【120】身内だけの歓迎の宴。蓋を開けたらやばかった!
色々ぐだったお花見会をそれでもなんとか穏便に終え、茂木クンたちも無事送り出した。
でもまだ俺の仕事というか役目――いや、これはそう言うのじゃないな。そんな言い方はダメだ。反省しよ――要は、身内である澪奈と凜がまだこの『ひえんの社』に残ってる。
なぜかと言えば、俺の親族である二人には社において、歓迎の続きが待っているからだ。だから俺の意思というより社側関係者による歓迎の場って意味合いのほうがでかい。
めぐちゃんと奈津美さんについては、一緒に残ってもらってはいるものの今夜は別行動だ。規模は小さいながらもちゃんと宿泊施設もあるからそちらでゆっくりしてもらうことになってる。澪奈たちももちろん歓迎の宴が済んだらそちらで休んでもらう手筈……らしい。
宴が出来るような場所は俺の仮宮には当然ないので、紡祈様の宮である斎薙の宮――ぶっちゃけ俺の宮もその一部なわけだが――の宴の間を使うんだと。
「佑奈様、宴の準備が整いましたのでご案内いたします」
ひっつめ中村さんが俺を呼びに来た。澪奈と凜には顔なじみである瑛莉華さんについてもらってるから、必然的に俺の対応は中村さんになる道理だ。巫女さんズは会場でキリキリ働いてるはず。
俺なんかは、向こう任せでいいじゃんって思ったけど、こっち主催の宴なんだしそういう訳にはいかないんだと。二人が鼻息荒くそう言って出ていったのを笑って見送るしかなかった。ま、お花見会で手伝いにも来てもらってるし色々あるんだろ。メンドクサイね。
とてもいい笑顔の中村さんに連れられ、宴の間に向かう俺。俺のかっこは変わらず巫女装束だけど、千早は羽織ってないし見た目は同じでも着替えさせられてはいる。
同じ意匠の巫女装束、いったい何着あるんだろな? ま、どうでもいいけど。
化粧もしっかりされてる。身内なんだからスッピンでいいじゃんて思ったけど、巫女さんズが出ていく前に嬉々としてやり直していった。何がそんなに嬉しいんだか?
ほんとどうでもいいな。
「爰姫様のおなりでございます」
会場に入ればいち早く気付いた瑛莉華さんがそう言って皆の注目を集めた。そんな大げさな言い方やめて~。身内相手に恥ずかしすぎ。でも周りへの手前、口に出すこともできない。
「嬢や、遅かったの」
え?
紡祈様?
なんでいるし?
この席は身内だけの宴の場じゃなかったっけ?
あんたぶっちゃけ邪魔なんですけど!
「つ、紡祈……いや、あの、斎姫様? どうしてここに?」
用意された席で椅子を引いてもらってる中、気が急く余りに聞いてしまう。マナー? そんなの知らん。そもそも呼んでもないのに居るほうこそマナーなってないわ。
「いやなに、瑶子の孫が勢揃いしているとあらば、一度きちんと顔を見てみたいと思うての。せっかく我の宮におるのであらば、そうしたいと思うのも不思議ではなかろ? ほれ嬢、そんな不貞腐れた顔をするでない。ほんに主はすぐ顔にでるのぉ、くはははっ」
こんの外見詐欺のクソばばぁ。
俺たちのそんなやりとりに呆けた顔を見せる澪奈と凜。澪奈はともかく凜のそんな表情はなかなか見れない。優等生のお嬢様であのばあちゃんと同じ家に住んでるんだ。そうそう隙を見せない。
「くぅ、まぁそういうことなら……いいんですけどぉ! その、ともかく身内のちょっとした食事会みたいなものなんですから、細かい色々とか言いっこ無しですからね?」
もう取り繕ってしゃべるのもめんどくさくなって、しゃべり方がおざなりになってしまったのは仕方ないと思う。嫌なら出てって。お願い。
「くはは、よいよい。望むところよ。我もその方が気楽でよい。かまわぬよな? 成通」
「おこころのままに」
そう問いかけられた、紡祈様の後ろで直立不動な侍従長がなんとも言えない表情でそう答えた。この人そのうち胃潰瘍とかになるんじゃね?
その時は言ってね?
改変で治してあげるから。言わんけど。
ま、思うところは多いけど、そんな感じで歓迎の宴が始まった。
料理は変に懐石とか純和風なメニューにならず、今どきの若者に向けた料理にしてくれてあって感謝しかない。ぶっちゃけちょっと高級な洋食屋さんって感じのメニューでとてもうれしい。これは今回のお客様である澪奈や凜への気遣いとか、その辺に理解がある巫女さんズの影響もあるんだろうかね?
