【48】佑奈、文化祭へいく(後編)
「ほらほら佑奈ちゃん、ご機嫌直して? いいじゃんか。若く見られてるんだし~」
うっさい。俺には俺の、人に言えない事情あんだからほっといて。と、まぁ、それはともかくここはひとつ、ビシっと言っとく。
「あのね、何度も言うけど私のが年上。私二十三、あなた十七か十八? そっちのが子供。だから、ちゃん付けやめて」
「え~、そんなこと言われても困っちゃうな~。どう見ても佑奈ちゃんだし? で、ちなみに私はまだ十七歳。ぴっちぴちセブンティーン!」
いやもう、お前の思考回路よ~わからん! クソ真面目な見た目のクセして中身変人すぎ。頭輪切りにして中覗いてみたい。
「ま、まぁまぁ、二人とも。こんなとこでじゃれ合ってないでまずは部室いこ? ね?」
モギモギ、中途半端な仲裁すな。
「じゃれ合ってないし。まっとうな意見、言ってるだけだし」
「や~、そうやってむきになってくるとこも佑奈ちゃんって感じ! 可愛い~」
「くぅ~」
だめだこいつ。何言っても右から左。無駄がすぎる。もういい。あきらめた。むきになってる俺がバカみたい。
「ふくれた佑奈ちゃんぐーかわ! いただき!」
「あ!」
制服のどこに隠し持ってたのか小型のカメラで写真撮られた。スマホじゃないのがさすが写真部か。くっそ、こいつに勝てるビジョンが浮かばない!
ちなみにこいつらの制服はブレザータイプでこの二人はどこも改造してる様子もなく、ごくごく普通の見た目である。真面目か!
「ほら、式守先輩、行きますよ! やりすぎて佑奈さん怒って帰っちゃっても知らないですよ!」
そうだそうだ、帰っちゃうぞ!
「え~、それは困る。仕方ない、じゃあいこっか! こっちデスヨ~」
で、安定のお手々繋ぎである。ああこら、そんな強く引っ張んな!
「……いいなぁ、僕も手……」
モギモギが何か言ってるけど、もう聞いてる余裕ゼロ。引きずられないようついてくので必死。マジ奏多元気すぎ。勘弁して……。
***
流石にずっと引っ張られることもなく、途中からは普通に手を繋いで歩いてる。いや、手離してくれないんだもんなぁ。こいつのノリにはついてけんわ。
正門から昇降口にむかう道の両脇には派手に飾られた看板が並んでいて、ざっと見てみれば模擬店や展示とかの呼び込み看板なわけで。来客や他クラスにアピールするため、趣向を凝らしまくった看板は見てるだけでなかなか楽しい。素人丸出しの拙い看板から、やたらキレイで洗練されてるプロ顔負けな看板まで、千差万別だ。
「あっ、たこ焼きの模擬店いいね。おおっ、クレープ屋もあるし!」
っていうかやっぱ食べ物の模擬店とか喫茶店やってるとこが多いよなぁ。俺の時もそうだったけど……。全部回ってたらとてもじゃないけど食いきれんな。
「おっ、佑奈ちゃん、食べ物で釣れた! 後でみんなで行こうよ~。でもとりあえず部室へ行くのだ~!」
釣れたって言うな!
奏多は俺の手を引きつつ、どんどん中へ突き進む。校舎に近づくにつれ人の数も増えてきて、俺への視線もけっこうある。ブレザー姿の奴らばっかのとこに私服の俺が入ってくんだ、そうなるよなぁ。
もちろん他にも一般入場者は居るけど、そこはほれ、俺だから。目立っちゃうんだよね、コホン。
「奏多~、その子誰~? めっちゃ可愛いじゃん。それコスプレしてんの?」
「ふっふ~、この子、私らの招待客、佑奈ちゃん! でさ、これ素なんだな~。どうどう? マジ可愛いくない?」
校舎内に入ると、こうやって声かけられることも増えてきた。文化際ってこともありみんなノリノリで困る。おお~い、俺を前に差し出すな!
つうかこの姿のどこがコスプレだっての。私服以外のなにものでもないだろ。
「マジ? それで素? ピンク髪なのに? またウチんとこにも連れてきてよ~、一緒に写真とりた~い」
「はいよ~、行けたら行く~、じゃあね~」
なんか俺をネタにして勝手に盛り上がって勝手に予定入れられた。奏多、なかなか顔広い。それに引き換え、モギモギがまったくもって地味。地味モギ。
ま、茂木クンだし。仕方ないね。
***
「ぶちょ~、佑奈ちゃん連れてきた~!」
昇降口のある中央校舎の左右に一棟づつある4階建ての校舎。その右側校舎の一階。奥に向かって美術室や音楽室とか特別教室が並んでる中に写真部の部室があった。この部室、元はと言えば暗室らしく、そりゃ写真部の部室にもなるわって感じ。でもデジタル全盛のご時世でフィルム現像したりするやついるのか?
