【49】日常の裏側
『へぇ~、茂木君とこの文化際、見に行ったんだ』
『うん、この前の撮影会でコスプレしたお礼だって。招待券用意してもらってたし、ちょっと気分転換もしたかったんでまぁいいかなと』
『ふぅ~ん』
妹はLINIEで最近何やってたとか、しょっちゅう聞いてくる。ここ最近会ってないから余計だ。めぐちゃんといい、こいつといい。女ってなんでこう色々聞きたがるんかね?
色々探られてるうちにゲロさせられた。
『仲いいね? もう付き合っちゃえば?』
はぁ?
こ、こいつ何言ってんの?
『そんなんじゃないし。ただの友達だし! ありえないし!』
『ムキになっちゃって、お姉ちゃんか~わいw』
『うっさい。姉をからかうな~』
ほんと、男と付き合うだなんて、マジ勘弁。茂木クンはいい奴だけどぜ~ったい、恋愛対象にはならん! ていうか俺、今まで恋愛経験ゼロ。
やばいわ。俺このままだと一生恋愛とか出来んかも。
男とアレするなんて絶対ヤダもん。
男のいきり立ったアレが俺の、俺の……。
ひぃ~~~!
考えるだけで身の毛気がよだつ~!
かといって女と付き合えるかといえば……、そ、それも無理だ。たぶん……?
『ま、わかってるけど。あ~あ、茂木君も可哀そうに』
『なんと言われようが、ムリ』
『ハイハイもう言わない言わない。今はw』
『今はじゃなくて、ずっと言うな』
これはちょっと茂木クンと遊ぶのも控えるべき?
いやでも、俺の数少ない交友関係だし、俺から見ればマジただの男友達ってだけ。控えるとか逆に意識してるって思われたら癪だし、そもそも茂木クンが可哀想。
うん、今まで通りでいいな。こんなことで悩むことすら不本意だ。
『ま、お姉ちゃんイジリはこれくらいにして、まじめにお姉ちゃん二十三だし。見た目に騙されちゃうけど、いつまでも若くないんだよ~? ……あ、っていうか、もうじき誕生日じゃない?』
こ、こいつ。いっぺんガツンといわしたろか!
妹とは言え容赦しない。
なんて思ってることを実行に移せないのが俺のヘタレたるゆえん。泣ける。
で、なに? 誕生日?
うん、どうでもいいな。
『そうだな。十一月八日で二十四歳だ』
もう一週間後だ。早いもんだ。
『ヤバ! また一つ年とっちゃうお姉ちゃん。お誕生日おめでとう。家に帰ってきたらお祝いしてあげるよ? おばさん』
『はぁ? 二十四でおばさんな訳ないだろ! 全国の二十四歳女性に謝れ!』
『あはは、ゴメンて。でもお姉ちゃんの誕生祝いって家に居る時やってたっけ? 私はいつもやってもらってるけど……、あれれ?』
あ~、それ……、俺、男だったしな。家族とそういうのするのなんか恥ずかしかったからやらなくていいって言ってたし。もちろんプレゼントはもらってたが。
さすがの改変も、こういう人の機微で微妙なときあるな。
『昔のことなんていい。俺そういうの苦手だったし。すぐ家でちゃったし。気にしないで』
『う~ん、確かに? でもなぁ』
あ、俺ってコメしちまった。でも気付いてないし……そっとしとこ。
『いいんだって。次帰るの年末だし、ほんと気にしなくていいから! じゃ、長くなったし、これくらいで!』
バイバイのスタンプを大量投下し、俺は逃げるようにLINIEから落ちた。
なんとも微妙な終わり方になってしまった。これもみんな改変が悪い。俺が女になってなかったらこんな面倒なことにならなくて済んだし、ここ最近の苦労だってせずに済んだ。
「そりゃ、楽しいことだってあったけど……」
しかしなぁ、こうやって家族と話したり、人付き合いしてると、考えないようにしてることを、急に突きつけられたりして困る……。
俺、自分の将来がどうなってしまうのか想像まったく出来んわ。
男と結婚なんて絶対無理だし、今のこの姿だってどうなるかわからんし、改変がこの先どうなるのか、それこそマジ予測もつかんし……。
不安しかない。
ああもう、だから考えないようにしてるのに。
それでも性懲りもなく考え出してしまう自分がいる……。
新野見さんなら俺の未来、どうなっていくのか分ったりするのかな?
『残念ながら無理です。私の未来視は一年先まで。佑奈ちゃんの将来がどうなるのかはわかりませんね! 私も楽しみです』
うぎゃ~!
新野見さんからLINIE~!
なんちゅうタイミングだよ!
