【115】実家であれこれ、ついでにあれこれ
「これからは爰姫様って呼ばないといけないね」
その日の夜は橘川課長のはからいで家族水入らずで過ごすこととなった。裏で瑛莉華さんも色々動いてくれたみたいで感謝だ。
あ~でも、感謝ちょっと微妙。
この雰囲気はなんとも居たたまれない。サクッと帰ったほうが良かった気も微レ存。
今みたいに父さんにネタにされてしまうし。
ちなみに橘川課長と瑛莉華さん、その他大勢は近くのホテルで滞在してるはず。まぁSPの人たちは周辺うろついてるだろうけど。ご苦労さま。
「爰姫おね~ちゃん!」
で、ニヤツキながらこんなこと言う、お調子もんも出てくると。
「もう、父さんも澪奈も勘弁して。そう言われるのはばあちゃんで懲り懲りなんだから」
暴走機関車紡祈様との親睦を深めまくったばあちゃん、感化されまくったのか俺への対応が孫への態度じゃなかった。『ひえん様』の凄まじい信奉者と化してしまったばあちゃんは終始崇め奉るって言葉が当てはまるような態度で接せられてマジ困った。
紡祈様め、絶対大げさに色々吹き込んだに違いないわ。
「ふふっ、まさか佑奈がこんなことになってしまうなんて。ママちょっと想像もできなかった。これからは気軽に佑奈って呼んじゃダメかしらね?」
母さんまでそんなことを言い出した。
「いや母さん、冗談でもそんなこと言わないで! 気兼ねなく素で過ごせるのなんてもう家族の前くらいしか無いんだからっ」
マジそう。ほんとそう。
存在を公にされた以上、もう今まで通りってわけには絶対いかなくなった。名前も顔も知れ渡るとなれば、それはもう仕方ないことだ。
しかもそれが自分の不注意から始まったことだけに文句も言えない。
がっくりである。
「お姉ちゃん、もっと顔良く見せて~」
部屋着ジャージに着替えリビングのソファーでやる気なくうなだれてる俺に、澪奈が顔を寄せてきて俺のある部分をジックリ見てくる。
「うわ、ほんとにエルフ耳だ! あっ、今ぴくって動いた!」
急にデカい声出すから! 無意識に反応するからどうしようもない。
「全然気付かなかった。お姉ちゃん、今までうまく誤魔化してたね~。そんで、この額の小さな宝石みたいなのが最近祝福で増えたってやつ? 澄んだロゼ色で、なんかめちゃキレイじゃん」
こいつ、マジ遠慮なしでがっつり見てくる。っていうかおさわりまである。
「ちょっと澪奈、そんなツンツン突っつかないで。頭に響く。ペタペタ触んのもいや。なんかきしょい」
額の宝石っぽいのは感覚器官みたいなもんなんだぞ。もっと優しく扱って!
「え、そうなの? てか、きしょいってひどくない? もっとナデナデサワサワしてやる~!」
澪奈が余計調子にのって俺にのしかかってきた。俺より澪奈のが発育良くてでかい。重い~!
「わっ、こら、やめ! ひゃんっ」
「うわ~、お姉ちゃん声がえっろ。さっすが二十四歳ともなると色っぽいですな~。見た目はロリだけど」
「う、うっさいわ。って、あ、コラ胸もむな~」
ソファーの上でギャーギャー騒ぎまくる俺たち。
でもそうなると、必然的に――
「二人とも、ふざけるのもいい加減にしておきなさい!」
母さん、爆発した。
「うひっ」
「きゃ~!」
俺はびびって縮こまり、澪奈はなぜか余計喜んで奇声をあげた。なんだよそれ!
「あはは、ママごめ~ん。もうしないしない」
「ほんとにもう……、いい年して騒ぎ過ぎない! 佑奈も『ひえん様』の大事な巫? っていう立場になったんでしょ? 澪奈と一緒になって騒いでどうするの……まったく」
「え~、私まで怒られちゃうの? 私、どう見たって澪奈の被害者! とばっちりっ」
「お姉ちゃん、あきらめが肝心だよ。一緒に怒られてよ」
「澪奈うっさい!」
理不尽だ~!
「もう佑奈。あなたお姉さんでしょ? ならちゃんと澪奈を抑えなきゃダメでしょ。ママにしっかり姉の威厳を見せてちょうだい?」
あれ、母さん?
なんかにやついてやしませんか?
面白がってない?
「そうそう、見せろ見せろ」
くぅ、このくっそ澪奈め~!
