【35】日差しなど俺の敵ではないとしれ!
「はぁ、ほんと元気だな、あいつら……」
俺は一人、パラソルの下に敷いたレジャーシートの上で膝を伸ばして座ってる。長い髪はシュシュで後ろで束ねて邪魔にならないようにしてある。シュシュってなんぞ? ってなもんだったが、妹がそれを使って髪を束ねてくれた。ゴムを通した布の筒を輪っかにしたやつで、縮んでると蛇腹状になってて、しわが無くなるまで広げると結構広がる。輪にリボンがあしらわれてて可愛いんだこれ。
いや、別に嬉しいわけじゃないから。客観的に見た感想なだけだから。
パラソルの下にいるとはいえ、麦わら帽もキッチリかぶり、パーカー着ている俺は日差し対策バッチリである。クーラーボックスから冷えたビールを……といきたかったけどこの体になってからアルコールはダメダメである。普通にジュースとか出してちびちび飲む。拠点づくりで火照った体を海に一瞬だけ浸かることで冷まし、汗も流した後は俺はずっと拠点警備員としてがんばっているのだ。
しかしワンピースの水着が濡れると肌にはりついてきて最初はけっこう違和感あった。男の時はトランクスだけなんで、たいして気にならなかったけど、胸から腰まで全部覆われてるとさすがに気になるよな。
ま、すぐ慣れたが。
波打ち際でビーチボールでポンポンとバレーっぽいことをやってる澪奈とめぐ、そして意外なことに一緒になってはしゃいでる奈津美さんを眺めてる。いやぁ、白い砂浜がまぶしい。
最初、一緒にやろうと誘われたが断固拒否した。俺は見る専でいいから。JK二人はそれでも強引に俺を引っ張り出そうとしたけど奈津美さんが無理強いはダメと諭してくれた。ネ申!
「おね~ちゃ~ん、代わりに写真いっぱい撮ってね~!」
「ゆーなさ~ん、いつでも入ってくださいね~!」
「ああ、はいはい。気が向いたらね……」
ま、向くことはない。
澪奈とめぐちゃんは子供のくせしてビキニ姿である。たいしたクビレもないくせにいっちょ前に色気づいてるのだ。その点、俺や奈津美さんは派手さ控えめのワンピースで、シックでエレガントでちょいエロな大人の女性を体現しているのである!
つっても俺にエロがあるかどうかは微妙なとこだが、水着を押し上げてる二つの山は十分基準に達してるはずだ。奈津美さんにはとてもかなわないにしても。
いやしかし、奈津美さんのわがままボディをもってすれば派手さ控えめとは言い難いか?
今もビーチボールと戯れてる彼女のお山が、動くたびに揺れ弾み、右へ左へ、縦横無尽に、いや……暴れん坊がすぎる。
幸い、この辺りは周辺民宿客専用のビーチになってて、よその人たちとはそれなりの距離が保ててる。いやらしい男どもの目も近くにないのでその点は安心だけど。そいつらの役は俺が一人で引き受けてあげるとしよう!
とは言うものの。女の体になった今、そんなの見ても興奮することもなく……、ただただ男の時のノリで考えてるだけなのは虚しい限り。
いやぁ、いい海水浴日和だな~。
だがしかし。
結局、澪奈たちに引っぱり出され、的にされ、砂まみれになった俺である。ずっこけ顔面から突っ込んだ俺は思いっきり笑われた。
あ~そうさ、どうせ俺はどんくさいさ。
ほっといて!
その後、みんなで海に入って砂を落としつつ、浮き輪でぷかぷかただよったり、シュノーケル使って海の中を覗いて、適当に生き物ウォッチしたりして、それなりに楽しんだ。
なんのかのしつつ日が傾き出したころ、民宿へ戻った俺たちである。
***
「ひぃ~、肌がひりひり~。水着あとくっきり~」
「やっば、肌、真っ赤なんですけど。あ、ちょっとめぐ、いきなりお湯かけないでよ!」
大浴場で絶賛入浴中の俺たちである。とは言ってもそれは名ばかりで、四、五人くらいがちょうどの広さしかない。したがって宿泊客は部屋ごとに時間を区切って使わせてもらう流れとなる。
なので今は俺たちの貸し切りというわけ。良き良き。
「え~、お姉ちゃんなんで全然日焼けしてないわけ? どんなスキンケアしてるのさ、ずるい~」
「知らん。別になにもしてない。体質?」
答えはきっと改変さんが仕事してる。たぶん。言えんけど。
「ゆーなさんマジですか! なんてうらやましい体質。私にもそれ分けてください」
「出来るか! だいたいあんたたち、あれだけ外ではしゃぎまわってたら、いくら日焼け止め塗ってたってそうなるに決まってるし。自業自得!」
湯船に浸かることを断念した二人はぬるめのシャワーを浴びることで汗を流すしかない。洗い場で二人並んでシャワーを浴びてるけど、見事にビキニの跡だけくっきり白く残ってて大変面白い。プークスクス。
俺はそんな二人を尻目に、肩までしっかり浸からせてもらってる。
「はぁ~、いい気持ち。お風呂サイコー」
「くぅ、めぐぅ、お姉ちゃんが当てつけて来る。くやし~!」
ぷふっ、ざまぁ!
