【36】母さんの実家は大変だった
「佑奈、帰って来たかと思ったらすぐ出かけてパパと会ってもくれないなんてひどいじゃないか」
「ああ、はいはい、ゴメンね父さん。でも文句は澪奈に言って?」
俺だって家でゆっくりしときたかった。
「え~、お姉ちゃんも案外楽しんでたじゃん。私だけのせいにしないでよ~」
「それは否定しない。けど泊りになって父さんと会えなかったのは澪奈のせい。間違いない」
「それ言うならめぐのせいだし。私だって誘われたから受けただけだし~」
ま、そうだけどな。この際そんなことはどうでもいい。つうかこの話自体どうでもいいが。
「ほらほら姉妹でケンカしない。パパは娘たちとこうして夏休みを一緒にすごせるだけでうれしいよ」
なんとも模範的なお言葉ですこと。父さん、せっかくのイケメンが目じりたれてめちゃだらしなくなってるぞ。
「それで佑奈、この休み中どこかへ出かける予定はあるかい? 友達と遊びにいくとか?」
むむ。父さんこの俺に向かってなんてことを聞いてくるかな……。
「パパ、お姉ちゃんにそんなこと聞くだけ無駄だよ。この人、家に引きこもるにきまってるし」
「う、うっさい澪奈。勝手に人の予定決めつけないで」
「じゃ、どっか出かけるの? もう私も誘うネタないし、安心して出かけていいよ?」
く、こいつ。わかってるよ? みたいな顔で言いやがって。そのにやけた顔を思いっきりツネリまくりたい!
「ぐぬぅ、な、ない……。家でゆっくりする。と、当然でしょ、実家でのんびりするのが目的で帰ってきてるんだから!」
「うんうん、そうだよね、そうだよね。っていうかお姉ちゃんはいつものんびりと思うけどね」
あ~、ほんとこいつってば。一度ぎゃふんと言わせないと気が……、
「ほらお前たちいい加減にしないか。それで……なんだが、佑奈、澪奈。今年は久しぶりに母さんの実家に行こうと思ってね。ど、どうだ、二人も来ないかい?」
え?
母さんの実家?
う~、あそこって色々めんどくさいんだよな。聞いた父さんもちょっと表情がこわばってる。
けどまぁ、改変がうまくいってるか一度確認は必要だし。前回のLVアップ特典で、俺に関係する人や物すべてに情報の最適化がされるとか、わけわからん奴あったけど、あの後確認出来てないんだよな。
「たまには行こうかな」
「え? お姉ちゃん、マジ? どうしたの!」
そ、そこまで驚かなくてもいいだろ。
「ほんとか? 佑奈、無理しなくていいんだよ?」
父さんまで。そこまでいくと母さんもさすがに気を悪くするぞ。
「別に無理してないし。どうせ家でごろごろしてるだけだし。たまには母さん孝行もいいかなって……」
ってことで俺は三年ぶり? くらいだっていう母さんの里帰りについていくことになった。でも三年ぶりって……母さん、もっと頻繁に帰ってあげて。
俺にはもっと帰って来いって言うくせにさ。
***
「別に無理して付いてこなくて良かったのに」
助手席に座った母さんが、後ろで並んで座ってる俺たちに向かって今日何度目かのその言葉をかけてきた。
「母さんくどい。それにもうここまで来てるのに今更すぎ」
「そそ、ママは気にしすぎ。私はおばあさま、き、嫌いじゃないし、凛ちゃんにも会えるからぜんぜんオッケーだよ」
「そ、ならいいんだけど。あ~、我が実家ながら、ほんと帰るの億劫。佑奈の気持ちが少しわかる気がする……」
ちょ、母さん。それ子供の前で言っちゃダメでしょ。それと俺を例にあげるのやめて。
「ははっ、さすがのママも自分のお母さんには頭上がらないか。何、みんなで行けば大丈夫。今回は佑奈や澪奈もいるし。うん、頼もしいなぁ、僕たちの可愛い娘たち!」
なんか、行くの嫌になってきた。
やっぱメンドクサイわ、母さんの実家。
いやだいやだ、旧家って。
***
一時間少々の小ドライブを経て、辺り一帯のどかな田園風景が広がる中、車の行く先に整えられた林に囲まれたお屋敷が見えてきた。大きな洋館風の建物だ。近くまでくると林の周囲はぐるりと石垣と生垣からなる塀で囲まれてて、塀に沿って進めば父さんのベンツGクラスが可愛く見える大きなゲートがあった。ここだけ今風で違和感すごい。
「相変わらず広いな~」
「無駄に広くて管理が大変なだけね。ここも昔は人がいて開けてくれたんだけど……」
今は母さんのお兄さん、ここの現当主さんが近代化っていうか、リモコン式のゲートにしちゃったらしい。マンションの駐車場のゲートもリモコンで開くわ。楽でいいよな、リモコン式。
ってことでリモコンでゲートを開け……ってこともなく、車が前に止まった時点でゲート開いた。すかさず中に車を入れる父さん。母さんはLINIEで誰かとしきりにやり取りしてたし、監視のモニターだってあるだろうしな。
てか恐るべしLINIEの世間様への浸透力!