『もうあんた、ぜったい俺のことずっと覗いてるだろ!』
マジ心臓に悪い、やめて。
『いえいえ。何度もお伝えしているように、ずっと覗いてなどしていません。基本的にはプライバシーを守っています。でも、佑奈ちゃんとの心のリンクは繋げた状態とさせてもらってます。だから感情に大きな揺れが出れば気付きます。佑奈ちゃんは無くてはならない人。確認しないわけにはいかないのです』
こ、心のリンク! 俺、繋がれちゃってる?
そういや以前、寝てても気付くって言ってた気もする。
『うう、言ってることはわかるけど。わかるけど! でもやっぱ釈然としない。しなさすぎる~!』
心を覗かれるってさ。やっぱ嫌すぎだろ~!
『うん、慣れるしかないですね。大丈夫、どんな佑奈ちゃんでも私は受け止めらます。安心してください』
『わ~ん、全然安心できな~い!』
ポンコツ新野見さんには言うだけ無駄だった!
『ですが。こんな状況も一年以内、……いえ、時間は刻々と過ぎてます。もうそれほど猶予はないかもしれませんが……、どんな顛末を迎えようと終わりはきます』
『だから~、何があるの? 何が起こるっていうのっ?』
じれじれすぎてイライラする。何聞いても俺大丈夫だから。教えて。
あ、いや、やっぱ大丈夫じゃないかもしれないけど……。
でもほんと気になりすぎる!
『レベルアップです佑奈ちゃん! それで全てが解決に向かいます』
『そんなぁ』
はぁ……、結局それ。
虚し。
***
「主任、ようやく再計算の結果がでました……」
「お、そうか。で、どうだった……、って、随分顔色が悪い。大丈夫か?」
報告に訪れた藤村さんの顔色はとても青ざめてみ見え、報告を聞く以前に心配が先に立ってしまう。
「だ、大丈夫です。ご心配ありがとうございます。けど、そんなことよりこれを見てください!」
いや、そんなことって……。
まぁ本人がそう言うのならまずは見させてもらうが、後で絶対に医務室に行かせよう。うちは少数精鋭と言えば聞こえはいいが、マイナーな上に激務な職場であり、来てくれる研究者はそうはおらず、慢性的な人手不足なんだ。倒れされてはたまったものではない。
「どれどれ……、うん、なかなか滑らかなチャートが出来てるじゃないか。どれも突出なくまとまっていて、イレギュラー座標も見当たらない」
――観測対象は星の数ほどというと大げさかもしれないが、それこそ無数にある。それら無数の観測対象を各国の観測地に割り振ることで全天球を極力カバーしている。当研究所の観測センターにおいても決められたエリアを更に切り分け、そのエリアを基準時間単位で撮像。しかもそれを多方向に分けて同様に撮像、更にそれを決められた条件の達成が確認されるまで撮像し続ける。
悲しいかな、その対象が尽きることなどあるはずも無く、我々の仕事は予算が無くならない限り終わりはない。
苦労して撮像されたデータを寸分違わず重ね合わせることで、結果的に暗い移動体の輝度が増し、その姿を浮かび上がらせることが出来る。そうやって見つけた移動体だが、同じ作業を繰り返すことで浮かび上がった輝点の座標変化を読み解くことが可能となる。
もちろんそのすべてを計算することは不可能だから、数ある輝点から優先して測定するべき対象を選別する。選別基準が、より等級の高い輝点=『サイズの大きい、もしくは距離の近い移動体』となるのは当然の帰結だろう。
観測と座標計算をひたすら続け、その動きの法則を見出し、移動体の軌道を予測し、確定できるまで精度をあげる――高性能なワークステーションはそのためにこそ必要になってくるわけだが――。
最終的には地球への衝突コースに来ないことが確認できればミッションコンプリートだ。
それが我々が所属する、『スペースデブリ研究・観測センター』の仕事である。
発見されるデブリの数は毎月百は下らず、多い時は二百以上にもなる。年間を通せばその数は七千以上。世界中の観測センターがこれまでに発見したデブリの総数は百万以上となり、まさに星の数ほどという言葉がピタリ当てはまる驚きの数だ。
もっと言えば見つけられていないデブリだってそれ相応の数があるだろうということだ。まだまだ我々が解決しなければならない問題は多いということ。頭が痛い。
藤村君の持ってきた報告書は、そんな移動体の座標チャート、そしてその軌道の時間的変化を地球を中心に視覚化してまとめたものだ――。
「主任、次です。次のチャートを見てください……」
随分とせかすな?
藤村君らしくもない……。
「わかったよ。次のチャートだね」
どれどれ、一体なにを見せたいのか……、
「なっ!」
なんだ、これは。
う、嘘、だろ……。
わかりやすく視覚化された軌道の時系変化図。
ある小惑星の軌道。
その軌道は、見事に地球と交差する軌跡を描いていた。




