【43】コスプレ再び!
改変ネタが尽きてきた。
身の回りや、マンション周辺の公園をだいたい改変して回って、これ以上の鳥ネタはもう無理っぽい。
この界隈の鳥たちはみんな俺の、ある意味家族みたいなもんになってしまった。まだやるとすれば、この一度つながった鳥たちとの絆を断ち切ってしまう改変をすればいいんだろうけど……、なんか寂しく思えてそれには踏み切れない。
大型の鳥には変わらず手を出してはいない。仕方ないからそいつらに改変の手を伸ばすかな?
カラスとか賢いし、懐くと案外愛嬌もあるって聞くし……。
そんなことをエアコンの効いた趣味部屋で考えてたらスマホが鳴った。LINIEが入ったみたい。朝っぱらから誰だ?
『佑奈さん、こんにちは。お久しです』
おお、モギモギではないか。マジで久しいな。夏休みからこっち、色々あってコンビニで遭遇する機会もなかったし。
『おひさ。どうしたの?』
『えっとですね、久しぶりなのにこんなことお願いするのはちょっと気が引けると言うか……』
ハッキリしない茂木クン。考えまとめてから書き込んでくんない?
『そんなのいいからハッキリ』
『ゴ、ゴメン。じゃあ、単刀直入に! コスプレもう一度してほしい!』
『へ? コスプレ? もう一度?』
何で? 俺もう二度とすることないと思ってたんだけど……、一体なにあった?
『そうなんだ。それで、言いにくいんだけど撮影会あるの今日なんだ。来てもらえるならすぐにでも迎えに行くよ!』
『はぁ? 何それ! ちょっと、いくらなんでも、急すぎでしょ?』
マジ急すぎてワロタ。いきなり来いって言われて、もしだ、もしそれで行ったとしてもだ、俺一人じゃ何も出来ないっての。
『そう、だよね。はぁ、僕も急に振られて困っちゃって。知り合いには断り入れるよ。急にこんな話し振ってゴメン』
モギモギ、あきらめんの早! なんか事情あるみたいだし、茂木クンには前、色々良くしてもらったし。
『わかったわかった。やる。やったげるからちゃんと事情説明して』
ってことで直接会って事情聞くことに。で、そのままお出かけコースになりそうだなぁ。
***
俺は特に出かけるために何かするでもなく、ここ最近の外出時のかっこ、キャミワンピにパーカー、バケットハットかぶった姿で待ち合わせの場所へと向かう。急だったしね。色々考えるのめんどくさいしね。
待ち合わせ場所である一階のいつものロビーまで行けば、すでに茂木クンが誰かと一緒にいた。こいつ、最初からここにいたな?
「お待たせ……」
ひきこもりの人見知りが発症した俺は警戒心爆上がりだ。なんか最近知らない人との出会いが多い。これ、けっこうストレスだわ。
「あ、佑奈さん、急な声掛けでほんとゴメン! で、えっと、この人が今回の話を振ってきた……」
俺に紹介しようと手を差し伸べるより早いくらいのタイミング、ちょっと食い気味でその人が前に出てきた。でもって俺の顔を値踏みするように覗き込んできてしばらくジーっと見つめられてしまった。
「あう……」
な、何この人!
俺どうしたらいいか、対応に困る。
「すっご~い、なにこの子。もうこのまま素でもイケるんじゃないってくらい完璧なんだけど! 茂木ちゃん、話し通してくれてマジ感謝!」
「ちょ、ちょっと式守先輩! 初対面でそれは勘弁してくださいよ~。ゆ、佑奈さん、急に失礼しちゃってゴメン。ほら、先輩も!」
「ああもう、ちょっと引っ張らないで。わかってる、わかってるから~」
なんだこれ。
もう展開に付いていけない。
「こほん。じゃ、改めて……」
バツの悪そうな顔をしてる茂木クンと謎の変人が並んで俺の前に座ってる。
改めて話を聞かせてくれるそうで、ロビーのソファで一旦落ち着いた俺たち三人である。
「こちらは僕の学校のクラブの先輩で式守奏多さん。一応副部長なんだけど……。今回の話を急に振ってきたのはこの人なんだ。……ほら、先輩。あいさつ、あいさつ!」
「もうわかってるから、そんなに肩叩かないでって。茂木ちゃん、先輩に容赦ないねぇ」
この人テンションたけぇなぁ。今までにないキャラだわ。めぐちゃんが霞んじゃう勢い。
見た目は普通なんだけどな。ごく普通のJK。背も普通。澪奈と同じかちょっと大きいくらい。肩上で綺麗に切りそろえたちょっと癖っけのあるショートヘア。前髪パッツンが特徴と言えばそうかも。垂れ目なその瞳はやたらキラキラしてて、そんな目で俺をずっと見て来るから居心地悪いったらない。
「いきなりでゴメンね~。写真部で撮影会参加申し込んでたのに、同行お願いしてたモデルさん急に体調くずしちゃってね~。でも、せっかく申し込んだのに参加出来ないって残念過ぎじゃない! ねぇ?」
いや、ねぇって言われても、ねぇ。
「あ、私、式守奏多。今高三で茂木ちゃんの先輩。奏多って呼んでね」
「は、はぁ。私は川瀬佑奈。私も佑奈でいい」
「せ、先輩! 佑奈さん、年上、年上ですから! その辺、忘れないでくださいよ!」
モギモギ。そんなのは本人の前で言うなって。ったく。ま、別にいいけど。慣れてるし。
「あ~、そうだっけ? 佑奈ちゃん可愛すぎるからそう見えないよね~、あはは」
「先輩……。佑奈さん、そのゴメン……。こんな先輩だけど今日、協力してもらってもいいかな?」
「佑奈ちゃん、いいかな?」
「もう、先輩、頼むからここはキッチリして~」
なにこのコメディ。
……もう好きにして。
***
茂木クンと奏多に連れられ、他の部員たちと最寄りの駅で合流した。
もう完全俺来ること前提。なんだよそれ。
先輩に責任押し付けてるけど、茂木クン、これって結局、君も共犯じゃね? 参加メンバーは俺を入れて総勢六名。少なっ、写真部、大丈夫なん?