「むっか~、澪奈ちょっとそこに直れ、成敗してくれる!」
「あ、オタクがキレた。うきゃ~」
ソファーの上で逃げようと背中を見せる澪奈に手を伸ばしてひっ捕まえようとしたその時。
「ははっ、ほらほら二人とも、もうそれくらいにしておきなさい」
「へ? はわっ!」
俺の両脇に差し込まれる大きな手。それと同時に感じる浮遊感。俺は父さんにぐいっと持ち上げられていた。
「ちょ、ちょっと父さん! やめ、やめて~!」
このクソオヤジ! また俺のこと高い高いしやがったよ。モウヤダー!
「ははっ、佑奈はあいかわらず軽いな~。ご飯ちゃんと食べてるか~? 食べないと大きくなれないぞ~」
「食べてるし! じゅうぶん大人だし! 子供じゃないし! もうおろせ~、父さんせくはらー!」
「パパって呼んでくれたら降ろそう! ほらどうだ~」
上げて降ろすを連続でされた。高い高いがパワーアップしやがった。
「これ写真とってLINIEにあげとくね~。モギモギも大喜びだよきっと!」
「うわ、澪奈ぜったいダメ。やめて! じゃないと力づくでも阻止しちゃうんだからっ」
「むっ、モギモギとはもしやたまに話に出る男の子かい? パパ、不純異性交遊は許せないよ!」
「うわお姉ちゃん、こんなことで力つかっちゃう? ずっる~」
「してないし、ずるくもない! ああもう勘弁して~」
なんだこれ? なんなんだこれ?
こんなのもう収拾つかないっての!
「みんないい加減に……しなさいっ!」
母さん、今度はガチ切れ。
ヤバイ。
世界が止まった。
俺、上に持ち上げられたままなんですけど!
おろしてお願い。
けど、ちょっと前まで……。家族に受け入れてもらえるかどうか心配してた俺。
ほんとバカだった。
家族はこんなにも、こんなにも……いつも通りだった。
泣ける。
***
家族と一晩を過ごした俺は翌朝、迎えに来た黒塗り高級リムジン公用車で多少寂しさを感じながらも実家をあとにした。
「久しぶりのご実家、ゆっくりできましたか?」
橘川課長のお腹に響く渋いバリトンボイス――間違っても子宮じゃない、子宮じゃないから!――で聞いてきた。いや俺何考えてんの! てかどうでもええやろ、そんかこと!
「あ、はい。とっても。ちょっと澪奈……妹がウザ絡みしてきたけど、まぁゆっくりできました」
内心のわけわかんない葛藤はともかく、普通に答えられた俺、エライ!
「それは良かった。紡祈様も無事『ひえんの社』にお戻りになられたとの連絡が入っております。こちらも最後まで気を緩めず帰りましょう……と言いたいところなのですが……」
え? なんなのその間。
ちょっと? ちょっとちょっと!
やめてよ、変な引き作らないでよ。
「佑奈様、こちらまでいらしたのであればぜひ神宮にもお立ち寄りいただきたいと、祭主である南白川様よりお申し出を受けております。これをお断りすることはなかなかに難しのではないかと」
瑛莉華さんが言葉を引き継ぎ、たたみかけてきた。
えええ……。神宮の祭主様ってあれだろ、ぶっちゃけ紡祈様の親族だろ? 前に社で習ったぞ。だったら紡祈様と会えばいいじゃん!
ああ、ああ、わかってるさ。俺が珍しいんだから俺に会いたいよね。そりゃそうだよね。
「う~、そんな。もう帰りたいのに……」
わかってはいるけどついグジグジ言ってしまうのは仕方ないことだと思う!
「あちらとしても、一度『ひえんの社』の新しい巫である爰姫様と親睦を深めたいとお考えなのでしょう。お会いしておいた方が今後のためにもよろしいかと存じます」
へぇへぇわかりました。
行きます。行きますともさ!
「ご理解いただきありがとうございます」
「ははっ、話しがまとまったようでなによりです。ではそうとなれば急いでまいりましょう。君、そういうことだから。神宮に向かってくれたまえ」
橘川課長が運転手さんにそう伝えてるけど、予定変更? に何の戸惑いも見せないし!
これ絶対周囲にも前振りしてるよね。俺の承認が最後の最後で、もうほとんど決定事項って感じで段取りしてたよね。
ああやだやだ、これだから官僚様ってやつは。
結局、この日は神宮対応でほぼ一日潰れた。めちゃ疲れた。
うっぷん晴らしに帰りは絶対肉食って帰るってゴネた。ゴネまくってやった!
そうして得た、霜降り国産超高級黒毛和牛はサイコーにうまかった。
黒服たちに取り囲まれた巫女装束姿の俺ご一行様が横丁界隈を相当騒がせたけど……まぁ仕方のないね。
けど。
もう当分実家方面には帰らない。帰ってたまるか!
そう心に決めた俺だった。




