【13】LV3特典が虚(むな)しすぎる
メールの着信があったもののさすがに今見る余裕はない。開いてしまうと例のごとく消えてしまうかもしれないからすぐ見たいのをぐっと我慢し、家に帰ってから確認することにする。
それまで頼むから消えないでくれよ。
「お~い、佑奈、着いたぞ~。どうしたスマホを見てぼーっとして。ほんとに疲れちゃったか? 無理そうなら今日はこのまま帰ってもいいんだよ?」
「え~、パパ何言ってるの、そんなのダメ。お休み明日までなんだから。お姉ちゃん、ほらほら、行くよ~」
いけないいけない。ここは気持ちを切り替えていこう。それにしても澪奈め。ずっと寝てたせいかやたら元気なのな。お前はちょっと疲れてるくらいのが良かったわ。
「あ~、わかった、わかったから、腕引っ張らないで。スマホ落っことしちゃうって」
駐車場でさっさと車から降りた澪奈が、助手席のドアを開け、俺を引っ張り出そうとしてくる。この車、車高もあるんだからそんなことされたら危ないんだっつうの。
ショッピングモールに入ってからは澪奈の独壇場だ。神宮では澪奈にしては大人しかった分、その反動がここに来た。
「澪奈、ママとお揃いの服買おうか? どうせなら佑奈も一緒にとか」
母さんまで便乗してそんなことを言い出した。まぁその表情をみると本気で言ってるわけではなさそうだけど、俺を巻き込まないで。
「え~、せっかくパパのお財布で買ってもらえるのにそれはなぁ。ママとペアはまた今度ってことで。お姉ちゃんは、そもそもそれ以前に、今日色々買いそろえなきゃダメダメだし!」
「あらそう、残念。じゃあ今からママと澪奈で佑奈を目一杯もてあそ……じゃなく、おめかし出来るよう、可愛らしいお洋服たくさん選んであげなきゃね」
おいおいおいおい、なにか不穏な言葉が一瞬聞こえたんだが? 所詮、母さんも澪奈と同類か!
はぁ、やっぱ帰りたい……。
そんな引き気味な俺を逃すまいと、澪奈は俺と手を繋いだまま離してくれそうもない。へいへい、もう諦めて流れに身を任すのみですよっと。
***
「不思議な色合いの髪ですねぇ。でもとても綺麗です。ヘアカラーしてる人にありがちな痛みとかも全然なくて艶々ですしぃ、どちらの美容室で色を入れてもらったんですか? よければ教えてもらえませんかぁ?」
うわ、これめんどくさいやつ。
俺一人じゃ絶対入れない、若い女の子向けのブランドショップに入って、妹と母さんが気に入った服で盛り上がってるところで、一人浮いていた俺にそう声をかけてきた女性。
見れば入った早々、母さんや妹と一緒に軽く挨拶した店員さんだった。母さんたちは顔なじみみたいで、店員さんのことも名前呼びしてたわ、確か。
ちなみに父さんは荷物持ちのモブと化している。
「あっ、いや、そのぉ、これ、じ、地毛だし、美容室とか行ったことないし……」
歳の近そうな綺麗な店員さんに面と向かって声をかけられ、元男の引きこもり系社会人としてはドギマギしてしまってまともに答えられない。母さんや妹も美人だけどあくまで家族。会話することになんの躊躇もない。けど他人は別だ。とても困る。
「ええっ、ほんとですか~? 澪奈ちゃんのご家族、妹さん? とかですよね? 日本人でそんな髪の色ってあるもんなんですか~? っていうか目の色も青っぽいですね! 私、カラコンとか目がすぐ充血しちゃってダメなんですよね~」
なんだこいつ、ぐいぐい来てちょっと馴れ馴れしいな。つうか日本人に決まってるだろが。
あ~、けどまぁ、こんなピンクの髪した日本人なんて確かに居ないだろうし、これが普通の反応だよな……。逆に言えばうちの家族が違和感感じない方がおかしいっていうか。
そういうのもやっぱ改変の影響なのかね?
「あ、ありえるから。地毛だから。目だって自前だし。生まれつきこんな髪色や目の色だったんですっ」
やり取りが億劫になった俺はそう強めに答えながら、その店員さんの目をちょっとビビりが入りながらもじぃ~と見つめた。
そう、改変してやった。さてどうだろ?
