【122】夏は何があろうと着々とやってくる?
お花見会の後、澪奈から夏にまた泳ぎに行かないかってLINIEで連絡が入った。聞き方がちょっと恐る恐るって感じで、気を遣わせちゃってる感がひどい。家族なのに……。
でも、それを見て最初に思ったのは「めんどくさい」ってことだったのも否定できない。かといって速攻行かないっていうのもアレだし。
とにかくすぐ返事は出来ないからって、保留させてもらった。
海か。
海ね。
外にみんなで遊びに行く。いや、なんかめちゃ懐かしく感じる。つうか最近、そう感じることが増えすぎ!
しかし、う~む。
今の俺の立場。『ひえんの社』の第二巫などという煩わしい立場となった今。
遊びのために外出し、あまつさえ海で泳いで民宿で一泊。なんてこと早々出来ることじゃないよな?
っていうか許可してもらえるのか?
いや、俺自身の行動。プライベートの過ごし方に許可もくそもないはずだ!
はずだけど。
そうも言えない今の俺の立場。ああ、ひっきーな俺に周りの人たちの困り顔を押し切って我を通す勇気なんてありはしない。泣ける。
ちょっと頂点くじ引きに行きたいとか、アニメショップ行きたいとか。言えるわけないじゃないすか、ヤダー。まぁ引きこもり系社会人な俺は元々外には余り出てなかったとはいえ、今はそれ以上に出てない。つうか出れない。
もちろん出たいと言えば出れる。けど当然その時は周りにぞろぞろお付きがひっついてくる。表裏とも。やめてー!
自分のマンションにすらもうほとんど帰ってない。情報調査室の橘川課長なんて引き払ってはどうか? とすら言ってくる。絶対ヤダって返してる。黄色ちゃんにも全然乗れてない。
いや、もうきっと乗ることすら難しい。
俺は言ってみればもう公人。そんでもって国内で知らない人いないってほど有名になってしまった……かもしれない。こうなる前も一部ネット民とかに騒がれてはいたものの、それはほんと一握りのヘンタイたちに知られてただけだ。
マンションに戻って住むことは実際俺ももう無理って思ってる。
それでも。
もう少し今のまま置いておくって考えは変わらない。っていうかマンションにはまだ利用価値がある!
妹、澪奈は以前からこっちに来たがってる。田舎のガキは都会に来たがるんだよね。近くに日本有数の都市があるんだからそこでいいじゃん。
ま、こっちに来てる俺が言うセリフじゃない。説得力まるでなし。父さんや母さんは渋ってはいるけど結局反対はしないと思う。俺だっているし。
だからあそこに澪奈を住まわせたいと思ってる。あそこなら色々安心だし、黄色ちゃんの面倒もみてもらえるしさ。黄色ちゃんを売る気はさらさらない。いまのところ。
なんなら澪奈が乗ってくれたらうれしいんだけどなぁ……。あいつがマニュアル免許取るとは思えない。どっちかといえばめぐちゃんの方が可能性ある。欲しいっていえば譲ってあげてもいい。
超々お友だち価格で。無金利分割払いだってOKだわ。
ま、黄色ちゃんのことはとりあえず置いとくとしても。
そもそもあいつがこっちの大学受からなきゃそれも叶わないわけだけど。
受かったら住んでもいいとは、実はもう伝えてある。めっちゃテンション上げてた。
家賃だって格安で提供だ。家族割はしてやるけどただでは絶対貸さない。お姉ちゃんはそこまで甘くない。世間の厳しさ、少しは知りたまえ。
ん?
なんでマンションの話になってんだ、俺。
あ、そうだ。外出するって話だ。海に泳ぎに行く。一泊付きで。
行き先は日本海側のあの民宿。いやぁマジ懐かしい。たかが一年前の出来事なのに。
なんか涙出そう。
何かにつけ自由に動くことが難しくなってきた今。外に出かけることはめちゃ貴重。だから引きこもりだなんだって言うのはほどほどにして、出る機会があるときにはキッチリ出とかないと、まじで自由ってものが無くなってしまう。なくてもいいだろって思われちゃう。
官僚さんたちにほっといても勝手に引きこもってるやつって思われたくない。出かけないから管理が楽でいいだなんて思われたくない。
いや、すでにそう思われてるかもだけど。
うん。今からでも遅くない。そんな認識は払拭させてやる!
