【58】計画実行、我現場に突撃す!
長かった高速走行もようやく終わりを迎え、俺たちは下道に降りた。
いや、まじ長かった。俺は途中で何度か居眠りし、ハッと気づいて目が覚めるってことを繰り返してしまった。「可愛い顔して寝てましたよ」なんてニヤつき顔で言われ、恥ずかしいったらなかった。
市街地と山間部をいくつか通り抜け、ジワジワ標高を上げつつ下道をしばらく走り続ければ、やがて豊かな森が広がるなだらかな丘陵地へと俺たちの車は辿り着く。地図アプリによればもう目的地は近い。
広葉樹の茂る、今は葉が落ち少し寂しくなった森の中を更に進めれば、辺り一帯の中では一番標高のありそうな場所に、森を切り開いて作られただろう施設が見えてきた。
近づくにつれ、施設の様子が確認出来るようになる。そこにはいくつかのコンクリート打ちっぱなしの建物が並んでいて、中でも一番高さのある塔の上部には大型の観測ドームが据え付けられていて、いかにも『宇宙観測センター』に来たんだって実感がわいてきた。
「ここは一部一般にも公開されていて施設内を見学することも出来ます。とりあえず普通に中に入って車は駐車場に止めちゃいましょう」
「あ、そうなんだ? じゃあ……」
変な小細工しなくても、なんとかなったりは……
「もちろん、私たちが行こうとしてるところは立ち入り出来ない場所ですからね」
で、ですよねぇ。わかってますって。
***
「それではここからは予定通りに。大丈夫、私たちのチームならどんなことにも対処できます。失敗などありえませんから楽にいきましょう」
駐車場に車を止め、施設に向け歩き出した。
特に荷物とか用意することもなく、普通に見学にきました~、みたいな佇まいであり、俺の首に小道具のデジカメがぶら下がってるのが唯一の荷物といえる。
他にも何台か車が止まってるのは見学者が俺たち以外にも居るってことで、いいのか悪いのか、高まる緊張感が微妙にそがれる。
ま、俺たちは見学どころじゃないことするわけだが。
「その自信はどこから? 私、胃が痛くなりそう……」
「くすっ、どう転んでも失敗などありえませんし、何より佑奈ちゃんのこと信じてますから。さ、行きましょう!」
まだちょっとビビってる俺の手を瑛莉華さんがぎゅっと握り、そのまま施設に向けて歩き出した。
「あ、ちょっと、引っ張らないで、こけちゃう~」
「ほらほら、しっかり歩いて歩いて」
なんなのこの人、めちゃ楽しそう。もうやだ~。
少し進むと看板があり、直進が見学施設。左へそれれば観測センターとある。もちろん左は関係者以外立ち入り禁止だ。
「はい佑奈ちゃん、覚悟きめて。あんよはじょうず~」
俺は幼児じゃねぇ!
「むぅ、こうなったらもうやけくそ。さっさと済ます!」
俺は逆に瑛莉華さんを先導するかのごとく勢いよく歩き出し、ひときわ高い観測ドーム付きの塔の元までたどり着いた。塔の横に2階建ての建屋が併設されてて、どうやらそこが本命の施設!
