【34】海に行くのが一日だけとは限らないワナ
「急なんだけど泊りで行かない?」
夕ご飯を食べ、リビングでTVを見ながらくつろいでたら澪奈がスマホ片手に近づいてきてそう言った。
「はぁ? 何言ってんの? いやに決まってるじゃん」
即断でそう答えた。海に行くのもホントは嫌なのに、ましてや泊りだなんて意味わからん。
「まぁそう言わないで。明日めぐと三人で行く予定だったじゃん。今、めぐからLINIEで提案あってさ。めぐのお姉さんが友達と行くのに民宿とってたんだけど、友達が行けなくなっちゃったんだって。だから代わりにどうって?」
なるほど。民宿……ね。行ったことないな。そもそも旅行自体、両手で余る程度しか行ったことないし。つうか、めぐちゃんにお姉さんいたんだな。
「理由はわかったけど、肝心の行き先は? どうやって行くの? 宿泊代どうするの? 母さんの許可は?」
「もうそんな一度に言わないでよ~、確認するし~」
スマホをポチポチしだす澪奈。夕飯の片づけを終えた母さんが、聞こえてたのか寄ってきた。ちなみに父さんはまだ帰ってこない。
「えっとね、日本海側のすっごく綺麗な砂浜が目の前にあるとこだって。お姉さんが乗せてってくれるって。宿泊代とか気にしなくてもいいって言ってるって」
スマホを見ながら俺と母さんを交互に見る澪奈。
「どう、ママ? だめ?」
ダメだと言ってやって、母さん。いっそ海に行くなと言ってくれてもいい!
「う~ん、奈津美ちゃんが一緒に行くなら、まぁかまわないけど。宿泊代はちゃんと自分たちで出しなさい。それが出来ないならダメね」
「ううっ。この前お姉ちゃんとこに行っていっぱい使ったのに……。お、お姉ちゃ~ん!」
妹よ、そんな目でこっち見んな!
「そんな甘えた声出してもだーめ。行きたいなら自分で出して。それなら私だって妥協して行ってあげる」
なんのかの俺も甘いな。行かないって言い切れない。
「も~、お姉ちゃんも厳しい……。しゃ~ない、自分で出すか。ってことで、行くって返事するから急いで準備しようね、お姉ちゃん!」
そういうことになった。
***
「うわ~、海見えた。今ちょっと見えた!」
「やばい、めちゃキレイだった~、すっご~」
後ろで騒いでるJK二人。楽しそうでなによりだ。
「ほんとに急だったのに来てもらってありがとね、えっと、佑奈さんだっけ?」
「あ、はい。もうそんな気にしなくていいです。こちらこそ、誘ってもらってありがとうございます。妹、すっごく喜んでます」
朝早く家を出て、目的地に向け高速道路を順調に走行中である。車はめぐちゃんのお姉さん、奈津美さんのコンパクトSUVで、某世界一の自動車会社のよく見かけるやつだ。
今は俺と奈津美さんが前、JK二人組が後ろに乗ってる。出発時は奈津美さんと初見ってこともあり俺と澪奈が後ろだったんだけど、一度休憩したときに今の座り方になった。
だって、JK二人が前と後ろで席挟んでしゃべりまくるもんだから煩わしいったらなかった。速攻休憩して入れ替わったよね。
「疲れたら言ってください。運転代わります」
「あはは、そ、そうだね。その時はお願いする……ね」
まだ微妙によそよそしい空気の中、奈津美さんがそう答えた。こりゃ俺の出番、なさそうだなぁ……。
めぐちゃんから俺のことは事前に聞いて知ってたはずだけど、それでも最初会った時、目を丸くして驚いてたもんなぁ。一応免許証も持ってきたんだけど……。
奈津美さんは俺より一つ上の二十四歳ってことで、うち同様、姉妹の歳は結構離れてる。若干つり目の凛々しい見た目はめぐちゃんと似た雰囲気でいかにも姉妹って感じだ。ただ、体型はめぐちゃんと違いスレンダーじゃない、なかなか良いものをお持ちのようだ。
澪奈がそんなカッコいい系スタイル抜群のお姉さんを羨ましそうに見てて、ちょっと悔しさを感じてしまった。
ふん、どうせ俺は運転任せてもらえないような、見た目未成年な軟弱女子ですよ~だ。
ま、拗ねててもしゃーない。いつものことだし、わりきってこ。
***
車を走らせること三時間弱。俺たちは無事目的地に到着した。
奈津美さんがお世話になる民宿の駐車場へと車を駐める。ここは馴染みの宿ってことで迷いがない。
「なっちゃん、運転おつかれ~」
「奈津美さん、運転ありがとう!」
俺たちは運転してくれた奈津美さんにお礼をいいつつ、車から荷物をせっせと降ろす。女子四人の一泊旅行、しかも車での移動とあってみんな荷物に遠慮がない。カバンがでかい。俺も澪奈や母さんにあれやこれやと詰め込めれ、でかくなってしまった。
ぶっちゃけ俺の帰省の荷物より多いんだが?
