【26】妹再襲来。おまけつき
時の経つのは早いもので、世の中の学校はこぞって夏休みに突入している。いいよね~、学生は長い休みがあってさ。
ま、引きこもり系社会人の俺が言うのもなんだけど。
『お姉ちゃん、きたよ~。開けて~』
『初めまして~、よろしくで~す』
ってなわけで、茂木クンお誘いのコスプレイベント開催日まであと一日となったところで、予定通り澪奈御一行様がマンションに到着したらしく、呼び出し音とともにインターフォンから元気な声が聞こえてきた。
いつもなら俺の返事なんてお構いなしで突入してくるのに今日は友達の手前、ちゃんと段取り踏むみたいだ。いい子ぶってんなぁ。ま、普通に開けるけどさ。
「いらっしゃい。はい、開けたから入ってきて」
『サンキューお姉ちゃん。めぐ、遠慮しないでいいからね~、いこ!』
こいつ、澪奈……。ここは俺のマンションで、お前の家じゃねぇっての。ったく、厚かましいにもほどがあるわ。
「やっほ~、お姉ちゃん、久しぶり~」
申し訳程度に玄関のインターフォンを鳴らし、俺が開錠するまでもなく、そのまま持ってる鍵で入ってきた澪奈。結局それかい。なら最初からそうしとけよ、もう。めんどくさい。
いやいや、インターフォン鳴らすだけマシになったと思うべきなのか……。ま、とりあえず母さんにチクろ。そして叱られろ。親しき仲にもなんとやらだ。
「あの、初めまして! 沢谷萌美です。私、お姉さんにぜひお会いしたくって、ずうずうしくも来ちゃいました!」
「あ~はい、その、こちらこそ初めまして。いつぞやは掲示板のこと教えてくれてありがとね。色々いい教訓になったよ……、うん」
初顔合わせの沢谷さんは、澪奈より若干背が高めのスレンダー女子で、色素の薄いショートボブの髪は茶髪っぽく見える。活発そうな様子と半袖シャツにショートパンツって装いなこともありなんともボーイッシュな女の子だ。似たような服着てるのに、いかにも今どきの女の子っぽく見える澪奈とは好対照だ。
「ああ、あれですか~。あれほんとビックリしました! 女の子のスポーツカー乗りをネットで探してたら、なんか見覚えのある『きいろちゃん』とピンク髪の可愛い女の子の画像見つけちゃったんですもん」
またなんでそんなの見て回ってるんだこの子は。っていうか『きいろちゃん』?
「あの、沢谷さん。『きいろちゃん』て……もしかして私の?」
「はい、そです! お姉さんのカッコいいスポーツカー。以前、みーなに写真見せてもらってビビっときました。眩しいくらいの明るい黄色がサイコーに素敵です。『きいろちゃん』って呼んじゃ迷惑……ですか?」
いや、そんな不安そうな顔してこっち見られたら嫌ともいえんし。まぁそもそもどうでもいいし。
「あ、いや、いいんじゃない、別に。呼び方なんて好きにすればいいよ」
「はい! ありがとうございます。それにしてもお姉さんもすっごく可愛いし、『きいろちゃん』もかっこかわいいし。もう私、どうしよ~」
いや、それ俺のセリフ。なんともすっげぇキャラだな、この子。俺は若干呆れの混じった目で、妹の方に視線をやる。
肩すくめて舌ペロってしやがった。いや、お前が連れてきたんだろ? なんとかしろや。ゼスチャー交じりでアイコンタクトを交わしてたらやれやれといった様子で、澪奈が沢谷さんの肩をポンポン叩きつつ声をかけた。
「ほらほら、めぐ! こんなところでずっと立ち話する気? 一度リビングでおちつこ。そこでいっぱいお姉ちゃんと話せばいいよ!」
おい、こら!
更に燃料投下してどうすんだよ!