「むうっ」
が、ここまできて、俺は入口の自動ドア前で躊躇してしまった。うん、引きこもり系社会人にこれ以上の突撃む~り~。
「はい、無理しないで交代。ふふっ、後ろついてきて、打ち合わせ通りサポートお願いね」
「ふぁ~い」
まぁ普通に公共施設並みの警備状況でしかなく、入り口で守衛さんが通せんぼしてるわけでもないので普通に中に入れた。
ちなみに防犯カメラだってきっとあるだろうけど、ぶっちゃけそこまで手は回らない。出たとこ勝負である。もしあとで問題起きたとしても、きっと瑛莉華さんがなんとかしてくれる、はず。
まぁ、その時は改変使わされるんだろうけど。
瑛莉華さんは物怖じすることもなく受付までスタスタ歩いていく。
見た目はクールで上品な大人の女性を気取って見せてるけど、今、PSY能力使いまくって相手の心理状態やら記憶やらの把握をしてるはず。
「LRあべこべ新聞からきました山田と申します。そちらの観測部門の主任様に取材の依頼を出しておりまして、今日はその約束の日でしたので参りました」
すらすらと嘘を並べたくる瑛莉華さん。なんだよその新聞社……。でもその中に調べてきたホントのことや、記憶とか読んで即興で辻褄合わせしちゃうから凄い。俺も受付のお姉さんの顔を後ろからこっそり窺いつつ、ちびちびと改変を仕掛けていく。恵利華さんの言葉をさも本当であるかのように……。
ヤバそうなときは強引にでも改変し、誤魔化す所存。っていうかそうしてって言われてる。
ごめんね、お姉さん。
「観測部門の主任……、えっと、東山でよろしかったですか? ――取材? そんなこと言ってたかな――、ん? んん、あ~、少々おまちください」
うん、ちょっと怪しんでる感じだったけど、そういうとこは俺がフォローして追及してこないように仕向ける。
しかし瑛莉華さん、組織の情報はどうやってか掴んでるみたいだけど、役職についてる人の名前までは知らないって言ってたんだよな。なんかうまく聞き出してて草すぎるわ。
つっても、聞けなきゃそれはそれで、心読むんだろうけど。
いくつかのやり取り――言った言わないでもめた――をして、その、なんだ、観測部門の主任である東山さんがとりあえずこっちに話を聞きに来ることになった。瑛莉華さんの強気営業恐るべし。
「どうも、観測部主任の東山です。えっと……、あ、あぁ……」
受付脇のロビーで現れた主任さんを出迎えた俺たち。変なことを口に出される前にとっとと改変したった。落ち着かせたところで、瑛莉華さんが記憶を読んでこの先の施設状況や組織的な物を把握していく。
ごめんね、東山さん。
「……では、観測部へご案内します。ついてきてください」
「はい、よろしくお願いします」
「お願いします」
私服の女性二人が作業服姿の男の後ろに付いて歩いていく。クールで美人な瑛莉華さんはともかく、もう一人は十五、六にしか見えないニット帽被ったピンク髪の小柄な可愛らしい女の子だ。
違和感ありすぎてコワイ。
それでもとりあえず施設内部への侵入は果たした。白昼堂々の侵入である。
俺、夜中こっそりコソコソとか考えてたからマジ驚き。ま、ここって昼夜問わず活動してる施設ってことで、夜中でも人が居るんだそうな。
ブラック?
いや、普通に交代勤務なんだと。
それにしても大変ね。
星を観測してるみなさまお疲れさまです。
「代田主任、当観測センターの取材にいらした二人をお連れしました」
案内された部屋はそれほど広くはなく、島状に配置されたPCデスクが二列。壁には書類棚や収納棚が並んでる。部屋のそこかしこに資料が乱雑に置かれ、壁や棚にもデータ的な印刷物がこれでもかと貼りつけてあったり。PCデスク上なんかそれこそカオスだ。
うん、何て居心地よさそうな雰囲気。俺は嫌いじゃないぞ!
「はぁ? ここの取材だって? 今の、この状況で? 東山主任、そんな話、君してたっけ?」
うん、安定の話通らなさ。
そりゃそうだ。
アポなしだし。
話通しようないし。
けどここが正念場。
俺はなけなしの気合いを入れ、東山さんや瑛莉華さんの間を抜け、一歩前に出る。
部屋に居る人たちに、その場にあまりに不釣り合いな俺の可愛い姿を見せつけた。
部屋に居たのは四人。男二人に女二人。少ない。その四人が不思議そうな表情を浮かべ俺を見る。
「こんにちは~! ちょっと失礼しま~す」
「え、女の子? どうしてまた、こんなところに……」
もう一人の主任さん? が何か言いかけたけど全力スルー!
そして全力を持って改変した!
「うう、う……むぅ、……ああ、取材、取材……か。……そう、そうだったか? 一応の資料は渡してあるはずだが……、事がことだ。政府の公式発表とともに広報が流す資料に、もっと詳細な裏付けが欲しいのか?」
「主任、TS24Fの軌道計算の資料出しますか?」
「今さらだよなぁ……、くっそ、でも、例えこれがもっと早くわかってたとしても、結局は同じだったろ? こんなのに対処する技術、今の日本には無いんだからさ」
「前川君、それはもう言うな。ほら、お嬢さん……いや、取材にいらした方々に最新の観測データや処理済みの小惑星画像、見せてやってくれ」
あ、あれ?
なんか話が勝手に盛り上がり出しちゃってるんですけど?
っていうか小惑星画像?
それ!
まさにそれ!
見たいの!
瑛莉華さん?
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