意味不明なんだが?
とにかく荷物を抱えた俺たちは民宿へ向かった。つってもすぐ脇がその民宿である。
大きめの古民家って佇まいの民宿は大きな中庭があって、見れば共用であろうシャワーやトイレとかも並んでるのが確認できた。奈津美さんいわく、海から戻ってきたとき用らしい。ビーサンのまま使用可能! 中にもあるから安心してって言われた。
まじ安心した。外までトイレ行かなきゃいけないなんて勘弁してほしい。
「おじさん、おばさん、お世話になります」
「ようおいでなさった。部屋はもう準備できとるで落ち着いたらええ」
迎えてくれた民宿のオーナーさんは高齢に差しかかった老夫婦って感じで、いかにも人柄の良さそうな人たちで好印象だ。まぁそれでも積極的に話そうとは思わないけど。
案内されたのは畳敷きの続き部屋。六畳間二つで中央が襖で仕切られてて、開ければ当然大部屋として使える感じだ。
「この宿から小路を挟んで、すぐ目の前が海だからね。近いから楽だし、疲れたらいつでも戻ってこれるし、シャワーとかも使い放題だから便利だよ」
奈津美さんが軽く説明してくれる。なるほどね。
部屋の片隅に荷物をあつめ、貴重品とかは床の間に備え付けの金庫に放り込む。俺をのぞくみんなは海に行く気満々みたいで、JK二人組はすでに荷物をあさり出してる。
部屋の廊下と接する側は障子で隔てられただけの、なんとも心許ない部屋だけど、どうやらここで着替えをするらしい。
JK二人と、大人の女性。その中に元男の俺が混じってする生着替え。
いいんでしょうか?
いいんです!
俺だってみんなから見られるんだからある意味平等だ! 是非もない。内心でそんなことを思いつつ、俺はことに及んだ。
奈津美さんの体。やばかった。今まで見た中で一番くるものあった。ヒエラルキーとしてはこんな感じと愚考。
奈津美さん>>越えられない壁>>俺>澪奈≒めぐ
まぁ、めぐ、がんばれ。背の高さは勝ってるぞ!
「お姉ちゃん、なにそんな隅っこで着替えてるの? 恥かしがっちゃってかわい~」
ぐはっ、きゅ、急に声かけんな。
そして、ほっとけ!
コソコソやってたら、みごと妹に突っ込まれた俺だった。
***
「うわ~! まるでプライベートビーチだ~!」
「あ、めぐ、ちょっと待て~!」
道を挟んだむこう、ちょっとした土手を越えたらほんとすぐそこに青い海があった。夏の青い空にもくもくと立ち上がる白い雲をバックに、それはとてもきれいに見えた。
土手のせいで見えてなかっただけに俺も結構感動した。
JK二人組は水着の上に薄手のパーカーを羽織ったまま、荷物を放り出して浜辺にかけていきやがった。
元気なのはいいけど、やることやってから行きやがれっつうの。ま。お子ちゃまには難しいのかもな!
俺が乾いた笑いを浮かべてたら隣に奈津美さんがきた。
「困った子たちなんだから。佑奈さんも行って来ていいよ? 荷物は私が見てるし」
「あ、いえ。私はべつに。若くないんで。それより陣取りやっちゃいましょう」
俺のそんな言葉にキョトンとした表情をみせる奈津美さん。
ん? 俺おかしなこと言った?
「くすっ、そう言えばそうだった。私の一つ下なだけだった。もう、その見た目反則」
笑いながら軽く肩をたたかれた。
どんなスキンケアしてるのとか、陣取りとかちょっと男の子みたいだとか、色々聞かれたり言われたりしつつ、シートひいたりパラソル建てたりとビーチの拠点づくりに勤しんだ俺たち大人組である。
いや、奈津美さんのちょいエロワンピース姿を見ながらの作業はなかなかいいものだった。
おかげでちょっと汗だくに。仕方ない、ちょっと海に入るとするか。
やっぱ夏は暑くて、汗もこんなにでるものなんだって。
わかってはいても、今更ながらそんなことを思う、俺だった。




