【116】彩如にサプライズは難しい
激動の三月を乗り越え、世の中は春の最盛期を迎えてる。
そんな中、俺は月の終わりから初め辺りにくる、いつものやつで苦しんでたわけだけど、それもようやく過ぎ去ってくれて平穏が戻ってきた。
なんで元男の俺がこんなモノで苦しまなきゃいけないのか!
つうかレベルアップ恩恵で月の奴、もうちょっとなんとかならんのですかね?
チート級の体のはずなのに……、なんでその痛みだけはどうにもならないんですかね?
いっそその原因となる器官、無くなってくれませんかね?
周りが女だらけなのをいいことにブチブチ愚痴ってたら、ちょうど現れた瑛莉華さんに聞きとがめられ、こっぴどく叱られた。
世の中には子供が欲しくても叶わない人はたくさんいる。欲しいと願っても授からず色々苦心している人たちは多くいる。佑奈ちゃんの事情も理解はできるし、もちろん本気で言ってるわけじゃないのでしょうけれど……、それでもそんな言葉を軽々しく言ってはいけない。
そうせつせつと説かれた。社会に影響力を持つ立場になったのだから発言にも気を付けるようにとも言われた。
返す言葉、無かった。
しかも俺、けっこう本気で思って口に出してしまってた。さすがに考えなしすぎた。
自分の発した言葉に後悔してる。
「はぁ~」
自己嫌悪で気分落ち込みまくった俺は、気分転換に庭に出たものの、歩き周ることもなく池のふちにしゃがみ込む。水面に映った俺の顔はめちゃくちゃ鬱な表情してて、よけいため息が出た。
「佑奈様、元気だして!」
「そうそう元気だしましょう。瑛莉華さんは怒ると怖いですけど佑奈様のためを思ってこその言葉ですからね。佑奈様を大事に思ってなきゃあそこまで言わないと思います」
「ほんとそうですよ! いや~、佑奈様大事にされてます、されてます~!」
彩如と楓佳が慰めてくれてる……んだと思うけど、なんか微妙に揶揄われてる気がするのは俺の心が汚れてるからなのか?
「うぅ……、わかってる、わかってるから。ちょっと一人にしといて。今はこうやって一人でぼーっとしていたいんだから」
たまにぼっちになりたい。
爰姫になってからというもの、一人の時間が限りなく少なくなったし。
マンションにもしばらく帰れてないくらい。黄色ちゃんにも全然乗れてない。っていうか乗れる日は来るんだろうか?
「ん?」
頭になんか重みを感じた。と思ったら肩や背中にも次々それを感じる。
「ほらほら、佑奈様。小鳥ちゃんたちも心配してますよ~!」
「え? ああ、なにかと思えば……」
耳元に聞こえてくる小鳥のさえずる声。小鳥にまで心配されるとは……泣ける。
「はぁ」
またため息出てしまった。
「あ~もう、佑奈様。引きずりすぎです。実はまだアレの影響残ってます? 仕方ないですねぇ……、これサプライズのはずだったんですが落ち込んでる佑奈様のために教えちゃいます!」
「え、彩如、もう教えちゃう?」
「うん、この際致しかたなし!」
「ええ~、いいのかなぁ?」
「いいのいいの!」
ん?
何言ってんのこの二人?
彩如が俺の耳元に顔を寄せ、何か言ってきた。あ、どさくさに紛れて耳ツンツンしやがった。こいつってば俺にもうちょっと敬いの気持ち持った方がよくない?
睨みつけてやろうかと思ったけど言ってることが気になったこともあり諦めた。仕方ないから今回は許す……けど次はない!
で、なになに?
「え? それマジで?」
「マジです。大マジです! うれしいでしょ、佑奈様? これならお友だちと心おきなく楽しめますよっ」
彩如と楓佳がニコニコ顔で俺を見てくる。いや嬉しいか嬉しくないかでいえば微妙。微妙としか言いようがない。
「うう……、ほんとにやるの? お花見会なんてめんどくさいものを? マジで?」
たしかにここなら世間の目から隔離されてるから余計な気遣いとかしなくていい。桜だって花見が出来るくらいには植わってるし、もう満開間近だし……、庭の整備も随分進んだし。
なるほどお花見会するにはピッタリな場所だ。
「はい、社の職員や巫女たちも協力してパーッと派手に! 紡祈様や侍従長にも認めていただいてるそうですよ! 瑛莉華さん、さすがですよね」
「いやでも、いいの? 一般人とか呼び入れちゃって? いくら私の知り合いや友達とはいえ……まずくない?」
「全然大丈夫! 瑛莉華さん発案なんですからその辺はキッチリフォローしてくれるはずです。そうでなくとも『ひえんの社』の警備はいつも万全ですし、なによりここには紡祈様と佑奈様がいらっしゃるんですから! 問題の起こりようがありませんよね? 何を心配すればいいのかわからないくらいだと思います!」
おい彩如。俺を警備側の面子に混ぜるなや!
