【33】佑奈(元男)ふたたび帰省す
『母さん、予定通り出発したからお迎えよろしくね』
LINIEにそうコメを入れるとすぐ返事が返ってきた。
『お姉ちゃん、おみやげ期待してるから』
妹だった。
『お前に渡すみやげなどない』
『がーん』
ベタな返しと共に文句のスタンプが大量に返ってきた。うぜぇ。
『はいはい、冗談だから。ちゃんと買ってくから』
まったく。どうせ妹もついてくるんだろ。家でおとなしく待っとけばいいのに。
『いつも通り、駅前のロータリーで待ってるから、気を付けて帰ってきなさい』
母さんからもコメきた。面倒かけます!
『ありがと。気を付ける。じゃ、よろしくね』
これでよしっと。みやげは駅の売店で適当に買えばいいだろ。肉まんとかお菓子、適当にみつくろってこう。
外は暑いから横着してマンションからタクシーで駅に向かってるからラクチンだ。少しでも外を歩く距離を減らしたい。汗かくとベタベタするし、服もはりつくしで気持ち悪いからやだ。改変で汗かかないとか、かいてもべとつかないとか……出来ないもんかね?
俺自身にもっと役に立ってくれてもいいんだが?
そりゃ怪我が治ったりと、十分役に立ってるけど……。それはちょっと世間的にバレるとやばすぎる。
ま、もしバレた時はそれこそ改変で全力全開誤魔化すが?
まあいいや。
とりあえず新幹線乗ったらスマホゲーでもして時間つぶそう。そうしよう。
***
「まぁ、なんのかの言っても家は落ち着く~」
無事母さんたちと合流し、実家まで帰ってきた俺。今はリビングで母さんが入れてくれた冷たいお茶を飲んでのんびりしてるとこだ。
誰かに絡まれたりナンパされることもなく帰ってこれてホント良かった。この姿になって何が嫌って、外に出ると結構な頻度で人がこっち見て来るのと、更にその視線の先が顔以外に胸や腰回りに行くことがいやでもわかるってことだ。で、前みたく声かけて来るような奴もいるから油断できない。
自分で言うのもなんだが俺の姿は二十三歳にはとても見えない、いかにも未成年な美少女だ。ついでに引きこもり系なので色白で体力もない。なのに胸は手のひらには収まらないレベルの物が二つ存在を主張してて、これがまた目をひいちゃうんだよな。巨乳じゃないけどそれなりにいい形してるんだ、これが。
俺も最初のうちは興味があったから、自分ながら色々……ゲフンゲフン。
いかん、いかんぞ。実家のリビングで何考えてんだ俺は。
「お姉ちゃん、早速だけど海に行く日、明日になったから。水着ある? お姉ちゃんのことだからどうせ持ってないよね? だから今から買いにいこ?」
え? 明日?
え? 水着?
「ちょ、ま、そんな急に。もうちょっとゆっくりしてからでよくない?」
前から話し振られてたから、さすがに行かないとは言えない。いや、言いたいけど。
「お盆になる前に行っときたいから、だ~め。ママも今の内なら良いっていうから。だから諦めようね~、お姉ちゃん」
むむぅ。お盆ぐらいから海はダメっていうしな。
でも今どきそんなこと守ってる奴なんて……。いや、うちでは母さんが絶対だ。母さんがダメって言えばダメなんだよな。
「まぁ、それなら仕方ないけど。私はついてくけど海には入らないから水着いらない。だから買い物も行かなくていい」
「何言ってるの。海、暑いよ~? 浜辺にいたらきっと入らずにはいられないよ~? っていうか絶対私たちが引きずり込んじゃうから! だから、水着、買お? ね、お姉ちゃん!」
ううう。
やっぱダメか。ダメもとで言ってみただけだけど……残念だ。
いくつもある、この姿になって嫌なこと。引きこもり系社会人の俺なのにやたら外に引っぱり出されることが増えた。なんで?
お願い、俺を普通に引きこもらせて?
そしてすぐ流されてしまう俺。もっと意志の強い人になりたい。
改変、俺にももっと仕事しろ~!
***
「これなんてどう? お姉ちゃん胸あるし、これ着たらビーチの男の視線独り占め!」
家でいくらか休んだあと、いつも来てるショッピングモールにまた母さんに乗せてきてもらい、ショップを見て回ってる俺たち。澪奈、お前母さん使いが荒すぎだぞ。もっと親孝行しろ!
