【44】いつもと変わらない日常と……
『お姉ちゃん、昨日どこ行ってたか私に言うことない?』
妹からいきなりこんなLINIEが入った。昨日と言えばもちろんコスプレしてたわけだが。こいつどこからそのネタを……、って、まぁ情報源は一つしかないか。
モギモギ……、案外口軽いな。いや、LINIEだから手が軽い? ま、どうでもいいや。
『いや、別にないけど』
すっとぼけてみる。実際、澪奈に報告してやる謂れはない。
『あ~、そんなこと言う? お姉ちゃんだけ楽しんでずるい~! 澪奈も見に行きたかった~!』
いや、そんなの無理だろ。時間的にも距離的にも。
『無理言うなし。まったく、茂木クンのおしゃべりめ。口止めしとけばよかった。メンドクサイ』
『メンドクサイって言った~。お姉ちゃん、つめたい。ひどい!』
いや実際メンドクサイだろ。まさにこの状況、面倒以外のなにものでもない。
『何聞いたか知らないけど、俺だって昨日いきなりだったんだから!』
って、あれ? コメしてから気付いた。コメントなら俺って書けるじゃん! 大発見じゃね?
『ううぅ、それはそうなんだけど! って、あ~、お姉ちゃん、また俺とか使ってる。最近は使わなくなったと思ったのに……もう。どんなときにも気を付けてね、ママにまた叱られるよ? っていうか言いつける』
ったく、こいつ。隙を見せれば突っ込んでくるな。声に出してないなら別にいいだろ。コメントくらいで口うるさいなぁ、っていうかいちいち母さん出してくんな。
『はいはい、気を付けますよ~。じゃ、そういうことで』
うるさいからとっとと落ちよ。
『あ~、ちょっと待って待って! 写真、写真は~? あるんでしょ? 見せてよ~』
『いや、ないが? そんなの撮ってる余裕なんて全くなかった。そもそも自撮りなんてする気もない』
『うっそ~、なんで~? み~た~い~』
何でって言われても……、無いものは無い。
『茂木クンに言えば見れるでしょ? 撮影会、あいつらに引っぱり出されたんだし……』
『もちろん最初に聞いたけど……、お姉ちゃんの許可なく見せられないって、断られた。じゃ、見せてもらっていいね!』
ほう、モギモギ、情報漏らしたけど最後の一線は守ってたか。ま、漏らした時点でダメだけどな。
『どうぞどうぞ、好きなだけ見せてもらって。ってことでもういいな? じゃな』
これ以上はめんどくさすぎるのでキッパリ落ちた。でもこの後、写真見たらまたなんか言ってくるんだろなぁ……、やれやれだ。
***
『昨日は随分ご活躍でしたね』
妹とのやりとりを終え、落ち着いたところで、趣味部屋のPCでネット動画とか流し見てたらまたLINIEが入った。
うへぇ。
妹の次は新野見さんかよ。つうか相変わらず行動筒抜け?
『よくご存じで。いたんです? あそこにも』
『はい。あの手のイベントには結構関わっていまして。まぁ実際のところは、未来視で佑奈ちゃんが来るとわかっていたので顔を出したのですけどね』
いやもう、この人まじストーカー。
『で、今日はなんです? まだレベルは上がってないですよ』
『ええ、それはわかってます。でも、凄く頑張ってますね? 労いの言葉でもと思いまして。小鳥と戯れる可愛い天使ちゃん』
ぐはぁ。
やっぱ、知ってるのね、この人。
『ははは、なんのことかなぁ、なんて』
『ですがまだ足りません。これからも頑張ってくださいね。あの未来視に変化はありません。やはりこのままでは運命に変わりようはありません』
揶揄われたかと思うと、急にシリアスぶち込んでくるし。
『まだ何があるって教えてくれないんだ?』
『知りたいですか?』
『そりゃまぁ、気にはなる』
絶対良くないことっぽいけど……、知らないままってのもなぁ。
『でも、まだダメです。でも、ほんの少しだけ……お伝えしましょう』
『おお、ぜひ!』
怖いもの見たさ、知りたさ。聞かないで後悔より聞いて後悔!
『今の人の手ではどうしようもないこと』
『……それで?』
『以上です。レベル上げ頑張ってくださいね。ああこれ、余りに可愛かったので撮ってしまったので共有しておきます。見てください。じゃあまた』
新野見さん、コメントするだけして落ちてしまった。まったく、なんて勝手な人だ。
上げられた写真を見てみれば、ピンク髪ツインテールの長い杖持った女の子魔法使いが、杖を差し出しポーズ付けてるやつで、我ながらとてもあざと可愛い。こいつの中身が二十三歳の元男だとみんなが知ったらどう思うだろな。
はぁ、いやだいやだ。
っていうか。
『今の人の手ではどうしようもないこと』
それだけじゃなんもわかんないのと一緒じゃん。じらすのも大概にして欲しいよなぁ……。
良くないことが起こる。今の人の手ではどうしようもないこと。これまでに新野見さんから聞けたのはこれくらいしかない。
ここから想像できるといえば、普通に考えれば災害みたいなことが起きるってとこか。でもこういっちゃなんだけど、災害なんてどこかで必ず起きてるからなぁ……。それに今のってとこが、引っかかるんだよな。
う~ん。
わかんね。
とりあえず、ほんとにヤバいことになるってんならまた新野見さんからなんか言ってくるだろし。
俺はいつも通り、レベルアップ頑張るくらいしかないな。
はぁ、ほんと、めんどくせーわ。
***
「主任、すみません。この軌道計算ですが、運動軌跡の計算に使った基本値に不確かな部分があることがわかりました。現在移動物体検出のアルゴリズムを見直し、再計算を進めてますが、完了までには……」
研究員の藤村さんが申し訳なさそうに私のもとに訪れそう言った。しかしそうそう責めることも出来ない。広範囲かつ長時間の観測、それらから得られる膨大なデータの取り込み、そして解析。少ないスタッフでやることは多い。多すぎる。
我々のやっている仕事は地味なうえ、目立つ結果が出るようような仕事でもない。いや、目立つ結果が出ては困るともいえる。従ってなかなか予算は増えないし、設備の更新もままならない。
だが重要な仕事だ。我々はそう自負している。
「うん、観測センターの前川君からも聞いてる。データの取り込み時に不備があったようだね。まぁ起こってしまったことを悔やんでも仕方ない。切り替えて。再計算にかけたんだね? では、その結果を待とうじゃないか」
「は、はい!」
手渡された資料を見れば、再計算にかかる時間は270時間ほど。
はぁ。また十日以上待たされるわけか。
なんとももどかしい。
計算にかかる時間を今より短縮するため、皆が必死に移動検出の計算を単純化する新たなアルゴリズム開発を進めてる。私もより高速な計算ができるワークステーション導入を目指し、少しでも予算を増やしてもらえるよう上への折衝を続けている。
ま、ずっと力及ばずでスタッフには苦労のかけっぱなしだから、とても偉そうな顔をして皆を責めることなど出来ない。
この協会ができて以来、その解析結果から特に大きな問題、日本で対処できないような結果が出たことは無い。だが過去にはロシアなど海外で予測出来なかったそれによる衝撃波やその物自体による広範囲な被害が出た事例が多数存在する。もっと言えば、例え予測できていたとしてもその対処は非常に困難であったと言わざるを得ない。
我が国でもいつそれが起こるかわからない。
わかったところでどうにかできるかは、その観測対象次第なので歯がゆいところだが、わからないよりはわかった方がいいに決まってる。
陰ながらも、頑張るしかないさ。