ってことで海に行く話。ぜひ前向きに検討させていただきます。
善は急げ。スマホを手に取り、LINIEを開く。
でもって保留させてもらってた返事を返した。
『絶対行く!』
って。
三日も保留しちゃったけど、澪奈……怒ってないよね?
***
『めぐ、どうしよ!』
みーなとのLINIEにいきなりこんなコメが入った。いやー、それだけじゃなんにもわかんないって。
むふー、それはちょっとイジワルすぎか。ここ最近のLINIEでの話題っていえば、海に泳ぎに行く話一択なわけで。コレってもうそれ繋がりなのは間違いないよねー。
『はいはいみーな。おちつこーねー。いったい何がどうしよ、なのかなー?』
『ごめん。つい慌てて。海に行く話。お姉ちゃんにダメ元で振ってみたんだけど』
ほら、やっぱり。でもその話って、してたの三日も前なんだよね。動きおっそ!
『時間かかってるし、ダメな感じ?』
ゆーなさんの場合、ほったらかしか、気付いてなかったってこともアリ? アリだよね!
『それがね。それがさ、聞きたい?』
『みーな、うざ。そんなのいいからはやーく』
いや、みーなってば。そこはもったいぶらないでよ。早くおしえなさいって。
『めぐがつめたい。ま、いいか。お姉ちゃんから返事きた。絶対行くって』
『おおー! いいね、いいねー! 盛り上がってまいりましたー! あれ? じゃあ、なんでどうしよなの?』
行くって返事きたならそれでいいじゃん?
『うん。なんかさ。誘っておいて今更なんだけど。凜ちゃんが言ってたこと、気になって』
凜ちゃんが言ってたって……、ああ、アレね。お側付きの二人が付いてくるって言ってた……。ついでにSP? だっけ。それも付いてくるかもって話してたやつね。
それ、なっちゃんが気になったみたいで後で調べてたんだよね。そしたらSPって、偉い人とか守る専門の警察の人みたいな感じだった。
うーん、確かにそんなの付いてこられたらウザったいかも。
お側付きの人くらいならぜんぜんウェルカムなんだけど、ガチムチなおっさんとか側にいるっていうのは勘弁願いたいなー。
『ゆーなさんと一緒にたくさん人が付いてくる感じ? ゆーなさんがそう言ってたの?』
『まだ話してないみたい。お姉ちゃん、そういうとこ後回しにするタイプだし。だから余計気になってさ』
『ゆーなさんらしいねー。っていうかみーなもさ。どうしよとかいってないですぐ聞けばいいじゃん』
変なとこでぐずぐずするんだから。このシスコンは。
『う、うん。だよね。お姉ちゃんに確認する』
『あーもうメンドクサイからまたグループつくろ! 夏民宿海水浴してお泊り会グループ! ゆーなさんとなっちゃん。凜ちゃんも当然入れるっと』
ほれポチポチポチ。
『はい、グループ作ったし。これでゆーなさんに確認しよ! ついでになっちゃんに話進めてもらお!』
こんなのはグダグダ言ってないでチャチャと進める!
みーなもゆーなさんも文系だからか、色々考えすぎだって。(異論は認める)
言ってる間にゆーなさんに、どうやって行動するのか? とか、行動に制約はあるのか? とか、同行者はいるの? その場合何人? とか色々確認のコメを送りまくった。
グループに入れた凜ちゃんやなっちゃんも驚くことだろう。なっちゃんは民宿確保よろしくね!
でもこんなのはまだ序の口。まだまだ問題は山積み!
しかもそれは私たちの方!
なにしろ時間はあるようで少ないのだ!
私らは高三。私もみーなも進学組だ。貴重な夏休みの時間に自由な時間を確保するためには色々やっておかなきゃいけないことは多い。多すぎる!
そんなことをツラツラ説教してやった!
むふー!
『うう、めぐが頼りになりすぎてなんか悔しいんだけど!』
『そんなのはいいから。あとはゆーなさんの返事を待つのみー!』
まぁなんのかの言ってても、ゆーなさんにはあの頭の切れる瑛莉華さんが付いてる。だから何も心配なんかいらないのだー!
ああ、やっぱり夏が来るのが楽しみすぎるー!