ちなみに式守センパイのことは奏多呼びで十分だと思う。是非もない。
「うわぁ、もうコスプレしてるのかと思った! よろしくです!」
「よ、よろしく……。か、かっわいいなぁ、えへっ」
「……サィコゥ……ソザィ……キタァ。……ャフゥ……」
「あ、どうも。よろしく、です……」
やりづれぇし、ちょっときもい。
合流メンバーは男二人、女一人。挨拶も三者三様。
最後のでかいリュックしょったやせっぽちの女の子、ちゃんとごはん食べてるのか? 声聞こえないんだけど。
「じゃ、みんな揃ったし、会場にむけて出発~!」
そう呼びかけた奏多に、合いの手を入れるやつは誰もおらず、そのまま歩き出した。茂木クンすらスルーで笑う。
「佑奈ちゃ~ん、みんながいじめるの~」
あぁ、鬱陶しい! 馴れ馴れしい! 抱き着くな!
そう思うけど口に出して言えない俺なのだった。
妙な先輩に懐かれてしまった。これでも副部長らしい。
世も末だ。
***
やってきたのは古い赤レンガの建築物がずらりと並ぶ倉庫街だ。ここが会場なんだと。
俺はすでに用意されたコスに着替えて終えてここに来てる。けっこう歩いてもうすでに疲れた。
着付けをしてくれたのはなんと奏多! なんてことはなく、もう一人の女の子。声が小さくて聞き取れなかったあの女の子だ。
倉庫街に更衣室がないため、手前の建物で着替えた。第一印象と違って、いざ着付けとなったら、痩せすぎに見える体からは想像できない勢いでやたらテキパキ動いて仕上げてくれ、しかもメイクまでバッチリで俺ビックリだった。
「いや~、マジでラブリィ・キューティちゃんだし! これでもう少し背があれば完璧だったね~!」
奏多が褒めてくれるも一言余計。どうせ俺はちいせぇよ。ほっといて。
「ローファー……だから、誤魔かすの無理……。ハイヒールのブーツ……用意しとけば……よかった。悔やむ……」
そらみろ、女の子がしょげちゃったじゃないか。責任取れ!
で、俺のコスプレだけど。
魔法使いばっかの世界に一人、魔法の使えない主人公が規格外の体力で無双する系のアニメで、そこに出て来る敵役のあざと可愛い女の子魔法使いだ。
ピンクの髪はやっぱそのまま生かされ、またもやツインテールに。シュシュでまとめた少し太めの結び目、頬の横、耳の前には毛の量多めのおくれ毛を胸元近くまで垂らしてる。黒のシャツに真っ白なネクタイ。スカートもシャツと同色で膝ちょい上くらいのタイトなやつ。慣れてないから少し歩きにくい。更に黒のタイツにブラウンのローファー。で、とどめにフード付きの真っ白なローブだけど、袖や裾が新選組の羽織りのダンダラ模様みたく紫に染められてる。ま、模様はもっと細かいけど。
メイクは眼の下から顎に向かって両頬に一筋のラインが描かれ、痣を表現。赤紫のカラコン入れられた。また後で充血するじゃん、やだなぁもう。
「佑奈さん、はい、これ持って」
茂木クンに長~い杖? を渡された。うん、確かに杖。魔法使いお約束のやつ。先端にハートマーク付き。これ誰が作ったの? つかどこに隠し持ってた?
なんかさ、めっちゃはずかしぃ……。
ああもう、早く終わって。
メイン会場に向かって歩きながらも、いつの間にやらみんなカメラ持ち出して撮りだしてる。学生のくせになんでそんないいカメラ持ってるの?
いや、そんなのどうでもいいや。
なんでもいいから早く終わろ。な?
俺の願いとは裏腹に、会場についたあと、その中をくまなく歩きまわされ、撮られまくり、終わったのは夕方ちかく。
休憩もほどほどで、延々、愛想笑いに明け暮れた俺。
モギモギたちだけじゃないんだ。
他の参加クラブとかも入り混じってさ。
みんなして俺をいじめるんだ。
あんなポーズ、こんなポーズ。ハイ笑え、やれ困った顔して。泣いてみようか?
出来るか、あほ~!
俺、引き受けたからには一生懸命やった。
めちゃ頑張った。
褒めてくれてもいいんだよ?
でも。
もう二度とやらん!
絶対にだ。