そんなくだらないやり取りしてたら浴場のドアがカラカラと開いた。古いアルミサッシのドアが開く音は安っぽいけど、それもまた良き。
「萌美、あなたたちちょっと騒ぎすぎ。廊下まで声聞こえてきて、恥ずかしいったらない……」
タオルで体の前をかくしつつ、入ってきたのは奈津美さん。開口一番、めぐちゃんに愚痴を言い放って草。そしてたかがタオル一枚では起伏にとんだそのボディを防御することは不可能。
眼福です!
『元気なむすっめっこたちで、宿が華やいでええなぁ』とか言われたんだと。俺は別にいいと思うけど、奈津美さん的には高校生にもなってお風呂で子供みたいに騒ぐなって認識らしい。
そかそか。俺は余計なこと言わないでおこう。嫌われたくないもんね。
奈津美さんは節度をもって海水浴を楽しみ、日焼けにも気を使っていたおかげか、ばか二人組みたいにひりつくようなことにはなってない。ま、それでも外にいたことに変わりはないので薄っすらワンピースの跡が付いててそれがまた……。
もうこれくらいにしておこうか、俺。
けれども!
俺がみんなを見る以上に、三人がそろって白い肌のままな俺を見てうらやましがってくる。
でもさ。俺、今まっぱなんでね。ちょっとジロジロ見すぎじゃないかしら?
「もう恥ずかしいから、勘弁して!」
***
「うん、やっぱ、ここのお食事おいしい」
「日本海側といえば海の幸だよね~! お刺身お刺身~」
「白いごはんだって最高! これにお味噌汁だけあればいくらでもお代わりできちゃう」
お風呂に入ってる間に食事の用意がされていて、戻った俺たちは、体のほてりも冷めやらぬまま、早速お膳の前に座り込んで舌鼓を打ってる。
海水浴でほどよく疲れ、お風呂で汗を流した後の民宿ごはんは最高の一言につきる。高級旅館やホテルとはまた一味違った、温かみのある料理なんだよなぁ。お漬物とかも美味しいし、どこかほっとする味というか……。
「まぁ、来てよかったかも……」
「でしょ! でしょでしょ、お姉ちゃん。明日はもう帰らないといけないかと思うと残念すぎ。また来たいよね~」
しまった。澪奈に聞かれてしまった。小さい声でつぶやいただけなのに、それ拾うとはなんて地獄耳。
「そ、そだな。でも、海はもういいかな……。海の幸だけ食べたい」
来るなら食いものツアーだ。海で遊ぶとか出歩いて回るとか、そんなのはしないってことなら……十万歩譲って来てもいいがな。
食事が済めばあとはもう寝るだけ……、とは当然いかず。
女三人寄れば……、の上をいく四人が集まればそれはもうガールズトークの時間となるわけである。
いや、俺は元男であるからやっぱ『三人寄れば』、でいいのかもしれないがな!
何が楽しいのか、キャッキャと盛り上がるJK二人。奈津美さんは聞き役だけど、ちょっとアルコール入ってる。
俺はといえば、それの更に聞き役である。うん、話に入り込み隙間なぞ全くないんだわ。
「で、お姉ちゃん、茂木君とはどうなってるの?」
「もぎもぎ元気ですか~?」
「なになに? 佑奈さんの彼氏さん~? 不純異性交遊禁止! 私だって彼氏欲しいのに~!」
などと思ってたらこっちに話がぶっ飛んできた。
ま、絶対振られると思ってたわ。
っていうか奈津美さん、酔ってる?
「え? あれ以来会ってないし? 会う理由も特にないし?」
コンビニで時々顔みるくらいだな。
「ええ~? まじで? うっそ~」
「もぎもぎ、あいつ何やってるの。ヘタレめ~」
そんなこんなで夜も更けていき……、
俺はいつ寝たのかもわからないまま朝を迎えたのだった。
ま、こんな旅行もたまにはいいかもしれない。ちょっと学生気分に戻れた気がしたし。
でも。
やっぱ疲れるしもういいな。こんな体験、一度だけでいいわ。
ちなみに帰りも俺に運転する機会が訪れることはなかった。
っていうか俺氏、爆睡。起きた時には家の前だったというね。
すまぬ。




