【55】ーAsteroid ーアステロイド
「で、結局私、なにしたらいいの?」
「そう結論を急がずに……、確かに急を要することではありますが、さすがに今すぐどうこうというわけでもありませんから」
ま、まぁ確かにそうだけど。
今日が十二月十日。
一月七日までまだ一ヶ月近くあるといえばある。俺のレベルアップを待ってたくらいなんだから……って、ちょ、ちょっと待って?
待ってください!
「あ、あのさぁ、新野見さん? つかぬ事お伺いしますけど……、これ、もし私がレベルアップ……、今年中に出来てなかったりしてたら……どうなってたの?」
「はい。首都圏は壊滅してたでしょうね、間違いなく。……でも、ちゃんとレベルアップしてくれましたから。問題ないですね」
問題ないですねって……、そんな。
「いや、結果的にはそうだけど! そうだけどさ。なんでそのこと教えなかったのさ? 知ってたら私……、その、きっと……」
いや。
もし知ってしまってたら……俺……。
「……やばかった……かも」
うん、絶対やばかった。つうか病んでた自信あるわ。
「くすっ、そうですね。佑奈ちゃんはその責任の重大さに、きっと押しつぶされて……、こうしてレベルアップを迎えることは出来なかったかも……ですね」
「新野見さん……、アンタ……たった一人で、こんな、こんな重大すぎる未来、知っちゃって……、知っちまって抱え込んで……」
ああ、ダメだ、涙腺が、涙腺がぁ……。
なんでこうもすぐ泣けてきちまうんだ!
元男として情けないんだけど!
俺の意思にはおかまいなく出てきてしまう涙、たち悪すぎ。
「私のことを気にやんでくださりありがとうございます。佑奈ちゃんは本当に優しい子です。いい子いい子」
そう言いながら俺の頭を撫でて来る新野見さん。
「ちょ、子供じゃないんだから頭撫でんな~!」
「ふふっ、照れちゃって可愛いです」
「も、もういいから! そ、そうだ、話進めなきゃ、ね?」
解決したかのようにしゃべってたけど、まだ何をどうやって、何したら対処でるのか、全然聞いてないし!
「はい、そうですね」
その言葉とともに真剣な表情に戻る新野見さん。いやもうアンタ、マジで切り替え早すぎだから。俺、振り回されっぱなし。
「この件に関しては、公表はされていませんが……すでに公的機関においても認識されています」
「え? そうなの? なんだ、そ、そうなんだ! だったら……」
だったら国の力でどうにかなる?
なんなら某大国にでもお願いしてミサイルとかでズド~ンと!
「ですが小惑星の発見が遅すぎました。もちろん政府も小惑星の軌道を変更することが出来ないか色々模索しているようではありますが……」
「核ミサイルとかでドカーンとか無理なの?」
映画みたいにさ。
「それは現実的ではありません。弾道ミサイルは所詮大気圏内外での運用であり、その時点での小惑星の破壊は遅きに失していると言わざるを得ず、逆に被害を拡大する恐れすらあります」
「え、なんで? それってどういう……」
「佑奈ちゃん、小惑星にミサイルがうまい具合に命中したとして……、その対象は綺麗に消滅してくれますか? しませんよね? 仮にバラバラに出来たとしても、それらは対処不能なデブリとなり、流星群となって地上に降り注ぐことになるでしょう」
「うへぇ……」
つうかめちゃ詳しいな、新野見さん。頭の出来が俺とは大違いだ。
「だからこそ小惑星の軌道を変えることが最適策になるんですよ? でも、先ほども言ったように発見が遅すぎたのです」
沈痛な面持ちの新野見さん。そんな顔を見ると俺まで気分が落ち込んできちまうよ。
「その、なんで遅すぎなの? まだ一ヶ月近くあるじゃん。今からでも、なんとかならないの……かな?」
「小惑星は数百キロある大きなものから数十メートル程度の小さいものまで、それこそ無数にあります。今回の小惑星は大きさとしては小さい部類であったことも災いし、まぁ他にも不運が重なって発見が遅れてしまいました。……発見が遅れれば、当然その対処も遅れ、実際まだ具体的な動きには至っていません」
そうなのか?
つうか、この人どうしてそんなことまで?