そんな庶民的な料理が出される中、なんともぎすぎすした会話が挟まれることになる。
「おね、あっと、その……えっと爰姫様のこちらでのご様子はいかがですか?」
澪奈が誰に聞いてるかイマイチわからない問いかけをする。めちゃ緊張してるな、こいつ。ちなみに澪奈と凜が隣り合って座り、その向かいに俺。二人とも高校のブレザーを着てる。学生は制服が礼服やドレス変わりになるから楽でいいよな。
紡祈様はお誕生日席よろしく、長方形なテーブルの短辺側に当然のごとく座っている。ま、これは別に紡祈様の意志じゃなく周りがそこに座らせたんだろうけど。
「澪奈や、そんなに気を張らなくともよい。いつも通りでかまわぬ。先に嬢もそう言っておったであろ?」
紡祈様が澪奈、そして凜にむかってそう言い、にこやかな表情を見せる。そんな顔をして見せても日本人形然とした見た目はあまりお茶目な感じは受けない。
「そうそう、佑奈でもお姉ちゃんでも好きに呼んでいいんだから。家族でしょ? 凜もね。こっちのコレは気にしなくていいよ」
「こ、コレ……」
俺の紡祈様を指さしての「コレ」発言に凜が少し引いてる。むむ、ちょっといきなりすぎたか。
「嬢や、主は逆に最近我に対する当たりが強くないかの? 悲しいのぉ」
そう言ってわざとらしく目の下あたりをグシグシ指で撫でる紡祈様。泣くふりやめれ。どこでそんなこと覚えて来るんだ? いや、百十数年を生きてるんだ、そんな知識もそれなりにあっておかしくないか。
「はいはい、ごめんなさい、ごめんなさい。紡祈おばあちゃん、これからも長生きしてくださいね」
「言われなくともするわ。まったく、年寄りをもっと敬ってもよいとおもうんだがの」
「ぷふっ」
「くすっ」
このバカなやりとりに澪奈と凜がさすがに吹いた。このばばぁ、見た目は中学生だしな。会話の違和感もひどかろう。
っていうか、いつまでもかたっ苦しくしてるのがバカらしくなったのかもな。うんうん、それでいいよ、それで。
「嬢にはの、我は命を助けられた。我が今こうしておられるのも嬢のおかげよ。まこと感謝しておる」
そう言って優しい笑顔を浮かべる紡祈様。
いやいや!
急に何言い出すのこのばばぁ?
澪奈と凜もそんな言葉に驚いたのか口をぽかんと開けて間抜け顔さらしてる。あ、この顔写真に撮っておきたい。後で揶揄う。って今はそうじゃなくて!
「お姉ちゃん……が、ですか?」
俺の内心はともかく、話しが進んでる。
「うむ、我はの。長きに渡る巫のお役目のおかげで体はボロボロであった。我が身で引き受けた災い、禍根溜という厄によっての……、もういつ死んでもおかしくないほどの状態であった……」
いやちょっと紡祈様?
食事の場でする話じゃないから。ね? やめましょこんな話。二人もちょっと引いてるって。それに、それに……その話って!
「お姉ちゃんがそれを治した……と? え、で、でもお姉ちゃんにそんな人を治すような神秘って……」
そう、改変能力は世間に開示してないのに!
あまりに何でも出来ちゃうから。
やばすぎだから。
「うむ。世には知らしめておらぬの。だがお前たちには知っておいてほしい。この嬢……爰姫はの。我はおろか、この日ノ本の都ですら救ったこともあるという事実をの」
うひぃ!
このばあさん、いきなりなにぶっちゃけてくれてはりますの!
「ええっ、な、なんだかよくわからないですけど……、お姉ちゃんが斎姫様や、えっと国の役にすっごく立ったってことですか?」
「うむ、感謝しきれぬほどにな。ほんにとてつもないことを主の姉はしてくれたぞ」
ひぃ~、も、もうやめて。これ以上この場でそんなこと言わないで。まるで公開処刑されてる気分。
《《元》》引きこもり系社会人にはやばすぎる仕打ちだって!
「主たちには真実を伝えておきたかった。親しき家族にまで隠し事をしなくてはならぬとあらば、嬢の心が休まる場がなくなってしまうがゆえに……」
え?
ええ?
紡祈様? そんなこと。そんなこと考えて……?
ああ、いや!
でも……、でもさ、何も今ここで!
澪奈と凜の俺を見る目が、どうなってるのか? それを見るのが怖い。
「川瀬家、そして佐久目家には正式な書簡もしたためよう。実は瑶子と玲子には先んじてこの話はしてある。ほれ、前回主らの家に我が訪れたであろ? そのときにの」
ふ~ん……、そうなんだ。
なんかもう色々終わったな。母さん、表には出してないけど知ってたんだ。父さんもきっと聞いてるんだよな?
ま、今更改変だけ追加で知られたからって、別にもういいけどさ。なんだかなぁ……。
その後はもう紡祈様の独演会となった。
ん、独演会? 最近聞いたフレーズだな?
あ、ああ。奏多がなんかそんなことほざいてた気がするわ。どうでもいいな。
色んなこと、紡祈様がぜんぶぶっちゃけた。
きっと紡祈様もため込んでたものがあったんだろう。
いや、それはわかるけど、何も今、この歓迎の宴でぶっちゃけなくてもよくない?
みんな。みんな勝手だ――。
澪奈や、あの普段お淑やかな凜からもくどくど突っ込まれた。
隠さないですぐ教えて欲しかったって。
いや、そんなの無理だから。言えるわけないから!
そう訴えても、「じゃあ、なんでここにいる他の人たちは知ってるわけ?」なんて更に突っ込まれたりする。
いや、ここの人たちは国の関係者だから。普通に見えて特別な人たちだから!
ま、そんな理屈。澪奈に通じるわけなかった。
「お姉ちゃん! 社会人には報連相ってことば、あるんでしょ? これからはそれ、絶対して。じゃないと心配すぎる。お願い……だからね!」
「う、うん……わかった、わかったから。だから……」
そんなに泣かないで……。
泣きたいのは。
泣きたいのは俺だ。




