【47】佑奈、文化祭へいく(前編)
十月も残すところあと一週間。さすがに外を出歩くならしっかりしたアウターが必要な気温になってきた。
まぁ、俺はほぼ外に出ないから必要ない……、と言いたいとこだけど、いいかげん周辺の公園巡りをして鳥たちの様子を伺いたいところ。けっこう入れ替わって俺が出会ってない小鳥たちもそれなりにいるはずだし。
天気もいいし平日だし、久しぶりに出かけようかな。
俺にしては珍しく外出に意欲が出てる。まぁなんだ。部屋に籠ってると色々変なこと考えてしまうし、改変にビビッて外に出られないだなんて、元男としてあまりにもヘタレすぎる。
なによりやっぱ、気分転換は必要だと我ながら痛感した。
そんな感じでやる気が出たところにLINIEが入ってきた。
「茂木クンかぁ……」
平日のこんな時間にLINIEだなんて。真面目そうにみえて案外……、って、ああ、今の時間って休み時間かな?
『佑奈さん、こんにちは』
『今週末、僕の学校の文化祭なんだけど、よければ遊びにきませんか? 写真部のみんなもこの前の撮影会のお礼がしたいそうです。いい返事待ってます』
文化祭かぁ……、懐かしいな。
俺の時は無難に喫茶店だったな。客引きやらされて一人も呼び込めずに呆れられた思い出……。俺にやらせること自体間違いだっての。
自分の割り当て時間終わった時点でさっさと部室の方に逃げてた。イラスト文芸部で作品展示だったから楽でよかった。作品二点出したけど……、俺見るのは好きだけど描くのはダメダメだった。いいんだ、参加することに意義あるんだ。
って、俺のことはどうでもいいや。
『考えてみる。返事いつまで?』
『いつでも! なんなら当日でも大丈夫! 招待券はもう確保してるんで』
『ええっ。行かないかもしれないのにいいの?』
『気にしないで。写真部の総意なんで。部長も気にしなくていいって言ってるし』
部長? ああ、そういやあの時、部長さんはいなかったな。変な副部長はいたけど。
『そっか。わかった。じゃあ、また返事する』
最後にバイバイのスタンプ貼って落ちた。
さてどうするか。
正直、面倒なことが起きそうな予感しかしない。この体になってから物事が普通に進んだことがない気がするもん。行ったら絶対なんかあるわ。けど気分転換にはちょうどいいともいえる。
俺って何のかの言ってるけど、結局流されちゃうんだよなぁ。
ああ、もう、いいや、行く。行っちゃう!
どうとでもなれ。
今回はさすがに澪奈呼ぶのもアレだし……。心細いけど一人で行こ。大丈夫、この前の撮影会だって一人でもなんとなった。行ける。行けるぞ俺!
『行くことにした。また日程、教えて』
俺はLINIEにそう返事だけして即落ちした。でないとやっぱやめますとか追加コメしてしまいそう。
あとはもうしらん。
なるようになれ!
***
土曜日。
茂木クンの高校の文化祭初日。
空模様はあいにくのいい天気。行かない口実に使えそうもなかった。仕方ないのでマンションを出て……、
とうとう来てしまった。
茂木クンの高校へは俺のマンションから歩きでも行けない距離じゃない。四十分以上歩く羽目になるけど。俺はそんな距離を歩く気はさらさらなかったのでJRを活用した。愛車で行く手もあったけど、絶対目立ちすぎるのであきらめた。
ま、それでも2キロ弱は歩かなきゃいけなかったけど、それくらいは公園巡りで鍛え抜かれた俺の足にかかれば楽勝! とまではいかないまでも、なんとか頑張れた。
『Wel~横華祭~come!』
正門の上にでかでかと手作り感満載のアーチ看板? が飾られ否が応でも気分が盛り上がる感じ。とは言っても招待券ある人のみの限定公開のせいか、人の行き来はそれほどでもない。
『ついた。正門前』
招待券は手元にないので迎えに来てもらわないと入れない。LINIEで連絡入れた。
『佑奈さん! 無事着いてよかった。すぐ迎えに行きます!』
速攻でコメ付いて笑える。
正門前で待ってると目立つから早く迎えに来てくれ~。
ちなみに本日の俺の服装。ベースボールキャップをかぶって、髪はシュシュで束ねてポニテにしてるんだけど、束ねた髪はキャップの後ろの開いてるとこを通して降ろしてる。これ一度やってみたかったんだ。なるべく上からフワッとしっぽが出るよう、通し方や束ね方は工夫した。やり方はネットで調べたさ。
ロンTに膝上丈のショートパンツ、短めのソックスにスニーカー。上着としてスタジャンを羽織ってきた。これちょっとデカめで、袖だって長いから手が半分も出ない。ただ、だぶついてるおかげで胸は余り目立たないかもしれない。つってもワインレッドに腕周りはベージュって配色なせいで結局目立つんだが。
ま、動き回るだろうってことでこんなカッコになった。
当然ながらこんなのはみんな澪奈やめぐちゃんが以前選んだ奴なわけで、俺の意見はもちスルーね。
それにしてもなぁ……、ショートパンツで足出すのも慣れてしまったし。
俺、もう、色々手遅れかもしれない。
「あ、いたいた~! 茂木ちゃ~ん、ココ、ココ~!」
現れやがったな、奏多!