妹に期待した俺がバカだった……。
ま、なんにしろ無事到着してくれてなによりだ。しかしまぁ、妹がくると静かだった俺のマンションが一気に騒々しくなる。沢谷さんもいるし、これから五日間、気が休まる時間もなさそうだ。
そう、妹たちはコスプレイベントだけではもったいないとばかりに色々やりたいことを計画してこっちに来たらしい。まぁ俺としては何言ってもどうせ聞いてもらえないだろうし、好きにすれば? って感じで、すでに諦めの境地だ。
母さんや、沢谷さん母の許可を得てるのなら俺から言うことはな~んもないわ。
騒々しくも、妹の案内でリビングに移動していく二人。我が物顔の澪奈のほっぺたをおもっくそつねってやりたくなる。やらんけど。とはいえ一応二人は客。
せったい、せったい~。
「外は暑かったでしょ? まぁこれ飲んで一息ついて。あと、部屋はそんなにないから澪奈と沢谷さん、同じ部屋で寝ることになるけどいい? それか澪奈はリビングで寝るって手もある。お客様である沢谷さんは洋室使ってもらってさ」
冷蔵庫に放り込んであった500のペットボトルのお茶を二本並べて置く。コップ? そんなもの、自分の分しかない。つか自分もほぼ使わんけど。
「ありがとうございます! いただきます。で、えっと、寝る場所はどこでもいいです。お任せです」
文句も言わず素直に礼を言う沢谷さん。ええ子やのう。それにひきかえ……。
「え~、リビングなんてキッチンと続いてて落ち着かないからやだ。そだ、お姉ちゃん、久しぶりに一緒に寝てもいいよ!」
「やだ。寝るときぐらいゆっくりしたい。お前と一緒なんて絶対むり」
「めぐ~、お姉ちゃんがつめたい」
俺が出したペットボトルのお茶を美味しそうに飲んでる沢谷さんに縋り付く澪奈。よしよしと頭を撫でる沢谷さん。仲良しでよろしゅうございますね。
とりあえず妹には、最初の挨拶ふくめ、礼儀作法をマジで再教育必要だな。
***
部屋に案内し、二人が落ち着いたところで再びリビングに集まった俺たち。それぞれ持ってきた部屋着に着替えてすでにリラックスモードだ。沢谷さんは俺と一緒でジャージ派らしく、上はTシャツ、下は短パンジャージだ。さっきは気付かなかったけど、すらりとした長い脚はスポーツでもしているのかなかなか筋肉質だ。女の子にこんな言い方は気を悪くしそうだ。言わんけど。澪奈のぷにぷにしそうな温室育ち丸出しの肌とはこれも対照的。色々正反対な二人だなと思う。
ちな俺は安定の上下長袖長ズボンのジャージである。色はピンクっぽい紫。買い物時、紺系にしたかったがそこは母さんと妹二人におしきられてこの色になった苦々しい思い出。
「お姉さんってと~っても可愛い見た目と違って、そのなんというか気さくな感じの人なんですね。以外です」
いや、面と向かってそう言われると照れる……。いや、事実だけどな! 人から気さくって言われたの、生まれてこの方初めてだな。なかなか良きものだ。
「めぐ。気さくだなんて、そんなオブラートに包んだような言い方しなくていいよ。お姉ちゃんはね、ちょ~がさつなの。ほんと雑で、男の人みたいなしゃべり方して、何度言っても直してくれないんだよね。ママも呆れてるんだ」
「うっさい。別にいいじゃん。家の中なんだから。外じゃこんな話し方しないし」
「ほら、これだ」
「とりあえず、二人が仲良しなのはよくわかった。いいな~、妹みたいなお姉さんで。私も可愛い妹欲しかったな~」
ん?
あれ?
ちょっと聞きとれなかったけど、なんか今の沢谷さんの言い方、妙に引っかかった。なんだ?
う~、気になるけど……まぁいっか。
「……ちゃん。お姉ちゃん聞いてる?」
「え? あ、ゴメン、何だった?」
「もう、ぼけっとしてないでちゃんと聞いててよ~。せっかくコスプレイベント行くんだから、私たちも軽くコスプレしよって話し」
「え? うそでしょ?」
「あ~、そんな本格的なのじゃないよ? ほら、ディズキューのディッキーラビットの耳? あのカチューシャみたいなノリでさ。三人おそろで可愛くしていこうよ」
な、なんだよ。おどかすない。そのレベルね。
「ま、まぁ、それくらいなら」
「やったね! 楽しみ~」
「だね~。それとお姉さん。そのぉ、お姉さんのこと佑奈さんって呼んでいいですか? 私のことも萌美とか、みーなみたいに、めぐ呼びでいいので!」
「ぜんぜん佑奈でおっけー。好きに呼んだらいいよ。私もめぐちゃんって呼ぶし」
俺、なんかすげぇ。
普通に友達同士の会話してない?
もう引きこもり系社会人なんて言わせねぇわ。
……すまん。俺が自分で勝手にそう考えてるだけだった。呼ばれてねぇし、呼ぶ人もいないし。
虚しい。
なんにせよ、明日はイベント。何事もなく済めばいいなぁ。
あ、それに茂木クンとの顔合わせもあるし。
…………。
やっぱ、ナニゴトカアリソウダナァ。




