に」
ま、どうでもいいかな。それよりも……、
「え~っと、そのぉ、なんか迷惑かけちゃった?」
「はい、それはもう、たくさん」
「う~、ごめんなさい。ほんとすみません~!」
「眠ってしまった佑奈ちゃん、ここまで連れ来るのにどれだけ苦労したことか。佑奈ちゃんのマンションに連れて行くわけにもいかず……、ほ~んと大変でした」
それを聞いた俺はもう、打ちひしがれてただただ謝るしかない。
「まじ、大変ご迷惑おかけしました~」
「はい、受け取りました。だからもういいですから、ね。ですから……改めて、ちょっと確認、というか、お話聞いてください」
瑛莉華さんがすっと真面目な表情に変わり、俺も慌てて居住まいを正した。
「まずは佑奈ちゃん、昨日はほんとお疲れさまでした。長い間の苦労が報われて、私はほんとうに感謝に堪えません……」
そう話し始めた瑛莉華さんの目はもう潤みだしてる。昨日もだけど、なんからしくないくらい感情露わで驚きだ。
「あ、あのさ。昨日もだけど、確かに改変は成功したし、それに関しては自信あるけど……、まだ最終的にうまくいったのかはわからなくない? そこまで喜ぶの、気が早くない?」
でもまぁ、総理もTVでああ言ってたし……、きっと大丈夫なんだろうけど。
「ああ! それはですね、未来視……のおかげです」
「え? でも未来視って、これに関しては……えっと、先が見えないって言ってなかった?」
「確かに、そうだったんですが……。ごめんなさい、昨日お伝えすればよかったのですが、感極まっちゃってて、それができませんでした……」
そう言って苦笑いしながら俺の頭を撫でてくる瑛莉華さん。いやまた撫でてくるんか~い。つうかお風呂入ってないしベタついてるし、あまり触んないで欲しい。
「うん、とりあえずわかった……、それで?」
なんなん、なんなん?
「佑奈ちゃんが改変した直後。未来視、出来たんです! 見えたんです、見えなかったその先が!」
「えっ、まじ? じゃ、じゃあ……」
「はい。間違いなく、間違いようもなく成功です。……小惑星落下は回避されるんです!」
そう言い放った瑛莉華さんはそのままの勢いで俺をおもっくそ抱きしめた。そんでもってまた泣いてるし。
「わぷっ」
なんかさ、昨日もあったよ同じこと。俺氏、瑛莉華さんの胸で窒息しそう。
あは。
でもさ、まじ良かった。
レベルアップ頑張ってよかった……。
二人でさ、頑張った甲斐、あったわ。うん。
うん!
「ん?」
そんな感動に浸ってたらテーブルに放り出してあったスマホが鳴った。
泣きながら俺を抱きしめてる瑛莉華さんをいなしながらスマホを手に取って確認する。
「お、おう、安定の澪奈……」
けど、あれだな。
ちょっとだけ、ほっとするな。
『お姉ちゃん、TV見た? 見た? やばくない? そっち大丈夫? でさ~、クリスマスの件あるじゃん? そっち行っても大丈夫かな? 大丈夫だよね? ね、ね。いいって言って~』
こいつってば。
一気に気が抜けちまうっつうの!
「ぐすっ、佑奈ちゃん? どうかした?」
「あ、いや、妹からLINIE……きただけ」
「へぇ、いつも仲がいいですね。ぐすっ、それでどんなご用件なんですか?」
聞いちゃう? 聞いちゃうんだ?
「あ~ね、クリスマス、こっちに遊びに来るって話してて、大丈夫だよね? って確認だった」
「あら。そ、そう……ですか。それはまた……。ふふっ、でも、まぁ……よろしいのではないでしょうか? うんうん」
いやほんと。
さっきまでの空気、返して。




