【51】佑奈と紅葉と迷カメラマン?
誕生日が過ぎ、俺は二十四歳になった。
まぁ見た目は相変わらずの美少女だけどな。
澪奈は誕生パーティしなきゃと主張してたけど、それだけのためにこっちに来ることは母さんが許さず、俺もわざわざ実家に帰るなんていやだったので特に何もせずに済んだ。
代わりにプレゼントだけ宅配で送ってきた。もちろん家族全員からだ。
この歳になって誕生日プレゼントもらうなんてな。男の時はプレゼントの代わりにお小遣いもらってたし、成人してからはそれもなくなったし。
それに、両親はともかく、妹からなんかもらうなんて中高通して二、三回くらいだけじゃないか?
まぁ歳が六つも離れてるからってのもあるけど、俺はいつも自分がしてもらってたみたいにお小遣いやってたから、なんとも理不尽な気がするわ。
やっぱ女になると違ってくるよなぁ、扱いが。
でも貰ったからにはまた返さなきゃ絶対なんか言われるだろうな。それに男の時みたいに金で済ますことだって絶対許してくれなさそう。
めんどくさ~。
ちなみにプレゼントはアクセとコスメ。あとドライビンググローブ。
アクセが澪奈で、コスメが母さん。リボンシュシュとネックレス。グロスにチーク。
俺化粧なんてしないし、出来ないしなぁ。チークなんて俺が塗ったら『おてもやん』状態まったなし、失敗する未来しか見えん。グロスとか塗らなくても、改変さまさまで、唇はいつも艶々のプルンプルンで、ひび割れ乾燥とは無縁。必要感じんし。
リボンシュシュは使えるけど、ちょっと付いてるリボン、デカすぎ派手すぎ。俺もう二十四歳なのに、これはなぁ……。
まぁ俺の見た目的にはバッチリ似合っちゃうのがまた癪なんだわ。その辺はさすが澪奈、よくわかってる。
とは言えプレゼントをもらえばもちろん嬉しい。嬉しいんだけど、なにしろ元男の俺には微妙すぎる代物だ。
とりあえずなんも使わないのもアレなんでネックレスくらいはしとこう。先っちょにハートが付いてるけどシンプルだからそんなに違和感ないし。
それにひきかえ、父さんのプレゼント。やっぱ父さんわかってるわ~!
ドライビンググローブ。
Myスポーツカーの運転には欠かせないやつだ。手、ちっちゃいからね。しっかりステア操作をするにはやっぱグローブ付けないと。すべっちゃうしね。乙女の柔肌だしね。
もちろん俺だって持ってるし、使ってるけど、プレゼントされたやつはオーダーメイドのようで俺の名前がアルファベットで刺繍してあって、サイズもピッタリで、皮も希少なペッカリーのやつで触り心地柔らかくて最高!
まさに俺のためだけの一品!
今度帰った時は嫌がらずにハグされてあげよう。
しかし父さん、俺の手のサイズどうやって知ったんだ?
***
晩秋である。
十一月も終わりが近い。したがって世の中はかなり寒くなってきた。
ま、俺は改変で自分の周りの空気の層を適温に保つことが出来るから寒さとはほぼ無縁である。ついでにレベルアップにも少しは貢献してるはず。
いつもの公園に向かう途中にある石畳の歩道沿いにある銀杏並木も見事な黄色に染まってる。けっこう長い距離に渡って銀杏並木が続いていて、その壮観な景色に心が洗われるような気がする。
銀杏並木が紅葉真っただ中。
SNSでそんな情報を得た俺は、駐車場からきいろちゃんを引っ張り出し、引きこもり系社会人の肩書はちょっとばかり部屋に置いてきて、現地まで来てしまった。
もちろんイチョウ並木をバックに、きいろちゃんのカッコいい写真を撮るためだ。
今回は特別に心強い味方、某アマチュアカメラマンさんに来てもらった。いや、やっぱ撮るなら一眼レフでサイコーの一枚を撮ってもらいたいでしょ?
「凄いなぁ! カッコいいなぁ! たまにはこういうのもいいなぁ。っていうか佑奈さん、こんな凄い車持ってたなんて」
はい、アマチュア名カメラマン、いや迷か?
茂木クンです! パチパチパチ~!
