【46】改変ってめちゃヤバ? 悩み多き佑奈ちゃん
改変による温度変化。空気とか水とか試したわけだけど……。
今更ながらこれ系の改変って実はめちゃヤバ目の力じゃないの? って気付きだしてる自分がいる。
温度変化を利用した物なんて世の中に有り余るほどある。それを利用してないにしても結果的に熱が出るものとか含めれば、無いものを探す方が難しいくらいだ。身近なところだと電化製品がその最たるものだ。エアコンとかわかりやすいけど、PCやスマホだって当てはまってくるから。熱が発生しない電気機器なんて俺には想像もできない。
もっと言えば……、
それ自身が温度変化しなくたって、改変でそいつ自身の温度を上げるなり下げるなりしてやれば?
もし、万が一、この力を生き物、ましてや人に使ってしまったら?
こ、こえぇ……。
俺、自分で自分が怖くなってきた。
この力、一体なんなの? わけわからん。
人の記憶とかいじったり、記録や情報の改ざんしたり。自分の姿が変わったことによる問題への対処ばかりに気をとられ、改変もそれ絡みで使うことがほとんどだった。
だからなかなかこいつの怖さに気付けなかった。
マジ怖い。
外に出てふと気に入らないことがあって……。
その時、その場でちょっとでも怒りにまかせて変なことを考えたら。
…………。
ど、どうしよ。
俺もう外行くの怖くなってきた。
ふとした拍子にヤッてしまったら。と、取返しつかない。今まで俺の意図しない、突発的な事故が起こってないの、ある意味奇跡だ……。
気付かなきゃよかった。
こんな使い方……。
ちょっと前まで面白がってた俺を殴り倒したい。
記憶とかいじくるのと次元が違う。
相手の命すらいじくれてしまう。そこそこ離れていてさえ行使できてしまうこのヤバさ。
「あ~、もう! 勘弁してくれ~」
***
「うわぁ!」
飛び起きた俺は、ハッとして周りを見回す。常夜灯の薄暗い明かりながらも辺りが確認出来る。
「お、俺の部屋……」
自分の部屋。自分のベッドの中だった。
「……いやな夢、見た、気がする……」
どんな夢だったかはすでに思い出せない。けど体は寝汗でぐっしょり濡れていて気持ち悪い。それに頭は寝起きとは思えないくらい冴えてしまっていて、当分眠れそうにない。
「シャワー浴びよ……」
汗でしっとりした下着、ついでに部屋着も洗濯機に放り込み、バスルームに入る。シャワーのハンドルをひねり水を出し、頭から浴びる。
水のまま。
そんな気分なんだ。
十月も後半になってきて夜は冷え込むようになってきたけど、マンションの部屋は常に過ごしやすい温度に保たれてる。とはいえ、バスルームの中はひんやりしている。
体温はみるみるうちに下がって来る。
「冷たい……」
なのに俺はお湯にする気にならない。
頭を垂れ、自分の体を見下ろす。
男の時とは全く違う体。
程よい大きさで張りのある二つの山が目に入る。右手をその片方に包むように添え、力を入れてわし掴む。なんともいえない柔らかい感触。けど、今の俺の小さな手では収まりきるはずもなく。形の良い胸がイビツにゆがむ。力を入れすぎたせいで少し痛い。
シャワーで濡れたピンクブロンドの髪が、うつむいたせいで胸の前にも長く垂れてきている。その中の束を無造作に左手ですくい、手のひらに乗せてぼけっと見つめる。水に濡れた髪はその重さに誘われ、やがて手から滑り落ちていった。
「なんで……」
そのままシャワーの水に当たり続ける俺。
「なんで私、こんなことになってんだろ……」
《《私》》……、か。くっそ。
胸を掴んでいた手をだらりと下げ、そのまま敏感な部分へと導き……、しばらく指でもてあそぶ。
「く、ふぁ……」
そこから伝わる男では得られることのできない感覚。
なのに虚しさだけが俺の心を支配する。
「さむい……」
俺はしゃがみ込み、両手で肩を抱いてなおも水を浴び続ける。
「くしゅん」
冷えた体がとうとう音をあげ、可愛らしいくしゃみが出た。それを切っ掛けに小さな体も震えだしてきた。
「はぁ……」
深いため息を一つ付き、俺は立ち上がった。
「あほらし。こんな自虐的なことしてどうなんの」