いや、ツッコミはやめとこう。新野見さんだからな、能力使って色々やってるんだろ。
「小惑星の軌道を変えるのは遠ければ遠いほどその効果は大きなものとなり、与える力は逆に少なくて済みます。距離が遠ければほんの少し進む角度が変わっただけでも地球に到達するころには大きな変化となるでしょう。今回もそうできていれば衝突は免れたかもしれません。実現可能かは別として……」
むうう。
「それでもやらないよりは……」
「準備にはそれなりに時間がかかります。それからロケットを打ち上げたとしても小惑星まで到達させるためにも更に時間がかかりますね。軌道変更の実験は小型の衛星をぶつけることで行われましたが……それにかかった期間は十ヶ月にも及びます。まぁ今回の小惑星は今現在もっと近いところにありますからそこまでの時間はかからないでしょうけれど」
「あ~、もう、わかった、降参。……で、だったら私は何をしたらいいわけ? 全然わかんないんだけど」
俺はそう言って新野見さんの顔を見る。きっと今の俺は情けない面してるに違いない。
「その前に確認です。LV5で得た力は対象を認識、要はそこにそれがあると認識できれば発動させられる。そこに距離は関係ない。そういうことで間違いありませんね?」
「え? ああ、うん。まだ使ったわけじゃないけど、それでいいと思う……けど」
感覚的なものだけど、なんとなくわかる。まぁまた試してみないといけないな。
「それは目視を必要としますか? もしくは、それが映像など間接的な認識でも問題ありませんか?」
「目視……、そりゃ目視出来れば確実だし、映像だって……TVで見るみたいな感じなら出来そうに思うけど……、新野見さん、あんたまさか」
まさか、まさか改変で……、
「はい、そのまさかです。佑奈ちゃんには直接小惑星を改変してもらおうと……、そう考えてます」
は、はぁ~~?
「いや、無理だって。さすがに宇宙のどこにあるかも知れない小さな小惑星を改変するなんて、無茶ぶりもいいとこでしょ!」
50mを越える物体が小さいのかってことはさておき、宇宙や地球の規模からみりゃ小さいだろ。めちゃ小さいだろ!
そんなのどうやって認識しろっていうの?
「その辺は私のPSI能力と佑奈ちゃんの情報改変の力をうまく使ってですね、ふふっ、どうにか出来ちゃうんじゃないか……と思いますよ?」
ええ~?
一体なにさせようとしてるの?
新野見さんが怖いんですけど!
「宇宙や星を見ると言えばやはり天文台。それに今回の小惑星を発見した施設。そこなんてまさに最適! ご協力願えれば、ねぇ? ばっちり解決すると思いませんか?」
そりゃそうだろうけど!
どうやって協力してもらうの?
「に、にいのみ……さん? その、大丈夫……なんですよね、それ。私たち捕まっちゃうなんてことないですよね?」
俺、悪いことに改変使わなかったからレベルアップ条件達成できたのに、レベルアップしたとたん、悪いことして捕まるなんて絶対嫌だから!
「くすっ、大丈夫です。悪いようにはしませんし、大事の前の小事です。暖かき存在もお許しくださるに違いありません」
くうぅ、もうゆるぎないくら確実にやる気でいらっしゃる。『暖かき存在』ってなんだよ? 神様か? 神様いるんなら何で直接助けて……って、あ、いや、そういやレベルアップのログにもなんかあったな……。
スマホの改変アプリのログをチラ見する。
〚祈念は無意義なれば己が知恵にて真を得よ〛
これって要は祈っても無駄だから自分らでなんとかしろって、そういうことだよな?
神様、冷たい。冷たすぎるわ。
「どうしました? 佑奈ちゃん。心配しないで私に任せてください。キッチリお膳立てさせていただきます。佑奈ちゃんには要所要所でちょっとだけ改変してもらえば事足るよう頑張りますからね」
「ははは、はぁ……。なにとぞお手柔らかにお願い、します」
もう知らんわ。
なるようになれ。
「そんなことより、佑奈ちゃん。いい加減に私のこと瑛莉華って呼んでもらっていいんですよ? っていうか呼んでください。ね、私たちはチームなんですから! ぜひそうしましょう!」
そ、そんなことって。それにチーム? いつ結成したの?
ほんと、この人ってば、もう。
「はぁ~。もう、わかった、わかった、わかりました! 瑛莉華さん。よろしくね!」
「はい! 頑張りましょう、佑奈ちゃん!」
ま、そういうことになった。泣ける。