奏多の声に誘われて、続き部屋になってるらしい隣からちょっと太めの背の高い男の人が近づいてきた。他にもこの前の撮影会のとき一緒に行った奴らが部室でたむろってた。おまえら自分のクラス、手伝わんくていいの? 俺が言うのもなんだけど……。
「よしよし式守、わかったからちょっと落ち着こうか」
ドウドウって声が聞こえてきそうななだめ方をしつつ、その人が俺を見た。
「あなたが川瀬さんですか? 俺が部長の山城です。無理言って撮影会のモデルしてもらってすみませんでした。でもおかげでいい写真がたくさん撮れました。まぁ俺は行けなくて残念でしたけど。アハハ」
で、でけえ。こいつ俺の父さんよりでけえ。190cm近くないか?
俺のチビがより目立つ。あんま近づかないでくれる?
「あ、はい、川瀬です。まぁ、お役に立てたなら良かった」
「はい、とても助かりました。その時の写真、今日展示してあります。隣の理科室の半分がうちの部の展示スペースなんで、ぜひとも見ていってください」
なるほど、そういう使われかたもあると。ま、好きに使っていいって言ってあったし。俺はチラッと茂木クンを見る。
「えっと……、ちょっとサプライズ的な? 大判ポスターサイズにプリントしてパネルにして展示してあるんだ。一眼で撮ったやつだから引き延ばしても粗さ出ないし、仕上がりすっごくキレイだよ。ほら、来てみて!」
一瞬手を差し出してきたものの、すぐひっこめて、手招きしてくる茂木クン。ヘタレか。まぁ、かと言ってこっちから手を握ってやることはないがな!
「茂木ちゃん、ダメダメだね。じゃ、かわりに私が!」
奏多にがっつり手を引かれ、隣の部屋に連れてかれた。他の面々も部長を筆頭にぞろぞろついてきた。
俺のコスプレをしてくれた小声のやせっぽち女子は俺の隣、奏多とは反対側にちゃっかり陣取ってて、スタジャンの袖を掴んでくれちゃってる。いや、ちょっと可愛いって思ってしまった。迂闊!
ちなみに名前は小峰さんていうらしい。背も俺とほとんど同じだし仲間意識感じちゃうね。
「おお~!」
壁面や、フロアに設置された衝立の両面に写真のパネルがずらりと展示されててなかなかに壮観。確かに大判写真、めちゃバエるわ。
「あれ、この子、写真の子?」
「あ、ほんとだ! ちょっとやだ、実物も可愛い。っていうか何? 髪の色って元からそれ? えっ、マジ~?」
展示を見てたギャラリーに気付かれて気まずい。みんなイチイチ髪の毛にツッコミ入れてくる。やっぱ目立つよなぁ、ピンク。
「見てこれ、コスプレ衣装、一緒に展示してあるんだ~」
そんな中、奏多がアピールしてくる。
「おおっ、ほんとだ」
俺が着た、アニメキャラ『ラブリィ・キューティ』のコス。衝立にピンで貼りつけるようにして展示してあった。杖も添えられてて、なかなか凝ってる。
「……キ、着テ、ミル?」
小峰さんがスタジャンの袖をツンツン引っ張りつつ、ボソッとそんなこと言った。この子、コスプレ絡みになるとガンガン来る。
「あ~、まぁ、遠慮しとく……」
小峰さんしょんぼりだけど、これ以上目立ってたまるか。俺はもうコスプレはしないぞ!
展示写真を一通り見て、俺たちは部室を後にした。展示写真の四分の一が俺のコスプレ写真だった。やめて。
でもまぁ、なかなか綺麗に撮れててさすが写真部って思った。スマホの小さな画面で見るのと違って臨場感もあってマジすごかった。
その後はまぁ最初の三人プラス、小峰さんを加えた四人で校内を見て回った。女子率高くて茂木クンが居心地悪そうにしてたけど、裏ではきっと泣いて喜んでるに違いない。
茂木クンのクラスも当然、覗いた。
ご多分にに漏れず喫茶店してて、奏多が悪乗りして嫌がる茂木クンを引きずって四人そろって突入した。いや、俺も引きづられた方だけど。クラスの男どもの驚きと、やっかみ交じりの視線がすごかった。……どころじゃなく、ヤジ交じりで散々いじられまくって、モギモギ涙目。マジで草。大草原!
にもかかわらず学校の机を寄せて作った席に四人で座り、お菓子つまみながら紅茶飲んでキッチリ休憩した。なんか俺、ツーショットで一杯写真撮らされた。ま、引きこもり系社会人の血が騒いで、終始無口で通したが。奏多がマネージャーみたいなことして仕切ってて、こいつ何してんだって思った。
模擬店も巡った。
クレープぱくついたら口周りべったりになって、それをまた奏多に写真撮られた。こいつ、俺の恥ずかしいとこ絶対ものにしてきてヤバイ。
文化祭巡り、最後は体育館まで足を運び、そこでやってた学生バンドの演奏を適当に聞きつつ、歩き回って疲れた足を癒した。演奏はまぁ、お察しだ。『ケッソク帯』みたいにはいかないわ、うん。
午後も三時を回ったところで俺は茂木クンたちと別れた。彼らの文化祭は明日も続く。まぁ頑張れ。
普通に一年分くらいの精神力使った気がする。体力も搾り取られた。
いや、楽しくはあったけど。
最近の俺、マジすごい。
引きこもり系社会人の名はもう返上しよう、そうしよう。
って、んな訳あるか!
俺、これからは大人しく静かに生きてくんだ……。
あ、でもあかんやん。
レベルアップ……、しなきゃ、だ。
つらい。