水着選んで持ってきては俺の目の前に掲げる妹。俺が見てもどんなのがいいかなんてわからないし。助かることはたすかる。
ただしだ。今持ってきたビキニ。いや、ビキニを選ぶこと自体はまぁ色々種類あるんだし、選択肢の一つになるのは仕方ない。
でもこれはダメだ。
布面積、やたら少ない!
股上だって思いっきり浅く、しかも横がほとんどヒモ。澪奈め、こいつ絶対わざとだろ。
「ぜ~ったいイヤ! おまえ、まじめに選んでくれないともう行くのやめる」
「あ~もう、ちょっとしたジョーク。冗談じゃん。心広くもたなきゃ! ん~っと、じゃあこれは?」
うっせ、そんなものに広げる心なんてない。
で、後ろ手に隠してたもう一着を入れ替わりで掲げた澪奈。ちゃんと持ってきてるし。
「ん? あ、これなら……マシかも」
ワンピースだ。濃い色目で目立つ柄もほとんど入ってない比較的地味なやつだ。なんだ、ちゃんとわかってるじゃんか。まぁ多少少女趣味なフリフリが付いてるが、さっきのと比べれば妥協範囲だ。フリフリが体の線を少しなりとも隠してもくれるから、付いてた方がいいって話しすらある。
あと白っぽいのや淡い色は透けそうでやだ。
そういうの元男だから詳しいんだ。目がどうしてもそこにいくんだ。
「もうそれでいい。じゃ帰ろう!」
「まったく、ほんとお姉ちゃんこういうの興味ないんだから……。とりあえず試着! 話はそれから!」
めんどくさいけど、澪奈が妥協してくれることはなかった。
うう、元男の俺がとうとう女物の水着まで着る羽目に……。色々慣れたと思っても越さなきゃならないハードル、まだまだありそうだ。
泣ける。
何度か試着して、結局ビキニとワンピース、二着買うことになってしまった俺である。もちろん妹の推しによる。
「じゃ、帰ろ~!」
「え~、麦わら帽とかビーチサンダルとか、いるものまだあるじゃん。お姉ちゃん、何も持ってないんでしょ? いいの? 買わなくて?」
「むっ、そ、そりゃあ、あった方が……いい、けど」
結局押し切られて、それから更に一時間以上うろつく羽目になった。
母さんはそんな俺たちを終始笑顔で見つめてた。なんか嬉しそうで、それだけは買い物に来てよかったと思えた俺である。
***
「は~、疲れた~! もう明日海に行く元気ない~」
家に帰りつき、買い物の整理をしたところでリビングに降りてきてソファーにダイブした。
夕飯が近いから下で待機してるのだ。手伝いは、まぁ料理を運ぶくらいはする。それまでは手だし無用を言い渡されてる。キッチンから調理中のいい匂いがただよってきて、嫌でも食欲を刺激する。朝から動きずめだったからなおさらだ。
「それで佑奈、茂木君だっけ? いつママに紹介してくれるの?」
ぶふっ!
母さんがキッチンのカウンター越しに、とんでもない爆弾を投下してきた。
「なっ、母さん、急に何を。つうかなんでそんなこと知ってるの?」
そう聞いたもののネタばれ元は考えるまでもない。
「澪奈のやつ~、ほんとおしゃべりなんだから」
「そう言わない。遊びに行くってそっちへ行って、何をしてたか聞くのは母として当然のことです。佑奈ももっとママにお話ししてくれてもいいのに。ほんとめんどくさがりなんだから……」
面目次第もありません。
「彼はそんなのじゃないから。歳だって六つも離れてるし、趣味の友達ってだけだから!」
「ふ~ん、彼ねぇ。六つくらいどうってことないし、あなた童顔だし、ちょうどいいんじゃない? ……まぁいいけど。いい人見つけたら絶対教えなさいよ? ママそれだけが生きがいなんだから」
お、おおげさな。
つうか澪奈といい、母さんといい……。二人してそっくりか!
ああもう変な汗かいた。
もう今日は早く寝る。決めた。父さんは盆休み前の仕事スパートで残業らしいから顔合わせられないけど仕方ない。
やっぱ実家に帰省はなるべくしない方が精神衛生上いい。
減らそう!
無理!
とりあえず澪奈はしばく!