お前の大丈夫は全然信用ならんわ。
つうか、発起人は瑛莉華さんか。
あの人も色々世話焼いてくれるなぁ。でもなぁ、正直お花見なんて余り嬉しいとは思えないわ。いくら友達でも人付き合いはめんどくさい。なるべく一人でいる方が俺はいいんだけど?
で、やるのはもう決まってるみたいだから仕方ないから詳しい話を聞いてみる。
メンバーは確かに俺の知り合いばかり。友だちと言っていいのかわからん奴も混じってるけど。ちゃんと参加者名簿まで作ってあった。
筆頭はまぁこれは外せないだろ、妹の澪奈。その友達、沢谷のめぐちゃん……とお姉さんの奈津美さん。いや、奈津美さん久しぶりだわ。うわ、従妹の凜も入ってる。これ絶対ばあちゃんがらみでぶち込んだ感じだろ。
こっちで出来た知り合いでは、まず茂木君。モギモギはまぁ無難なとこだな。けど、なんでこいつまで! 奏多が入ってるぞ。誰だこいついれたの?
いやまぁ、モギモギ入れれば付いてくるよなぁ……はぁ。それと小峰音乃ちゃん。ここまではまぁセットになるのは仕方ないか。みんなと会うのはスケート行ったとき以来だな。もうずいぶん昔に感じちゃうわ。
ま、あとはお目付け役の瑛莉華さんに、なぜかひっつめ中村遙さんも参加になってる。あの人時々俺を見る目がギラついてるから苦手なんだよなぁ。
さすがに橘川課長は入ってないな。あの人も忙しいだろうし、そういつも俺の面倒みてるわけにもいかないだろうさ。
「どうです、どうです? お知り合いばかりでしょう? もうみなさんの予定はキッチリ抑えてありますからご安心ください! みなさんのひえんの社への送迎についても抜かりなしです!」
「あはは。そ、それはすごい、ね。ありがと……」
「はい、私たち頑張ってます! ですから週末楽しみにしていてくださいね!」
「うん……、その、まぁ、無理せずほどほどに、がんばって……」
ってことで週末は仮宮のお庭でお花見会となった。
なんてこった。
***
その夜、一応LINIEで澪奈に様子を伺ってみた。
『いやあ急にお誘い来た時はびっくりしたよ』
『私だってびっくりした。いきなり言われた』
『でもほんとは当日のサプライズだって言ってたのに。あの巫女さんたち、口軽すぎ』
ほんとにね。でもまぁそうなったのは俺のせいでもあるし。
『まあそう言わないであげて。私を元気づけようと思って先走っちゃったみたいだから』
元気づくどころか余計滅入っちゃうような話だったけどな。いや、まぁそうは言っても嫌って訳でもないけどさ。
『元気付けるって……、何かあったの?』
『あ、いや、別に大したことじゃ。その、なんだ、月初めのアレでアレだったから瑛莉華さんに叱られてめげてたっていうか?』
『意味わかんないけどいつものやつね? お姉ちゃん、大人なんだからもうちょっと人に迷惑かけないようにしなきゃダメじゃん』
うっわ、高校生に大人なんだからとか言われた。
『うっさい。言われなくてもわかってるけど、抑えきれないだから仕方ない……』
しばらくそんな感じで澪奈相手にLINIEでグチグチ書き込んでたらちょっと気分が楽になった気がした。たまには澪奈も役に立つな。
『新幹線のグリーン車のチケット用意してもらったし、やっと凜ちゃんとそっち行ける。めぐも奈津美さんも楽しみにしてるってさ』
それはよかったネ。ま、ぜんぶ経費で落ちるんだろう。俺の腹は全く痛まない。結構なことである。
『お姉ちゃんの宮、見せてもらうの超楽しみ! 週末よろしくね!』
『はいはい。こっちのメンバーとも仲良くしてね。特に奏多。待ってるよ』
それを最後にLINIEから落ちた。
しばらくぼけっとしてたらなんかまた億劫になってきた。
週末雨降れ。
でもって中止にな~れ。