「あ、ああぁ……、そう、そうでしたねぇ、生まれつき……の髪……なんでしたね! ピンクブロンドだなんて珍しい色でほんと素敵ですねぇ。でも、お、《《お姉さん》》じゃなきゃ似合わないかもしれませんねぇ。お姉さん、とてもお可愛らしいですし~」
くぅ、成功したものの……なんか、俺にダメージぐいぐい入ってくるんだが。
「あ、お姉ちゃん、これと、これと、これ。とりあえず着てみて?」
なんともご機嫌そうな妹様。母さんも横でニコニコしてる。
やれやれ、これからしばらくはこんなのに付き合わなきゃいけないのか。気が重い、重すぎる~!
はぁ、やっぱ来るんじゃなかった。
***
結局ショッピングモールで、妹や母さんに引っ張りまわされること二時間と少し。さすがにこれ以上は帰る時間が遅くなるってことでようやく、ショッピングも終わりを迎えた。迎えてくれた。さすがの父さんもちょっと元気がないように見える。なんとも恐ろしきかな、女性の買い物にかける執念。
ま、ともかく、終わったんだったら早く帰ろう。お家へ帰ろう!
俺は早くメールの確認がしたいんだ!
けれど。なんと無情にもまだ帰れず、そのまま夕食タイムと相成るわけで。
すべてが終わって家に帰れたのは更に二時間後。自宅に帰り着くころには夜も八時になろうとしていたのだった。
でだ。
家に帰りついたからって、終わりと思うのはまだ早い。けど、さすがの俺だって学習する。この先の展開は読めてたので、焦ったりなんかしない、しないとも。
まずはお風呂に入りなさいと、「後でいいから」という俺の意見なんてスルーで有無を言わさず入らされ、出たら出たで買ってきた、というか買い与えられた部屋着を着た姿をみんなに披露させられた。
「はぁ、もう、めっちゃ疲れた……」
自分の部屋でようやく落ち着き、ふと時計を見てみればすでに時間は二十二時を回ってる。自然とそんな言葉が口をついて出た。
長かった。ここまでほんと長かった。
さて、それではお待ちかねのメール確認たーいむ!
俺は恐る恐るスマホのメールを確認する。
【Congratulations! 改変レベル更新の条件をクリアしました】
奇抜なタイトルのメールはちゃんとメールボックスに存在していた。
「よかった。消えてなかった」
俺はそのメールにそろそろと指を近づけ、覚悟を決めてタップする。
あっけなくメール本文が表示される。
ちなみに差出人は安定の文字化け。
〚♯ξ♮ζ♭∞ж〛
こんなもの読めるか!
全くわからんわ!
タイトルや本文は読めるのになぜ? もう嫌がらせとしか思えんよね。
ま、いいわ。本文だ、本文。
◇川瀬佑奈 かわせゆうな altered
◇年齢 二十三歳
◇性別 女 altered
◇ALT_LEVEL 〇〇〇●●
※_百の対象物の二次元的状態を改変しました。
※_改変状態が不変的に固定されます。
※_改変レベルの更新条件がクリアされました。
※_改変レベルを更新します。
前と同じように次々文字列が表示されていく。スマホのメールにそんな機能あったっけ?
◇ALT_LEVEL 〇〇●●●
うん、やっぱレベル上がった。で、これでどうなるんだ?
※_LV3ポイントにおける改変に至る条件は適合した者を中心とした半径10m圏内において、一定時間対象者や対象物を注視することにより発動します。改変の仕様についてはLV2までに準じます。
※_LV3特典として適合者に関係する人、物の記憶および情報の最適化を行います。
※_これは世界における適合者の関係要素全てに、例外なく適応されます。
「え? なに、これ……」
半径10m圏内?
ええっ?
目の前にいなくていいの? めちゃ融通利くじゃん。っていうかさ。特典がやばくない?
なんだよ関係する人、物の記憶、情報の最適化って……。これって俺が今まで散々頑張って改変してきたことを特典でやってくれるってことじゃね?
お、俺の苦労って一体……。
いや、その苦労をしてこその『LV3』なんだ。無駄じゃない、無駄じゃ。
でも、虚しいのは事実。
くぅ……、泣きたい。
そうやって悶々としていたら例のごとく……、
「あっ、画面消えた!」
うん、知ってた。