こんな田舎の旧家にまで普及してるなんてすげぇわ。
車を大きな駐車場の片隅にとめ、お屋敷の玄関へと向かう。さすがの澪奈も口数少なく、さっきから俺の手をぎゅっと握って離さない。
「おかえりなさい、お嬢さん」
「もうお嬢さんって歳じゃないから。お久しぶり、田代さん。みんないる?」
広々とした玄関に入ると、優しそうな笑顔で出迎えてくれたのはけっこうお年を召した男性の使用人さん。俺も微かに見覚えあるわ。母さんがちょっと懐かしそうな顔をしながら対応してる。
使用人の田代さんは、夫婦住み込みでずっとこの家にいる半分家族みたいな人だ。俺の顔を見ても特に変な表情を浮かべることもなく、改変の特典はちゃんと仕事したようで何より。かなり安心した。
「ええ、みなさん揃っておいでです。お嬢さんがご家族共々帰ってみえるってことで、首を長くしてお待ちです。さぁ、広間までどうぞ」
もうすでにめんどくさくなってきた。母さんの実家のはずなのにこの堅苦しさったらない。やっぱこなきゃよかった。
自分でもうろ覚えでしかない大きな洋館風屋敷の中を、田代さんの案内で進む。廊下がちょっと薄暗くてなんかのゲームみたいだ。小さい時来て、怖かった記憶。ちなみに普通に土足禁止だ。スリッパに履き替えて歩く感じだ。
「どうぞ」
「ありがと。晶子さんにもよろしくね」
ドアを開けるまでしてくれた田代さんは、母さんとのそんなやりとりして下がっていった。
「やあお帰り、玲子。ひどいじゃないか。もうちょっと頻繁に帰ってきてもいいと思うけどな」
「もう家を出た身だし。あまり顔を出しすぎるのもどうかと思うから」
いきなり母さんと会話を始めたのがここの現当主にして母さんのお兄さん、隆正さんだ。大きな広間の中央にこれも大きくて立派な長テーブルが置かれてて、そこにみんな座って待っていたみたい。壁には普通に巨大な液晶TVが設置されてて、現代なんだなっていやでも認識できる。
恰幅のよい隆正伯父さんは少々お腹が出てるけどまぁ顔の出来自体は悪くない。テーブルには伯父さん夫婦とその娘。あと前当主夫婦であるじいちゃん、ばあちゃんが座っていた。
「隆正、いきなり話し出すとはなんですか。身内であればこそ礼節はきっちりなさい」
そう苦言を呈したのが俺たちのばあちゃんだ。『佐久目瑶子』それがばあちゃん、いや、おばあさまの名前。ばあちゃんなんて言えば叱られる。優しいけど厳しい。それが母さんの母さん、瑶子おばあさま……なのだ。
ああ、もう、やっぱめんどくさいわ。
苦言からはじまった久しぶりの家族の団欒? 団欒と言っていいか微妙だけど、俺たちもテーブルの一角に座り、多少ギクシャクしつつもそれなりに話ははかどっていく。
「佑奈、澪奈、こちらに来ておばあさまによく顔をみせておくれ」
きた。俺と澪奈はお互い顔を見合わせてからおばあさまのもとへと向かう。いや、なんで身内にこんなに緊張すんだよ? ばあちゃんこええよ。
「おばあさま、お久しぶりです。佑奈です」
「み、澪奈です。おばあさま」
澪奈め、噛んでるじゃんか。緊張しすぎだろ。
「うんうん、二人ともよう来てくれた」
俺と澪奈は交互に頭を撫でられた。ばあちゃんも結構背は高いけど、撫でにくかろうと澪奈は頭を下げて撫でやすくしていた。俺はその必要がほとんどなかったからなんか悔しい。たかが七、八cm。されど七、八cmなのだ。
つうかこの中で一番チビが俺な件。
ばあちゃん、俺や澪奈よりでかいし。なんならじいちゃんなんか父さんと同じくらいあるし。
「佑奈はもうすこし大きくならんとなぁ……」
「あの、おばあさま。私も二十三歳だし、そこはもう諦めてます、あはは」
「おや、そうかい。ほんにいつまでも子供のようで……いや、しかし、佑奈はいい母親になれるであろう。うん。背は関係ないわなぁ」
おいばあちゃん。今どこ見てそう言ったんだ?
厳しそうで案外おちゃめさんだな、このばあちゃん。
だがしかし、男に揉ませる『おっ〇い』などない!
そして子供に吸わせる『お〇ぱい』もない!
「お前たちは、ここにいても面白くなかろう。そこの凛と遊んできなさい。凜や、いとことはいえ、二人は客人。粗相のないよう、気を付けるんだよ」
ばあちゃん、あんたが俺に粗相したけどな。
「はい、おばあさま。佑奈さん、澪奈。私の部屋へ行こう。付いてきて」
ってことで、いとこの凜に連れられて、俺たちは一足早く緊張感あふれる広間から脱出した。父さん、母さん、まぁ頑張れ。
ちなみにいとこの凜は今年成人して、二十歳になったはず。時の過ぎるのは早い。こいつも俺より小さかったのにいつのまにか追い越していきやがった。
もう当分ここに来ることはないな。改変に問題ないことも確認できたし。
しばらくマンションから離れたくないわ、ちくせう!