絶対付いてくると思ったわ。
「やだ~、今日も可愛い! 佑奈ちゃん、チューしていい?」
はぁ? 何ほざいてんのコイツ。
「ダメ。やだ」
「えー、佑奈ちゃん、つめたい。久しぶりに会ったのに~」
久しぶりっていうかまだ二度目でしかない。どっちにしろチューなんてされてたまるか。されるのは父さんだけで十分……、あ、いや、父さんだってダメだけど!
「はぁ、はぁ……、ちょ、ちょっと……、式守先輩、早すぎ。勘弁して」
「茂木ちゃん。君、若いのになまっちょろいねぇ。もっと運動したまえよ。ニャハハ」
いや、奏多も若いだろ! つうかお前ら二人とも俺よりも断然若いから。
「はいはい、どうせ僕はなまっちょろいです。はぁ、はぁ、先輩はスゴイです。それでいいです、もう。はぁ、はぁ、で、すみません、佑奈さん、お、お待たせしちゃって。これ、招待券です」
いやまぁ、別にたいして待ってはいないが……。とりあえず息整えて。
しっかし、この二人、相変わらずコメディアン。文化祭見る前からもうお腹いっぱいだわ。帰ろかな。
「ありがと、茂木クン」
俺は目を合わせてお礼を言った。ま、社会人としては当然だな!
「あ、う、うん。ど、どういたしまして」
急にドギマギしだしたぞ。どした?
「えっと、そのぉ、その服、とても、に、似合ってる。今日は来てくれて、あり、ありがとう」
うわぁ、なんかもう、見てらんね。顔真っ赤だし。けど女子の服ほめる。いっちょまえに押さえてきたな。
だが俺は元男だ。
ま、俺、可愛いし。仕方ないね。
「あ、ありがと。それに、こちらこそ誘ってもらってどうも」
「ヘイヘ~イ、もっぎちゃ~ん! アオハルしてるね~! でも早く入らないとどんどん注目あびちゃうよ~」
「え? あっ……」
うん、周囲の視線が痛いね。俺たちめっちゃ目立ってる。俺への男子たちの視線もめっちゃ増えてきた。けどなぁ、そもそも一番の原因は奏多! てめぇのせいだ!
「じゃ、そこの仮設テントで受付やってるから行こ~!」
「あ、ちょ、ちょっと、奏多さん、引っ張らないで~!」
まじちょっと落ち着いて欲しい。俺の手首ひっつかんで、ずんずん進んで行っちゃうし。
「これ、お願いします」
受付のたぶん先生に招待券を差し出す。
「はい、お越しいただき、ありがとうございます。え~っと、川瀬さん、ですね。すみませんが身分証明書をご提示ください。学生証で大丈夫ですよ~」
ええ、なにそれ?
っていうか、俺、学生じゃねぇっつうの。
「あっ、僕、伝えるの忘れてた。佑奈さん、ご、ごめん!」
モギモギぃ……、まったく。
いや、まぁ、免許証あるからいいんだけどさ。くっそぉ、釈然としないわ。
「私、成人してますから。これ、免許証」
「ええっ? そんなまさか。……いや、た、確かに。こ、これは失礼しました!」
俺の顔と免許証の写真を返す返す見比べる先生。隣で受付してた人まで珍し気に覗き込んできた。
俺は珍獣じゃね~!
もうこのパターン、飽き飽きだわ。勘弁して!
ぷんすこ!




