【39】新野見 瑛莉華
「えっと……、あの、その、ど、どちらさま?」
突然声をかけてきたのは、ビジネススーツを着こなしたクール系の黒髪美女。
しかもあろうことか俺の男だった頃の名前で、だ。
ありえないはずの出来事に俺はもうお口ぽか~んで、慌てて返した言葉はどうにもしどろもどろになってしまった。
「くすっ、もう少し落ち着かれてはいかが? よければこちらに座ってくだらさない? あなたも私に聞きたいこと、あるでしょう?」
向こうは俺をさも知ってるように話してくるが、こっちはまったく見覚えの無い女性だ。こんな美人、一度でも見ていたらそう簡単に忘れるものか。
けど、いくら美人とはいえ、こんな怪しい奴とご一緒なんかしたくない。かと言ってこのままスルーできるほど達観できてもいないだよなぁ。
「ううぅ、もう意味わかんないし……」
「ああ、じれったい。もと男でしょう? 覚悟を決めてはいかが? 別に佑奈さんの秘密を言いふらしたりしないし、そもそも私がそんなことをしても意味ない。あなたの力をもってすれば」
うう。この人こわい~、怖すぎるぅ。どこまで知ってるのこれ?
俺は観念して謎の黒髪美女の前に座った。
「結構。いきなりこんな声のかけ方をしてごめんないさいね。でもこうした方がお互い手っ取り早いと思って」
黒髪美女はそう言いながら、向かい合って座った間にあるテーブルの上に何かをそっと置いた。
名刺だった。
「どうぞご確認ください。嘘偽りのない、私が実際に仕事でも使っている名刺です。お調べになればそれが真実だとすぐ確認できます」
「あ、いえ、まぁ、それは別に……」
めんどくさいし……。
「めんどくさいだなんて……、つれないお方ですね。――あっ、いけない、ちょっと口がすべっちゃった……」
最後の方小声でよく聞き取れなかったけど……、美女がてへぺろした。クール系美女のてへぺろもギャップ萌えでいいものだ。
って、そんなこたぁいい!
今なんて?
お、俺の心、読んだ? 読んだの?
なんなのこの人? ヤバくない?
やっぱ、今すぐここから立ち去る、べきっ!
立ち上がろうと両腕に力を入れ腰を浮かせたたその時。
向かいに座ってた黒髪美女がすかさず立ち上がり、ガッシリ上から肩を抑え込まれた。立ち損ねた俺は再びソファーの住人に逆戻りだ。相手の方が大きいとはいえ、簡単に抑え込まれてしまう俺。悔しすぎる。
「まぁまぁ、そんなにむすっとした顔しないで。ゴメンなさい。私もちょっとやりすぎました。ほんとに……、少し落ち着いて、ね? ゆっくりお話しましょう」
俺は今までの黒髪美女のやりように少なからず憤りをおぼえ、そんな思いが表情に現れることを抑えるのは、そりゃ無理ってものだった。
「もうほんといいかげんにしてください。あなた一体なんなんです? 初対面に人間に対してマジ失礼すぎ!」
「ほんとにごめんなさい。つい嬉しくて。あなたがようやくLV4まであがって……、この先に望みが見えてきたから……」
ええ?
またボソッとこの人なんか言った!
もう俺の疑心暗鬼が凄まじいことになってる。
天元突破である。
「こほん。改めまして。先ほどまでの私の態度はほんとにごめんなさい。謝ります。あまりに礼を失してました」
突破してすぐ消沈した。
土下座する勢いで、テーブルに頭をついて謝られた。ビジネススーツに身を包んだ、肩口で切りそろえられた黒髪がとても決まってるクール系美女にそこまでさせたかったわけでもない。
「ああもう、いいです。それで? えっと、しんのみ……えい……?」
「新野見瑛莉華です。初めまして、川瀬佑奈さん。その、私は別に、からかったり、煽ったりしたかったわけではないので……、そこを勘違いなされないよう、切に願います」
ほ~ん。にいのみえりか、さんね。名刺を信じるなら広告代理店の人……か。聞いたことない会社だけど。大手の下請けとかかね? まぁどうでもいいけど。
「それなら初めからそうやって、普通に挨拶してくれればよかったのに……、あんな……」
そう……、あんな、俺の過去をいかにもみんな知ってますよ~、みたいな言い方して……っていうか!