いや、別に誘ったのはタマタマなんです、たまたま。偶然の産物ナンデス。
――マンションの地下駐車場から上がってきてゲートから車が出たところ、道路へ出ようと一時停止してたとき、偶然モギモギが通りかかったんです。目ん玉飛び出すんじゃないかってくらい驚いた顔でこっちガン見してきて、アチャ~ってなった。
いやぁ、偶然てこわ~い。
うん、ほんとに。
写真だってスマホで撮るつもりだったし。
で、遭遇したわいいけど歩道上ってこともあり車を出さなきゃ、人通りの邪魔になるし。もうめんどくさいってなって、その場で助手席に座らせてかっさらってきてしまったというわけ。
だって、茂木クンがなんか色々訴えるような目で俺を見て来るんだもん。見捨てて置けなかったわ――。
「茂木クンに言ってなかったっけ? まぁこの子が私の愛車。きいろちゃん。名づけはめぐちゃんね。これで私が完璧大人って理解できたでしょ?」
「いや、僕はずっと大人って理解してるよ? 怪しいのは式守先輩だけだからね?」
「へぇ~、ふ~ん?」
まぁ確かにそうだったかもな。少なくとも表面上は……。
「いや、信じてよ! で、でも、きいろちゃんかぁ。それで、名づけがめぐちゃん……めぐ……、ああ、沢谷さん! はは、いかにもっぽい。それに佑奈さんがそう呼ぶのってなんかイメージピッタリ……って、あ、ごめん」
どういう意味かね? モギモギ。
いやまぁ自分でもちょっと可愛すぎる呼び方かなぁとは思ってるけどさ。なんかしっくりきちゃったんだよ。いいじゃん、きいろちゃんって呼んだってさ。
「むぅ……、まぁいいけど」
「あはは、いや、でもマジかっこいいね、きいろちゃん。こんなぺったんこの車初めて見た。おまけに乗りにくい」
うむ。そうだろうそうだろう。乗りにくいは余計だが。
こんなカッコいいミッドシップスポーツカーはそうは無いぞ。軽量コンパクトで、当然マニュアル。英国製だけどエンジンは日本製で信頼性も抜群。まぁパワーは最近の車には及ばないけど、操る楽しさがサイコーなんよ~!
「……こほん。でもまさかそのカメラ持ってるとは思わなかった。いっぱいカッコいい写真とって、LINIEに上げてね~」
「うん、まかせて! カメラは休みの日はほぼ持ち歩いてるよ。撮影会ないときは歩き回って風景とか撮ってたりするし。徒歩だとお金もかからないし!」
そっかそっか。うんうん、頑張ってるんだな。えらいぞモギモギ!
「じゃ、あまり場所を占有するのも他の人に悪いし、ちゃっちゃといっぱい撮っちゃって~。カッコよく綺麗に、でもかわいく撮ってね!」
「それ、どんな写真! なんか責任重大だ……、まぁ頑張るけど。 ……でも車の写真なんてほとんど撮ったことないや……」
うん? なんか最後の方ボソボソ言ってたけど……、ま、いっか。
茂木クンだけにまかせっきりもなんだし、俺もスマホで撮ろ。いや~、天気もいいし、紅葉バッチリだし、きいろちゃんはカッコいいし。
「サイコーか!」
「あ、佑奈さん、ちょっときいろちゃんの横に立ってもらえる? こんなポーズで!」
ゼスチャー交じりで茂木クンが指示してきた!
くぅ、撮影モードのモギモギ、グイグイくる。
そういや写真撮るとき、性格変わるんだった!
「あ、はい! よろこんで」
ついどっかの居酒屋みたいな返事してしまった。
ちなみに本日の俺のカッコはTシャツにパーカー、下はスキニーパンツにブーツ。とどめにスカジャンを羽織って、ちょっとだけ悪ぶったイメージを出してる感じ。全体的に黒っぽい色合いの中で、差し色に赤が所々入ってる。ついでに澪奈プレゼントのネックレスも付けてきた。
俺がんばった。
あ、もちろんベースボールキャップにサングラスはお約束。
髪は二つに分けて胸元に降ろしてるだけだ。なんかもう、髪までどうにかするの、めんどくさくなったともいう。
そんなに目立ってないつもりだったけど、茂木クンにそんなことないって言われた。存在自体がもう目立ってるって……。
なんだよそれ。
え? 未成年の女の子が車に乗ってる的なやつ?
ぐぬぅ、ほっといて!
周りにも俺と同じようなことやってる奴らがそれなりにいて、結構集まってきている。軽自動車から高級外車まで。俺のきいろちゃんが可愛く見えるくらい(いやほんとにカッコかわいいんだが!)の超高級スポーツカーもそれなりにいたりして、相対的に俺は目立ちにくいはず。
そんな俺の想いとは裏腹に、結局目立っちゃってるみたいでギャラリーが出来てきた。
う~ん、並木通りのあちこちでイベントとかやってるし、紅葉見に来た観光客とかも多いし、こうなるのも致し方なしか。
「茂木クン、そろそろ帰ろう。もうやばい、コレ」
「そ、そうだね」
車での撮影場所も争奪戦の様相を呈して来ている。暗黙のルールで大目に見られてはいるものの、ぶっちけあまり長く止めてるのはよろしくはない。他の人にお譲りしてさしあげよう。
俺たちは囲まれてしまう前にとっとと撤収をかましたのだった。
いや、でもまぁ……、結構楽しかった。
うん。