シャワーの水を顔面にたたきつけるように浴びる。
「あ”~~~~!」
「お湯! ぬるいお湯!」
俺がそう願えば、わずかな時間で水はぬるいお湯へと変わった。出続けるシャワーの水はずっとお湯に変わり続けている。
冷えた体に体温が戻って来る。しばらくそのままシャワーを浴び続ける。改変で水をお湯に変えながら……。
我ながらバカなことをしてる。お湯を出したければ、普通にお湯のハンドルをひねればいいだけなのに。
「だよな……。慣れるしかないよな。ビビッてたって何も変わらないんだから……」
しばらくそのままお湯を浴びていたけど、いい加減疲れが出てきた。冷たい水を長々と浴び、しかもお湯への改変を長く続けたんだから当然だよな。
俺はようやくバスルームから出た。
櫛も入れず乾かしただけにもかかわらず、俺の髪は絡みつくこともなく滑らかで、艶々しい。
でもまぁ、滅入りまくってた気分は多少マシになった。
着替えを用意してなかったので素っ裸のまま部屋に戻り、服を着るころには再び眠気が襲ってきた。時間を見ようとふとスマホを見ればLINIEに着信入ってた。
「こんな時間に? だれ?」
確認すれば新野見さんだった。ま、そうだよなぁ。時間は午前三時をちょっとまわったところ。あの人も良くやる。逆に感心するわ。
『最近ぜんぜん外に出ていませんね? 内に籠った佑奈ちゃんがとても心配です』
ありがたくは思うけど……、それ今の時間に送ってくることか?
つうか佑奈ちゃん呼びいい加減やめれ。
『持つ者には持つ者なりの苦悩があることでしょう。佑奈ちゃん、あなたは特別な力を持つ唯一の存在。そんな力を託されたあなたならば、その苦悩もまた大きなものになることでしょうね。私にそれをどうにかしてあげられる力なんてないけれど……。それでもちょっとした悩みや愚痴を聞くことくらい出来ます』
に、新野見さん、あんた。何を言って……。
『未来視で見たその日。その日に今もずれや変化はありません。佑奈ちゃん、あなたには元気でいてもらって、しっかりレベルアップしてもらわなければいけませんからね。私でよければいつでもお慰めしてあげますよ? なんならあっちの方でだってかまいません』
え?
この人何言ってんの?
『今日の佑奈ちゃんの心の叫びは眠っていた私を起こしてしまうほどでした。私だってずっと思考を覗いてるわけではありません。プライバシーは大事ですから。でもさすがにアレを感じ取ってしまったからには覗かないわけにはいきませんでした』
え?
ちょっと待って。
覗いたって……、い、いつから? 何を?
『バスルームに籠って……』
『わ~~~~! 待って待って待って!』
やばいやばい。
もう、何この人!
『ふふっ、残念。慌てた佑奈ちゃんの姿、この目で拝見したかったですね。そんなに慌てなくとも誰もがやっていることです。恥ずかしがらなくていいですよ。初心で可愛い佑奈ちゃん』
『うぎゃ~、もうやめてっ、勘弁して~!』
か、完全に揶揄われて、弄ばれてるわ、俺。だから年上の女って奴は……。
『少しは元気になれましたか? 佑奈ちゃんの気持ちを楽にすることができましたか? こんなやり方でごめんね』
くぅ。最後の最後にそんなことコメントしてくんなよ、くっそぉ……。
『別にもともと大丈夫だったし』
そうコメしたものの……、やっぱこれだけじゃ、ダメ、だよな。
『でも、その、心配してくれてありがと。レベル上げ、ちゃんと頑張るし』
やっぱ、りっぱな成人(元)男性としては、これくらいは返しとかないとな。
『わぁ、佑奈ちゃんがデレました! ああ、直接会ってキスしてあげたいですね!』
くっそ、こんにゃろ。な、何言ってんだ!
やっぱポンコツ、ポンコツだろ、こいつ!
『あ~もう、うっさい! もう寝ます! ご心配ありがとうございました、おやすみなさい!』
それを最後にバッサリLINIEを落とした。
「はぁもう、勘弁してほしい……、あの人マジやばすぎ」
陽キャメンタルストーカー、まじ最低!
そんなこんなで、色々疲れ果てた俺は変な夢を再び見ることなく、ぐっすりと眠ることが出来たのだった。