「そう! なんで、どうして以前の私のこと知ってるの!」
やっとこの話だ。もう始める前からどっと疲れた気がする。
「はい、もちろんご説明します。しますがこの場所ではちょっと……。できれば厚かましいお願いですが、川瀬さんのお部屋にお招きいただけないかと?」
「ええぇ……」
いやマジ厚かましい。厚かましいにもほどがある。けどもう今更か。なんかもう俺のことなんて何でも知ってそうだし。
「わかった。じゃあ行こ、今行こ、すぐに行こ!」
ってことで河岸を変えることになった!
いやもうめんどくさすぎだろ、勘弁して。
***
我がマンションのリビングへとお通しした。
一応お茶も出した。
一応お客だからな。
たとえ失礼なことされたとしても俺まで同類になっちゃいけない、うん。
「いいところにお住まいでうらやましい」
「いや、そんなこといいからとっとと説明して」
「ふふっ、そうですね。では……、まずこれを見てください」
新野見さんがスマホを取り出し、俺の前にあるアプリを開いて見せてくれた。
なんか見覚えあるな、これ。
「え? こ、このアプリ……、ええ!」
俺は自分のスマホを取り出し、例のアプリを立ち上げた。前の人には見えないようにコッソリだ。
「お、同じ……、同じやつだ……」
「くすっ、そう同じですね。別にお隠しにならなくてもいいのに。わかってますから」
「うう、うるさい。ほっといてください。だいたい、それ、私に見せちゃっていいんですか? 究極の個人情報じゃないですか」
「はい、かまいません。あなたにはどうしても信じてもらいたいし、私にはあなたが絶対必要ですから」
「え?」
あ、あなたが、ひ、必要? 絶対?
臆面もなくそんなこと、よくも。
俺は自分の顔が赤くなっていくのを嫌でも感じた。人から面と向かってそんなこと言われたのは生まれてこの方一度もない。
誤魔化すためにも俺は目前におかれたスマホを取り上げ、じっくりアプリを見させてもらう。
「やっぱ同じだし……」
俺はついブツブツ言いながらアプリを見る。俺のとまったく同じデザイン、体裁だ。ホームがあって、レベルごとのタブがある。どれどれ……。
「新野見瑛莉華、年齢二十七歳。女……、PSI_LV5。レベル5! これ、マジ?」
PSIってのがわからないけど、……でもタブもちゃんと五つあって、それぞれのタブにそのLVについての項目とログがつらつら記載されてるし。ここまで同じようなアプリ、フェイクで作るにしたってどうやって? ってなる。
こんなん見せられたら、ねぇ。
それに俺は遠慮なくアプリを見てるけど、新野見さんはそれを止めるそぶりを少しも見せない。こんなの普通、人にはぜったい見せない奴なわけだ。俺だって家族にすら見せる気ない。
ちょっとどころか、かなり見直した。根性すわってる。
そうやってアプリを見ていくうちに、俺もかなり落ち着いてきた。いや、アプリの中身については驚くしかないけど。
要約すればこんなところ。
・LV1:PSI能力発現。触った人の記憶を見る。
切っ掛けが何なのかはアプリではわからない。俺はイラスト投稿サイトだったけど。新野見さんは俺みたいに姿まで変わったわけではない模様……。
・LV2:注視した人や物の記憶を見る。10m内 見た瞬間より一日前までの記憶
・LV3:注視した人や物の記憶を見る。無制限 『特典:過去視一年。見る時は範囲内で任意』
・LV4:認識済の人や物の思考を読む。10m 『特典:アプリ』
・LV5:認識済の人や物の思考を読む。無制限
『カンスト特典:一年先までの末来視。条件は任意。一日一回』
ちょっと待って?
まぁ能力はわかった。なんとなくさっき体験した通りの力っぽかった。まぁこれだけでは何で俺のこと知ってるのかは謎のままだけど。
にしても最後のやつ。特典。
これやばすぎでしょ?
宝くじのあたり番号ぜひ教えてください!




